第3813話 様々な力編 ――再戦――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
そんな中央ルートで当初は単なる戦闘だけかと訝しんでいた一同であるが、その最後の最後。次が最後の部屋になるという所で、シルフィードが言っていた中ボスが現れることになる。が、その中ボスとはなんとカイトであり、ソラ達はその猛攻を受け撤退を決定。そうして相談の結果、これがカイトを相手にした一対多ではなく、要塞攻略と同等のものだと判断。それをベースに準備を行っていた。
「……てかあいつ、今更だけど飯とかどうしてんだろ」
「む……そういえば結局昨日は夕食の時も現れなかったな」
「まぁ、ぶっちゃけ現れられても俺らも反応に困る所はあったんでそれはそれですけど」
「それは確かにな」
ソラのボヤキに対して、瞬も同意して笑う。結局のところ、撤退後カイトは一度も拠点に戻っていない。というわけで夕食の用意はかなり苦労したそうだ。
まぁ、元々料理の腕前や風呂好きな面などで下手な女子より女子力が高いと言われる彼だ。しかも立場上、出先では自分で作ることも多い。夕食も栄養バランスなど様々な面に拘って作ってくれていたので、その彼が不在になると一気にレベルが落ちたらしい。それはさておき。楽しげに笑うわけだが、そんな瞬はソラを見て少しだけ顔を顰める。
「まぁ、それはそれとしてだが……いつ見ても思うが、重武装だな」
「ウェポンパックっすか?」
「そうだ……魔導鎧に外付けする外部武装……だったか」
「っす。飛翔機は飛空術を身に着けたんでもう不要になりましたけど、流石にこいつらを持ち運ぶのにフローターは必要ですね」
「フローターか……」
ソラの牽引する大きなコンテナを見て、瞬は少しだけ苦笑いだ。もちろん魔術を使って身体能力を強化すれば船で輸送するような大型コンテナも持ち運べるが、両手は塞がる。
なので基本的に大きな荷物を持ち運ぶ際にはフローターという少しだけ地上から浮いているような特殊な装置に荷物を乗せて引っ張って移動するのが基本だった。
「ボックス6個か……毎度のことだが、俺達は何を相手にするつもりなんだろうな」
「一個人なんすよねー、これが」
「本当にな……にしても、これがあの柱のような場所とかがなくて助かったな。確かフローターはああいった場所だと使えないんだろう?」
「そうっす。あくまで浮いて平地やらある程度の坂道に対応出来るだけで、飛翔機みたいに飛んでるわけではないんで」
だからこそ砂漠でよく使ったな。ふわふわと浮かぶフローターとその上の荷物を見て、瞬はそんなことを思い出す。砂漠は高低差があったりとすることも少なくなかったが、逆にだからこそフローターは有効だったらしい。
というわけでそれで幾つもの一抱えほどもあるコンテナを牽引しながら、一同は再び中央ルートを進んでいく。そうして数十分。幾つかの部屋を突破して、カイトの待ち構えるエリアに戻ってきた。
「よし……おーい! カイトー!」
『なんだ?』
「入って攻撃とかしないでくれよ! 流石にさぁ!」
『あははは。わかったよ。きちんと合図はして試練開始にしてやるよ』
ソラの言葉にカイトが笑いながら明言する。流石に準備も何も整わない中で戦闘再開になると最悪にもほどがあるだろう。というわけでせめて全員が入るまでは待ってくれることになったので、ソラは安心して扉を開く。
『戻ってきたな……って、またとんでもないものを持ってきたな』
「お前を相手にするのに一個人を相手に、って考えてるのが間違いだ。お前はシンフォニア王国でやった北の砦や要塞と一緒だ」
『いや、まぁそうだけどさ』
それにしたって限度はあるだろう。自身に向けて用意された複数個のコンテナに、カイトは思わず苦笑いだ。とはいえ、こうでもないと勝ち目がないことは間違いない。
『はぁ……武器ボックスに……魔術の除去ボックスか。確かに用意はお前が考えろとは言ったが。まさかそこまで用意してたのか』
「何があるかわかんなかったからな。一応お前がなにかあったら取りに戻ってはやる、って言ってくれてたけど。ある程度はきちんと考えて用意しておくべきだろ」
『まぁ……そうなんだが』
それにしたって準備し過ぎだろうし、そんな攻城戦の用意なんて用意しておくか普通。カイトは確かに役立っていることは役立っているのでなんとも言い難いが、それが自分に向けてだと考えるとまたなんとも言い難い微妙な表情だった。というわけでソラが用意していたウェポンパックに対してため息を吐いた彼だが、すぐに気を取り直す。
『はぁ……まぁ、とりあえず。そいつの展開作業は流石に待ってやらんぞ』
「あ、やっぱ流石にそれは駄目?」
『駄目に決まってるだろ』
少しだけお茶目に言ってみたソラだが、やはりそれを許してくれるほどカイトも甘くなかった。笑って却下される。そしてそれと同時に、上空に無数の武器が出現する。
『じゃ、始めるか』
「ふぅ……全員、作戦通り行動開始!」
「「「了解!」」」
ソラの合図と共に、攻撃が始まる前にアルとリィルが飛翔して、瞬と空也が地を駆ける。先程は呆気にとられて先手を許したが、今回は攻撃が来るとわかっている。ならば先手を取ることだって可能だった。というわけで攻撃前に行動を開始した瞬達と同様に、残った由利らは一斉にカイトに向けて攻撃を放つ。
『おっと……流石に今回は行動が迅速だな』
だだだだだっ。浬らの直線的な攻撃を前に、カイトは武器の中でも大型の大剣を地面に突き立てて防御。更に由利のような曲射が可能な者による攻撃には武器の狙撃で対応。相殺する。そうしてある程度相殺したところで、カイトから再び猛攻撃が開始されることになる。
「……」
そんな猛攻撃に対して、今度はソラではなく桜が意識を集中させる。そしてそんな彼女に煌士が告げた。
「姉上。こちらである程度遅延はしてみます。ソラさんほどではないですが、代替にはなるかと。天音弟」
「はい。僕の方でも狙撃しますし、魔眼である程度妨害はしてみます」
「お願いします」
どうやらソラが防いで時間を稼ぐのではなく、桜を中心として防ぐ戦略らしい。カイトはコンテナ前で展開の準備を行っているソラと、桜らを見ながらそう判断する。そしてそんな彼らに時間を稼いで貰いながら、ソラはウェポンパックを全部展開する。
「おらよ! 海瑠! こいつだ! 使え!」
「や、やってみます!」
『ぶっつけ本番だろ……まぁ、頑張ってみろ』
明らかにぶっつけ本番な行動にカイトは少しだけ苦笑いを浮かべる。まぁ、そこで海瑠を中心に狙わないのは、やはり兄としての甘さがあるのだろう。というわけで開いた一つ目のウェポンパックは巨大な大砲だ。それを展開し、ソラは更に二つのウェポンパックを展開する。
「ガトリングタレット設置! 次!」
『お、おいおい……本気でオレ相手に攻城戦する気かよ……てかマジで攻城戦用の道具持ってきてたのかよ……』
どこか冗談で言っているのではと思っていたカイトだが、本当に展開される攻城戦や大軍相手に使う武装の数々に思わず苦笑いを深める。というわけで、暫くカイトは様子見をしながらソラの展開を待ってやることにするのだった。
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