第3810話 様々な力編 ――門番――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。そこを何日も掛けて試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。なんとか二つの班に分かれて攻略するという左右のルートを攻略し、ついに最終ルートとなる中央ルートの攻略へと乗り出していた。
そうして当初は単なる戦闘だけかと訝しんでいた一同であるが、その最後の最後。次が最後の部屋になるという所で、シルフィードが言っていた中ボスが現れることになる。が、その中ボスとはなんとカイトであり、ソラ達はその猛攻を受けることになっていた。
「はぁ!」
無数の武器の投射を前に、ソラは盾を大型化して振るう。そうして一旦は全員の準備が整う時間を稼ぐわけだが、そこでソラが桜へと問いかける。
「桜ちゃん! 前に言ってたの出来るか!?」
「あれですね!?」
「あれ!」
長々と説明している暇はない。何より相手はカイト。詳細を口にすればそれを無効化する手札を切るだろうことは間違いない。なのでソラも桜も同じことを想像していると考えて、敢えて詳細は省いていた。というわけで桜の応諾を受けて、ソラは意識を集中させる。
(まさかカイトにやるとは思ってなかったけど!)
カイトの攻撃を見て考えついたことは事実だが、それを思いついた原因に向けて使うとは思っていなかった。ソラはがががががっ、と毎秒ごとに削られる自らの障壁の裏でそう思う。そうして数度呼吸を整えて、彼は一瞬だけ勢いが弱まった瞬間に大きく盾を振り上げる動作で武器を弾く。
「……」
弾かれて宙を舞う武器へと、桜は意識を集中して魔糸を伸ばす。そうして幾重にも魔糸を絡ませて、彼女は更に絡ませた武器の概念を魔術で補強。そっくりそのまま自分の武器として流用する。
「ほぅ……」
自らの武器を確保していく桜に、カイトはわずかに眉を動かす。もちろん回収出来るのはソラが弾いたタイミングのものだけ。それ以外は速すぎるし、カイト自身の魔力を纏わせ貫通力を高めている。それをソラが相殺し、更に弾くことで一時的に速度を緩めていることで出来る芸当だ。
(まぁ、やろうとすれば宙を舞う武器に再度オレが接続して、四方八方から狙うことは可能だが……流石に無限大に増えるか。それは流石に数がなぁ……)
同時に出す数は限っておいてやるか。カイトは色々として実力を測りたくはあったものの、これがあくまでも試練であると自らを戒める。ここはあくまでも試練。色々と考えさえすれば攻略出来る程度に留めてやる必要があった。
まぁ、それでも。同時に出す数を限ると言っても数百や数千という話で、数万数十万はしないという程度。たかだか十数人を相手取るには十分過ぎるのだが。
「先輩! とりあえず突っ込んで貰って良いですか!? 空也も!」
「わかった!」
「わかりました!」
兎にも角にも情報を集めないことには攻略は無理だ。ソラは相手がカイトであることを鑑みて、一息に攻略することは不可能と考えていた。というわけで情報を集めるためには可能な限り近付くしかないと考えており、それは瞬と空也も一緒だった。
「トリン! お前は砲撃のフォローをお願い! あと、情報収集も!」
「了解!」
「アル、リィルさん! 上空からの攻めを!」
「「了解!」」
「残りは全員、攻めるメンツを遠距離攻撃でフォロー!」
「「「了解!」」」
兎にも角にもこの猛攻を躱しながら接近戦なぞ不可能に近い。なので接近するためには地上、空中を使って攻めることと、そのフォローは必須だった。というわけで一通り指示を出し終えて、ソラは呼吸を整える。
「ふぅ……」
とりあえず一旦出せる指示は出した。改めて落ち着いて考えて、ソラは一つ頷いた。
「桜ちゃん。数どんぐらい?」
「およそ100……という所です」
「よし……じゃあ、こっちに狙撃してくる攻撃の対処をお願い。俺は戦線を押し上げる」
「はい」
当然の話であるが、攻撃を受け続けながら後方支援を行う者たちの守護を行うソラが戦線を押し上げることは不可能だ。故にソラが前に出るためには誰かが彼の代わりとして攻撃を防がねばならない。
そこで考えられたのが、敵の矢を桜が流用して敵の攻撃を相殺。ソラがその間に前に進んで戦線を押し上げる、という作戦であった。
「ふぅ……」
意識を集中し、カイトの攻撃の間隔を見極める。
(本当ならこんな間隔を掴ませるようなことはしないだろうから、完全にある程度は手加減をしてくれてるよな……)
おそらく空也達が居るからだろうな。ソラは空也達と自分達の力量差。更には対応出来る数の差などを考えて、そう判断する。各個人がきちんと対応出来る程度にしてくれているからこその間隔を、ソラは意識して掴んだ。というわけで掴んで、ソラは桜に告げる。
「合わせてくれ」
「はい」
「……今だ!」
カイトの攻撃が緩まる一瞬の隙を掴んで、ソラは盾を魔力で一瞬だけ肥大化。肥大化した盾を振って、カイトの攻撃を大きく弾いて進める隙間を作り出す。その出来た隙間へと、瞬と空也が突っ込んだ。
「おぉおおお!」
「<<風>>よ!」
「おぉおおお!」
雷を纏った瞬と風を纏った空也が進むと同時に、ソラもまた一歩を踏み出す。そうして戦線を押し上げて射角を広く取れるように更に前に出る。
「ねえさん!」
「わかっています!」
だんっ。氷の鎧と炎のドレスを纏い、アルとリィルが空中へと飛び出す。そうしてなんとか全員が行動を開始したとほぼ同時に、カイトの攻撃が再開される。
「……」
無数にも思えるカイトの攻撃の投射を確認し、桜は認識を加速させる。カイトの攻撃には無駄も多い。いや、無駄も多く見せているという所だろう。半数ほどはこちらの行動を制限するための狙いを付けない攻撃で、更に残る半数は完全に見た目だけ。単なるブラフ。速度こそあるが、威力も強度も何ら持っていない。
更にその残った半分、全体の四分の一ほどがソラ達を狙う攻撃だった。故に数百数千の投射でも、実質的には数十しか考えなくて良いということがほとんどだった。そして桜が対処するのは、その数十だ。
「……」
再度始まる攻撃に向けて、桜はカイトから強奪した武器の一つを放つ。そうして意識を集中させ、武器同士が激突する直前に魔力を収束させて爆発を起こさせる。
「ん……」
流石に少しだけバックロードがあったらしい。桜の顔が歪む。
「姉上。大丈夫ですか?」
「ええ……まぁ、本来は出来ないことをしているので多少は」
「そうなのですか?」
「ええ」
何故出来るかは聞かないで欲しいが。桜は驚いた様子の煌士に視線を向けずに笑う。その一方でカイトの方は理由を理解出来ているからか少しだけ苦笑いだ。
『君の魔力を流用してるねー。だから<<魔素爆発>>を起こせる』
「あはは……まぁ、流石にこれはオレが悪いのか」
『だねー……でもまぁ、ユリィ連れてこなかったのは正解かな』
「だな……あいつが居たら更にこれを流用して、桜が掛り切りになっちまう……ま、とりあえず後少しは攻めさせてやるか」
とりあえず暫くはこのまま。カイトはソラ達の出方を見守ることにしていた。というわけで、もう暫くの間。カイトは自動攻撃にも似た武器の投射を続けながら、ソラ達が戦線を頑張って押し上げるのを見守ることにするのだった。
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