第3794話 様々な力編 ――鋼の巨人:空中戦――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域の攻略を開始する。
そうして大穴エリアを攻略して次のエリアへと足を伸ばした一同を出迎えたのは、広大な草原エリアであった。そこに横たわる鋼の巨人を警戒しながら鋼の巨人がもたれ掛かる小山の周辺を探索したソラ達であったが、ぐるりと一周した所で現れたのは鋼の巨人よりも更に巨大な漆黒の巨人であった。
というわけで漆黒の巨人の妨害を受けながらも鋼の巨人の調査を繰り返していたソラ達だったが、調査の結果なんとか鋼の巨人の起動に成功。鋼の巨人を駆って、出現した漆黒の巨人と戦うことになる。
「……」
撃ち落とすことは難しいだろう。ソラは翼を羽ばたかせて飛翔している漆黒の巨人を見ながら、そう思う。あの翼は漆黒の巨人1体分が圧縮されたようなものだ。
その分だけ強度は上がっているはずで、実際貫通式の魔導砲の一撃をほぼ無傷に防いでいる。翼を狙い撃つことで撃墜を狙う、というのは少し厳しいことが察せられた。
『どうする?』
「どうしたもんか、って考えてる」
漆黒の巨人を倒さねばならないのはならないのだろうが、現在決め手に欠けている所という所ではある。なのでソラは<<地母儀典>>の問いかけに、一瞬だけ自らの手札を確認するべく常に表示されていた鋼の巨人の図解に視線を向ける。
(腰部貫通式魔導砲……効果なし。肩部同じく……腕部速射砲はまぁ、無意味だよな)
前二つはほぼノーダメージで終わっていた部分だ。それを考えると、牽制用の速射砲もダメージが与えられるとは思わない。なのでソラはこの三つは無駄と判断し、更に手札を考える。
(……やっぱやりきれるとなると、この頭部の魔導砲か。怖いっちゃ怖いけど……)
おそらく空中戦になったことを考えると、この頭部の魔導砲を使うことが討伐の肝になるのだろう。ソラは近接戦闘による剣戟か、この頭部の魔導砲による高火力の一撃による討伐が鍵なのだと考える。
(あとは……軽機関銃型の魔銃に、ハンドガンタイプの物が二つ……なんってか基本的な武装は一通り揃ってるって感じか。役割被ってそうなとこもあるけど)
改めてしっかり確認してみはしたが、色々と用意はされていたらしい。まぁ、使う使わないは別にして手札があるということは良いことだろう。ソラは図解を見ながらそう判断する。そうして一通り流し目で見て、彼は一つ問いかける。
「拘束用の武器とかって何か無いのか?」
『手持ち式のランチャーに捕縛用ネットランチャーがある……ぐらいかしら。もう少し調べれば出てくるかもしれないけれど』
「なんでもござれ、か」
『そうね……でもそんなもの、何に使うの?』
「いや、直接的な攻撃手段は多いけど、そういうサポート武器みたいなのないかな、と思っただけだ」
ソラも今のところどう使うか、と考えているわけではない。確かに頭部の魔導砲を撃つにあたり避けられない方がありがたいが、わざわざランチャーで捕縛することが出来るのかと言われれば少し困る。そこらは必要に応じて、と考える方が良かった。
というわけで漆黒の巨人達とにらみ合いながら武装の確認を行うことわずか。ソラは次の一手を考えているわけだが、漆黒の巨人が悠長にそれを待ってくれるわけもなかった。
『来るわよ』
「っ」
あとは色々とやりもって考えるしかないか。ソラは翼をはためかせて飛翔し、こちらに肉薄してくる漆黒の巨人に対して飛翔機の出力を上昇。一対二の状況に追い込まれない様に後ろへ飛んで距離を取りつつ、更に腕部の速射砲を起動。片方の漆黒の巨人に向けて牽制を放つ。
(効果はやっぱむっちゃ薄いよな)
見なくてもわかる。ソラは両手を前でクロスさせてこちらの速射砲を防ぐ漆黒の巨人に対してそう思う。というわけで彼は<<地母儀典>>へと指示を出す。
「軽機関銃出してくれ」
『了解』
自身の要望に合わせて現れた軽機関銃を、ソラは片手で速射砲を乱射しながらもう片方の手で引っ掴む。そうして一瞬だけ速射砲を停止させると、そのまま軽機関銃の引き金を引いた。
「くっ」
やっぱり速射砲より反動は大きい。ソラは少しだけ顔をしかめながら一発ごとに揺れる鋼の巨人を制御しつつ、その威力は速射砲以上だと確信する。そして事実、この一撃は腕部の速射砲以上だったようだ。
『動きが緩まった。ただダメージにはなっていないよね』
「ちっ……それに来るよな! 更に出力は上げられないよな!?」
『だめね。これ以上この向きで出力を上げるとバランスを崩すわ』
「ちっ」
迫りくるもう一体の漆黒の巨人を見て、ソラは再度舌打ちする。言うまでもないが、漆黒の巨人を正面に捉えている以上鋼の巨人は後ろ向きに飛んでいる。
一応スラスターを使って姿勢制御をしているが、すのスラスターも軽機関銃の反動の制御に使ったりもしているので飛翔にすべてを割り振れているわけではない。漆黒の巨人に追いつかれるのは仕方がないことであった。というわけでソラは最後に一発、と口を開く。
「肩部及び腰部魔導砲起動!」
『了解! 最後に一発ね!』
「おう!」
手持ち式の軽機関銃で少しだけでも進撃を緩められるのなら、この二つなら上手く命中すれば後ろに吹き飛ばすか、せめて足止めぐらいは出来るだろう。二人はそう考えたようだ。そうして計四門の魔導砲が同時に放たれて、その反動で鋼の巨人が一気に後ろへと飛ばされる。
「くっ! でもこれで!」
結果を自身で確かめている余裕はないが、少なくとも一瞬の猶予は稼げたはずだ。ソラは直前まで牽制をしていた軽機関銃を手放し、わずかにだが離れた距離を利用して肉薄してくる漆黒の巨人へと片手剣と盾を再顕現。近接戦に備える。そうしてその一瞬のあと。翼をはためかせて肉薄していた漆黒の巨人が、鋼の巨人へと殴りかかった。
「くぅ! でも!」
放たれた拳打を盾で受け流し、返礼とばかりに片手剣を突き出す。だがこれに、鋼の巨人の翼が動いてまるで盾の様に阻んだ。
「ちっ、っ!? くっ!」
『あまり近接戦も長々とはできそうにないわね』
「マジでな」
幸い兆候は見極めやすいから、よほど迂闊な行動をしない限りは避けられるだろう。ソラは<<地母儀典>>の言葉を聞きながら、そう思う。
そうして<<地母儀典>>が強引に距離を離したその直後、漆黒の翼がぶるりと震えてまるで鱗が剥がれるかの様に無数の欠片が鋼の巨人が居た場所へと襲い掛かる。
「そこ!」
放たれた翼の欠片を回避して、そのまま更にソラは一歩前に踏み出して剣戟を放つ。だがこれに、再度翼が今度は開くような動きで弾き飛ばす。
「わかってるってんだ!」
流石にこの状況で剣戟を放つのだ。ソラとてこう来るだろうことは想定していた。なので自身の剣戟は弾かれて良い様に軽めのものにしており、弾かれるというよりもどこか押し返されるというようなイメージが強かった。というわけでほぼほぼ反動もなく、ただ離されたような格好になったことに笑いながら、ソラはついで盾を突き出した。
「おらよ!」
盾で姿勢を崩して次の攻撃を叩き込む。そう考えたソラだったが、流石に全て上手く行くほど甘くもなかった。上手く盾で姿勢を崩せはしたが、次を叩き込む前に彼はアラートがなったことを理解する。
「なんだ!?」
『来るわよ!』
「ちっ!」
おそらくこの一撃で仕留めることは出来ないだろう。ソラは放とうとしていた剣戟で漆黒の巨人を仕留められないと判断。それより一対二になることを厭い、姿勢を崩して足止め出来たことを良しとする。
「機関銃!」
『了解!』
兎にも角にもほぼ相手が同格である以上、複数を同時に戦わない様にすることが肝要。そう考え、ソラは後ろに飛びながら再度軽機関銃を顕現させる。そうしてソラは常に一体と戦うことを心がけながら、空中戦を繰り広げていくのだった。
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