第3761話 様々な力編 ――久しぶりの――
過去世の力が使えないため、その代替として契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。挑む前から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域であったが、そこでシルフィードのいたずらにより桜らが合流。
更にその先で、地球で活動していたカイトの弟妹である浬や海瑠。更に桜の実弟の煌士やソラの実弟の空也などと合流。ソラや煌士らと共に情報交換と班分けを行ったわけだがその後カイトはというと、試練に挑むための簡易拠点の設営を行っていた。
本当はここまでしっかりした拠点を設営するつもりはなかったのだが、浬らが持ってきていた――カイトが持たせた――のである。というわけで役割ごとに幾つかのテントを設営しているわけだが、そんな彼へとユリィが問いかける。
「拠点を作ってって結構のんびりやるんだ」
「のんびり……っていうより普通はそうだろ。オレみたく一日で全部攻略、なんて普通はしないし出来ない。普通に考えりゃな」
「……それは確かに」
カイトの指摘に、ユリィは今まで自分達が臨んできた試練の事を思い出したようだ。カイトの言葉に今更ながら、と自分達がかなり馬鹿げた事をしていたと理解したようだ。
『だから君たちに僕達もテンプレート使えなかったの。君たちにテンプレートな試練やったところで簡単に攻略しちゃって試練の意味がないから』
「簡単なのか。テンプレートな試練って」
『簡単じゃないよ。簡単じゃないけど、君達の水準からすると簡単っていうか……カイト、本当に僕らからして異質だから……』
「それ、褒めてるか?」
『褒めてる褒めてる』
苦笑いのカイトに問われて、シルフィードが笑う。そうしてそんな彼女が続けた。
『本当なら自分の持ち得ない攻略に対して頭を捻ったり、何人もの人が集まって代替策とか練って攻略するのが試練の常道だけど、カイトの場合は一人でいろんな手札を持っているから、最適解持ってきちゃうんだよね。それされると単にアスレチックコースになっちゃうから……』
「それが冒険者だろ」
『その中でもカイトは異質なの。魔力で武器を編めない頃からいろんな武器を持ってたでしょ。それを一人で全部使う挙げ句、それの普通じゃない使い方まで習得してるから……』
これは意外かもしれないが、実はカイトが幾つもの武器を使って戦うのはティナと出会う前からだった。そもそもシャルロットとの出会いやら皇国軍への所属やらがティナと出会うより遥かに前の話なのだ。何を今更という話ではあり、必然としてそれ以前から数多の武器を使いこなしていたのも当然の話であった。
『正直言うとさー。僕の試練で結構木々使ったり風使ったりするんだけどさー。カイトの場合、それに鎖引っ掛けて本来のトラップ全スルーとかやるでしょ』
「……やるな、それは確実に」
『でしょ? 僕らもうっかり変な所に変なものを置いてるとそれ利用されて全スルーやるから、君専用の試練だとそこら変なバグじみた使い方されないように注意するし。流石に試練でリアルタイムアタックはやめて欲しいんだよねぇ……』
やるかやらないかであればやる。そう自身でも理解したカイトに、シルフィードが呆れる様にため息を吐く。しかも彼は世界の代行者として途方もない時間、大精霊達と共に居たのだ。
その性格やら能力やらを大精霊達は下手をすればカイト以上に熟知している。必然としてそんな試練にもならない試練を用意出来なかった、というわけであった。というわけでそんな彼女に、カイトが笑った。
「ま、それだけオレは冒険者として優れていたという事で一つ」
『本当に優秀だから困るんだよ』
「あはは」
冒険者は別に何かでナンバーワンを取る必要はない。どれだけ手札を用意し、それを別の物に活用できるかという所こそが何より重要だ。その意味で言えばカイトは無数の手札を用意しているわけで、確かに冒険者としては非常に優秀と言って過言ではないだろう。というわけで笑いながらもテントの設営を行い魔道具の設置を進め、としていたわけだがそこで声が掛けられた。
「お兄ちゃん」
「ん? ああ、どした」
「あれ」
「んぁ? あー……」
海瑠の指摘に、カイトは彼の指差す方向に居る二人の美少女を見る。片方はクズハ。もう片方は浬だ。とどのつまり、彼の妹達であった。と言っても険悪な様子はなく、どこか浬がどういう反応をすれば良いのやらという困った様子があった。というわけでこちらも少し困ったような様子を見せつつも、カイトは肩を竦める。
「まぁ、こればかりは当人がどう受け止めるかという所になってくるだろ。オレが手を出せる話じゃない。間は取り持てるから取り持つかは思ってたが……クズハも流石に気後れするかと思ったが、そんなこたぁなかったか」
流石にクズハも興味を見せていたが、いくらなんでも話に行くのは難しかろう。そう考えていたカイトだが、伊達に彼の代理として三百年も社交界に居たわけではない。普通に話に行けたようで、カイトが会議をしている間に話をしていたようだ。というわけで笑う彼に、海瑠が口を開いた。
「あれが前に言ってたクズハさん?」
「そ。マクダウェル家三兄妹の末妹」
「そう言えばなんで私入んないわけ? 四兄妹で良いじゃん」
「そういやなんでだろ」
今更だけどなんでだろう。カイトは昔からアウラ、自分、クズハの三人で兄妹と言っていたものの、何故かユリィだけは入っていなかった。それに何故かと思い出し、多分と口を開いた。
「……まぁ、そもそもクズハを妹と言い始めたのもあいつの身分を偽るためってのがあったからなぁ……だからじゃね? で、最終的に本当に妹になっちまっただけだけど」
「普通は妹にならないと思うんだけど」
「クズハって浬の姉になんのかな、妹になんのかな」
「知らないよ」
楽しげなカイトの言葉に、海瑠は盛大に呆れた様に首を振る。一応アウラは姉になるわけだが、クズハは妹だ。浬の反応は兄が異世界で見知らぬ妹を作って現れればこうもなるだろうという反応、と言っても良いかもしれない。
「あはは……まー、でも。お前入ったら多分今度ソレイユが自分も入れろー、とか言い出しそうではあるしなぁ」
「言うね、それは絶対。私もにぃの妹になるー、とか」
「だろ? まぁ、でもあいつの場合は楽しけりゃそれで良い、感だから飽きたらやめそうだけど」
「にぃ呼びな時点で実質妹になってるような気もするけどね」
「確かにな」
「……」
何をやっているんだ、この兄は。海瑠は楽しげに笑いながら更に妹が増えそうな様子に盛大に顔を顰める。というわけでそんな彼に、カイトは告げる。
「ま、そんな感じで。こっちはこっちで面白おかしくやってるよ。ティナも一緒にな」
「一番生き生きやってるのはティナっぽいけどねー」
「それな。あいつは研究さえ出来ればどこででも良いし」
「そ」
カイトの返答に海瑠はどこかどうでも良さげだ。彼はこんなもので前々から兄と姉が活発すぎるからか厭世的な様子があった。まぁ、二人が色々とトラブルを引き起こすから更に輪をかけてこうなった、と言っても良いかもしれない。というわけで一つ作業を終わらせると、カイトは立ち上がる。
「良し……じゃ、次は飯の用意しちまうか。今日は人数を多いから時間掛かるかな」
「そうだねー。あ、鍋の用意しておくね」
「おう……海瑠。お前も手が空いてるなら手伝え」
「え? 僕?」
「おう。このご時世、男も料理ぐらいは出来んとな」
「えー……」
カイトの言葉に海瑠は顔を顰める。カイトは久方ぶりの弟妹達との再会に上機嫌な様子だった。というわけで、彼はこの後も試練に挑む前に色々な支度を行う事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




