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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3787話 様々な力編 ――起動:失敗――

 過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域の攻略を開始する。

 そうして大穴エリアを攻略して次のエリアへと足を伸ばした一同を出迎えたのは、広大な草原エリアであった。そこに横たわる鋼の巨人を警戒しながら鋼の巨人がもたれ掛かる小山の周辺を探索したソラ達であったが、ぐるりと一周した所で現れたのは鋼の巨人よりも更に巨大な漆黒の巨人であった。

 流石にそのままでは戦えないと判断したソラは一時撤退を選択して再度の探索を開始するも、次は複数体の漆黒の巨人が出現した事によりついに完全撤退を決定。最初の拠点に戻り瞬と相談を重ねていたわけだが、そこに瞬と共に行動していた海瑠が鋼の巨人に関する疑問を提示。今度は鋼の巨人を目覚めさせるべく行動を開始する事になる。


「……」


 鋼の巨人の胴体の上に立ち、ソラは意識を集中する。頭部や胴体部、その他腰部や腕部など全て一通り一時間掛けて確認はしたものの、何をどう調べてもスイッチどころか蓋のような物は見当たらなかった。といういわけで一番試したくなかった方法を試す事になったのである。


「……」


 今はまだ意識を集中するだけで、魔力も何も使っていない。ただ感覚を鋭敏に、この鋼の巨人に意識を集中するだけだ。


(かすかにだけど、魔力の塊がある)


 おそらくこれがこいつのコアのようなものなのだろうな。意識を集中するソラは鋼に覆われたその先から感ずるごく僅かな反応を確認。ただやはり戦闘や周囲での魔術行使がないからか、感じられる魔力も意識を集中してようやく、という程度にしかない。だがそれでも感じられる魔力の威圧感は並々ならぬものがあり、やはりこの鋼の巨人がとてつもない存在なのだと理解出来た。


「良し……」

『出来そうか?』

「出来そうか、って言われりゃわかんね。けどやるしかないからやるしかない。最悪にならなけりゃ良いんだけどさ」

『そうだな』


 <<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>は自身の問いかけに答えるソラの答えに笑って同意する。現時点でやれる事と言えば、この鋼の巨人を起動させる事しかないのだ。

 これが吉と出るか凶と出るかはまた別の話で、ソラの言う通りやるしかなかった。というわけでソラは通信機に手を当てて、トリンへと問いかける。


「トリン。周囲の状況は?」

『今は問題ないよ。守護者もどきの群れも倒している』

「よっしゃ……悪かったな、そっち任せちまって」

『良いよ。その代わり君の方はもっと大変だろうし』

「どーだろな」


 トリンの指摘に対して、ソラはどうだろうかと笑うだけだ。流石に鋼の巨人を起動させるとなると、近くには最低限の人員、つまりソラだけにしたのだ。

 そしてソラには起動のために魔力をこの鋼の巨人へと注いでもらう必要がある。なので彼は敢えて戦闘に加わっていなかった。というわけで一人鋼の巨人の上に立つソラは、改めて意識を集中させて口を開いた。


「じゃあ、やる」

『了解。今のところ地響きなどはない。やるなら今だ』

「良し」


 まだ漆黒の巨人は出ていないが、そもそも漆黒の巨人と鋼の巨人が戦ってくれるのではというのは単なる推測だ。言ってしまえば楽観的な考えでしかない。というわけで漆黒の巨人が出てくるよりも前に、鋼の巨人の起動が可能か試す必要があったのだ。そうして意識を集中したソラが、更に魔力を右手に集中させる。


「ふぅー……」


 右手に集中させた魔力を抜けない様に集中しながら、彼は右手を鋼の巨人の胴体へと押し当てる。


「おぉおおおお……」


 雄叫びの様に叫ぶのではなく、どこか唸る様にソラが鋼の巨人へと魔力を送り込む。彼である理由は明白で、魔力量が一番多いからだ。その彼の全力で無理ならば、本職の軍人であるリィルを含め誰でも無理だ。なので彼は戦闘させず、魔力を温存していたのである。そうして彼が魔力を注ぎ込むのに合わせて、鋼の巨人に異変が起きる。


『頭部の目に発光を確認。合わせて関節部からも発光を確認』


 これは少しは脈があるってことか。ソラはトリンの言葉を聞きながらそう思う。これが起動の兆候なのかはわからないが、少なくとも変化ではある。なので彼はかっと目を見開いて、更に魔力を送り込む。


「おぉおおおお!」

『っ、脈動してる!? ソラ、大丈夫!?』

「問題ない! まだやれるし、敵意は感じない!」


 これはいけるかも。ソラは自身でも感じられる鋼の巨人の脈動に確かな手応えを感じて、更に魔力を注ぎ込む。そうしておそらく短期的ならば小規模な街をも賄い切れるだけの魔力を注ぎ込んだ所で、流石にソラが保たなくなった。


「はぁ……はぁ……」

『ソラ!』

「っと! 悪い、サンキュ!」


 自身の魔力切れから間髪入れずに矢文の様にして回復薬を送り届けた由利に最後の力で礼を言うと、ソラは結果を確認するより前にふらつく身体で回復薬を一気飲みする。そうして若干薄れかけた意識を覚醒させて、彼は立ち上がった。


「嘘だろ……」

『起動失敗……かな』

「これでだめなのか」


 確かに今までで一番起動に近付いた感じはあった。事実身体の各所はまだ発光しているし、目に宿る輝きは爛々としておりとてつもない威圧感さえ感じられる。だがそれだけだ。動く様子はなく、動き出そうとする意思のようなものも感じられなかった。


「何だ。まだ魔力が足りないのか……?」

『ふむ……今のお前の魔力であれば、短時間であれば戦艦であれ賄い切れるだろう。おそらく不足は魔力ではないのかもしれん』

「うーん……」


 確かに言われてみれば。ソラは<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の言葉に、この鋼の巨人の起動には魔力ではないなにかが致命的に足りていないのだと直感的に理解する。


『なにかあった?』

「いや、多分起動してはいるんだとは思う。ただそれがなにかわからないってか……いや、起動はしてないのか? まだ魔力が足りていないって事はないと思うけど……」

『どうだろう……あの漆黒の巨人に全員で挑んでどうする事も出来ない事を考えれば、全員で協力するというのも一つ手なのかもしれない』

「どういうことだ?」

『今しがた君が魔力を注いだ時にわかったんだけど、どうやら身体の各所に増幅装置か増幅回路のようなものがあるみたいだ。そこから更に魔力を注ぎ込めば、更に莫大な魔力をコア部に注げるのかも』

『「なるほど……」』


 どうやら自分達が気付かなかっただけで、案外魔力は本当に足りていなかったのかもしれない。ソラも<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>もトリンの言及になるほどと思う。というわけで今度は、と考えた所でどうやらタイムアップらしかった。


「『あ』」

「て、撤退撤退! トリン! うわっとっと!」

「っと! ソラ! いけますね!」

「すんません!」


 慌てて駆け出そうとして身体がまだ追いつかず、鋼の巨人から落ちそうになったソラをリィルが空中で掴み取る。そうして彼を放り投げるような形で地面に着地させると、そのままソラは地響きの方向を確認。漆黒の巨人が現れた事を確認して、一目散に撤退するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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