第3800話 様々な力編 ――攻略――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域の攻略を開始する。
そうして何日も掛けて幾つかの試練を攻略していたソラ達だが、攻略の開始から中の時間でおよそ半月が経過していた。
「っと! ふぅ……」
がしゃんっ。金属同士がこすれ合う音が鳴り響き、続いて少し大きな着地音が響く。そうしてソラが一息ついたとほぼ同じタイミングで、横に空也が着地した。
「よくそんな鎧でこんな所を飛べますね」
「まぁ、慣れたよ。フルプレートで跳んだり跳ねたりを最初一週間は繰り返し続けたしなぁ……」
もう随分と前の話のような気もする。ソラは空也の感心の滲んだ問いかけに、もう何十ヶ月も昔のことを思い出しながら少しだけ苦笑する。そうして思い出したからだろう。彼も少しは成長したなと自分でしみじみ思ったらしい。
「最初着るのも一時間とか掛かってさ。今じゃちまちまやっても10分やそこらで着れるし、なんだったら魔術で一発だ」
「本当に騎士みたいになってますね」
「騎士はやめてくれ。流石に騎士じゃないし、なるつもりもない」
フルプレートアーマーに片手剣と盾。頭にはサークレット。確かに物語に語られる騎士の姿に近いだろう。だが彼はあくまで戦士だと認識しており、これらの装いは単純に防御を固めるという目的でしているものだ。騎士達と同じ格好でも、心構えは違うと考えていた。というわけでどこか照れくさそうな彼が続けた。
「……ま、いろんな人がいたし、実際に騎士って人ともあった。だからやっぱり俺は冒険者やら戦士って方が良い。心構えがやっぱ違うんだわ、あの人らとは。どれだけおちゃらけている様に見える騎士でも、やっぱ性根は騎士なんだなー、って思わされる時は多い」
「はぁ……」
「っと、とりあえずレバーを開放しちまおう。向こうで皆待ってるし」
「あ、そうですね」
思わず思ったことを口にした空也だが、現在進行系で試練は攻略中だ。その最中に何人か別行動を取らざるを得なくなり、いつもの様に風が吹き荒れていたことからソラと空也の出番となったわけであった。というわけで改めて試練に向き直ったソラだが、下を見て思わず苦笑いを浮かべることになる。
「にしても……落ちたら戻って来るの大変だよな、これ」
「いつもの様にどこに落ちるか、とならないで良いだけまだ良いかもしれませんが」
「そりゃそうだけどさ」
同じ様に下を覗き込んだ空也の言葉にソラも笑って同意する。現在二人がいる場所だが、一番最初に入った部屋の真上。ロープやらが吊られていた場所だ。その上も最上階に二人は立っていた。
「とりあえずロープの先にあるレバーを全部開放って感じで良いんだ……よな」
「まぁ……これ以上扉も見当たりませんし」
この半月ほど攻略を重ね、第二ルートの攻略は完了。白い部屋のあとはこの一つ下の階層を経由して更に次の部屋があり、という塩梅だ。第三ルートもすでに幾つかの試練を突破しており、今までの傾向からあっても試練はあと一つか二つという所であった。というわけで随分と攻略してきたものだと思いながら、ソラは助走をつけてロープ目掛けて跳躍する。
「はぁ……なんってかここまでやってあれだけど……さっ!」
「なんですか!?」
「戦闘ばっかじゃないの、マジでキツい!」
「あははは! 煌士とかならこちらの方がありがたいと言うかもしれませんが!」
「たしかにな!」
ロープを手に振り子のように揺れ動き、更に次のロープへと跳躍。その際は風の加護を併用して吹き荒れる風を可能な限り影響をなくし、という塩梅だ。第二ルート、第三ルート共に時々戦闘はあったが、第一ルートの様に全て戦闘ということはなかった。ときにはあの純白の部屋の様に知恵を試されるものから、発想力が試される謎解き要素の強い部屋。柱のエリアやここの様にアスレチックのような物があった。
「確かに攻略が大変ってのは大変だけど……なんってか遊び要素も強いよなぁ……」
何本目かのロープを伝いながら、ソラは内心でそんなことを思う。試練というのだからもっとすごい物を想像していたし、実際純白の部屋なぞ下手をすれば気が狂いそうにもなった。
あれはカイトの手助けがなければ間違いなく一度外に出て、下手をすれば何ヶ月も調べて再挑戦になっていただろう。確かに大精霊の課す試練、と言うにふさわしい。
だがそういった試練然とした試練から、柱エリアの様に一切の安全面への配慮がない事を別にすればレジャー施設で採用されそうなエリアまで様々。ときには攻略が楽しいと思えるような試練もあった。
『それが僕の試練の特徴だよ。試練でもなんでも楽しくないとね。まぁ、楽しすぎて攻略が簡単にされてしまっても困るから、そこはそれとしてきちんとしたものも用意してるけど』
『だからお前の試練は時々無駄に長いんだよなぁ……』
『でもカイトも楽しんでるじゃん』
『まぁな……だからお前の試練は難しいとか別にして楽しいし、オレが一番最初にやるならお前、って言ってる』
試練を訓練に使ってるってどうなんよ。相変わらずと言えば相変わらずなカイトの言葉に、ソラは内心でそう思う。
『で、ソラ。そっちどうだ? 今どこらへん?』
「え? ああ、今か!? 今はジャングルでターザンごっこしてるところ!」
『ああ、そこか……ならもう少しで戻って来るか』
「何!? お前らもう戻ったの!?」
『ああ……じゃあ、飯でも作って待ってるかな』
「へ? あ、もうこんな時間か」
第三のルートは特にアスレチック要素の強いルートで、一番楽しめもしたルートだった。それに対して第二のルートは純白の部屋の様に知識や発想を試される要素の強いルートで、一番頭と時間を要した。第一ルートは戦闘が一番激しく、一番体力と魔力を消耗していた。
というわけでこの第三のルートを楽しんで攻略出来ていた結果、思った以上に時間が経過していたようだ。と、そこらを再認識して、ソラははたと気付いた。
「あれ……? もしかしてそれぞれ知恵と勇気と力とか……?」
『あ、気付いた? そういうことー』
「ま、マジか……わーとととと!」
「兄さん!?」
「わ、わ、悪い! あっぶねー……」
どこか楽しげなシルフィードの声に、ソラは思わず脱力しかけたらしい。思わず落ちそうになるも、大慌てでロープを掴んで再度集中することにする。
『あはは……じゃ、あともう少しだ。頑張ってねー』
「はぁ……」
でもそのあとちょっとってのもこの三つのルートがもうちょっとって意味なんだろうけど。ソラはこの先に待ち構えている中ボスとやらを想像して、更に気を引き締める。というわけで更に十数分跳躍を続けて、二人はついに一番遠くにあったレバーにたどり着いた。
「よし……トリン。こっちレバーに到着した」
『了解……本当に僕行かなくて良かったよ』
「いや、マジでな。お前来てたら今頃最初から何回攻略やり直しになってたか」
『あ、あははは……』
今回だが、流石にトリンを攻略に臨ませると逆に全体の攻略が遅くなると判断。彼には全体の調整やらを任せて、一番最初の足場に待機させた。というわけで照れくさそうに笑うしかないトリンだが、すぐ気を取り直した。
『ああ、それで君達以外はもうそれぞれレバーに到着してるよ……全体的にこのエリア全体に散った形だから、万が一このまま戦闘になった場合は迷わず飛び降りて下に逃げるよ』
「おう」
レバーの数は人数より少し少ない程度。最初に一番近いレバーを降ろした所勝手に戻ったので、全員が別々のルートに行くしかないと判断していた。というわけで、途中まで一緒だった空也も途中から別のロープに移動して今は別の所だ。一番遠くのレバーが彼だったというわけである。
『じゃあ、全員。タイミングをあわせて……3……2……1……いま!』
「っ」
がこんっ。ソラは思い切りレバーを下へ降ろす。それに合わせて他の面々もレバーを下に降ろして、すべてのレバーが下へ降りる。そうして数秒。何もない状況が続くが、すぐに異変が起きた。
「なんだ? 足元から……」
『通路……かな。上に向かえるみたいだ』
「じゃあ、そっちで合流だ」
『了解』
ソラの居る足場からも緑色の道が伸びて、上へ向かえる様になっていた。というわけでソラは現れた足場に従って、上へと向かう。そうして更に上に向かいある所で、唐突に半透明の足場が現れる。
「……ここは」
「終わりみたいですね」
「ああ……おっと」
「ああ、ここで終わりか」
半透明の足場の中央にあったのは、いつもの宝玉だ。これでこのルートも終わりというわけだろう。とはいえ、それが意味することは即ち、だ。
「よし……明日が決戦か。ちょっと早いけど、カイト達も戻ってるっていうし。戻ろう」
言われていた通り、中ボスは数が減らされたもののすべてがなくなったわけではない。出すなら三つの宝玉を捧げた直後だろう。ソラだけではなく、全員がそう考えていた。というわけで、一同は宝玉を回収するとそのまま下へと降りて、この日は宝玉を捧げず拠点へと戻るのだった。
お読み頂きありがとうございました。




