第3788話 様々な力編 ――起動：推測――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域の攻略を開始する。
そうして大穴エリアを攻略して次のエリアへと足を伸ばした一同を出迎えたのは、広大な草原エリアであった。そこに横たわる鋼の巨人を警戒しながら鋼の巨人がもたれ掛かる小山の周辺を探索したソラ達であったが、ぐるりと一周した所で現れたのは鋼の巨人よりも更に巨大な漆黒の巨人であった。
流石にそのままでは戦えないと判断したソラは一時撤退を選択して再度の探索を開始するも、次は複数体の漆黒の巨人が出現した事によりついに完全撤退を決定。最初の拠点に戻り瞬と相談を重ねていたわけだが、そこに瞬と共に行動していた海瑠が鋼の巨人に関する疑問を提示。今度は鋼の巨人を目覚めさせるべく行動を開始する事になる。そうしてソラの全力での起動に失敗したわけだが、一度の撤退の後一同は今度は全員で起動に取り掛かる事にしていた。
『ソラ。さっきも話したと思うけど、今回は大半の人員を起動に割いている。撤退戦さえ困難だ。万が一の場合はすぐに逃げるよ』
「わかってる……それでさっきみたいな全力投球はすんな、だな」
『そう。変な話ではあるけど、さっきと違って全員少しずつ余力を残さないといけない。もしそれで無理ならもう次の策を考えた方が良い』
ソラの確認に対して、トリンははっきりと頷いた。今回彼が言っている様に、鋼の巨人の各所にも人員を配置して魔力を流し込む事にしている。参加していないのは全体の指揮を担うトリン、全周囲の警戒を行う由利だけだ。リィルさえ起動に携わっている。戦闘はほぼ不可能に近く、万が一背後を取られれば一巻の終わりだった。というわけでまさしく背水の陣で臨む起動に、ソラは僅かに気を引き締める。
「ふぅ……」
とりあえず自分がやる事はさっきと一緒だが、余力は残さないといけない。先ほどと違ってコケても手助けは貰えない状況だ。そうして彼は意識を集中して、準備が自分の中で整った事を理解する。
「良し。こっち準備出来た。魔力は……まぁ、完璧に回復してるわけじゃないけど。さっきと同じぐらいは出来る」
『良し……他も大丈夫って報告が来てる。カウントダウンを開始……３……２……１……スタート』
「っ」
トリンの合図に合わせて、ソラは意識を集中させて鋼の巨人に魔力を流し込む。
「おぉおおお！」
先ほどは自身の１００％を注ぎ込んだが、今度は８０％ほどを目安に。ソラは意識的に全力の一歩手前ぐらいの量を鋼の巨人の胴体へと注ぎ込んでいく。そうしてしばらくすると、先程と同じく鋼の巨人に変化が現れた。
『各部の発光を確認。ついで頭部の目も発光』
ここまでは自分が一人でやった時と同じ反応だ。ソラは先程より自身に掛かる負担が楽になりつつも、同時に同じぐらいまでは到達出来ている事を理解する。
（やっぱ各部の増幅回路ってのが有効ってわけか）
言うまでもないが、空也にせよその他地球側の面々にせよソラ達よりも数段身体能力は劣る。その彼らを加えて意味があるか、と問われれば普通は意味はないのだが、この増幅回路とやらが有用だったらしい。空也達の魔力を増幅させ、ソラの不足を補う事が出来たのだ。そうして鋼の巨人の各所からも注ぎ込まれた魔力が、ソラの居る胴体部に収束する。
「っ！」
『胴体部、開放を確認！ ソラ！ 大丈夫！？』
「ああ、なんとか大丈夫だ！ ちょっと目が痛いぐらい！」
全体からの魔力が胴体部に流れ込んだその瞬間、胴体部の一部がかしゃっという音と共に開いて中の巨大な球状の光り輝くクリスタルが露わになったのだ。その輝きにソラは思わず顔を顰めて目を閉じそうになるも、彼は即座にサークレットの機能を展開。眩い輝きを遮断する。
「……」
これはいけそうなのか。ソラは先程よりはるかに大量の魔力を注ぎ込まれて、ついには胴体部の開放まで起きた異変にあと一歩の所までたどり着いたと直感的に理解する。だがあと一歩。あと一歩届いていない。そう考えたソラは、後で怒られるのを覚悟で更に魔力を注ぎ込む。
「おぉおおおお！」
『ソラ！』
「わかってる！ けど、ここでやめるわけにもいかないだろ！ はぁああああ！」
あと一歩だ。そう考えたソラは残る余力の大半を注ぎ込む。こうなると後はもう鋼の巨人に賭けるしかないが、しかし。十数秒の間膨大な魔力を注ぎ込んだにもかかわらず、鋼の巨人は動く事はなかった。
「……嘘だろ、おい」
先ほどの自分一人で無理だったのならまだわかるが、ほぼ全員で取り掛かっても無理な状況にソラが思わず愕然となる。
「トリン、今どれぐらいの魔力を注ぎ込んだ？」
『多分、中小規模の街なら補えるだけの魔力は注いだはずだ。増幅も考えても、間違いない』
「で、だめなのかよ……」
確かにあと一歩という所まではたどり着いていた。それを考えれば間違いなく惜しい所までたどり着いてはいるはずなのだ。だのにあと一歩が届かない。そんなもどかしい現状に、ソラはしかめっ面だ。
「流石にまだ黒い巨人は出ないよな？」
『流石にね……もう一回やる気？』
「いや、流石に意味ないだろ。いくらなんでも諦める」
おそらく足りない事は事実なのだろうが、足りないなにかは魔力やらの動力ではないとぴうことなのだろう。ソラはトリンのどこか咎めるような問いかけに対して苦笑気味に首を振る。
「多分なんかが足りないんだろうとはわかるんだけど……なんだ？ 起動キーでもあるってのか？」
『それは……存外それはあり得るかもしれないね。おそらく魔力としては十分に足りているはずだ。それでも動かないということは、なにか必要になる物が足りていないという可能性の方が高い』
「やっぱりそうなるかぁ……」
ここまでやって、自分達の全力を注ぎ込んで起動しないとなると足りないのは魔力ではないなにか別の要素なのでは。それを起動キーと言い表したソラの言葉にトリンもなるほどと思ったようだ。自身の意見への賛同に、ソラはため息混じりにがっくりと肩を落とす。と、そうして肩を落として、彼は気が付いた。
「あれ？」
『どうしたの？』
「いや、胸の部分、開きっぱなしだ」
『あ、本当だ……開いた部分はそのまま、ということなのかな』
基本的に目の発光などは魔力を注ぎ込むのを止めると数秒も立てば失われるし、現に胸のクリスタルも今は輝いていない。だが開いた部分はそのままになっていた。
「何か意味がある……のかな。後は他の部分も意外と気付いていないだけで何か変化があったりするのかも」
『それはあり得るね。もう一度鋼の巨人全体の調査と、周辺の再調査をした方が良さそうだ』
「おう」
おそらくこれ以上魔力を注ぎ込んでも意味がないのは事実だろう。ソラもトリンもその見解を一致させる。というわけで一同はしばらくの休憩の後、鋼の巨人を起動させるべく改めて鋼の巨人と周辺の探索に取り掛かる事にするのだった。
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