第3810話 様々な力編 ――門番――
風の契約者となるべく挑んでいた風の試練。そこでおよそ半月を掛けてなんとか折り返しとでも言うべき左右のルートを攻略し、ついに中央のルートへとたどり着いたソラ達。そんな彼らを待ち受けていたのは、取り立てて何か不思議のない敵達であった。
「おら……よっと!」
巨大な守護者もどきの一撃を受け止め、そのままソラを押し潰さんとする黄金の腕を瞬が駆け上る。
「カイト! 背を!」
「あいよ!」
どんっ。何かが爆ぜたような音が鳴り響いて、瞬が更に加速する。そうして一気に守護者もどきを駆け上がり、肩あたりの所で大きく跳び上がる。
「っ!」
やはり一直線に突破させてくれるほど甘い相手でもないか。瞬は跳躍と同時に開いた装甲に、即座に瞬は虚空を蹴って角度を変更。上に飛び上がりつつも、離れる方向へと変える。
「煌士!」
「了解です! <<土煙>>!」
開いた装甲の中に渦巻く風の渦を見てとるや、即座に瞬は煌士へと支援を要請。それを受けて、濃厚な土煙が彼の前に渦巻いた。とはいえ、こんなものは巨大な守護者もどきが宿す風の渦で簡単に吹き飛ぶ程度のものでしかない。故に解き放たれる風に、土煙は飲み込まれる。だが、それこそが瞬の狙いだ。
「さて、お手並み拝見」
「土と風混ざりて雷生ずる!」
竜巻の中に混じった土は風に土属性を混ぜるための布石。故に瞬は風に混ぜた土を反応させて雷を生じさせる。とはいえそれは繊細で、本来の生成途中を止めねばならなかったものだ。故に、雷の変化が行き過ぎて火が生ずる。これがソラが火傷を負った理由だ。だが、だ。瞬にとってその失敗は失敗になり得ない。
「ふっ!」
変換した雷と変換し過ぎて生じた火を、瞬は左右に分ける。雷を火の両方を使える彼にとって、変換をし過ぎてしまった火もまた力になり得る。故に生じたすべてを己の力へと変えることが出来た。
だがそれはあくまでも雷に変換する際に生じた余剰を使っているだけ。火の勢いは雷に比べ目に見えて弱かった。故に、カイトが助け舟を出す。
「浬」
「なに?」
「風の銃で先輩を撃て」
「え?」
「風は火を強くする。威力の底上げが出来る」
「わ、わかった」
カイトの指示を受けて、浬が風と銃のカード二枚を展開する。そうして生じた風が更に瞬を包み、火の勢いが更に増す。
「なんだ!?」
「そのままやれ!」
「っ! 助かる! おぉおおおお!」
雷と同程度の火力にまで火が底上げされたのを受けて、瞬は更に自らの力を加算。容赦なくその二つの塊を槍として投げつける。が、これにソラが目を見開いた。
「あ、やっば!」
「ソラ!」
「へ? っとぉ!」
「悪い!」
「いや、すんません!」
がん、がががんっ。瞬に蹴っ飛ばされて地面を数度転がって、ソラは器用に立て直す。そしてそれと同時に、二つの槍が巨大な守護者もどきに激突。黄金色の鎧を吹き飛ばし、そのまま焼き尽くす。
「ふぅ……これで終わりか。多いのは多いが……だが戦闘だけか」
「トラップとか罠とかも何もないっすねー……楽で良いっちゃ楽で良いんですけど」
「それはそうだが……」
ここまで何も無いと逆に少し不安になるな。ただ戦うだけと言う様子の現状に、瞬は少しだけ顔を顰める。
「……まぁ、とりあえず今は進むだけかと。三つの試練ルートも終わったんで、後は本当に戦うだけかもしれないっすしね」
「それなら良いんだが」
「っす」
とりあえずこの部屋は片付いたな。ソラと瞬は一つ頷いた。そうして各々軽い傷の手当をするわけだが、そこでソラはちらりとカイトを見る。
「どうしたの?」
「……あいつ絶対何か企んでるよなぁ……」
「まぁ……そうだね」
カイトは妙に楽しげなのだ。何かを企んでいるというのは間違いないだろう。トリンもまたカイトが何かを企んでいることは気付いていた。もう隠す気もないのか、わかる者には丸わかりだった。
「絶対嫌なこと考えてやがるよなぁ……」
「あははは……まぁ、色々と考えてらっしゃるだろうけど……はぁ」
「厄介になりそうだよなぁ……」
多分この試練で色々と考えているのだろうな。ソラはカイトの様子を見て、盛大にため息を吐いた。というわけで、ソラはため息を吐きながらも治療が終わったこともあり次を目指すことにする。
「……ん?」
「どうした?」
「いや……また変な部屋っていうか……めちゃくちゃ広いんっすけど、なんていうか……椅子が一つだけある部屋というか」
「なに?」
それはまた奇妙な部屋だ。ソラの言葉に瞬もまた次の部屋を覗き込む。そうして見えたのはやはりだだっ広い部屋に、ぽつんと豪奢な大きな椅子が一つだけあるというような部屋であった。というわけで、単純な戦闘だけでなくまた変な謎解きのような部屋が出てきたことに瞬は少しだけ安堵を浮かべる。
「はぁ……まぁ、この様子だと戦闘一辺倒というのも気にしすぎか」
「だと良いんっすけど……」
どうなんだろうか。とりあえず扉を開いてみて、ソラは中に入ってみる。そうして見えたのは、やはり超広大な部屋だった。
「……何もない、か」
「っすね……はぁ。とりあえず部屋の中を探してみますか」
「いや、その必要はない」
とりあえずは何かの謎解きと考えて、まずはいつも通り部屋の中を探索してみるか。ソラが全員に指示を出す直前に、その言葉を遮ってカイトが口を開く。そうしてそのままスタスタと歩いていく彼の背に、ソラは思わず盛大に頬を引き攣らせる。
「「お兄ちゃん?」」
「そういうことかよ」
『そういうこと。僕に続く最後の部屋を守るのは……』
「……このオレだ」
ざんっ。大剣を地面に突き刺し、まるで玉座の様に豪奢な椅子にカイトが腰掛ける。そうして楽しげに笑うカイトが、全員が聞き逃さない様に魔術で声を響かせる。
『さて……ここの試練だが、内容は簡単だ。オレの座るこの椅子を破壊しろ。扉はこの椅子の裏だ』
「待った!」
『は、早いな……どうぞ?』
この展開は薄々ソラも察していたらしい。おおよそのルールを告げられたと同時に声を上げる。
「まず一個。お前に勝てるわけねー。流石にお前が逆立ちしてた所で絶対に無理だ。ルールは?」
『よろしい。まず一つ。オレはここから動かない。座ったままだ』
「転移術で椅子ごと移動は?」
『流石にそれはしない。あくまで、オレはこの場から動かない。椅子も扉も動かさない』
「……」
それは逆説的に言えば、何か奇策を弄してカイトをスルーして次のエリアへということも無理だということか。ソラはカイトの言葉の意味を正確に理解する。
「次。俺ら流石に無属性攻撃メインで戦闘なんて出来ない。煌士とかにいたっちゃその領域にもたどり着いてないだろ」
『そうだな。なので原則、オレは属性攻撃も通用するような形にしている。まぁ、正確には色々と裏技じみたことをやっているから、擬似的に通用させているという形だ』
「擬似的……ってことはやっぱ通用しないことは通用しないのか」
『オレの意思でオンオフできりゃ苦労してねぇよ』
ソラの言葉にカイトはどこか呆れ顔で肩を竦める。
『まぁ、そりゃ良い。他には?』
「武器の創造は?」
『あれはアリだ。当たり前だろ?』
「当たり前って……まぁ、良いけど。お前の出力制限は?」
『もちろんオレは全力は出さない。ただし契約者レベルに、だ』
「……」
とどのつまり現時点では誰ひとりとして勝ち目のない領域というわけか。ならば何か奇策を弄しないと勝ち目はないか。ソラはそう理解する。
『ま、他にもオレの側に制限は色々とあるが……とりあえずそういったモンはやりながら見極めてくれ』
「「「っ!」」」
カイトが指をスナップさせると同時に現れた無数の武器に、全員が思わず息を呑む。そうしてカイトの攻撃が開始されると共に、試練の攻略がスタートすることになるのだった。
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