第3797話 様々な力編 ――次のルート――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域の攻略を開始する。
そうして幾つかの障害を乗り越えながらもなんとか一つ目のルートの制覇を完了させたソラ達は最後の最後で特大の爆弾を知らされることになりながらも小休止を挟んで、次のルートの探索に乗り出していた。
「なんってか……アスレチック感強めだな……トリン! お前、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫! うん、大丈夫……大丈夫……」
「本当かよ……」
自らに言い聞かせている様にしか思えないトリンの返答に、ソラは顔を顰めるしかない。次のルートだが、こちらはどこかアスレチック要素の高いエリアだった。
風が吹きすさび、足場は不安定。ソラでさえ飛ぶこともままならず、足場をぴょんぴょんと飛びながら移動するしかなかった。とはいえ、ここまでなら一番最初のルートの一番最初。巨大な蛇を模した守護者もどきと戦ったエリアと一緒だろう。というわけで、今回ばかりは足場を移動していたソラは次の足場に移動する前に一つ深呼吸をする。
(洒落になんないぞ、これ……これ、足場じゃなくて柱だろ、もう……)
こんなの戦闘は間違いなく無理だ。ソラは足場を再確認して、ぐっと足に力を込める。と、その瞬間だ。案の定といえば案の定の悲鳴が聞こえてきた。
「うわぁあああああ!?」
「トリン!?」
「だだだ、大丈夫!」
「はぁ……まぁ、それなら良いんだけどさ……」
柱にしがみつく形でなんとか落下を防いだトリンに、ソラはがっくりと肩を落とす。トリンはそもそも文官タイプだ。本来は部隊を指揮し、全体をサポートすることが役割。肉体労働は誰も求めていない。
この状況に陥っていることが本来はあり得ざることで、避けるべきことだった。まぁ、それでもそうならざるを得ない状況なのだから、頑張ってもらうしかないのだが。
「でもマジでどうしたもんかな……」
トリンの悲鳴に力を抜いた足に再度力を込めて、ソラは次の柱を確認する。飛びすぎても駄目だし、飛ばなすぎても駄目。そんな状態だ。しかも飛ぶ先の足場も直径50センチほど。一人が乗れる程度だ。
「っと……」
とりあえずこの調子で進むしかないんだけど。ソラは後ろを向いて、その他全員の様子を確認する。といっても実のところ、トリン以外は全員危うくはあるが問題ない。軍人で体幹を鍛えているリィルは当然、彼の実弟の空也はそもそも運動神経抜群。下手をすれば才能はソラをも上回るだろう。
では遠距離を行う面々というと由利は言うまでもないし、鳴海と侑子は片や浬と同じバスケットボール部所属、もう片方は生徒会所属だが運動神経抜群というスペックの持ち主だ。ものの見事にトリンだけが運動音痴なのであった。というわけで這い上がるトリンを見守って、ソラもまた跳躍する。
「っと! あぶね!」
「兄さん!?」
「だだ、大丈夫! ちょっと跳び過ぎただけ! はぁ……」
少し跳躍の勢いが強すぎた。ソラは変な考え事をしていたからか、跳び過ぎたらしい。
「人のこと笑ってらんないな……集中しよ」
『ほらがんばれがんばれー』
「……楽しげっすね」
『楽しい。すっごい楽しい』
「……はぁ」
思わず半眼で睨み付けるほどには少しだけイラッとしたらしい。ソラはシルフィードの姿なき声に思わず深い溜息がこぼれ出る。まぁ、そんな運動神経抜群な面々でさえ足場が悪すぎて跳ぶのが精一杯。時に変な悲鳴が各所で上がっていた。単にその中でも一際トリンが多いというだけだ。
「てか、このエリア。敵でねぇの?」
『出ないよー。出してほしかったら出すけど』
「出さなくて良い出さなくて良い!」
半透明に出現した大きな鳥型の守護者もどきに、ソラは大慌てで制止する。この状況でもし勢いよくぶつかってくれば、自分以外はまず間違いなく落下する。そう判断するには十分な状況だ。
いや、下手をするとソラでさえ危ういだろう。大慌てになるのも無理はなかった。というわけで声と共に消えた守護者もどきに、ソラは肩を落とす。
「はぁ……」
ただでさえ集中力をすり減らしてるってのに。ソラはため息を吐きながらも、再度次の足場へと跳躍する。
(自身と足場の相対位置の固定を即座に。更に体幹を利用して着地の衝撃を制御……こんなのどうやったら考え付くんだよ……しかもたちが悪いのは、足場を連続して飛べる様になってない、って所だ)
次に跳躍出来そうな足場は基本的にその一つ前の足場から一直線上にはない。しかも距離もバラバラ。勢いを保って跳躍ということが出来ず、しっかり距離と方向を確認した上で最適解を常に導き出さねばならなかった。こんな状況では戦闘になぞ以ての外だった。と、そんな風に少しだけ苦い顔になる彼に、声が後ろから響いてきた。
「た、多分だけどここは剣尖山を模してるんだと思う!」
「剣尖山!?」
「と、とある国にある切り立った山々! とんでもなく高所に、こんな柱みたいな足場が無数にあるから剣尖、剣の様に尖った山、って名前が付けられたんだ! 僕も書物でしか読んだことがないけど!」
「針山じゃないのかよ!?」
「そんなの僕も知らないよ! その現地の人に言って!」
そんな怒る様に言わんでも。ソラはトリンの反応に思わず笑いそうになる。まぁ、怒る様にというよりも必死そうに、という所だろう。とはいえ、何故こんなことを彼が唐突に言い出したのか。それを彼が口にする。
「多分、風の大精霊様の試練はエネフィアやら地球やらの伝承や僻地をモデルにしてる可能性が高そうだ! さっきの巨大な蛇やらあの黒い巨人やらはエネフィアの伝承に思い当たる節がある! ととととと!」
「りょーかい! とりあえずそれは後で良いから、お前は跳ぶのに集中しろ! お前の知識を頼むにしても、お前が次にたどり着いてくれなきゃどうにもならないからな!」
「わ、わかった!」
状況が混迷としたなら逆に対応出来るトリンでも、肉体的な試練は厳しいようだな。ソラは逆に彼の必死な様子に少しだけ肩の力が抜ける。
「……てか、こんなのあるのかよ」
剣尖山とやらがどういう地なのかはソラは知る由もないが、こういう本当に無数の柱が並ぶような場所がエネフィアの自然界には存在しているらしい。そんなことにソラは驚きながらも、その後も延々と続くかに思われる柱の上を跳躍して移動することになるのだった。
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