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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3806話 様々な力編 ――決着――

 過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域の攻略を開始する。

 そうして何日も掛けて幾つかの試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。ついに三つのルートを攻略しついにたどり着いた中ボス戦。現れた竜巻で出来た三つ目の風竜を相手に色々と試しながら戦っていたソラであったが、なんとか攻略の糸口を見出していた。だが当然、見いだせたけ。攻略が出来る様になっていたかというと、そんなわけもなかった。


「ぐっ! 駄目だ! また来た!」


 今日何十度目かになる雷撃を弾いて、ソラが悪態をつく。確かに彼も攻勢に出た当初は失敗は織り込み済みと口にはしたものの、それでも流石に限度があった。度重なるダメージに、流石の彼もかなり苦い顔が浮かんでいた。


「ちっ……流石に一筋縄じゃいかないか」

『ソラ。もう少し別の方策を狙おう。安全策を取っていたけど、多分それじゃ駄目だ』

「……やっぱお前もそう思う?」

『うん……まぁ、当たり前なのかもしれないけれど。大精霊様の試練は自らを危険にさらすこともなく突破出来るほど甘いものじゃないんだろうね。特に戦闘にもなれば、命一つ賭ける覚悟は必要なんだろう』

「一回の戦闘で命一個賭けてたら俺が九尾狐でも足りねぇよ……」


 トリンの指摘が道理とわかりながらも、流石にソラも一戦ごとに命がけは御免被りたい所だったようだ。がっくりと肩を落としていた。


『でもそれ以外にないのが現状だ。それに君はまだ良い方だろうね……だから聞いておくよ。空也くん。君の方は大丈夫?』

『いえ、あの……一体なんの話でしょうか』

『え? あ、ごめん。ソラとの話の流れで話していたから、君も理解出来ているものだと思って話しちゃった』


 各個人の動きを相談するものや推測が多分に含まれる話でない限り、念話は全員で共有出来る様にしている。それを聞くだけに留めるか、話に参加するかはまた別の問題というだけだ。というわけで作戦の構築とあって聞いていた空也だが、その話を理解することは出来ていなかったようだ。


『今まで僕らはあの風竜に土を与えて属性変化を促そうとしていた。それがこの数回のトライで上手くいっていないのはわかっているね』

『ええ、まぁ……流石にそろそろ戦略を変更せねば、という意見でしたら私も同意見です』


 一回のトライには当然だがまず準備に時間を要するし、それが失敗すれば回復にも時間を費やさねばならなくなる。幸い魔力がふんだんにある場所なので魔力切れの心配は薄かったが、長期戦になればなるほど体力や魔力とは別の力。即ち精神力は摩耗していく。

 まだ十回には到達していないが、そろそろ届きそうになるほどの失敗で全員疲労は見えつつあり、別の作戦を考えねばならない頃合いとは言い得ただろう。というわけで、トリンは空也へと現在ソラとの間で話していた作戦について共有する。


『……わかりました。私としてもこれ以上綱渡りをするより、一度曲芸じみたことをやって終わらせる方がありがたい』

『大丈夫? 多分ソラ以上に危険になるよ。ソラはある意味では一番安全圏になるわけでもあるけれど……』

「その分、一番危険な場所でもあるけどな……」

『あはは……まぁ、そうだね。一番安全でもあり、一番危険でもある。君の場所はそういう場所だ。そしてそれは君以外には無理だ。もちろん、下準備があるから由利さんも無理だ。君しかいない』

「わーってるよ」


 トリンの改めての指示に、ソラは胸に忍ばせた<<地母儀典(キュベレイ)>>を軽く叩く。今回の作戦の要は彼とこの<<地母儀典(キュベレイ)>>だ。そして言うまでもなく<<地母儀典(キュベレイ)>>を扱えるのは彼しかいない。必然として、彼が危険にならないわけがなかった。


『……うん。じゃあ、プランCで行こう。とりあえずソラ。君は力を溜めながら、同時に敵を引き付けて。僕らは可能な限り君の攻撃の下準備を行う……わかってると思うけど、大きすぎても駄目。小さすぎても駄目だからね』

「大きすぎたらお前らが消し飛んで、小さすぎたら俺がミンチか。嬉しすぎて涙が出そうだ」

『やけっぱちにならない』


 完全に自棄になっている様子のソラに、トリンが苦笑混じりにも笑いながらたしなめる。そう言ってもソラも諦めてはいるので、半ば演技という色合いも強かった。というわけで彼の言葉に、ソラは楽しげに笑って応じた。


「あいよー……空也。お前はさっき以上に派手に動き回ってくれ。風竜そのものは俺がなんとかしておくから、お前は準備を整える方を優先しろ」

『わかりました』

「おう」


 確かに重要な役割はソラだが、他の面々に役割がないわけではない。というわけで風音の中にわずかに混じる砲撃の音を聞きながらも、ソラは再び飛翔を再開。三つ目の風竜に追いかけられることになる。


「っ」


 後ろから放たれる真空波を風の気配だけで回避しつつ、ソラは目的の方向へと進み続ける。


『ソラ進路そのまま。そろそろ見えるはずだ』

「確認した」


 探していたのは岩石を放つ砲台だ。そうして彼が肉薄すると当然、岩石が発射される。これにソラは自らへの直撃コースを取るものだけを受け流して、更にその上空を通り抜けていく。


「……」


 だんだんだんっ。轟音と共に放たれる岩石は別に追尾弾というわけではない。いっそ投石機でも良いのではと思える単なる岩石――といっても魔力を纏うので普通の岩石でもないが――だ。故に放たれた岩石は一直線にソラを目掛けて進むものの、彼が居た場所を目指すだけだ。故にある程度の速度で飛翔していれば避けられるし、更に後ろの三つ目の風竜に当てることも容易だった。


「……」


 三つ目の風竜は当然だが岩石なぞ通用しない。故に岩石を無視して飛翔する三つ目の風竜はまるで塵芥でも飛んでいるかの様に無視してソラを追撃。当たった岩石は竜巻に飲まれるとそのまま細かな砂塵にまで砕かれ、風の中に取り込まれる。


「……やっぱ飲まれたくねぇわ、あれ。絶対ミンチよりも酷いことになる」


 ソラが思い出したのは、砂を用いて模様を描いたり錆や汚れなどを落とす機械だ。サンドブラストとも言われるそれは大量の砂を圧縮した空気で吹き付けることで錆などを削り落とすもので、今の三つ目の風竜はその塊と考えて良いだろう。

 大量の砂塵を纏う三つ目の風竜の中に突入すれば、鎧はもちろんソラの身体も四方八方からの空気で削り取られることは間違いなかった。というわけで更に速度を増して飛翔するソラは、同じ様に砲撃の合間を縫う様に飛び、岩石を三つ目の風竜に与えていく。


『ソラ! 稲妻が来るよ!』

「っ!」


 ある程度岩石を与えた所で、トリンの声を受けてソラは勢いをなるべく保ちながら転身。背後に向けて飛ぶ様に、三つ目の風竜を正面に捉える。そしてそれと同時に三つ目の風竜の三つ目が怪しく光り輝いて、三色の稲妻が彼へと襲い掛かる。


「っりゃぁ!」


 激突の瞬間、ソラは<<地母儀典(キュベレイ)>>の力を盾に宿して稲妻の力を減衰。更に振り払う様にして残滓を吹き飛ばし、ぐっと足に力を込める。


(やっぱ砂塵が減った。風の勢いも少しだけ。ヤツも<<廻天>>を応用してるって考えて間違いないな)


 言うまでもないが、この三つ目の風竜は風で出来た竜だ。なので岩石を取り込めば取り込むほど速度は落ちていくし、その属性も土属性に偏っていく。それは風竜としては避けたい所なのか、自身が元来保有する風属性と取り込んだ土属性の魔力を混ぜて雷を生成。三つ目を介して放つ、というのがソラ達が立てた推測だった。


(それをこっちで改変してヤツを雷にして消し飛ばそう、ってのがプランA。それが無理だからヤツにこっちから土属性の力を与えて変化を促し、自滅を誘うか直前で更に強引に力を叩き込んでダメージを与えようってのがプランB……ただやっぱり上限ってのがわからないから無理ってなってこれからやろう、ってのがプランC……)


 一番やりたくない方法ではあったが、トリンの指摘した通り命一つ賭けないと駄目な程度ではあるのだろうな。ソラは岩石の投射をさせて土属性の力を吸収させ続ける。というわけでただひたすら砲台の合間を縫うような形で飛翔を続けるソラだが、そんな彼へと報告が入った。


『ソラ。こっちも準備が整いつつある。ただわかると思うけど、勢いの出しすぎには注意してね。今の外は……』

「……うへ」


 トリンの言葉に、一帯の外周を覆う巨大な風の渦を見てソラは顔を顰める。逃げられない、と先に言われているが、その理由がこれだ。かなり広くはあるが、エリアの外周は強風が吹き荒れ近づく物すべてを弾き飛ばしていた。

 だがやはりある程度の重量が限度なのか岩石まで弾くことはなく、三つ目の風竜同様に砕いて細かな砂塵として取り込んでいた。そしてその外周の風に向け空也が外周近辺の砲台を誘発させこの外周へと大量の岩石を叩き込み、大量の砂塵を取り込ませていたのである。とどのつまり、今の外周に激突するということは三つ目の風竜に激突すると同じことを意味していた。


『やれそう? 僕も珠族だからある程度土には強い感受性を持つ。相当な力を蓄えていると思うけど』

「やってみる……ただ外周は相当やばいことになる。先輩が同じことをやれるけど、やばいことになったのを見たことがある」


 あの時は<<廻天>>による改変に失敗して、頭上から溶岩が降り注ぐという最悪の事態になったんだっけ。ソラは瞬が大慌てで逃げて、そんな姿に希桜が楽しげに笑っていたことを思い出す。なお、降り注いだ溶岩は希桜が指をスナップさせるだけで風と土に変換され、事なきを得ていた。とまぁ、そんな一幕を思い出しながら、ソラは今まで横向きに移動していた移動を上昇へと変更する。


「皆、外周から離れろ! どうなるかは俺にもわかんねぇけど、絶対にやばいことになることだけは間違いない! 由利! 二発」

『言わなくて良い』

「おう!」


 二発頼む。そう頼もうとしたソラは由利の返答に、彼女がすべてを理解して意識を集中させていることを理解する。そうして上昇に上昇を重ねたソラを追い掛ける三つ目の風竜へと、由利の加護を纏った矢が放たれた。


「おぉおおお!」


 ソラ、三つ目の風竜、土の矢。その三つが一直線に重なり、一番速い土の矢が三つ目の風竜に取り込まれた瞬間。一瞬の速度の減衰が生じる。過剰に土属性を取り込んだことで三つ目の風竜の身体のバランスに乱れが生じたのだ。そしてそれを逃さず、ソラが一気に加速する。


「……」


 これだけ離れれば準備に時間を使える。ソラは右手に<<地母儀典(キュベレイ)>>を携えると、外周の風が纏った土属性にアクセス。更に自身で風属性を操って、それら二つを同時に操る。そうして立ち止まった彼へと三つ目の風竜が三つ目に怪しい光を宿しながら肉薄するが、そこに。


「はぁああああ!」

「……」


 由利の金属の矢に乗ったリィルと、同じ様に金属の柱を蹴って側面から追撃していた空也が三つ目の風竜の三つ目を狙って攻撃を仕掛ける。だがこれは三つ目の風竜の三つ目の内二つから放たれる雷により、弾かれる。そうしてわずかに土属性の割合が減ったことで三つ目の風竜が加速してソラを狙うが、その直前。灼熱の風が吹き荒んだ。


「っぅ……だけど! 出来た!」


 やっぱり完璧に変換することは出来ないか。灼熱の風に煽られ顔を顰めながらも、ソラは左手の先端に極大の紫電を宿していた。

 そうして、次の瞬間。攻撃に気付いた三つ目の風竜が最後の盾となる三角錐の障壁を出現させ、同時に雷を発射。更に大口を開けて、ソラへと迫りくる。身体のバランスが崩れている上、雷を放つ関係で真空波は放てない。これが三つ目の風竜はすべての手札を切った形だ。


「はぁああああ!」


 自身に向けて一直線に肉薄する紫電に向けて、ソラが左手を振り下ろす。そしてそれと共に巨大な雷が振り下ろされ、三つ目の風竜を飲み込むのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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