第3786話 様々な力編 ――再調査――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域の攻略を開始する。
そうして大穴エリアを攻略して次のエリアへと足を伸ばした一同を出迎えたのは、広大な草原エリアであった。そこに横たわる鋼の巨人を警戒しながら鋼の巨人がもたれ掛かる小山の周辺を探索したソラ達であったが、ぐるりと一周した所で現れたのは鋼の巨人よりも更に巨大な漆黒の巨人であった。
流石にそのままでは戦えないと判断したソラは一時撤退を選択して再度の探索を開始するも、次は複数体の漆黒の巨人が出現した事によりついに完全撤退を決定。最初の拠点に戻り瞬と相談を重ねていたわけだが、そこに瞬と共に行動していた海瑠が鋼の巨人に関する疑問を提示。今度は鋼の巨人を目覚めさせるべく行動を開始する事になる。
「鋼の巨人を目覚めさせる、か……確かに現状あの漆黒の巨人を考えればそれしか手はないのだろうね。あの巨体なら、確実にダメージは与えられると思う」
「問題は戦ってくれるかどうか、って所か」
「そうなるね。最悪は警戒していた通りの二方面作戦だ」
「それだけは避けたいな……」
トリンの指摘にソラは深くため息を吐く。結局のところ、一番の問題はそこだ。鋼の巨人が目覚めない事は確かに違和感だが、目覚めて一緒に戦ってくれるというのはそもそも確証のある話ではない。
あくまでもここまでの流れから目覚めない事はおかしい。更には絶対に勝てないような敵まで出てきている。ならば敵ではなくこれを起動させる事こそが攻略の鍵なのでは、と推測しただけである。
「まぁ、とりあえずやってみないとどうにもならないのは事実かな。今のままじゃ警戒が必要かどうかもわからない。小山の調査はまだ途中だけど……どうにせよあれの下になにかあるか、とかも見ないと行けなかったことは事実だ。早かれ遅かれやるしかなかったと思うよ」
「どっちにしろってわけか」
トリンの発言に、ソラは少し遠くに見える鋼の巨人を見る。相変わらず鋼の巨人は沈黙を続けており、先の漆黒の巨人との戦いで光っていた目も今は昏く、動く気配そのものがなかった。
「はぁ……頼むから目覚めて速攻で敵対なんてなってくれるなよ」
どこか祈るように、ソラは一人そうごちる。そうしてそれから一同は周囲の警戒をしながらも、鋼の巨人の調査を開始するのだった。
さて幸いな事に今回は早々に漆黒の巨人が出てくる事もなく、再び草原エリアに訪れて調査を開始してからおよそ一時間ほど。鋼の巨人の調査を重ねていたソラ達だが、そこで得たのは訝しみであった。
「こちらソラ。定期報告……トリン、聞こえてるか?」
『うん、聞こえてる』
「おう……まぁ、見ての通り、なんもない。スイッチみたいなのも、なにか開くような蓋もなーんもない」
『あはは……』
これ本当に目覚めるのだろうか。鋼の巨人の頭部付近を調査していたソラのぼやきに、トリンが苦笑混じりに笑う。流石に目覚めれば別行動はまずいが、完全に全員が目視出来る範囲だ。
なので各部に分かれて調査はしているものの、別行動というほどでもなかった。というわけで愚痴を一つ、ソラは頭部を改めて確認する。
「えらくロボットアニメの巨大な人型ロボットっぽいけど……そういやふと思ったんだけどさ」
『なに?』
「魔導機にせよ大型魔導鎧にせよ頭に顔あるじゃん。あれって意味あるのか?」
『そりゃ、あそこにメインカメラやら各種センサーが乗ってるからね』
「ああ、いや。それは知ってるよ」
何度かは半魔導機を扱った事があることと、オーアら<<無冠の部隊>>と繋がっている関係でその構造は多少知っている。なのでスペースなどの関係で頭部に各種のセンサーがあり、胴体部にサブのセンサー類が搭載されている事は知っていた。だが問いかけはそれとは別だったらしい。
「なんでわざわざ顔の形にしてるのか、って話。もちろん顔ってよりもマスクで覆われた鎧の顔って感じだけどさ。唇とかあるわけじゃないし……いや、唇があるのもあるらしいけど」
『そうなの? 僕そこらの造形に関してはあまり詳しくないんだけど……唇? なんで?』
「詠唱のサポートだって。だから詠唱すると口が動くんだとよ」
『へー……』
そんなのがあるのか。トリンは軍事には多少明るいものの、こんな特殊な例は知らないような物は知らなかったらしい。感心した様に目を見開いていた。とはいえ、言うまでもなくこの話は脱線だ。というわけで彼はすぐに話を軌道修正する。
『ああ、ごめん……それでだから何なの?』
「いや、こいつにせよ大型魔導鎧にせよ、なんで顔の形なんだ? いっそセンサー類だけなら顔にしなくても良いだろ? しかも強度も高められるだろうし」
『ああ、そこか。まぁ、それは考えられたそうだよ。ただ大型にせよ中型にせよ魔導鎧はあくまでも鎧。人体の延長線と捉える必要がある。そこで人体と異なる構造になると、搭乗者の違和感に繋がり操作性が悪化してしまうんだ』
なるほど。確かに何度か大型魔導鎧はあくまでも鎧で、人体の延長線と認識する必要があるとは聞いた事があるな。ソラはトリンの言葉に道理を見るわけだが、同時に違和感が完全に拭えたわけでもなかったようだ。
「だけどそんな顔のあるなしが重要なほどなのか?」
『そこは僕も感覚的な話になるからわからないけれど……そういう話とは聞いてるよ。ほら、顔を動かそうとして顔が動かないと変でしょ?』
「センサーは動くから良いんじゃねぇの?」
『わからないよ。でも少なくとも顔がある、ということは顔を動かしている感覚も必要なんじゃないかな』
「なるほどなぁ……」
そもそもソラは大型魔導鎧のパイロットでもないし、何より顔のない大型魔導鎧を使った事があるわけではない。なので顔を動かせば動く感覚があるのは当然だったのだが、顔の形状でなければその感覚も得られないのかもと考えるだけであった。
「でもそれならこいつはなんで顔があるんだろ」
『そこらは僕らが馴染みやすい様に、とかじゃないかな』
「漆黒の奴らも顔……はなかったけど頭はあったけどな」
『それもそうだね』
「あはは」
ソラの言葉にトリンが笑う。それにソラも笑うわけだが、彼は改めて鋼の巨人を見る。警戒していまいち気が付いていなかったが、改めてしっかりと見ればそこそこデザインセンスは良く、格好良いと素直に思うような見た目であった。
「本当にヒーロー物の巨大ロボットみたいな感じだよな……白とか青ベースで、ヒーローロボって感じ。これで金色じゃなくて赤の差し色でも良いかもな」
『日本だとそんな金色の装飾が人気なの? まさか全身金色とか?』
「いや、全身金色になると特別感があるから、特別仕様とかになるな。最終回限定のパワーアップ形態とか、一時的な強化形態とか」
『なるほど……確かに金ピカに光り輝いてたらすごい、って感じはするもんね』
「だろ?」
鋼の巨人は全身金ピカというわけではないが、身体の各所にはソラの鎧さながらに金色の装飾が施されており、見た目からは主役級メカの印象があった。少なくともこれが漆黒の巨人と戦えば非常に映えるだろう。というわけで少し楽しげに笑うソラだが、一転して鋼の巨人を見てため息を吐く。
「といってもこいつはうんともすんとも言わないわけなんだけど」
『そうだね……どうしたものか、と言いたくはないんだけど』
「まぁ……どうしたものか、という必要はないもんなぁ……」
目覚めさせ方なぞ最初からわかっている。だがそれ以外に手立てはないか、と確認するためにこうしてうろちょろと身体の各所を確認しているのであった。とはいえ、一時間各部を調べて何もないのだ。そろそろ漆黒の巨人が出かねない事もあり、ソラは諦めを滲ませる。
「やるしかなさそう……か」
『だね……まだ地響きはないけど、さっきの感じだといつ出てきてもおかしくない。あいつらの出現条件も気になる所ではあるけれど……』
「そういえば結局時間は関係なかったな」
『うん。何かのトリガーはあるとは思うけど、現状だと情報が少なすぎる。そこらも調べないとだめだろうね』
流石に漆黒の巨人の調査をしながら鋼の巨人の調査、それどころかこのエリアの調査は出来ない。なので今は出てきてほしくはないが、最終的にはあの漆黒の巨人が何なのか調べる必要はあっただろう。だがそれは今ではない。というわけで、ソラは意を決した。
「良し……やろう。確か胴体部に動力炉っぽいのはありそうなんだよな?」
『うん。少なくとも胴体の中心になにか魔力の奔流の源がある事は事実。多分それがこいつのコアなんだろうね』
「良し……全員、いつでも撤退出来る様に準備。その後、起動させよう」
『『『了解』』』
ソラの号令に、一同は調査を一旦切り上げる。そうしてソラもまた調査を切り上げて、小山の麓まで移動して一度撤退の準備を整える事にするのだった。
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