第3760話 様々な力編 ――準備――
契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。最初の最初から何処かの世界で起きた異変による通行止めというトラブルに見舞われながらもなんとかたどり着いた聖域であったが、そこでシルフィードのいたずらにより桜らが合流。更にその先で、地球で活動していたカイトの弟妹である浬や海瑠。更に桜の実弟の煌士やソラの実弟の空也などと合流する事になるのであるが、それがカイト達の時間軸より数カ月も前の者たちだと勘付いたカイトにより、ひとまずの情報交換が行われていた。というわけで、煌士の話にカイトは状況を理解して苦笑いだった。
「なるほどな……これから大精霊の試練か」
「はい……そちらで言う所の数ヶ月前という事ですが」
「まぁ、数ヶ月前か。こっちは更に先の報告も受けてるからな」
現在自分の所に最後に入った報告を思い出しながら、カイトはそれが煌士らにとって未来の話なのだと再認識する。というわけで煌士からの報告に頷くカイトに、ソラが問いかける。
「俺そこらあんまり把握してないんだけどさ。なんか地球も地球で大変なのか?」
「大変……と言いますか、我輩よりあちらというか……」
「?」
煌士の指摘に、ソラは彼が指さした方向を見る。そこでは海瑠が座っていた――座って野営地の準備をしているだけ――のだが、その腕を見てソラは思わず仰天する。
「なんだ、あれ」
「……呪いだな」
「呪い? なんでそんなもん海瑠くんが受けてんだよ」
「色々とあったんだよ。オレっていう抑え役が消えた事で一時的にな。今は元通りになっているが……」
あり得ないだろ。ソラはカイトを見るも、その一方のカイトはやはり苦い顔だ。
「はぁ……まぁ、良い。あまり気にするな。それについちゃオレが後でなんとかしてる」
「あ、対処はしてるのな」
「当たり前だろ。オレが対処しないわけないだろ。そんな厄介な……」
「だよな」
流石にカイトだ。身内の事になると大抵はなりふり構わず対応しているはずであるが、ここでこうして話してはいる相手は数ヶ月前ということなのだ。この時点で対処が終わっていると言われた方が納得出来たようだ。というわけでこれについてはカイトがすでに対処しているのならば気にする必要は皆無と判断。ソラは改めて試練についての話を進める事にする。
「まぁ、それなら良いか。とりあーえず」
「なんだよ、そのイントネーション」
「適当だよ、適当……とりあえずここから先、どうするべきなんだ?」
カイトさえこの様に二つの時間軸から人が来て、尚且つ同時に試練を攻略という事態には遭遇した事がないというのだ。なので彼に聞いて良いかはソラにもわからなかったが、試練の攻略回数であれば人類史上最高数だ。イレギュラーに対応できるだけの情報を持っていないかと思ったようだ。というわけで問われたカイトが盛大にため息を吐いた。
「そうだなぁ……入口が三つ。とどのつまりそういう事なんだろうけど」
「やっぱり?」
「そうとしか考えられん」
二つのパーティが合流した切り株だが、ここが試練の入口と考えて良いのだろう。今まででひときわ大きな切り株で、更にその縁の一方には数十メートルはあろうかという巨大な扉が一つ。その左右に中央の巨大な扉より遥かに小さい木製の扉が二つ。
ただ不思議なことに扉は扉だけで存在しており、後ろには何ら構造物は見当たらない。明らかに魔術的に何処かに繋がっているという様子であった。というわけでこちらも同じ様に扉を見たソラが口を開く。
「……となると……俺達と煌士達で別々に攻略かな」
「どうでしょう……おそらく逆なのではないかと」
「逆?」
「あー……確かにな。おそらく一緒に行動させるつもりなんだろう。面倒くさいなぁ……」
小首を傾げるソラに、カイトは煌士の言葉に納得したようだ。だがこれにソラが疑問を呈した。
「だけど難しくないか? 俺達と煌士達って流石に戦闘力違いすぎるだろ」
「そりゃな」
「そんなに違いますか?」
カイトから見れば一目瞭然だが、やはり経過している年月の関係で煌士側から見ればわからない事ではあったようだ。と、これに煌士の横に控えていた詩乃が頷いた。
「はい……おそらく我々より数段は格上と思われます」
「わかるのか?」
「なんとなく、ではありますが……足運び一つにせよ、自分達よりかなり上です」
「まぁな」
詩乃の称賛にも似た言葉に、ソラが少し自慢げに笑う。そんな彼に、カイトも頷いた。
「まぁな。こいつらは特に色々とあるし、その中でも特にこいつに限れば色々とあり過ぎた。こいつの体感時間としちゃもう足掛け二年ぐらい経過してるだろ」
「……うーわ。今更だけどマジでそんなぐらいか」
「二年?」
「実際には二年も経過してない。それどころか一年もな」
困惑を浮かべる煌士に、カイトは苦笑いの色を強めて頷く。まぁ、そこらを詳しく話しても意味はない。なので彼はこの話はここでおしまい、と切り上げる事にした。
「まぁ、そりゃどうでも良い。とりあえず戦闘力には大きな隔たりがある。そのかわり、というかなんというかで煌士達にはいろいろな特殊技能があるからそこはそれなんだけど」
「特殊技能?」
「ああ……特殊技能というか特殊能力というか……まぁ、当然こいつらの実力でここに挑むんだから、それ相応の奇策は用意しているってわけだ」
「なるほど……」
素の実力であれば最低限自分程度の実力が必要。そう言われていたので煌士達の実力に疑問を得ていたソラだが、何かしらの奇策があると言われ納得を示す。が、そんな彼が大凡を理解して目を丸くした。
「ん? 奇策? そんなのあるの?」
「奇策というより契約者の別解というかなんというか、だな。世間一般というか、本来契約者というのはこっちのイメージが多いんだが……オレが絡んでるせいでエネフィアにせよ地球にせよ個人が永続的に契約者となってるイメージが強いなぁ……」
「どういうこった?」
「限定的な契約だ。今回の場合は地球の危機……の類例として該当させたかな」
「は、はぁ……」
「お、おぉ……」
どうやらここらのシステム的な話はソラも煌士もわからなかったようだ。カイトの自分自身が地球で打った作戦に生返事であった。
「ま、それはそういうものとして考えろ。何よりお前と違って個人の戦闘力として活かしたい、という話で契約者になるわけでもないからな」
「それもそうか……良し。じゃあ、とりあえず班分けを考えるか……あ、丁度来たな」
「ソラ、カイトさん。すみません、遅れました」
「おう……とりあえずトリンを紹介しとくか。多分煌士は会ってない……よな?」
流石に色々とあった上に数ヶ月前の時点だというのだ。ソラもトリンを紹介したか自信がなかったらしい。というわけで書類を抱えたトリンが来た事により、班分けが開始される事になるのだった。
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