第3786話 様々な力編 ――相談――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域の攻略を開始する。
そうして蛇を模した守護者もどきを撃破して次の日。次のエリアへと足を伸ばした一同を出迎えたのは、広大な草原エリアであった。そこに横たわる鋼の巨人を警戒しながら鋼の巨人がもたれ掛かる小山の周辺を探索したソラ達であったが、ぐるりと一周した所で現れたのは鋼の巨人よりも更に巨大な漆黒の巨人であった。
流石にそのままでは戦えないと判断したソラは一時撤退を選択して再度の探索を開始するも、次は複数体の漆黒の巨人が出現した事によりついに完全撤退を決定。最初の拠点に戻っていた。というわけでソラは瞬から別方向に進んでいた瞬と話をしていた。
「そっちもっすか……」
「まぁな……流石にあれは無理だった。カイトが撤退を助けてくれていなければ、今頃全滅していただろう」
「……あいつはやっぱ複数体まとめて?」
「まぁな」
ソラの問いかけに、瞬はその時の事を思い出したのか少し苦笑いにも近い笑みが浮かんでいた。やはり流石は圧倒的な実力者だ。複数体まとめて相手をしながらもまるで余裕だったらしい。
「正直に言えば俺でも一体が限界だった。もちろん、アルやらその他諸々の手助けを受けながらだがな」
「それで一体が限界っすか……」
戦力であれば一応平均化しているが、直接的な戦力であれば瞬側の方が強い。ソラ達の側はサポートが厚いのだ。それはソラの手札を最大限増やすための方針だったのだが、戦闘力の高い瞬やアルがだめならば真っ当にやって勝てる可能性はなさそうだった。というわけで、ソラはまともにやっても勝ち目はないと判断する。
「とりあえずそれならまぁ、多分勝ち目なんてないんでしょうね。トリンとも話してましたけど」
「だろうな……だがまぁ、あれはそれが正解の顔だろう」
「なんっすか?」
「カイトだ。真正面から戦おうとしているのに対して、なんというか楽しげだった。止めはしなかったが、あれは明らかに無理とわかっている上での顔だろうな。だからあいつは最初から他は全部自分が相手するから、戦ってみると良いとか言っていた」
「あー……」
おそらくカイトはすでに攻略方法を理解して、その上で好きにさせているのだろう。まぁ、そもそも現時点で契約者でもある彼の立ち位置は監督役や試験監督に近い。当然だった。というわけでそんな彼の様子が簡単に目に浮かぶソラは笑いながら、軽口を口にする。
「いっそ俺達全員でやってみたら勝てたりするんっすかね」
「無理だろう、それでも。あれはおそらくだが、そういう全員で頑張れば勝てる様にされているようには思えなかった」
「ですよね」
おそらく瞬らまで含めても、倒せて一体が限度だろう。しかももし倒す事が試練なのならば、カイトの助力も望めない。複数体同時討伐となると、全員で掛かっても不可能に近かった。
というわけでお互いにどういう行動をしたかを共有する二人だが、ソラの放った攻撃にさえ耐えた事を聞いて瞬が頬を引き攣らせる。
「そ、そうか。お前の一撃でも無理か」
「いや、先輩の槍でも無理だったって話を聞けば自然納得しましたけど。多分全体的な破壊力だと俺のがデカいですけど、一点集中であれば先輩の方が強いでしょうから」
「そうだな……魔手を使えばなんとかなりそうかとも思ったんだが……流石に今の俺の実力ではあの巨体に打ち込むのは無理そうでな。こちらもどうしたものか、という所だ」
魔手というのは魔力を使った酒呑童子の技の数々だ。酒呑童子の記憶を頼りにその習得を目指しているのだが、やはり練習中の技だ。あの漆黒の巨人相手には通用しないと判断していたのであった。
「うーん……やっぱりなにかあるんでしょうね……」
「だろう……海瑠……だったか。カイトの弟の」
「ああ、海瑠っすね。それがどうしたんっすか?」
「なにかに気付いたらしいのはらしいが……どうだろうか」
「へ?」
瞬の言葉にソラは楽しげな様子で海瑠と話すカイトを見る。一方の海瑠はというと困惑やらが滲んでおり、何があったかは遠目にはわからなかった。というわけで同じ方向を見るソラに、瞬が口を開いた。
「魔眼持ちらしいな。それも相当に強力な」
「あー……そう聞いてますね」
「それで何かが見えた……視えた? らしい」
「なるほど……」
海瑠の魔眼は時々カイトが頭を悩ませるほどだったらしい。そんな魔眼を持つ海瑠であれば見付けられた可能性はあったのかもしれない。ソラは困惑する海瑠の様子を見ながらそう思う。
と、そんな風に見えていると、話が終わったようだ。彼は周囲をキョロキョロと見回して、どういうわけかこちらを確認するととことこと歩いてきた。
「ああ、一条先輩」
「ん? ああ、俺か?」
「はい……お兄ちゃんが先輩に話してみろって」
「そうか」
もともと三年生として下級生の面倒を見る事は多かったし、冒険部の中でもサブマスターかつ実働部隊の統率役として新入りの面倒を見る事は多い瞬だ。なのであまり話したことのない相手でも話を聞ける様にはなっていた。
なお、何故瞬なのかと言われればカイト側は瞬に基本は任せていたからだ。まぁ、答えを知るカイトがリーダーとして動いた所で大した意味がないのは当然だった。
「あの鋼の巨人の調査をしたい? まぁ、大丈夫とは思うが……」
「はい……ちょっと違和感があって。わかんないんですけど、あれだけ戦っても起動しないのが普通じゃない気がして……」
「なるほど……ソラ、どう思う?」
「確かに……言われてみれば変っすね」
自分の最大火力を放った余波で目覚めようとはしていたが、結局あの後の撤退戦の騒動で流れ弾が命中しても結局目覚める事はなかった事をソラは思い出す。
「そういやトリンとも話てたんっすけど、こっちで撤退戦の際に流れ弾が当たったんっすけど結局目覚めなかったらしいんっすよね」
「そうなのか。こっちは遠距離攻撃が乏しいから、そういう事がなかったが……」
「ええ……それでもしかして目覚めないんじゃないか、とは話してたんっすけど」
「なるほどな……」
ソラの言葉に瞬もまた道理を見て納得を露わにする。というわけで、そんな彼を横目にソラが海瑠へと問いかける。
「そっちでなにか見えたか?」
「いえ……あんまり変なものは見えませんでしたけど……僕らの戦いに合わせて鳴動してたような感じはありました」
「「鳴動?」」
「あ、えっと……」
どう話したものだろうか。海瑠は直感的な話として話していた事もあり、うまく言語化出来ていなかったようだ。とはいえ、ここら兄や姉と異なり身体能力が低い一方で学力は高い海瑠だ。少しして言語化出来たようだ。
「僕らの戦いに合わせて力が高まってたような感じがあったんです。皆気付いてたとは思うんですけど……」
「そいや、こっちもそうだったな……だから俺ら、馬鹿みたいに周囲で戦ったり流れ弾が命中したら起動するトラップみたいなもんと思ってたけど……」
「ああ。俺達もそう考えて、意図的に触れないようにはしている」
「そういう話でしたよね」
冒険者としての経験値であれば大差はないか、ウルカに修行に出た経験のある瞬の方が高いまである。やはりソラが考える事は瞬もまた考えていたようで、あれを迂闊な行動に対するトラップとして考えていたようだ。というわけで瞬はソラに先ほどの話を改めて確認する。
「だが確かにさっきの話なら、流れ弾でも起動しなかったということか」
「ええ……うーん……それならいっそ逆のパターンもあるのか……?」
「逆?」
「いえね、俺ら今の今まで起動させない様にしてたっしょ? 流石にあんなのに勝てるわけがないって」
「まぁ、実際無理だろう」
漆黒の巨人と鋼の巨人のどちらが強いかと言われればまだわからないが、少なくとも鋼の巨人が漆黒の巨人に負けているとは思えない。なので戦わないという選択肢は正解だろう。というわけで海瑠の発言までそう考えていたソラが、瞬へと告げた。
「でも逆にもしあいつを起動させる事が試練だったとするなら、どうっすか?」
「……起動させて戦わせるわけか!」
「そういうことっす。俺らで無理でもあいつならやれそうじゃないっすか?」
「確かにな……」
我が意を得たり。そんな様子で笑うソラに、瞬もまた確かにあの鋼の巨人が仲間になって倒してくれるのならば討伐も可能ではないかと考える。
「でも起動にどうすりゃ良いんだ?」
「それを調べたいんです。多分色々な防備がされているみたいなんで、近づかないとわからないんで……」
「「確かに」」
海瑠の発言に、ソラも瞬も納得を露わにする。というわけで一同は次の攻略では一転して鋼の巨人の起動を目指す事にして、この日は一旦失った魔力と体力の回復に努める事にするのだった。
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