第3792話 様々な力編 ――鋼の巨人:交戦――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域の攻略を開始する。
そうして大穴エリアを攻略して次のエリアへと足を伸ばした一同を出迎えたのは、広大な草原エリアであった。そこに横たわる鋼の巨人を警戒しながら鋼の巨人がもたれ掛かる小山の周辺を探索したソラ達であったが、ぐるりと一周した所で現れたのは鋼の巨人よりも更に巨大な漆黒の巨人であった。
というわけで漆黒の巨人の妨害を受けながらも鋼の巨人の調査を繰り返していたソラ達だったが、調査の結果なんとか鋼の巨人の起動に成功するのだが、それと共に漆黒の巨人が出現。ソラは鋼の巨人を操って、漆黒の巨人と戦うことになる。
「ふぅ……」
『わかっていると思うけれど、連戦よ。魔力は使いすぎない様に』
「わかってる」
<<地母儀典>の言葉にソラは応ずる。今はまだ一体だけだが、何体もの漆黒の巨人が現れていた。その同時出現の数や出現の間隔はその都度異なるのでなんの情報もないに等しいが、少なくともこれで終わるとは思えなかった。
(あいつに武器は……なさそうか。でも触れてみた感じ、かなり硬度は高い)
これまでも何度か攻撃を叩き込んでいたのでわかってはいたが、実際に鋼の巨人を介して伝わってくる感触はかなり硬く、この片手剣で貫けるかと言うと微妙な所であった。と、そんな彼に今度は<<偉大なる太陽>が告げる。
『ソラ。わかっていると思うが、この巨人が持つ武器は』
「お前じゃないってんだろ。わかってる。更に言えばお前の力を開放した所でパイロットの俺が強くなるだけで、こいつには無関係だ」
『そういうことだ。ブーストが使えん。そう思う必要がある』
「わーってるよ」
yははりソラとしては魔導鎧のブーストにせよ<<偉大なる太陽>>の加護にせよ、そういった強化を切り札として使っていることが多い。そういった短期間の強化が出来ないとなると、試されるのは地力だ。故にソラは盾を前に少し突き出すような格好で注意深く敵を観察して、その動きを確認する。
(構えはない。今までの戦いで言えば、かなり大雑把な挙動をしてくるヤツだったけど……)
だから避けることも可能ではあった。ソラはそう思いながらも、あれはあくまでもこの漆黒の巨人に比べれば蟻ほどの大きさでしかない状態だったからこそ出来たのだと頭に叩き込む。
(多分こっちがこれに乗ったことで動きは異なってくると思った方が良い……来る!)
どしんっ。そんな大きな音が鳴り響いて、漆黒の巨人が足を踏み出す。そうして一歩踏み出した次の瞬間、漆黒の巨人は今までにない動きを見せた。
「走れんのかよ!」
今までののっそりとした動きがまるで嘘の様に次の一歩はずどんっ、と何かが振り下ろされるような音が響いて、更にその次の一歩の間隔も遥かに短かった。明らかに走っている。そう理解するに十分な間隔であった。そうして盾の裏で漆黒の巨人の動きを確認するソラへと、漆黒の巨人は殴り掛かる。
「くっ!」
勢いと質量。その両者が乗った一撃はおそらく軍艦でさえ一撃でへし折っただろう。そんな一撃を受け、鋼の巨人が地面を抉りながら大きく後ろへと後退する。だがインパクトの瞬間、ソラは各所のスラスターを起動。すぐにそれを抑え込む。
「見た目通りの馬鹿力か!」
技術はないが、やはりこの力は馬鹿に出来ない。ソラはここからが本番と言って良い力に僅かに悪態をつく。そうして悪態をつきながらもなんとか姿勢を制御した彼は、そのままスラスターに込める力を増大。自身を後ろに押す力を反動にバネの様に一気に前へと踏み出した。
「おぉおおお!」
一気に肉薄しようとする鋼の巨人に対して、漆黒の巨人はその場で停止。だが最初に殴りかかったと別の腕をすでに引いており、次の一打を叩き込もうとしていることが誰でも理解出来た。それに、ソラは盾の内側にあるグリップをしっかりと握りしめる。
「おぉおらぁあああ!」
放たれる拳打に対して、ソラは盾を振って弾き返す。そうして漆黒の巨人の左腕が僅かに弾かれた瞬間、彼は更に追撃と片手剣を突き出す。
「っ」
『だめね』
「こんなの出来るなら最初からやっとけよ、って話だ」
<<地母儀典>の言葉に、ソラは僅かに苦笑いを浮かべる。彼の刺突だが、これは漆黒の巨人が弾かれた勢いを利用して後ろに僅かに跳躍することで回避する。だがこれにソラは背部の飛翔機を点火。離れた距離を利用して一気に加速する。
「おぉ!」
飛翔機による加速を利用して、僅かに地表スレスレを滑るような形で漆黒の巨人へと肉薄。そうして肉薄する彼は更に直後に再びの刺突を繰り出す。
「ぐっ!」
放たれた刺突に対して、着地した漆黒の巨人は蹴りを繰り出して片手剣を上へと弾く。そうして弾いた直後、更に逆の足で横薙ぎに蹴りを繰り出す。
「っ、<<地母儀典>>!」
『了解!』
ソラの要請を受けて、<<地母儀典>>は側面に展開する障壁へと力を一点集中。強引に蹴りをねじ伏せる。そうして一瞬の拮抗が生じたその瞬間、ソラは両手の剣と盾を手放して顕現を解除。アメフトのタックルじみた動きで漆黒の巨人へと突進。更に全身のスラスター、飛翔機を点火して、片足となっていた漆黒の巨人を持ち上げる。
「おぉおおお!」
おそらく途中で反応される。それをソラは先ほどの一幕で理解していればこそ、猶予は数瞬しかないと判断。全身で押し出せるだけの距離を稼ぐことにしていた。そうして数秒で数キロを移動した所で、漆黒の巨人が暴れ出す。
「っ」
『限界よ』
「わかった。肩部ランチャー起動」
『了解』
なるほど。ソラの意図を読み取った<<地母儀典>>は少しだけ笑うような様子で背部のバックパックに接続されている二門の魔導砲を展開。そしてその展開の動作と同時に、ソラは漆黒の巨人を手放して地面へと自由落下を開始させる。
「発射!」
空中なら身動きは取れないだろう。そう考えたソラの考えは当たっていた。しかも更に追加で距離を取らせ、小山からは十数キロの場所まで来ている。
この位置なら魔導砲の流れ弾さえ注意すれば多少大雑把に戦っても問題ない。魔導砲にしても地面に向けて撃つ形なら避けられても問題はないだろう。そう考えたのである。
そうしてバックパックに接続された二門の魔導砲から、巨大な光球が発射される。それは瞬く間に自由落下を開始していた漆黒の巨人へと肉薄し、二つの巨大な閃光を放つ。
「……完全にはやりきれてないが」
『効果はあり、という所ね』
「おう」
頭部に高出力の魔導砲があったので流石に吹き飛ばせるとは思っていなかったが、それでも大ダメージと言えるだけの結果は得られた。ソラは身体の前半分ほどが消滅している漆黒の巨人に対して、この様子なら勝てると考える。だが、流石にそう甘くはなかった。
『ソラ! 追加、来るよ! 多分そっちに行く!』
「っ」
どうやら食べ終わる前におかわりが来ちまったみたいだな。ソラはトリンの声にそちらを見て、トリンらを無視して一気にこちらへと近付いてくる別の漆黒の巨人を睨み付ける。そうしてそれを見ながら、彼は轟音を上げて地面に落着した漆黒の巨人へと急降下して片手剣を突き立てる。
「はぁ! 次!」
おそらく効率的に戦わないと連戦どころか複数体を同時に戦わないといけなくなりそうだ。ソラはそう考えながら漆黒の巨人を足蹴に立ち上がる。そうして、彼はさらなる漆黒の巨人との戦いに向かうのだった。
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