第3794話 様々な力編 ――鋼の巨人:なんとか――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域の攻略を開始する。
そうこうして大穴エリアを攻略して次のエリアへと足を伸ばした一同を出迎えたのは、広大な草原エリアであった。そこに横たわる鋼の巨人を警戒しながら鋼の巨人がもたれ掛かる小山の周辺を探索したソラ達であったが、ぐるりと一周した所で現れたのは鋼の巨人よりも更に巨大な漆黒の巨人であった。
そうして空中戦になりながらも漆黒の巨人を鋼の巨人を駆ることでなんとか撃破したソラだが、流石に二体目が終わった頃には完全に疲労困憊という様子であった。というわけで、大の字に前に倒れ込む様にうつ伏せに寝そべる彼を見て、<<地母儀典>>が苦笑する。
『生きてる……かしら』
『試練の最中に無理をして死んでは大精霊様の沽券にも関わろう。まぁ、それでも限界に近かったようだがな』
『それもそうね』
<<偉大なる太陽>>の発言に<<地母儀典>>が半ば苦笑する。正直に言えば着地出来たのは最後の意地という所だろう。
その着地も着地というよりも、半ば倒れ込むという方が近かった。とはいえ、そんな主人の様子を武器と魔導書達は本人に聞こえない程度には密かに褒めていた。
『にしても、まぁ中々保つ様になったな。空中戦を挑むという悪手を選ばねば、という所でもあるが』
『そうね……足掛けおよそ三十分ほど。空中かつ無補給での駆動を考えれば、まだ見れる範疇にはなったのではないかしら』
時間の経過がない空間だし、時計を持ち込んだわけでもない。なので正確な時間としてどれぐらいかはわからなかったし、何よりこの空間全体が外よりはるかに魔力が満ち溢れているという好要素がある。
なので純粋に三十分間耐えられたと言えるかといえば、それはそれで微妙な所ではあるだろう。だがそもそも大地からの回復は出来なかったのだから、トントンと言う所だろう。
そしてこの鋼の巨人が放つ出力は回復に比例したかの様に高い。色々と鑑みれば、数々の主人達を見てきた武器達からして褒められるわけでもないが、同時に悪しざまに言うことが出来るわけでもなかったという所だったのだろう。というわけでそんな武器達の声に対して疲労困憊で横たわるソラであったが、そこにトリンの声が響いた。
『ソラ。大丈夫?』
「……んぁ……ちょいまって……」
『だ、ダメそうだね……信号弾は上げられる?』
呂律が回っていない。どこか舌っ足らずな様子での返答に、トリンが問いかける。これにソラは気力を振り絞り上体を起こして、仰向けに寝転がる。
「いや、なんとかする。あー……ちょっと待って。てか兎にも角にも出ないといけないんだから、どっちにしろ一緒だ」
『あ、そっか……ああ、とりあえずそれなら報告だけ聞いて』
「おう」
がさごそ。ソラは鎧の内側を弄って回復薬を探しながら、トリンの言葉に応ずる。
『とりあえずこっちの被害は軽微……とは言えないけど、軽微には近い。用意しておいた君のバックパックを使わせて貰ったよ』
「役立った?」
用意しておいたバックパック、というのは今回の草原エリアで敵の数が多かったことがあり、接近戦になる前にと用意したものだ。もともと試練では色々と想定していたので、こういった大軍を相手にすることも想定して用意していたのである。というわけでどこか嬉しそうに問いかけるソラに、トリンも笑って頷いた。
『まぁね……ただそれもダメージが酷い。自己修復モードに入った』
「マジで?」
『ごめん。かなり接近戦になった。それでも人員に被害は軽微だから、被害に見合う効果は得られたといえる』
「まぁ……しゃーないか。それに自己修復モードならまだ、許容範囲内か」
そもそも本来なら最前線で敵を食い止める自身がこの鋼の巨人に乗っているのだ。つまり壁役がいないということに他ならず、その分装備類へのダメージは致し方がなかったと言うしかなかっただろう。そして冒険者の装備だ。ダメージなぞもとより想定済みで、ある程度は現地で修復出来る様になっていた。
『だね……ただやっぱりこれ以上の戦闘は不可能に近い。次のエリアに行くか、撤退するかした方が良いと思う。君の魔力としても、僕らの魔力としても……それに装備としても』
「バックパック以外の被害は?」
『結界展開用の魔道具も自己修復モードに入ってる。正直これ以上の戦闘継続は不可能と言うしかないね』
「マジか……次のエリア、先に行ってもらうことは出来るか?」
兎にも角にも戦闘はなんとか勝利で終わったのだ。漆黒の巨人も倒せたし、次のエリアへの入口が出ていても良いのでは。ソラはそう思い、疲れた身体を起こして立ち上がる。そうして鋼の巨人のコクピットから出るためにコンソールへと向かいながら、更に続けた。
「俺もすぐにそっちに行く。黒いのも倒せたから、特別すぐに危険が迫るってことはないだろうし」
『それが問題なんだ』
「どういうこった?」
『次のエリアへの扉、まだ出ていないんだ。リィルさんからもさっき報告があって、入口近くに出口が出た、ということもない。小山の上とか、逆側も同じだ』
「はぁ?」
全員疲労困憊かつ持ち込んだ武器の類、装置の類もほぼ消耗してしまっている。まさしく限界ギリギリまで消耗して、それでなんとか得た勝利だ。にも関わらず次への入口が出てこない、という現実にソラは思わず足の力が抜けてたたらを踏みそうになる。
「え、マジで? 何も出てないの?」
『うん……一応敵が出てこないみたいだから、ひとまずの安全は確保出来てるんだけど……それで昨日の話だけど、瞬さんは意外と扉は近くにある、って話だったよね?』
「ああ……意外と扉は近くにあるから、その場にあるものを使えって。あと少し気付き難いだろう、とも。ただ気付く要素がないわけでもない、とかなんとか」
トリンの問いかけに、ソラは昨日瞬が教えてくれた、この鋼の巨人を起動させられたあとについて再度共有する。
『多分この近く、っていうのは小山か入口の近くって意味だよね』
「流石にな。先輩がそんな変な言い方をするとは思えないし」
『だよね……となると、何か見落としがあるのかも……』
ソラの返答に、トリンは再び思考の海に沈み込む。そんな彼に、ソラは出ようとしていたコクピットの中心へと戻ることにする。
「トリン、俺はこいつを持って帰る。今のところ先輩……ってか、カイトの言葉を考えると、その場にあるもの、ってのはこのロボだけだ。多分、こいつも使わないと駄目なんだと思う」
『やっぱりそうかな……ごめんだけどお願い出来る?』
「おう。ただ流石に今すぐは動かせないから、ちょいと時間だけ頂戴。あと、旗を上げておいて貰えると助かる」
『了解……場合によっては一旦撤退して、その巨人を動かして黒い巨人が出るまでに調査にした方が良いかもしれない』
「か……まぁ、戦えるとわかっただけ儲けもん、と考えるか」
今までは勝てなかった相手に勝てるし、一度勝てて情報も手に入ったのだ。二度目はより楽に勝てるだろう。ソラは今回の調査は決して無意味なものではなかったと自らに言い聞かせる。というわけで、ソラはしばらく休んだ後に鋼の巨人を再起動。その操縦に取り掛かる。
「……旗は……」
『こっちよ』
「おう、サンキュ」
<<地母儀典>>の拡大した画像を見て、ソラは鋼の巨人の進路をそちらへと向ける。やはりこんな巨大物体で超速度で戦闘を繰り広げていたのだ。相当な距離が生じてしまっている様子だった。と、そんなわけで表示された距離計に、ソラがはてと首を傾げる。
「あれ? これ何キロとか書いてるけど、何かセンサーとかあんの?」
『あら……やっぱりお坊ちゃんはお坊ちゃんね。気付いてなかったの』
「うぐっ! すんませんね。愚図で」
<<地母儀典>>の楽しげな様子にソラが僅かにふてくされる。どうやら最初の時点から相対距離は表示されていたらしい。だがそれにソラが気付いていなかったというだけであった。というわけで、そんな彼に<<地母儀典>>が教えてくれた。
『一通り揃っているわ。距離計、速度計……貴方の知識を一部私も間借りしているから、地球の速度単位に合わせてあげているわ』
「え、待って。どういうこと?」
『知識の間借り?』
「そう」
なんか聞いたことのない話が唐突に出てきたぞ。ソラは<<地母儀典>>の言葉に仰天した様子で問いかける。
『そりゃ、魔導書ですもの。しかもこっちで魔術行使とかもするのよ? ある程度主人そのものにアクセス出来なきゃそんなこと出来ないわ』
「な、なるほど……」
確かに事細かに主人のフォローが出来る様にするのなら、ある程度主人のスペックや知識を把握していないと対応出来ないだろう。それを考えればある程度知識を読み取れるのは不思議のない話であった。というわけで<<地母儀典>>の言葉に納得したソラであったが、そのままおずおずと<<偉大なる太陽>>へ問いかける。
「……なぁ、<<偉大なる太陽>>」
『出来んぞ』
「あ、そうなの?」
『これは魔導書だから出来ることだ。神剣といえどそう安々と出来ることではない』
「安々と出なけりゃ出来るんね」
『だから貴様とエルネストを繋げられるのだし、貴様の精神世界に連れて行かれもした。やりたくはないが出来る、程度に思え』
「なるほどね……」
確かにそう言われてみればそういうような兆候がなかったわけではないか。ソラは<<偉大なる太陽>>の返答に、彼らはあくまで道具という所があるのだろうと内心で理解する。
あくまで道具。即ち主人をフォローするための存在というわけだ。というわけでそんな道具達の隠された機能とでも言うべき力を理解して感心したような様子を浮かべていたソラだが、気を取り直して<<地母儀典>>へと問いかける。
「っと、悪い。それで聞きたいんだけど、センサー類ってあるってことで良いのか?」
『ええ。さっきも言ったけど、速度計、距離計……それ以外にも魔力を検出するセンサーや、敵の数を検出するいわば生体センサーのようなものまで様々ね。隠れた敵を探す、ということも出来るでしょう』
「なるほど、そういうことか……」
実は気付く要素があった、という瞬の言葉をソラはこのセンサー類を上手く活用すれば、ということなのだと理解する。そして向こう側ではそれは上手くは出来なかったが、別の何かを利用した結果次への扉も見付けられたのだと察せられた。
「小山が見えてきた……センサーで周囲の探索は出来るか?」
『当然ね』
「頼む……トリン」
『ソラ……ああ、戻ってこれたんだね』
「おう……それで悪い。俺が気付くの遅れたんだけど、こいつにはセンサーが搭載されているらしい。周囲をスキャンしてみる」
『了解』
現状トリンでも情報が足りなすぎて打つ手がないのだ。なのでソラの報告に即座に了承を示す。そうしてそれから数分で鋼の巨人は小山の真上に降り立つと、各種のセンサーを起動する。すると、反応があったようだ。だが、その場所がわからずソラが首を傾げる。
「ん? どこだ?」
『下よ、下』
「下……?」
<<地母儀典>>の指摘に、ソラは怪訝な様子で首を傾げる。そうして見た下には当然、巨大な小山があるだけであった。そうしていまいち理解が出来ない様子のソラへと、<<地母儀典>>が教えた。
『小山の中、というわけなのでしょうね』
「……マジか!? そりゃ見付かんねぇわけだ……トリン。流石に逐一掘り出してなんてやってらんない。多分概念的なんだろうから、こいつで掘り出す」
『了解』
確かにそんな所に隠されていれば見付けられないわけだ。ソラは<<地母儀典>>の教えてくれた内容に驚きながらも、それならばと鋼の巨人を使うことにする。そうしてそれから十数分後。地中に埋没した石室のようなものが見つかり、その中に次への扉も見つかるのだった。
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