第3811話 様々な力編 ――情報収集――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
そうして当初は単なる戦闘だけかと訝しんでいた一同であるが、その最後の最後。次が最後の部屋になるという所で、シルフィードが言っていた中ボスが現れることになる。が、その中ボスとはなんとカイトであり、ソラ達はその猛攻を受けることになっていた。
「っぅ!」
カイトの放つ攻撃を<<雷炎武>>を使って回避する瞬だが、やはりカイトの攻撃だ。真横を通り過ぎるだけで空間は捻じれ、その衝撃が周囲を襲う。それに煽られ、瞬は大きく姿勢を崩す。そして姿勢を崩したが最後だ。
「ちっ!」
わずかでも姿勢を崩した瞬間を狙うように、瞬めがけて数十の武器が雨のように降り注ぐ。もちろん、間隔はわずかにズレており同時に着弾するわけではない。
数発消した直後に更に数発が襲いかかり、足を止めて迎撃しようものならどこかで詰みが生ずるという悪辣さだ。確かに手を抜いてくれているが、一人でなんとか出来る程度にはしてくれていなかった。というわけで足を止めさせられた瞬は一人ではどうしようもなかった。
「瞬!」
「っ、すまん!」
ごぅ、と猛火を纏う巨大な槍が飛来して、瞬の眼前に迫りくる数十の内の半数ほどを焼き尽くす。そうして出来た一瞬の間を利用して、瞬は背後へと飛び出す。
「ちっ……駄目か」
『こちらも同じなので、そう落ち込むべきではないかと』
「わかっている」
リィルの慰めに対して、瞬は少しだけ苦い顔で応ずる。彼女の言う通りだ。少しでも接近を考えようものなら、何かを仕掛けてくるのだ。故に瞬は再び回避と時折来る狙撃を切り払うことに集中しながら、周囲の状況を再確認する。
(部屋の広さはおよそ500メートルほど。障害物は一切なし。他の敵もなし。攻撃は激しく、一人当たりに放たれる数は数十だが……時々強力な一撃が混じっている。これが直撃しないのは温情……という所か)
先ほど瞬が煽られたように、カイトは時折防御なぞ到底出来ない威力の一撃を放っている。一応ソラなら防御出来なくもないのだろうが、彼でもおそらく後ろに弾かれることは間違いない。そんな一撃だ。とはいえ、そんな一撃をソラが食らった様子はなく、瞬は先程の一撃についてこう読み取った。
(あの一撃がソラを狙ったことはないことを考えると、おそらくあれはある程度近付くことで放たれる一撃だろうな。接近は許さん、というわけか……まぁ、だからと接近したらそれでクリアなんて甘いことはしてくれんだろうが)
あの横に突き立てている大剣は、どこかのタイミングであの大剣を振るうということなのだろう。瞬は玉座のように豪華な椅子の肘置きに肘を置き頬杖を付くカイトについてそう考える。楽しげに笑っているのはまだこちらのお手並み拝見という所なのだろう。まだまだ、余裕が見て取れた。というわけで状況の再確認を行う彼に、念話が響く。
『先輩。少し良いっすか?』
「ソラか。どうした?」
『一発でかいのを打ち込みます。どこまで近づけるか、やってもらって良いっすか?』
「大丈夫か? 先ほどから接近を試みているが、その度放たれるあれは少し受けられるものとは思えんが」
ソラの問いかけに、瞬は顔を顰めながら先の一幕を思い出す。先程も言及されているが、あの一撃はとてもではないが誰も受け止められない。せいぜいソラだけだろう。
そしてソラが受け止めたとて、その余波を掻い潜りながらの突破は現実的ではない。更に言えば彼が受け止めるということは遠距離攻撃を行う面々の防御がなくなるということだ。そこらをどうするかも考えねばならないだろう。安易にやってみる、と言える状況ではとてもではなかった。とはいえ、それはソラもわかっていたようだ。
『わかってます……一つ手を考えたんで』
「そうか……わかった。ならタイミングを教えてくれ。それに合わせる」
『説明良いんっすか?』
「今はそれより……回避に集中したい!」
緩急を付けて放たれる武器の投射に、瞬は顔を顰めながら一瞬だけ足を止めて槍を大きく振るって斬撃を生み出す。やはり回避一辺倒だとどうしてもどこかのタイミングで詰む瞬間が生じてしまう。どこかでは足を止めるか支援を貰って、状況を改善する必要があった。
先程瞬はその詰みの瞬間に桜から支援を貰って空白を作って前に出たわけだが、その直後に返礼とばかりに強力な一撃を貰ったのであった。というわけで自身も同じように槍を編んで相殺。再度逃げに転じて、ソラに一つ謝罪する。
「ふぅ……すまん」
『いえ……とりあえず、話を戻すとやれるのは先輩かアルだけです。ただアルがとなると、そこまで前には出れないと踏んでます。で、先輩に……ってなわけで、かなりスピード重視で突破してもらう必要があると思います』
「わかった」
『うっす……それで合図っすけど、二回合図を出します。二回目に先輩は合わせてください。ただ声は出しません。でかいのが行くと思いますので、それを合図と思ってください』
「わかった」
それなら支度をしておこう。瞬は回避一辺倒の状況であるが故に停止していた<<雷炎武>>を再起動待機状態にしておく。
(突破……と言ってもどこまでこの嵐が続くかはわからんが……)
間違いなくこの武器の嵐だけで終わることはないだろうな。瞬はこれが単なるお手並み拝見程度にしかならないことを理解していればこそこの一手が成功した直後にどうやって撤退するかを思考する。
(……あれをやってみるか。カイトにはバレているが……まぁ、良いだろう)
体術でどうにかなるとは考えられない。瞬はそう判断し、やるのならば、といつでも槍を手放せるように準備を行う。そうして数秒。次の自身の一手を考えるに十分な時間が経過した所で、瞬の前に数個の武器が背後から飛来して彼を追い抜いた。
「っ」
天道の攻撃か。瞬は引き起こされた爆撃にわずかに顔を顰めながらも、その一撃により数百の武器が消し飛んで大きな空白が出来たのを確認する。
「今だ!」
「「「っ!」」」
ソラの合図と共に、空也、アル、リィルの三人が一斉に前に出る。そうして前に進軍した所で、カイトはまるでわかっていたとばかりに強力な一撃を何発も解き放つ。
「ふん……? その程度で突破出来るわけがないが……っと」
「っ」
なるほど。これが言っていたでかいのか。瞬はアル達を追い掛けるように放たれた巨大な金属の矢に、これが二度目の合図と理解する。そうして彼もまた一気に駆け出す。
「なるほど。先輩は影に、か……矢はトリンが金属化させた由利のものか。さて」
どういう仕掛けをしている。カイトは楽しげに笑いながら、空いている左手をスナップさせてぱちんっと音を鳴らす。そしてそれと同時に数個の強力な力を宿す武器が生み出され、金属の矢へと解き放つ。
「っぅ!?」
直上で爆発が起きて、瞬は思わず顔を顰める。だが爆発は金属の矢が受け止め、瞬は更に先に進めていた。
「なるほど……文字を幾つも刻んだか。時間を要するが……まぁ、及第点か。さて」
これなら自分に近付いてこれるだろうな。カイトは一つ満足げに頷いて、頬杖を付いていた顔を上げる。そうして次の瞬間、右手で彼が指をスナップさせる。
「っ!」
来るだろうと思っていた。カイトのスナップと同時に足元で生じた爆発に、瞬は即座に槍を手放してナイフを取り出す。その刀身はすでに真っ赤に輝いており、生ずる爆発をかき消した。
「っ」
駄目だな。瞬はナイフを持ち更に一歩を踏み出そうとするも、更に前に待ち構える無数のルーン文字に撤退を決める。ここから無策で進めるほど甘くはない。そう判断したのだ。そうして、暫くはこのまま一進一退が続くことになるのだった。
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