第3774話 様々な力編 ――撤退――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域の攻略を開始する。
というわけでたどり着いた部屋の一つにてソラは六本腕の人形と戦闘を開始。これを加護を使用する事により撃破するわけであるが、そこでソラは空也が複数の加護を使いこなす事を知るに至っていた。そうして六本腕の人形を討伐した後。改めて調査を開始するソラ達であったが、その眼の前には小さな足場と数百メートルもの突風が吹き荒れる穴が広がっていた。実弟の空也と共にその調査に乗り出したソラであったが、その途中にあるレバーを引いた途端現れた蛇を模したかのような守護者もどきが出現。
なんとか入口の足場まで退避しようとするものの、空也の判断ミスにより失敗。あわや大惨事となりかけたその瞬間何故か現れたカイトにより避難に成功。その後彼の指示に従って、開いたという出口を通って一時撤退を余儀なくされていた。
「はぁ……てか最初の最初から容赦ねぇのな……」
なんとか最初の入口エリアに設営した簡易拠点に撤退する事に成功し、ソラはがっくりと肩を落とす。そんな彼にカイトは笑った。
「そりゃ、曲がりなりにも試練だからな。ま、まだこんだけ大人数で挑める上にオレまで追加してもらえてるんだから御の字だろう」
「そうなんだろうけど……あんなの一発で即死しかねねぇって」
先ほどの蛇を模した守護者もどきを思い出し、ソラは再び深い溜息を吐く。あの爆撃と良い、口腔からの一撃と良い。重武装の自分でさえ一撃で消滅しかねない火力だった。
最初の六本腕の守護者もどきやら砲台やらも中々の火力だったが、それでもあの巨大な蛇の守護者もどきはとてもではないが比べ物にならなかった。というわけでそれを改めて思い出したソラがカイトへと疑問を呈した。
「てかあんなの大丈夫なのか? 万が一直撃したら洒落にならないぞ」
「ああ、死にはしない。死んだらここに戻されて、攻略度も最初からやり直しなだけだ」
「あ、そこはそうなってんのな」
「流石に試練で死人はよほどの愚か者じゃないと出ない様にされてる」
「……あ、そうなの」
カイトの返答に、ソラは自分が愚か者ではなくて助かったと今までの自分に称賛を送る事にしておく。
「流石にそこまで甘くもない。ただ普通は諦めなければ攻略出来るようにはされている……闇以外はな」
「闇ヤバいの?」
「危険度であれば闇が一番ヤバい。ここだけは普通に挑んでも死者が出てる。再起に何年と要したヤツも居る。闇だけは正直ちょいとオススメできん……ルクスも結構ダメージ入ってたからなぁ、あれ」
「……あのルクスさんで?」
おそらく試練に挑んだ時点としては自分達以上の実力者だっただろう聖騎士の事を思い出し、ソラは盛大に頬を引きつらせる。一応闇の試練は自身には無関係と思うが、それでも考えたくはなかった。
「そ……ま、精神系にダメージが入る場合と肉体的にダメージが出る場合の2つのパターンがあるから、舐めて掛かって精神崩壊ってなオチもザラに起きるそうだ」
「ほんっとシルフィちゃんで良かった……」
『え? そんなのやって欲しいの? 僕も厳しく行く時は行くよ?』
「今で多分限界なんでやめてください……」
当たり前だがここは風の聖域の中だ。シルフィードも聞こえていたらしい。故に心底安堵した様子のソラに何処か茶化す様に割り込んできた彼女に対して、ソラは誠心誠意土下座で頭を下げる。
現時点ですでに適正のある自分や空也でしか対応出来ないトラップがあるのだ。この上で難易度を上げられたら正直な所として攻略出来る自信がなかったようだ。というわけで、そんな彼にシルフィードは上機嫌に笑った。
『あははは。そうだね。じゃ、頑張ってねー』
「はぁ……」
「ま、あの軽さがシルフィの良い所であり悪い所でもある。だから風の試練は気軽に挑める」
「だな……」
現時点で闇の試練に挑む予定は誰もないが、少なくともこんな軽い気持ちで挑めるほど甘くはないだろう。ソラは今の一幕からそう心底理解する。というわけで理解した所で、彼は攻略に目を向ける事にする。
「で、次どうすりゃ良いんだ? 流石にあんな突風の中、あんな爆撃の雨やらを切り抜けながら戦うなんてとてもじゃないけど出来ないぞ」
「そりゃわかってる。だから……伊勢」
『はい』
「リィルを乗せてやってくれ。出来るな」
『はい』
カイトの指示に、子狼の状態の伊勢が頷いた。一応魔術にせよ体術にせよ実力であればソラよりリィルの方が上だが、あの風が吹き荒れる状況下では流石に話が変わる。あの魔力をふんだんに含んだ風の中を飛空術で飛ぶのであれば風の加護による防護が不可欠だった。
だがそれはあくまでソラらの実力に基準を置いた場合の話で、更に上の実力を持つ伊勢なら虚空を蹴って進む事が出来る。というわけで彼女にフォローを頼んだという事であった。というわけで快諾を示す伊勢に、ソラが頭を下げる。
「ありがとう」
『いえ、構いません。それより頑張ってください』
「おう……てか、カイト。この助力って良いのか?」
「良いんだろ。連れてこれたし。あと足場っていう程度で戦わないし」
『良いよー。あ、あとあっちの切れ目にドッグランとか作ったから、終わったらそっちで遊べる様にもしてるよー』
「ドッグランってお前な……」
なに作っとんじゃ。カイトは試練に拵えられたという遊び場に、シルフィードの言葉にがっくりと肩を落とす。だがそんな彼にシルフィードは自由奔放であった。
『良いじゃん良いじゃん。僕も暇なんだし』
「お前が遊ぶんかい」
『だって暇だもん。僕はソラ達が来るまで一番奥で待機だよ? だからといって流石に大精霊が試練に挑戦中の挑戦者の前に出られるわけでもないしさー』
「……」
とどのつまり自分が暇だから遊び相手が欲しかっただけというわけか。ソラはシルフィードが日向と伊勢の助力を認めた理由をそう理解する。そして実際そういう事なのだろう。カイトを見上げる伊勢の目には期待が滲んでいた。
「……後でな」
『はい!』
「はぁ……まぁ、とりあえず。そういうわけだから今回の攻略じゃ伊勢に乗って戦う。由利やら鳴海達は入口の足場から狙撃して爆撃を防ぐ。その流れで良いだろう。ただ攻略は少し待て」
「今すぐじゃ駄目なのか?」
「さっき言った通り、オレも監督する。ちょいとそっちの実力もきちんと見ておきたいからな。使い魔経由じゃなく。で、この後一旦先にこっちを終わらせる」
「あ、そうなのな」
あの蛇の守護者もどきは間違いなく油断して戦える相手ではない。ソラ自身、他のフォローをしながら戦う事は難しい。ならばカイトのフォローがあった方が有り難い事はソラも有り難かった。
「ま、そう言ってもあくまで監督だ。フォローもするが、そこまで期待はするな。これはあくまでお前の試練だからな……ってわけで、こっちが攻略している間にどう攻略するかトリンとかと話しておけ」
「おう」
カイトの指示にソラは素直に応ずる。まぁ、カイトが指揮する側でなにか作戦会議が必要かと言われればそんなわけがない。そこらもあって自分達の方を先に終わらせる、という判断に至ったのだろう。
何よりカイトにとっては蛇の守護者もどきなぞあの程度と言える相手だろう。連戦した所で不足が生じるとは到底思えなかった。というわけでソラは攻略に取り掛かったカイト達を見送って自分達は作戦会議を行う事にするのだった。
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