表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3818/3939

第3765話 様々な力編 ――不可視――

 過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域であったが、そこでシルフィードのいたずらにより桜らが合流。

 更にその先で、地球で活動していたカイトの弟妹である浬や海瑠。更に桜の実弟の煌士やソラの実弟の空也などと合流。シルフィードの思惑を読み取ったカイトの指示で二つのパーティを一度解体し、ソラは実弟の空也らと共に攻略に臨んでいた。そうしてたどり着いた場所にて、一同へと風と共に不可視の斬撃が襲いかかっていた。


「……」


 周囲の音に耳を澄ませ、ソラは意識を風の流れる方向へと集中する。そうして少しすると、ひゅう、という小さく風が何かを通り抜ける際に流れる音が鳴り響いた。


「ふっ!」


 しゃっ、という音が鳴り、ソラの盾を撫ぜる様に不可視の鋭い風が通り過ぎる。現状、この風を見抜くのは耳を頼りにするしかない。なので誰もが一言も発せず、ただ耳を澄ませる事しか出来なかった。


(なんとか音は聞き分けられる様になったけど……)


 流石に小さすぎるし、フェイントまである。ソラはどうにか無傷で防げる様になりながらも、その厄介さに顔を顰めるしか出来なかった。


(っ、来る)


 自身の盾を撫ぜた風が一度は遠ざかったものの、まるで竜巻が渦巻くかの様に戻ってこようとしている事をソラは音が大きくなっていく事から理解する。だが相手は風。一人で間に合うなら苦労はしない。故に彼は例外的に声を大にする。


「空也!」

「はい!」


 現状、不可視の風を捉えきれるのは風属性に長けたソラか空也しかいない。故に全員歯がゆい思いはあったものの、彼ら二人に任せるしかなかった。そんな彼に、アタッカーとしてこちらに配置されていたリィルが問いかける。


「ソラ。魔術で一時的でも壁は構築出来ませんか?」

「今はまだ無理っすね。木々が邪魔してるのと、多分構築しようとした瞬間風でかき消されるか風を付与されて雷に変換されちまうんで……」

「そうですか……」


 ソラの返答にリィルは苦い顔だ。現状二人しか手が出せず、さりとて身動きが取れるわけではない。下手にバラければその時点で二人の負担が一気に増大するし、ソラは機動力が低い。遠からず間に合わなくなる事は目に見えていた。


「ん? 今は?」

「うっす……今はまだ、っすね」

「そうですか」


 なるほどどうやら、ソラは相変わらずきちんと考える事は考えているようだ。リィルは彼の返答にそれならば自分は自分の役目が来るまで待つだけだ、と判断する。というわけでそんな彼の問いかけに、ソラは再び耳を澄ませながら念話で問いかける。


『トリン。もうちょい掛かるか?』

『うん。もうちょっと……流石にここまでの空間だとどうなるか想定が難しい。ちょっとだけ安全マージンは高くしておくべきだよ』

『おう』


 当たり前の話だな。ソラはトリンからの返答に構えた盾の裏で僅かにほくそ笑む。何度か言われているが、指揮官として成長しつつある彼はこういった状況で無策にただ時を過ごす事はない。

 そしてもし自分が手が出せないのならば、相方に頼むという事も学んでいる。今回彼自身が動けない以上は、対応策をトリンに任せるのは自然な流れであった。といういわけでそれならば、とソラは気を引き締めて反撃の時まで耐え忍ぶ。


「……」


 幸いな事に大きな風音に紛れていても異質な風の音は聞き分けられる程度にはソラも成長している。故に彼はその後も続く数度の不可視の風をなんとか防ぎつつ、トリンの返事を待つ。そうして、不可視の風が一同を襲うこと十数度。トリンが声を上げた。


「ソラ!」

「おう!」


 元々念話で事前に話し合いはしていた。故にトリンの声掛けと同時に、ソラは盾の防御を解除する。そしてまるでそれを狙い定めていたかの様に、突風が再び吹き荒ぶ。


「はぁ!」


 吹き荒ぶ風に向けて、空也が風を纏った一撃を放ってその軌道を強引に曲げる。だがこれは連発出来るものではない。なので空也が動いてしまえば後はない。だがそれは承知の上で、ソラは懐に手を伸ばして<<地母儀典(キュベレイ)>>を起動する。


「<<大天衝(グレート・ウォール)>>!」


 だんっ。ソラの口決が放たれると同時に、切り株の縁に半球状の土の壁が天高く隆起する。その高さは十階建てのビルにも相当していて、横幅は一同が足場にする切り株をほぼほぼ横断していた。それはまるでドームかのようでさえあった。


「流石にこれじゃ無理だろ……トリン。コントロールは任せて良いよな?」

「もちろん。コントロールは任せて」


 ソラの問いかけにトリンが快諾する。この土の壁だが、維持はソラが行っているがその制御そのものはトリンが行っていた。それにリィルが問いかけた。


「削られませんか?」

「大丈夫っす。そのためにトリンが完全に制御するんで……この共同魔術を構築するのに時間が掛かってたんっす。トリンの魔術をベースにしながら、俺の魔力で起動。制御はトリンっていう形になってるんで」

「なるほど……」


 ソラもトリンもどうやら単なる土の壁では風に削られる事は想定していたらしい。相手は風。風化というように削る事なぞ造作もないだろう。故に莫大な魔力を有するソラが壁そのものは構築しつつ、攻撃そのものに対してはトリンが対応する事にしたのである。そうしてまるでそれならば、と言わんばかりに今までで一番の轟音が土のドームの外で鳴り響く。


「「「っぅ!」」」


 凄まじい風だ。一同は吹き荒ぶ風の音に一瞬顔を顰めるも、吹き荒んだ業風は半球状の土のドームが受け流し、一同の上を通り過ぎる。


「良し……これで裏側は問題ない」

「ですがそうなれば、ですね」

「ああ」


 空也の言葉にソラもまた応ずる。裏側からの風はこれで完璧に通用しない。よしんば土のドームを撫ぜる様に裏側に潜り込もうとするにしても、この巨大さだ。相当の時間を要する。対応は余裕で可能だったし、そのためにトリンが居るのだ。どうとでも出来る様にしていた。そしてそれは全員がわかった。故に後は正面だけ、と全員が唯一空いた方向へと向く。


「「「……」」」


 攻撃が来る方角がわかっているのなら、もう後は敵の正体を見極めるだけだ。というわけで全員が意識を集中し、数秒。再び風の音が鳴り響く。


「空也」

「はい」


 今までは防ぐ事しか出来なかったものの、次撃を考えなくて良いなら話は変わる。ソラの言葉に空也が短く応ずる。ここら、やはり彼らは兄弟だ。一緒に戦った事はなかったが、阿吽の呼吸を即座に構築出来ていた。そうして両者が応じた次の瞬間、風が一同へと襲いかかる。


「おらよ! トリン!」

「了解!」


 ソラの声を受けて、トリンが土のドームを操る。そうしてそれと共に、空也もまた動いた。


「はぁ!」


 まずは一撃。空也はソラの上を通り抜けて土のドームへと向かう風を風を纏った一撃で斬りつける。そうして千々に千切れる風を、全員がしっかり見定める。


「っ! ふっ!」


 やはり一同の中で最も動体視力などの視力に長けていたのは弓兵である由利だ。彼女はその瞬間千々にちぎれた風の中に何かを見付けると、おもむろに矢を放つ。


「リィルさん!」

「こちらも見えました!」


 ごぅ、とリィルの槍に炎が宿る。そうして不可視の風の中に、温度差が生まれて、本来は不可視の何かの姿が浮かび上がった。そんな姿に、ソラが思わず怪訝そうに声を発した。


「鎌?」

「ソラ!」

「っと!」


 由利の叱責に、呆けたソラが気を取り直す。だがその必要はほぼなかった。現れた不可視の鎌に向けて全員の攻撃が殺到。不可視の鎌はそれを逃れようとするも、すでにトリンがドームを封じ込めようとしており逃げ場はなかった。そうして流石に逃げ場のない攻撃からは逃れようがなく、不可視の鎌は跡形もなく消し飛ぶ事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ