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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3769話 様々な力編 ――交戦――

 過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域であったが、そこでシルフィードのいたずらにより桜らが合流。

 更にその先で、地球で活動していたカイトの弟妹である浬や海瑠。桜の実弟の煌士やソラの実弟の空也などと合流。シルフィードの思惑を読み取ったカイトの指示で二つのパーティを一度解体し、ソラは実弟の空也らと共に攻略に臨んでいた。

 というわけで直径数百メートルを優に超える巨木をくり抜いて出来たような構造体の攻略に取り掛かる一同であったが、最初に入った部屋で本格的な戦闘を開始していた。


(思ったよりデカい! 2、いや、3か4はある!)


 ソラが空也と共に相対するのは、彼二人分の大きさはあろうかという巨大な六本腕の人形のような個体だ。六本の腕には剣や斧、槍を持っており、頭には王冠のような装飾。王様のような、仏教の仏像のような不思議な形状ではあったものの、明らかに戦闘を目的とした個体であると察せられた。


(剣、斧、槍……槍? 独鈷(とっこ)みたいだけど……槍にしちゃ短いし、両側が尖ってる……)


 あの独鈷が何かはわからないが、兎にも角にも三つの武器を使いこなす相手か。ソラは警戒しつつも、空也より前に敵の眼前に躍り出る。少なくともこのまま進ませて由利らとの交戦になるのは避けたかった。

 なお、独鈷は密教で用いる道具の一種で、金剛杵(こんごうしょ)とも言われるものだ。両先端が尖った槍のような見た目で、ソラは槍にしては変な形状だったので独鈷ではと思ったのである。


「……」


 何を繰り出してくる。六本腕の人形の眼前に躍り出たソラは反射神経を加速させ、敵の一挙手一投足を確認する。三対六本も腕があるのだ。何をどう繰り出し、どう連撃をしてくるのか見抜く必要があった。そうして六本腕の人形の腕が動き、三つの武器を三対の腕で握る。


(やっぱ三本が限度だよな)


 ソラが危惧したのは、カイトの様に両手で別々の武器を操るという所謂双剣使いや二刀流と呼ばれる戦い方だ。あれを六本の腕でやられれば流石にソラも堪ったものではなかった。そうして握りしめた腕の一つ。斧を持った腕が、ソラへ向けて振り下ろされる。


「はぁっ!」


 振り下ろされた斧に向けて、ソラは構えた盾を振り上げる。可能ならば受け流してカウンターを狙う算段だった。とはいえ、流石にここは試練だ。そう簡単に行くものでもなかったようだ。


「っ」


 やっぱ無理か。ソラは斧を弾く事には成功したものの、即座に剣ががら空きになった胴体に向けて放たれたのを見て、僅かに苦笑いを浮かべる。とはいえその軌道上に彼は<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>を置いて、攻撃を防御する。そしてその防御とタイミングを合わせたかの様に、六本腕の人形の頭部の真横に空也が現れる。


「はっ!」


 空中に躍り出た空也が、六本腕の人形の首を刎ねんと刀を振るう。だがこれに六本腕の人形は最後の独鈷を首横に移動させ防御。更にその直後、六本腕の人形の首がぐりんと回り空也へと視線を向ける。


「っ」


 まずい。空也は六本腕の人形の眼窩に宿る緑色の輝きに気付いて、目を見開く。そしてそれに、横で見ていたソラも気付いて即座に対応に入った。


「空也、乗れ!」

「っ、ありがとうございます!」


 虚空に現れた半透明の足場に足を掛け、即座に空也が再度跳躍する。そうしてその直後。六本腕の人形の眼窩に収束していた光が一条の光となり放たれ、天高く消えていった。


「無茶苦茶だな、おい……」

『それでこそ大精霊様の試練なのだろう。我からすればまだまだ甘い様にさえ思う』

「でーしょうね」


 <<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>にソラは苦笑いを浮かべながら同意するしかない。なにせここは入ってすぐの部屋だ。そんなところから本気を出してくるのは興ざめというか、シルフィードらしくはないだろう。

 彼女はああ見えて色々と流れを大切にする。だからカイトも最初に選ぶわけだ。ならばこの程度はまだまだ小手調べ、と考えた方が良さそうであった。それはさておき。そんなソラは再び六本腕の人形の首がぐりんと回り、自身を見るのを把握する。


「……」


 何が来る。一瞬の停滞が生じ、ソラは次の動きの理解に努める。確かにこの個体に勝とうとすれば余裕で勝てるだろう。だが先に<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>が指摘した通り、これはまだ小手調べの可能性が非常に高い。

 それ故彼はここから先を考えて<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の力は解放していないし、加護も使用していない。というより消耗が激しすぎて先が読めない状況では使いたくなかった。そうしてひとまず待ちの一手を選択した彼に、六本腕の人形は独鈷の片側の先端を向けた。


「っ!」


 これは絶対にそういう事だ。ソラは即座にそう判断すると、即座に地面を蹴って斜め前に出てその場を離れる。そして案の定、それとほぼ時同じくして独鈷は振り下ろされる事はなく、そのかわりとばかりに先端が伸びて彼が立っていた場所を貫いた。


「やっば……」


 防御を選択していたら反応しきれなかった可能性がある。独鈷の伸びる速度は明らかに音速を超過しており、先読みでの回避が正解だったとソラは内心で掻いた冷や汗を拭う。


「楽には勝てそうにない……か」

『どうする? 一枚ぐらい札を切るか?』

「そうしたくはないけど……」


 <<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の問いかけに、ソラはどうしたものかと悩む。もちろんここで切り札を切らず空也に怪我でもさせられば流石に彼も兄として立つ瀬がないので、それは却下だ。

 だが同時に今後を考えればいたずらに切り札を切りたいというわけでもなく、しっかり状況を見極めて選択したいというところであった。というわけで独鈷を避けた彼へとついで振り下ろされる斧を再び防いで、ソラは先程自身の生み出した足場を蹴って跳んだ空也を確認する。


(問題なしか)


 流石に咄嗟の跳躍だったので少し離れたところに着地してしまった様子だが、すでに空也は切り返して六本腕の人形の背後に迫っていた。ならばとソラは斧を弾かず受け止め、更に追撃で放たれる剣の一撃を受け止め、空也が攻撃出来る隙を生み出す事にする。


「っ」


 背後に迫っていた空也だが、そんな彼へと今度は独鈷の先端が向けられる。どうやら人体と同じ動きを、というのは考えられていない様子で、腕が変な角度に曲がり後ろにも向けられる様になっていた。しかもおまけに、首がぐりんと180度後ろへ回り再び緑色の光が蓄積していた。


「はっ!」


 放たれる光線を跳躍で躱し、更に空中に出たところに独鈷の先端が追尾する。そんな彼が少しだけ笑ってこちらを見ていた事を、ソラは六本腕の人形越しに確認する。


「兄さん!」

「あいよ!」


 そう言うと思っていた。ソラは弟の要請を受け、先程と同様に半透明の足場を生み出す。そしてそれに、空也が足を掛けて更に跳躍。独鈷の刺突を回避する。


「貰います!」


 剣も斧もソラが弾かず受け止めているし、独鈷は今しがた放ったばかりでまだ縮んでもいない。眼窩の光もまだ収束を始めたばかりで、防ぐ手段はもうないはずだろう。

 空也は頭頂部から一気に両断する勢いで刀を振り下ろす。だが、しかし。やはりここは試練。最初だろうと一枚も切り札を切らせず突破させてくれるほど、甘くはなかった。


「っ!?」

「はぁ!?」


 そんなのありかよ。こちらも勝利を確信していたソラが、困惑やいらだちなど様々な感情の滲んだ声を上げる。空也が刀を振り下ろした瞬間、頭頂部の王冠のような突起の一つが伸びて空也の剣戟を防いだのだ。


「っ、まずっ!」


 突起の数はそこまで注意していなかったが、数は三つ。一つが伸びて空也の剣戟を防いだわけだが、残る二つが伸びないなぞこの状況で考えられるわけがない。故にソラは空中で完全に停止してしまった形になる空也を見て、思わず息を呑む。

 だがまぁ、空也とて試練に挑める程度にはカイトが調練していたのだ。彼が危惧したような串刺しにはならず、その前に腕の筋力だけでその場を離脱。二つの突起の刺突を回避して、ソラの横に着地した。


「やはり甘くはないですね」

「ふぅ……だな」


 冷や汗を掻いた。ソラはこちらも次の展開を察していたからか余裕だったらしい空也に少しだけ苦笑いしながらも、その軽口に応ずる。というわけでそんな彼は流石に切り札一枚も切らずの突破は甘い考えだった、と判断する。


「……しゃーない。やるか」

「なにか策が?」

「ああ……加護ってのがあるんだけど、わかるか?」

「ああ、加護ですか。ええ……こちらも使えます」

「え? マジで?」


 その返答は想定していなかった。弟の返答にソラは思わず目を見開く。これに空也が笑って頷いた。


「ええ。この数ヶ月、その使用方法の練習と使用時間の延長をひたすら訓練していましたから」

「そ、そうなのか……じゃ、やるか」

「ええ」

「「<<風よ>>!」」


 どうやら手札を隠していたのはどっちも一緒らしい。ソラはそう理解して笑い、そうして兄弟は二人揃って似たような笑みを浮かべて、風を纏って駆け出すのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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