第3801話 様々な力編 ――幕間――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域の攻略を開始する。
そうして何日も掛けて幾つかの試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過。ついに三つのルートを攻略し、三つ目の宝玉を回収。だがこれを奉納する前に、一旦拠点に戻ってきていた。
「そうか……そっちもか」
「うっす……とりあえずこれで三つ目完了っす」
「結局攻略度合いとしては同じぐらいになったか」
「っすね……まぁ、こっち一個中ボスキャンセルしてるんで、そこで帳尻があったと言っても良いでしょうけど」
「ああ、そういえばそうだったか」
本来三つのルートの各エリアの最後にはボスが控えているはずだったが、ソラがそれを言い当てたこととカイトがそれに対してやりすぎだという注意をしたことによりキャンセルされ、おそらく次に待っているだろう一体だけになっていた。だが瞬達は最初の一体だけは討伐していたので、その分の時間差が最終的には帳尻があった形になっていた。それを思い出した瞬だが、彼がおそらくと口にする。
「だが次は消えていないだろうな」
「だと思います。減ったには減ったでしょうけど、おそらくその減ったのは各ルートのボス。多分、全部攻略したあとの一体は消えてない……そして」
「中央の中ボスも消えていないだろう、か」
「っす」
おそらく本命中の本命はそいつだな。ソラも瞬も左右のルートを攻略したあとに出るボスはあくまで前座で、全員で取り掛かるのだろう中ボスこそがシルフィードの設けた中ボスと思っていた。というわけで二人してこの次はあくまで前座だとの認識を再共有した所で、ソラは少し真剣な目で瞬へと問いかける。
「……で、どうっした?」
「……まぁ、やはり言うまでもなくほとほとチートじみているな、ヤツは」
ちらり。二人は意味はないと思いながらも少しだけ声のトーンを小さくして、覗き見る様に夕食の用意を進めるカイトを見る。今回、やはり経験者とあってカイトの動きは二人にとってしっかりと学ぶべきものだった。というわけで、ソラが瞬に頼んでカイトの攻略の様子を見ておいて貰っていたのである。
「そっちに風を踏んで進む部屋はあったか?」
「ああ、竜巻とかそういうのがあった部屋っすか? 今日一番最初っすね」
「そうだ……そこでのことだが……」
やはり二つの班で同じような試練が出る様になっていたか。念の為に確認していた瞬だが、ソラが同じ試練を突破していたことを理解して彼の方もまた今日の一番最初の試練を思い出す。
『な、なんだここは……』
『な、なんでしょう……うわっ』
『どうした、天音姉』
『んー……はぁ。風が吹いただけ』
この日一番最初になった部屋は、ついに足場も一切無い部屋だった。ただ大穴だけが広がっており、一応遥か彼方に足場が一つ見えるだけだった。
なお、天音姉と問いかけているのは桜の弟の煌士だ。そして天音、と言っている時点でわかるだろうが天音姉はカイトの妹の浬である。そんな彼女が大きな穴の中に顔を出して、突風に吹かれて顔を顰めたのであった。
『……天道』
『『はい』』
『あ、いや、すまん。姉の方だ……天道姉?』
『え? あ、はぁ……さ、桜でも良いですよ。流石に分かり難いですし』
『いや、流石にそれは……』
『まぁ、それはそれとして。どうしたんだ、先輩』
流石に親しくないわけではないが、同時に下の名で呼ぶほど親しいわけではない女の子の名前で呼ぶのはどうか、と思う瞬にカイトが若干苦笑にも近い様子で笑いながら先を促した。
『跳んでみる。まぁ、駄目だとは思うが』
『ああ、なるほど……わかりました。魔糸でフォローします』
『頼んだ』
瞬達の班には桜が居たので、魔糸を使って色々とフォロー出来た。というわけで落下しそうな所では彼女が最後尾に控え命綱の役割を果たしていたのである。というわけでソラ達よりかなり無茶は出来たし、実際していた。というわけで無策に跳躍する瞬だが、まぁ、飛空術を使おうと飛べるわけもなかった。
『っ、駄目か!』
『引き上げます!』
『頼む!』
命綱代わりにしていた魔糸が一瞬で彼を支える様に太くなり、落下を始めていた瞬をその場に留めようとする。だがその前に、彼の姿が消えて一番最初の所に戻される。
『……ん?』
『え?』
『……なるほど。どうやら落ちることは前提か』
落ちても戻されるのならば、とりあえず落ちることは前提と考えて良いのだろう。瞬は戻された自身からそう判断する。というわけでそこから色々と試して吹き荒ぶ風を見極めて浮かぶ様にして跳んで移動することに気付いて、反対側まで移動する。
『よし……カイト。お前からなら見えているだろうが、反対側まで到着した』
『わかった……桜。お前もそろそろ向こう岸に渡れ。あとのフォローはこっちで引き継ごう』
『はい。ではフォローをお願いします』
『あいよ』
基本的にカイトは監督役だ。そしてすでに全部の試練の内容を聞いているため、攻略方法も理解している。というわけで彼は全員が攻略方法を見つけ出したら、それをフォローして最後に自分が攻略するという流れを取っていた。というわけで彼は全員のフォローを担う桜のフォローを行って、彼女が対岸まで渡るのを見届ける。
『カイトくん。到着しました』
『あいよー……じゃあ、オレも行くか。ユリィ』
『あいさー』
『『『?』』』
最後の桜が渡ったのを見届けた後。カイトが肩を回すのを対岸に移動した全員は首を傾げる。何故屈伸などの跳躍の準備ではなく、何かを投げるような準備をしているのだろうか。そう思ったのだ。そしてその理由と、彼――とユリィ――をシルフィードが警戒する理由を目の当たりにすることになる。
『ほいほいほいっと!』
だんだんだんっ。両手で巨大な大剣を幾つも左右の地面に突き立てると、カイトが連投する様に一つずつそれらを天高く投げ放つ。
『何をするんだ……?』
大剣を何本も天高くへと放り投げるカイトに、瞬は興味深い様子で注目する。そうしてカイトは編み出した最後の一本を投げ放つと同時に、足場の端に足を掛けて大きく跳躍する。
『ほいよ!』
『ほいさ!』
『『『は?』』』
空中へと躍り出たカイトが楽しげに天高く跳躍すると、ユリィが天高く手を伸ばしてカイトが投げた幾つもの大剣が空中に固定される。そうして固定された大剣へと今度はカイトが鎖を伸ばして、ターザンロープの様にして空中を移動。風の動きなぞ一切無視して、あっという間に対岸までたどり着いた。
『はい、到着』
『なにそれ、卑怯じゃない!? 試練全無視!?』
『お兄様は勇者様だったのです』
『はぁ?』
『まぁ、魔術禁じられてなかったらこんなもんだよねー、私らだと』
『空間固定で一発だな、こんなの』
浬の糾弾に対して、カイトは楽しげにドヤ顔を浮かべ胸を張る。まぁ、こんな塩梅に彼はほぼほぼ試練を無視し続けたし、壁なぞあろうものならそれに大剣やら鎖を引っ掛け試練を完全に無視してということなぞ山ほどあった。まぁ、何もなくてもこれなのだ。ユリィの言う通り魔術が禁じられなければなんでもあり、と言うしかなかっただろう。というわけで、そんなある意味ズルの数々を瞬はソラへと共有する。
「というわけだ」
「あ、あー……さすがっすね、あいつ……いや、あの二人……?」
最初に言われていたが、下手に木々でも置こうものならカイトが攻略に利用して簡単に突破してしまうのだ。それは彼女も何も置こうとしないだろう。
「二つ目のルートの柱の所とかどうっした?」
「あそこも悲惨だったな……あそこは魔術で体重をほぼゼロにして、普通に歩いていた……ここでもそれで良かったんだろうが、それをしないあたり……」
「あ、あははは……」
完全に遊んでいるな。瞬はどれもこれも一つとして同じ攻略方法をしなかったカイトを思い出して、苦笑いを浮かべながらも肩を震わせる。とはいえ、だからこそカイトの攻略方法は学ぶべきだと考えてソラも瞬に可能な限りの共有をお願いしていたのであった。
「まぁ、そんな感じでカイトにとってこの程度の試練は本当に遊び場にしかならんのだろうな。おそらく俺達にこういう攻略方法がある、と教えているような風さえあった」
「ほんとむちゃくちゃっすね、あいつ……」
それは大精霊達に警戒されもしよう。一人で何でも出来てしまう上に、ユリィまで加わるのだ。やりたい放題だった。
「とはいえ……なるほど。空間の固定。確かにそれは考えるべきだったかもしれないっすね」
「ああ……やはりあいつの攻略は勉強になる」
『やめてよ、それ……本当にカイトのマネなんてされると僕らが大変になるんだからさー』
「そ、そうなのか?」
どこか嫌そうな様子のシルフィードに、瞬がおずおずと問いかける。これに彼女は頷いた。
『そー……さっきの所とかもそうだけどさ。魔術禁止とかにすればもっと難易度は上げられるわけだけど。そんなことしたら君達攻略出来ないでしょ? まぁ、それでもそれを無視してやってくるのがカイトだから禁止にした所で意味がないってのもあるけどさ』
「「……」」
魔術を禁止にしても他の手段を持ち出してくる。そう言われるカイトに、二人が思わずぎょっとなってカイトの方を見る。そんな彼はやはりというか案の定というか、会話は聞こえているのだろう。包丁で野菜を切りながらも一瞬だけこちらを向いて、楽しげに笑っていた。そんな彼に、浬が顔を顰める。
「なに、急に笑って……気持ち悪い」
「お兄様は流石ってこと」
「お兄様は流石ですが?」
「ああ、いや、そういうこったなくてね……あ、ユリィ。鍋どう?」
「もうちょっとー」
やはり浬とクズハでは対応が少し違ってくるらしい。浬に対してはどこか尊大なのに対して、クズハに対してはどこか優しさが滲んでいた。というわけで義理と実の妹に挟まれる彼を横目に、二人は再び試練の間のカイトの話に戻る。
「やはり戻ってからカルサイトさんと話をしてみるか」
「あー……確かに。俺らどうしても戦闘面で有用な物は考えますけど、そういう冒険らしい冒険で有用な技術はあんまりですもんね」
「そこらはカイトが事前に用意しているからな……」
今も然りだが、やはり冒険者という意味でもカイトとの経験の差は歴然だ。世界中を旅して、すべての試練を制覇している彼だ。様々な難局を踏破していることもあり、向かう場所に応じた最適解を用意してくれている。それを見てソラ達も学んでいるが、想定出来ない、経験していない難局はわからないのだ。
「そういえば先輩。そのコーチ? クー・フーリンさんとは話出来ないんっすか?」
「ん? どういうことだ?」
「いや、カイトのヤツよく姉貴? スカサハさんと話してるでしょ? 通信機使わずに。その一番弟子って言われる人なら何か手段を持っていても不思議はないんじゃないかなって」
「なるほど……確かに言われてみればコーチはスカサハさんから数々の魔術を教わったと聞く。槍使いの名手だからそちらにばかり目が行っていたが……」
それは出来るかもしれない。ソラの指摘に瞬はそういえば、と思い出す。だがそこで瞬は首を傾げた。
「だがそれがどうしたんだ?」
「いや、確かクー・フーリンさんって地球で色々な旅をされてたんでしょ? なら地球の色々な僻地も知ってるんじゃないかって」
「なるほど……コーチからそういった話を聞けるのは役に立つか……」
今まで冒険者としての先達であるカルサイトから話を聞くことを考えていたが、よく考えれば同じ様に地球での二千年もの間旅をしているのだ。その話を聞くことは有益だと瞬も思ったらしい。
「一度カイトに相談してみよう。お前はカルサイトさんから話を聞いてもらえるか?」
「了解っす。じゃあ、また適時共有ということで」
「ああ」
やはりこうして話してみると色々とアイデアは出てくるものだ。二人はそう判断してこの日の情報交換を終了。明日に備えて休むことにするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




