第3766話 様々な力編 ――開始――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域であったが、そこでシルフィードのいたずらにより桜らが合流。
更にその先で、地球で活動していたカイトの弟妹である浬や海瑠。更に桜の実弟の煌士やソラの実弟の空也などと合流。シルフィードの思惑を読み取ったカイトの指示で二つのパーティを一度解体し、ソラは実弟の空也らと共に攻略に臨んでいた。そうしてたどり着いた場所にて、不可視の風の撃破に成功する。
「……見えない鎌……?」
「というより……イタチ? 尻尾で斬撃を放ってたみたいだよ」
「……かまいたち?」
そんな冗談をこんな試練でやるの。ソラはトリンの言葉に困惑気味な様子で顔を顰める。というわけで困惑気味な彼に、声が聞こえてくる。
『はい、第一の試練の間突破おめでとー。こんな形で幾つもの試練が出ます』
「え? じゃあ、あんなのが」
『あ、あんなのって……一応僕なりに気を遣ったんだよ』
「あ、ごめん……」
少しだけ不貞腐れた様子のシルフィードに、ソラが思わず謝罪する。とはいえ、その困惑も無理もないだろうと思ったようだ。彼女が笑う。
『まぁ、あんな冗談じゃねー。しょうがないとも思うけど……でもあんな冗談まがいなものは最初の最初。ここだけだよ。実際、次からはしっかりとしてる』
「っ」
どうやらここからは本気で取り掛からないといけないようだ。ソラは僅かに大精霊としての威厳を有するシルフィードから、今の試練があくまでも腕試しや調子を整えるためだけのものなのだと胸に刻む。とはいえそんな彼に対して、シルフィードの威厳はすぐに霧散する。
『……まぁ、あれについては僕もやっちゃったかなー、とか思わなくもないけど』
「あ、あらららら……」
『いやぁ、日本の漫画おもしろいからねー。妖怪モノ読んでたら影響されちゃった』
あはは。思わずたたらを踏むソラに、シルフィードは楽しげだ。と、そんな彼女だがすぐに気を取り直す。
『でもまぁ、そんな事をするのはカイトの関係だけだよ。ここからは本当に試練さながらの試練が出てくる……さながらは変かな。ここからが本当の試練。そういう意味で言えば、今のは試練にチャレンジするためだけの前室だ。試練にも含まれない』
「「「……」」」
試練にも含まれない。それでいてすでに翻弄されかかった事に一同は気を引き締める。というわけで引き締まった様子を見て、シルフィードは誰にも見えないまま一つ頷いた。
『良し……じゃあ、これから本番スタートだ』
シルフィードの言葉に合わせて、一同を誘うかの様に風が渦巻く。そうして渦巻いた風に乗せられて、次の瞬間。一同は次の場所へとたどり着いていた。
「これは……」
『さ、ここからが試練だ。これは皆に言っていることだけど……死なないようにね』
「っ」
どうやらここからは普通の挑戦者と同等に扱われるらしい。ソラは眼の前に広がる巨大な空間を見て僅かに息を呑む。そしてそんな彼を視ていたシルフィードの視線が消えたと同時に、彼は口を開いた。
「……遺跡……か? いや、遺跡というよりもこの建物? を攻略するのが試練ってわけか?」
「だと……思うよ」
ソラの言葉にトリンが応ずる。そうしてソラはまず、周囲を確認してみる。
「全員……問題なし」
「「「……」」」
流石に先ほどの今だ。全員無駄口を叩くような状態ではなかったようだ。すぐ後ろに居た空也を筆頭に、ソラの視線に全員が無言で頷くばかりだ。というわけで全員が揃っている事を確認した後、彼は更に視線を走らせて状況の確認を続ける。
「帰り道……なし……なぁ、空也」
「なんでしょう」
「なんであんなところに拠点作ったんだ? 確かカイトの話だと戻れるはずなんだろ?」
降り立ったのは木で出来た巨大な建物の前。後ろは半円形に切り株の足場が広がっているだけだ。一見すると帰り道は見当たらず、まるで森が永遠に続いているかのようであった。それ故の彼の疑問に、同じく後ろを見ていた空也が頷いた。
「え、えぇ……」
「飛空術は使えるのか?」
「いえ、流石にあれは……」
「だよな」
空也らの力量は先程見た。自分達より数段下の力量で、飛空術が使えるかと言われれば首を傾げる。といっても決して戦えない領域かと言われればそういうわけでもなく、カイト曰くギリシアのアテネやらインドのインドラを筆頭に各地の軍神やスカサハ、クー・フーリンといった英雄達から指導を受けているらしい。
実戦経験に乏しく咄嗟の判断が弱いだけで、十分に戦えるだけの実力はあった。というわけでそんな空也に、ソラが重ねて問いかける。
「ということは戻れる方法がある、って考えて良さそうか……」
「ええ、おそらく、ですが……私達が挑む前にはカイトさんが拠点を用意しておけと。絶対に最初のところに何度かは戻されるから、と」
「戻される、か……それってどういう意味なんだ?」
「え?」
ソラの問いかけに、空也が目を見開いて驚きを露わにする。だがこれはやはりソラが異世界に行き、リーダーとしての知性や知識を磨いてきた結果と言えただろう。
「戻される、ってことは強制的に戻されるのか、それとも自発的に絶対に一度はそこに戻らないといけなくなるか。それも、戻されるだろ? 戻らないといけなくされる、って事なんだから」
「あ……」
ソラの指摘に、空也以下地球から来た者たちが揃って息を呑む。全員、カイトの言葉は単に何かで失敗した場合は一度あの最初の場所に戻されるのだと考えていたようだ。
ここはやはりエネフィアで数十ヶ月もカイトと一緒に活動してきていたからだろう。ソラにはカイトの言葉が言葉通りの意味とは思えなかったのだ。というわけで同じ想像に至っていたトリンが少し楽しげに、そして冗談めかした様子で問いかける。
「ソラ、一度飛んでみれば?」
「いや、やめとくよ。絶対そんな楽な方法で帰れると思えないし」
「それが思い込みの可能性もあるよ」
「ないだろ。それだったら俺達だけが帰れるって話になるわけだし」
トリンの指摘にソラが笑いながら首を振る。といってもトリンも問いかけてはいるものの、答えはソラと一緒だ。戻れるにせよ戻されるにせよ、わざわざカイトまで参加させたあたり絶対に全員で戻れるようなルートを作っているはずだと考えていた。
「よっしゃ……まず状況確認からすっか。トリン、頼めるか?」
「了解。じゃあ、僕の方で君の意見を補足するよ」
「よし」
冗談で気が紛れた後、ソラは一つ気合を入れて試練の確認に取り掛かる。ここからは見たままが正解とは限らないし、正面に見える品の良い茶色い扉から入れるとも限らない。更に言えば外で見落とした何かが、攻略の鍵になる事もあるかもしれないのだ。しっかり観察して攻略するつもりだった。
「見た目……まぁ、なんてか建物ってよりも建物の一部……だな。高さ横幅ともに全容は不明。建物の構造……わかんね。一応材質は木……だよな」
「木だとは思うよ。ただ燃える事はない……だろうね。構造が木という概念ではないみたいだ。少なくともどうなっているかは僕にもわからない」
「正面の扉が一つ。窓は四つ……で良いか?」
「……うん。僕からも四つ。ただガラス窓だけど……」
ソラの言葉に頷きながら、トリンはソラへと自らの魔力で編み出した石を投げ渡す。それを受け取って、ソラはおもむろに一番近い窓へと投げつけた。
「はっ! ま、そうなるよな」
「風の結界……というところかな」
「ああ……この様子だと窓からの侵入は不可能か」
投げつけられた小石は強度はそこまで高いものではなかったが、普通のガラス窓程度であれば砕ける物ではあった。更にそこにソラが魔力をまとわせてもいたし、速度も彼が投げる速度だ。音速なぞ超過している。だがそんな小石は窓に後少しというところで無数の風により粉微塵になり、近づくものがどうなるかを如実に示していた。
「トリン。もう一個」
「はい」
「はっ!」
トリンからもう一つ小石を貰い、ソラは今度は見えている限りでは唯一の入口になる正面の木の扉へと小石を投げつける。そうして投げつけられた小石は今度もまた風に阻まれ直撃する事はなかったものの、阻んだ風は緩やかに小石を地面に落とすだけであった。
「……正面から来いってことか」
「だろうね」
「良し」
トリンの同意に、ソラは自らの背を押された事を理解して一つ頷く。そうして後ろを見て、空也がきょとんとしている事に気が付いた。きょとんとしているのは彼を筆頭にした地球側の面々だけで、残るリィルらはまるでそれが当然かの様に見守っていた。
なお、そのエネフィア側の面々はソラ達に一任しているというわけではなく、単に彼らがやるのが一番確実と理解しているがためだ。そして任せているだけでぼさっとしているわけではなく、自分達も目視で可能な限り確認を行っていた。というわけで唖然となっていた空也が驚いた様にソラへと問いかける。
「す、すごいですね……本当に探検家みたいだ」
「あ、あははは……まぁ、冒険者だしこういう迷宮とか遺跡とかの調査が専門だからな。色々とトラップは警戒する様になってる……そ、それは良いから。とりあえず行くぞ」
「はい」
空也の称賛にも似た言葉に、ソラは少し恥ずかしかったのだろう。すぐに前を向いて扉へと向かっていく。そうしてそんな彼を筆頭に、一同は巨大な試練の間の攻略に取り掛かる事になるのだった。
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