第3798話 様々な力編 ――攻略――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域の攻略を開始する。
そうして幾つかの障害を乗り越えながらもなんとか一つ目のルートの制覇を完了させたソラ達は最後の最後で特大の爆弾を知らされることになりながらも小休止を挟んで、次のルートの探索に乗り出していたわけであるが、その最中にソラはトリンからこれがエネフィアや地球の僻地や伝承に残る場所を模しているのではないか、と聞くわけだが、それもさておいて一同は第二のルートの最初のエリアを色々と問題はありながらもなんとか突破する。
「はぁ……」
「ふぅ……」
結局のところ、集中力は極度に要しながらも足場が悪いだけで特段の問題になるようなことはなかった。まぁ、それでも風は吹き荒れまともに跳躍も出来なかったし、何より今回は日向と伊勢は使えなかった。シルフィードがそもそもの話として二人は楽させるものではない、と却下したからだ。
まぁ、確かに集中さえ出来れば最初のエリアは突破出来た。必要あったのか、と問われれば否を返しただろう。というわけで少しの間呼吸を整えたあと、ソラはトリンへと問いかける。
「とりあえず……エネフィアの僻地? みたいな所を模してるっぽいのか?」
「僻地というよりも伝承とか逸話とかそういうものがメイン……かな。最初の大蛇はラエリアの川を飲み込んだ蛇の逸話。次の巨大な巨人達は双子大陸の神話に似た物があった。そして瞬さんが戦ったっていう風の巨人はおそらくエネシア大陸の風の大人というかなり僻地の村に伝わる伝承だと思う」
「はー……」
ソラは一応冒険者としては遺跡探索をメインとする関係で、ある程度エネフィアの神話や古代文明は詳しくはなっている。これは職業柄当然ではあるだろう。だがあくまでもそれだけで、各地に残る逸話や伝承まで知っているかと言われればそういうわけではなかった。というわけで感心を浮かべた彼だが、少しして少し不満げに口を尖らせる。
「でもそれなら先に言ってくれりゃ良かったじゃん」
「ごめんごめん。ぶっちゃけると僕もそこまで確証はなかったんだ。ただここまで伝承に則った試練が出てくると、そうなんじゃないかって」
「ふーん……まぁ、それなら良いけどよ……てか、お前。そんなの考えながら動いてるからミスってんじゃねぇ?」
「うぐっ」
それを言われるとなんとも言えない。トリンはソラの指摘に思わず言葉を詰まらせる。とはいえ、そんな彼にソラは笑う。
「あははは……ま、とりあえず……いつも通り次を見るか」
正直に言えばこのまま戻りたい所だが、使ったのは気力だけと言って良い。体力も魔力もまだまだ十分だし、戻るとなるとまたこの切り立った柱を飛び越えていかねばならないのだ。それはそれで御免被りたかった。
「……」
「どうですか?」
「……まぁ……見たとこ守護者もどきはいないっぽい」
「……」
「……うん。まさか、とは俺も思うけどよ。でも見たまま」
それはつまり。視線だけで問いかける空也に、ソラも盛大にしかめっ面ながらもわかりやすくするために扉を押し開く。敵の姿が見えず、このしかめっ面だ。誰にでも何がどうなっているか、と察するには十分過ぎた。とはいえ、そういうことでもなかったようだ。
「まぁ……こんな感じで」
「これは……」
「逆に何もない……?」
敵である守護者もどきは確かに居ないが、それはそれとしてもトリンが言う様に何もなかった。足場もアスレチックコースもどきも何も、である。それどころか次の部屋へ通ずる扉さえなかった。ただし、目が痛くなるような純白な部屋であるということを除けば、あまりに何も無い部屋だった。
「正直、なーんもわかんね。何なんだ、ここ」
「ここ以外に扉はなかったと思いますが……」
「なかった、と思う。俺が見落としてなけりゃだけど……」
「見てない」
ソラの視線を受けた由利が肩を竦めて首を振る。一応1キロ近くもの道のりを延々と跳躍し続けていたわけだが、周囲は壁も何もなかった。魔術で視力を上げてなんとか見える程度の距離に少し広めの足場があってその上に扉があることはわかったのでそこまで移動した、というだけだ。
だが当然そこに至るまでに周囲は確認しており、何もなかったことは全員が確認していることだった。というわけで困惑気味に、純白の部屋へと一同は足を踏み入れる。
「正直言や、広いか狭いかもこんだけ真っ白だとわかんねぇな……うわっ!」
「どうしたの!?」
「影もない……いや、太陽とか月がないんだから当然なんかもしんないけど」
自身の仰天の声に驚いた様子で問いかけるトリンに、ソラは頬を引き攣らせながら笑う。その彼の言葉通り、一同の足元には影一つなく、彼らを除けば何もかもが真っ白な部屋だった。というわけで一切何もなく、ただ白いだけでの部屋に少し恐怖を覚えることになった。
「これ……マジで俺以外がいるし扉もあるからまだ良いけど……何もなかったら気が狂いそうだな……トリン。この部屋もなんかの伝承にあるのか?」
「うーん……」
ソラの問いかけに、トリンは本当に真っ白いだけで何も無い部屋を再確認する。とはいえ、再確認しても気が狂いそうなほどの白だけで、ともすれば自分さえ溶けそうな印象を受けるだけだ。
「……駄目だ。わからない。地球の逸話は?」
「俺がわかるわけないだろ。そもそも隠された逸話とかなら俺が知れるわけもないし」
「あはは……うーん……」
ここまで伝承に則った試練が出されるのなら、おそらくどこかで何か語られる逸話や伝承のはずだ。トリンは逸話になぞらえた試練であるのなら、その逸話や伝承が判明すれば攻略出来るはず、と考えていた。そして戦闘で大した役に立てない以上、こういう所でこそ自分の知識が役に立つはずだ、とも。というわけで、彼は数十年に渡る知識を解凍することにした。
「ソラ。少し集積した記憶と知識を解凍して検索を掛ける。しばらく動けなくなるけど、フォローを頼める?」
「わかった……ほんと、お前とカイトを別々にしたの正解だった」
「あはは。そう言ってもらえれば助かるよ。さて……それはさておいて、ソラ。君達にはひとまずこの部屋全体を調べて貰いたい。これだけだと情報が足りなすぎる」
「いや、まぁ……情報盛りだくさんって気もするけど」
気が狂いそうになるほどに真っ白い、影さえ出来ない純白の部屋。それだけで特徴的と言えば特徴的だ。なのでトリンの言葉にソラは苦笑を浮かべるが、トリンは首を振る。
「いや、そうでもないよ。類似する逸話や伝承ならそれこそ山程あるんだ」
「え゛?」
「あはは……でも実際そうでね。なにもない部屋、というだけなら神話には山程ある。主には邪神とか反乱を起こした神とかが幽閉された場所という塩梅でね。白い部屋も同じ」
「……あー……」
確かにここが牢屋やそういう類の部屋と言われればそう見えても不思議はない。ソラはトリンの言葉に道理を見出したようだ。その二つは特徴的だが同時に何もヒントにはなっていないとも理解する。というわけで、一同はトリンへと情報を持ってくるべく、周囲の探索を開始することになるのだった。
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