第3768話 様々な力編 ――調査――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域であったが、そこでシルフィードのいたずらにより桜らが合流。
更にその先で、地球で活動していたカイトの弟妹である浬や海瑠。桜の実弟の煌士やソラの実弟の空也などと合流。シルフィードの思惑を読み取ったカイトの指示で二つのパーティを一度解体し、ソラは実弟の空也らと共に攻略に臨んでいた。第一の試練でさえない不可視のイタチを撃破したソラは、本番となる巨大な木の構造体の中へと突入する。そこは直径数百メートルにも及ぶだろう巨大な木をくり抜いて作られた様に見えるエリアで、中央に何かを捧げる事が出来そうな祭壇が一つある空間であった。というわけでそこの調査を行うソラ達だが、結論から言えば何も見付かっていなかった。
「何も無いし何も起きない、か……トリン。そっち大丈夫だよな?」
『そうだね。こっちも何もなし。スイッチとかあった、という話も聞かないよ』
「ということはやっぱりその祭壇はこの扉の先にある何かを持ってくる感じかな……」
トリンの返答に、ソラは眼の前の扉にあらためて注目する。今彼が見ているのは、一同が入ってきた入口からみて正面の扉だ。そしてこれだけ巨大な空間だが、この扉は高さは2メートルほど。横幅は2メートルほどの両開きの扉だ。そして扉なのだからもちろん、ドアノブもある。そんなドアノブを見ながら、ソラは口を開いた。
「ドアを確認してみる」
『了解。注意してね』
「了解」
ドアノブがトラップである可能性はよくある可能性だ。故にソラは少しだけ緊張した面持ちで、ドアノブへと手を伸ばす。
「……問題ない……問題ないよな?」
『……うん。こちらからも大丈夫。周囲に何か変化があったということもない』
「ふぅ……」
やはり何が起きるかわからない状態で物に触れるのだ。ソラも少し緊張が隠せなかったようだ。少しだけ安堵した様に息を漏らす。そうして息を漏らした彼だが、再びすぐに気を取り直した。
「回してみる」
『了解』
「……回る。問題なさそうだ。祭壇は?」
『変化なし……うん。問題もないよ』
「ってことは完全に単なる扉か……開いてみる」
『了解』
ここまでは問題ない。ならば、とソラは扉の動きを確認するべく少しだけ扉を動かしてみる。すると、扉は軽く押すだけで僅かな音を立てて動いてくれた。だが動く事を確認して少しだけ隙間が出たところで、彼は扉から手を離してかがみ込む。
「っ……動いた。先も見えそうだ」
僅かに開いた扉の隙間に、ソラはゆっくりといつも使う先を覗き見る道具を差し込んで目を当てる。そうして見えた光景を、トリンへと共有する。
「……中は……かなり広そうだ。なんだろ……足場が幾つか……合間から風が出てるっぽい。飛んでか跳んでかで移動する事になりそうだ……後は……多分敵。絶対敵……魔物……じゃないのか、ここのは。それが居る」
『まぁ、当然かな。どれぐらい?』
「ぱっと見た限り……数は5。ただ足場と足場の間にもいそうだから、もう少し居ると思った方が良い」
魔物に見えるが魔物ではない。ソラはカイトからこの聖域では魔物は出ず、魔物に見えても大精霊達が魔物を模して用意した妨害装置に近い、と聞いていた事を思い出す。だがだからこそ外のどのような魔物にも類似しない形状が出る事もあるから注意しておけ、という事だった。そしてそれはトリンも聞いていた。故に、彼は問いかける。
『形状は?』
「はっきりとはわかんねぇけど……多分なんか金ピカの金属で出来た虫……みたいな形とか、金ピカの六本腕の人形みたいなのとか……金ピカって言ったけど光ってたりはないから、金メッキってよりも作り物の人形っぽい」
『そっか……ああ、今連絡が入った。左右の扉は動かないみたいだ』
「ってことは、どっちから攻略しろってのは完全に誘導されてるわけか」
これがシルフィードが自分達に向けて甘やかせているだけなのか、それとも何か別の理由があるのか。ソラはそれはわからないが、少なくとも自分が立つ正面の入口が最初に攻略するルートなのだと理解する。
「左右の扉に鍵穴とかは?」
『ないらしい。多分なにかの仕掛けで動く様になってるんだろうね』
「ということは扉を開く事もまた試練の一環ってわけか」
ぱたん。ソラはなるべく音の出ない様にゆっくり扉を再度閉じて、万が一に開いてこちらが発見される事のない様にして立ち上がる。そうして立ち上がって祭壇に戻ろうと歩き出したところで、トリンへと問いかけた。
「そういや空也達は大丈夫そうか?」
『ああ、彼らか。うん。僕らほどの実務経験はないから仕方がないところはあるんだけど、やっぱりカイトさんは流石というところかな。僕らの足手まといにならない程度には、洞察力はあるみたいだ』
「そういや、カイトが試練の攻略を目的として鍛えてたとか言ってたな……」
おそらくこれが遺跡の調査などであればまた話は違うのだろうが。ソラはそう思いながらも試練の攻略を目的としているからこそ、この場では足手まといにならないという事に安堵しておく。何よりその指導を取り仕切っているのはカイト――正確には彼が頼んだ相手だが――だというのだ。大丈夫だと考えておく事にする。
「まぁ、良いや。多分次の部屋だと戦闘がある。一応俺もフォロー出来るようにはするけど、速度が足りない。リィルさん」
『承知しました……まぁ、軍でもよくやる作業です。流石に大精霊様も初手から数が出て足手まといにするような事はされないと思いますが……』
ほぼほぼ戦闘経験のない新人を先輩が面倒を見るのはどこの世界でも一緒だし、冒険者でさえそうだ。そしてソラ達と空也達の間で実力差があることはわかっている。ならばそこまで厄介な相手を最初から出さないだろう、というのはソラ達の間での共通認識だった。
「っすね……とりあえず全員集合して、本格的な攻略に取り掛かりましょう。兎にも角にも帰り道を見付けて、万が一の場合に備えられる様にしないと」
まだ戦いは一戦だけだし、その戦いもシルフィードがある意味お巫山戯や緊張をほぐすために設けてくれたものだ。戦いらしい戦いとは――シルフィードとしては――言えなかった。
というわけで何時誰が怪我をするかもわからない以上、戻ってきちんと傷の手当やカイトとの相談が出来る様に整えられる事が最重要と判断していた。そしてそんな彼の言葉にリィルもまた同意する。
『ですね……退路の確保は軍事行動における最重要事項。一旦は戻って向こうの状況も確認した方が良いでしょう』
「っすね……良し。やるか」
ここまではエントランスやら前室というところだ。ならばここからがある意味試練の本番と言って良いだろう。というわけでソラは気合を入れて、他の面々と合流するのだった。
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