第3764話 様々な力編 ――風の試練――
過去世の力が使えないため、その代替としてソラが契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域であったが、そこでシルフィードのいたずらにより桜らが合流。
更にその先で、地球で活動していたカイトの弟妹である浬や海瑠。更に桜の実弟の煌士やソラの実弟の空也などと合流。シルフィードの思惑を読み取ったカイトの指示で二つのパーティを一度解体し、ソラは実弟の空也らと共に攻略に臨んでいた。というわけで二つの班に別れて行動していたソラにその先で、地球で活動していたカイトの弟妹である浬や海瑠。更に桜の実弟の煌士やソラの実弟の空也などと合流。シルフィードの思惑を読み取ったカイトの指示で二つのパーティを一度解体し、ソラは実弟の空也らと共に攻略に臨むことになる。というわけでソラはしばらく実弟の空也と話しながら木のトンネルを進んでいた。
「なるほどな……祢々か……祢々切丸も有名だよなぁ」
「ご存知なのですか?」
「ま、まぁな」
その何故知っているかの理由を聞かれると恥ずかしいから答えらんないんだけど。ソラは地球側の現状を聞いて少し恥ずかしげだ。何故知っているかと聞かれるとゲームで出てきたからであって、色々と博識だからではないからだ。とはいえ幸いな事にその追求が入る前に、木のトンネルの終わりが唐突に現れる。
「「え?」」
唐突な変化に、ソラと空也の二人が同時に気が付いて困惑を露わにする。というのも木のトンネルで次の一歩を踏み出した瞬間、唐突に周囲の様子が一変したのである。そうして変貌に気付いたと同時に、全員の間を突風が通り抜ける。
「っぅ……」
ここはなんだ。ソラは突風に顔を顰めながら、細目で周囲を確認する。突風の勢いは凄まじかったのか、数瞬の間とはいえ思わず顔を顰めねば目を開けていられないほどであった。
「……」
突風が通り抜けた後。ソラは改めて目を開けてしっかりと周囲を確認する。
(さっきの空間に似てるけど……何か違う)
出た後の空間は一見すると最初の切り株の上と同じような空間であった。巨大な切り株を足場に、周囲にはどこまで続くかもわからない森。この様子であれば、切り株の下もおそらく何処までも続くかのような空間が広がっている事だろう。とはいえ同じなのは見た目だけで、何かが違うとソラには感じられたようだ。
「全員、警戒しろ。なんか違う」
少なくともこちらにカイトはいない。事前情報を持っている上、数手先まで読み切れる彼が居ない以上、奇襲を察知というのは難しいのだ。まぁ、班分けでカイトが別にされたのはそこが一番重要だった。あくまで契約者となるのはソラだ。なのでカイトがあまり助言出来ない様にしたのであった。
「「「……」」」
一見するとなにもない空間である以上、ひとまず出来る事は警戒しかない。故にソラを筆頭に一同ただ無言で周囲を警戒する。ただ全員が直感的にここはもう試練のエリアで、試練が始まっているのだと察するに十分な異質感はあったようだ。そうして十数秒。一同無言で警戒を続ける。
(何も起きない……けど、絶対に何か居る)
音はしない。敵意も感じられない。だが何かの気配は確かに感じるのだ。ソラは感覚を研ぎ澄まし、周囲に感覚を伸ばしていく。そんな彼に、由利が問いかける。
「ソラ。風は伸ばせないの?」
「駄目だ。周囲が風で覆われていて、風が伸ばせない。シルフィちゃんに全部見抜かれてる。当然なんだろうけど」
自分が風に長ける様になったのはシルフィードの加護を得るようになってからだし、それが起点だ。それを考えればシルフィードが自分がやれる事ぐらいは把握して普通にやる分には対処されるだろうとソラも納得しかなかった。というわけで少し苦い顔の彼であったが、その次の瞬間。再度の突風が吹き荒ぶ。
「「「っぅ」」」
警戒していようと流石に単なる風だ。それを防ぐ事は難しい。そうして一同の間を再び風が通り抜けるが、その瞬間。ソラは何かに気が付いて思いっきり地面を踏みしめて前に出る。
「っ!」
「兄さん!?」
「っぅ! ちっ! 容赦ねぇな!」
僅かにソラの苦悶の声が響いたかと思うと、続いて彼が悪態を吐く。そうして一同が再度目を開いて見えたのは、ソラの頬に赤い筋が入っている様子であった。そんな様子に、空也が問いかける。
「何が?」
「わかんね。ただ一瞬、空気がさっきより鋭くなったっぽかった……正解だったみたいだけどな」
どこ狙いだったかは正直一瞬過ぎてわからなかったものの、ソラはこの突風が攻撃の意図を有していた事を察したようだ。咄嗟に盾を前に突き出して、突風の軌道を逸らしたのである。
とはいえ、相手は風だ。流す事は出来ても受け止める事は出来なかった。故に流れた風が彼の頬を撫ぜて、頬を切り裂かれてしまったというわけであった。
「由利。遠く見通せるか?」
「無理。姿は見えないっぽい」
「そうか……ってなると、おそらく遠くからの攻撃じゃなくて、か」
『ソラ。おそらく太陽の力を使えば攻撃は防げるが、どうする?』
「……」
<<偉大なる太陽>>の提案に対して、ソラは一瞬だけ逡巡する。そうして数秒後、彼は首を振った。
「いや、やめとくよ。カイト曰くここで数日になる、って話だけど……初手から全力を尽くして良いとは思えない。多分、ここで終わらないだろうし」
『……そうだな。それが賢明だ』
あくまでもやれるというだけで、先程の様に兆候さえ見抜ければ致命傷は避けられる。しっかり見抜く事が出来る様になれば、完全に防ぐ事が出来ないわけではないだろう。ならば初手から力技に頼るべきではない。ソラはそう判断し、<<偉大なる太陽>>もそれに同意したようだ。というわけで再度警戒態勢に移行した一同だが、三度突風が吹き荒ぶ。
「っ」
今度は横からかよ。ソラは全員を吹き飛ばさんとするほどに勢いを増した突風に顔を顰める。そうして再びの攻撃に彼が前に出ようとするよりも前に、空也が地面を蹴っていた。
「はぁ!」
風を纏った一撃が放たれて、突風そのものを切り裂いて更にその先に待ち構えていた不可視の斬撃を散り散りに吹き飛ばす。
「……やれるものですね」
「……ふぅ……でもこれじゃ探索もままならなそうだな……」
おそらくバラバラになって誰かが狙われた瞬間、ダメージは免れないだろう。ソラは空也により切り払われた突風が散っていく様子を見ながらそう思う。そうして、それからしばらくの間。一同は攻略法を見出すまで突風に翻弄される事になるのだった。
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