第3770話 様々な力編 ――撃破――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域であったが、そこでシルフィードのいたずらにより桜らが合流。
更にその先で、地球で活動していたカイトの弟妹である浬や海瑠。桜の実弟の煌士やソラの実弟の空也などと合流。シルフィードの思惑を読み取ったカイトの指示で二つのパーティを一度解体し、ソラは実弟の空也らと共に攻略を開始。直径数百メートルを優に超える巨木をくり抜いて出来たような構造体の攻略に取り掛かる一同であったが、最初に入った部屋で本格的な戦闘を開始していた。
というわけで若干の様子見を含みながらも実弟の空也と共に六本腕の人形を相手取って戦いを開始したソラであったが、様子見をするような戦い方では勝利を得られないと判断。風の加護を使っての戦闘に切り替えていた。
「ふっ!」
風を纏って移動して、六本腕の人形の懐に潜り込んだソラが<<偉大なる太陽>>を振るう。それに六本腕の人形は剣を繰り出して防御。更に返礼とばかりに独鈷の先端を向ける。だがそれが伸びるとほぼ同時に、空也が首元を狙うかのような剣戟を繰り出す。
「っ」
やはりそう簡単にはいきませんね。空也は兄に向けて伸びたと同様に独鈷の逆側の先端が自分の邪魔をする様に伸びて防いだのを受けて、内心で僅かな苦笑を浮かべる。とはいえ、この程度は想定内だ。故に彼は腕力だけでその場を離れて地面に着地する。と、そんな彼へと六本腕の人形の顔がぐりんと回って視線を向ける。
「っと、させるかっての!」
光条を向けるだろうことぐらい読めている。独鈷の刺突を避けていたソラが飛空術を併用してその前に割り込んで、光条を防ぎ切る。そうして飛空術で浮く彼の下を、空也が駆け抜ける。
「……」
たんっ。軽い足音と共に地面を蹴り進む空也だが、その背後でソラへと斧が叩きつけられ地面へ落着。そうして膠着状態に陥ったと同時に、再び六本腕の人形の眼窩に光が蓄積する。
(行ける)
この速度なら光条が放たれる前に抜けきれる。そう判断した空也だが、そんな彼に向けて剣が進路を塞ぐかの様に横薙ぎに振るわれる。
「はっ」
たんっ。軽く地面を蹴って、僅かに跳躍。真一文字の斬撃を回避する。そうして通り抜けた剣を持った腕の片方をしっかりと踏みしめる。
「はぁ!」
予定では胴体を斬るつもりだったが、おそらく無理だ。空也はすでに独鈷が待機し、更に続けて光条も数瞬後には放たれる未来を理解して作戦変更。腕を落とすつもりで<<三日月宗近>>を振り下ろす。
『駄目だ、空也。これは今のお前では無策には斬り裂ける代物ではない』
「っ」
まるでおもちゃのような印象のある金ピカの光沢だが、どうやら金属である事に間違いはないらしい。しかも鉄やら鋼ではなく、なにか見たこともない金属の類であるようだ。まぁ、だからこそ三日月宗近も助言出来なかったのだが、触れればわかったようだ。
そうして<<偉大なる太陽>>の言う事をあまり素直には聞かないソラに対して、空也は<<三日月宗近>>を誇りとして敬意も持っている。故にその言葉を聞くや即座に無理を理解。その場から即座に跳躍し、ソラの真横に着地する。
「すみません、無理でした」
「気にすんなよ。そりゃ、俺でも楽に斬り裂けないようにはしてるんだろうからさ」
流石に加護だけに注力していたからか空也は速度なら自分と同格――冒険部の中でも遅い部類のソラにだが――だろうが、それ以外の総合力が自分達に匹敵するとはソラは考えていない。
故に牽制や若干の傷は負わせられても、と考えていたようだ。少し無念そうな空也に対して、ソラは別に気にする必要もないとばかりに笑い飛ばす。そんな兄に、空也も少し気を取り直したようだ。
「ですかね」
「おう……それに光条を受けてわかった。もう俺にあれは通用しない」
「はい?」
空也を追いかける様に動いていた顔を見て、ソラは楽しげに笑っていた。そうしてその直後だ。動きを止めた空也に向けて、緑色の光条が放たれる。
「使わせて貰うぞ!」
空也の前に躍り出て敢えて光条を受け止めたソラが獰猛に吼える。そんな彼が使うのは過去の世界で習得した<<廻天>>。属性を宿す攻撃を別の属性へと変換し、自身に都合の良い様に書き換える技だ。そうして盾に激突した光条は一瞬だけ緑色に光り輝いたかと思うと即座に彼の盾に吸収され、緑色の輝きを取り込んだ盾が黄金色の輝きを放った。
「<<大地の鎧>>……ただし加護と相反しちまうから盾だけ」
『ほぉ……五行相生の理論を更に発展させたものか』
「五行相生を……」
「ちょっとした技だ。すごい鬼の女の人に教えてもらったんだ」
流石に三日月宗近の感嘆と空也からの素直な敬意を向けられて、ソラも恥ずかしかったらしい。かなり嬉しそうではありながらも、非常に照れた様に振り向こうとはしなかった。
『ニヤついた顔を見られたくはなかったか』
「うるせぇよ……やるぞ」
『うむ』
空也から顔を背けていたソラだが、<<偉大なる太陽>>からは見えていた。というわけで茶化されたわけだが、ソラも<<偉大なる太陽>>も今が戦闘中である事ぐらい忘れていない。というわけで気を引き締めて再び六本腕の人形に相対するが、その背を見て空也と<<三日月宗近>>も決意する。
『空也……他も使えるな』
「はい」
『では火を使え。一旦この場を乗り切ってから考えるべきだろう』
「はい」
ソラに並ぶように歩きながら、空也は戦闘で少しだけ乱れていた呼吸を整える。そうしてソラの真横に立ったところに、ソラが声を掛ける。
「空也。お前は俺のフォローで頼む。あわよくば弾く程度で良い。全力を出して斬り裂く、ってのは考えなくて良い」
「いえ、大丈夫です。まだ火力なら上げられます……<<火よ>>! <<雷よ>>!」
「……はいぃ!?」
『……なに!?』
風の加護に加えて追加で起動した二つの加護に、ソラが思わず仰天して空也を見る。その仰天たるや、<<偉大なる太陽>>でさえ思わず理解に数瞬を要して盛大に驚きを露わにしたほどであった。その一方、空也はソラへ説明もせず一気呵成に六本腕の人形へと切り込んだ。
「行きます」
風が渦巻き雷が轟き、火の粉が舞い踊る。風と雷で速度と反射神経を加速させた空也が先ほどの数倍の速度で肉薄する。そんな彼へと独鈷の先端が向けられるが、もはやその速度は伸びる速度にも匹敵していた。故に刺突が伸びた時にはすでにそこを通り抜けており、全く通用していない事が如実に理解出来た。
「はっ!」
火の加護により筋力が増強された一撃は、流石に未知の金属であれ問題なく斬り裂いた。そうして独鈷を持つ腕の片方を切り落とした彼へと、今度は斧が振り下ろされる。
「させるかっての!」
何がなんだかはわからないが、どうやら空也は瞬の<<雷炎武>>に似た力を使えたらしい。それを理解したソラが飛空術で割り込んで、斧を空中で受け止める。
「空也! 行けるんだな!?」
「無論です! はっ!」
ソラの生み出した半透明の足場に着地した空也が即座に再跳躍。今度は斧を持つ腕を一気に両方とも切り落とす。そうして今度は光条を放とうと顔を向けるが、その光条はソラにより防がれる。
「はっ!」
ソラは光条を盾で防ぎ、更にそのまま飛空術を活用して肉薄。目を壊そうと刺突を放つ。これは王冠のような突起が三つとも伸びて、まるでアイカバーの様になり防がれる。流石に六本腕の人形もソラの刺突を一本だけで受け止められるとは考えられなかったようだ。だがこれはソラも想定内だし、これが目的であったとさえ言えた。
「空也!」
着地したと同時に振るわれる剣を跳躍して回避していた空也へと、ソラは声掛けと同時に再び足場を生み出した。それに、空也も兄の意図を理解する。
「はぁ!」
今までで一番高く跳躍し、空也が六本腕の人形の頭へと剣戟を叩き込む。
「はぁああああ!」
雄叫びと共に空也は魔力を放出して背を押して、刀身を突き立てたまま一気に地面へと降りていく。そうして、左右に真っ二つに両断された六本腕の人形は轟音と共に崩れ落ちるのだった。
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