第3759話 様々な力編 ――合流――
数年前のままではなく、構成を変えています。以上の旨よろしくお願いします。
契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。その聖域に最も近いエルフ達の街に到着したカイト達であったが、そんな一同を出迎えたのは聖域を覆い尽くす程に超巨大な竜巻であった。それはカイト曰くどこかの世界の誰かが世界に生じた異変を解決するべく活動している証のようなもの、という事であったがしかし、それでは聖域に行けないというわけで、聖域に向かうためにその異変を一時的ではあれ抑える必要が出てしまう。
というわけで歪みを顕在化させた魔物の討伐から一夜明けて一同は再出発。半日掛けてたどり着いた聖域で人数調整という意味のわからない発言により本来こちらに来ていなかったはずの桜達まで呼び出される事になりつつも、試練への挑戦を開始。少し勇み足になってしまったソラを追いかける形で、カイトは次の切り株へと飛んでいた。
「ったく……勇み足に進んで良いわけでもないってのに」
「危険なんですか?」
「危険……は、まだない。ここはあくまで試練エリアの前室のようなもので、入口にも立っていない」
だから危険はない、と。桜はカイトのどこか呆れ顔の説明に納得を露わにする。そんな二人に、灯里が声を上げた。
「じゃあ問題ないんじゃなーい? それにシルフィちゃん、大精霊様でいたずらはするけどヤバいのはやんないんでしょ?」
「ヤバいのはやんない、って言うのはまぁ、正しいが。ただうっかりミスでやらかす時はある」
今回はそれを事前に制してはいるが。カイトは少し勇み足にさせてしまった自らの迂闊さを自省しつつも、結局的に先にシルフィに聞いておいて正解だったと自らを納得させる。と、そんな彼だがふと気になって灯里を見る。
「……なにやってんの?」
「観察。だってだーれもここに来た事ないっていうし」
「誰が言ったんだ?」
「ティナちゃんにリルさんとか」
「あー……」
ティナはそもそもイレギュラーという特殊な存在だ。それ故に聖域への入場が制限されてしまっており、シルフィードも今回呼び寄せた面子の中には入っていない。それは彼も理解しているので違和感はなかったが、リルまで知らなかった事に意外感があったようだ。
「だがリルさんもないのか。あの人、あそこにさえ気付いてたってのに……」
あの人レベルの賢者であれば、勇者や英雄達と共に旅をした事は一度や二度ではないだろうに。カイトはリルの才能を知っていればこそ若干半信半疑だったようだ。そんな彼に、同じような疑問を抱いた灯里が教えてくれた。
「ないみたいよー。なんかどうにもカイトみたいな勇者くんとか何人か知ってるし契約者になった子も何人か知ってるけど、私が行くと面倒になりかねないからとかなんとか」
「あー……なるほど。流石は賢者か」
おそらく並の勇者や英雄とてリルには及ばないだろう。カイトは自身がリルと戦って勝てるかと言われれば勝てるが、全力でやらねば勝てないだろう領域とも認識していた。
だからこそ灯里の言葉は正しい、と理解したようだ。だがこれを灯里はいまいち理解しかねていたようだ。なるほどと感心半分感服半分という塩梅のカイトへ問いかける。
「どういうことなの?」
「まぁ、灯里さんがわからんのも無理はないよ。聖域って本来は全員のレベルに合わせて試練が構築されるんだ。だからリルさんが挑戦者に入っちゃってたら多分リルさんベースにされかねない」
「なるほど……確かに普通に考えりゃゲームみたくダンジョンの推奨レベルいくらー、とかなんてしてくんないもんね。なら上にマッチングされても仕方がないかー」
「そういうこと。だから彼女自身が契約者となる以外で試練に挑まない方が良いだろうし、リルさんは魔法使いだ。契約者になる必要も感じてないだろう」
そして聖域は下手に触れられない領域の一角だ。リルでさえ知り得ないのは無理もなかったのだろう。カイトはそう認識し、灯里もその認識に納得していたようだ。というわけで話が終わった頃合いを見計らったかの様に、次の切り株が見えてくる。
「お、見えてきた……ん?」
「誰か……いますね」
「……」
なるほど。それで人数調整か。カイトは遠くに見える数人の少年少女らを認識して盛大に苦い顔だ。これが今生で縁を得た相手なら良いが、過去世で縁を結んだ相手ならやり難い事この上ない。というわけでどこか気恥ずかしささえ滲みつつも急に押し黙ったカイトに、肩に座るユリィが問いかける。
「カイト? どったの?」
「……いや、なんでも」
「あ……もしかしてあれ? 知り合い居るかもとか思ってる?」
「うるせぇよ」
あり得るよねぇ、私達の場合。何度となく英雄達と戦ってきたのだ。あり得なくもないとユリィも思ったようだ。これにカイトは諦めた様に頷いた。
「まぁ、敵ならまだ良い。嬉しい話ではあるからな。味方だったら居た堪れない」
「あ、そっち」
「んだよ」
「拗ねない拗ねない」
照れ臭そうなカイトに、ユリィが笑う。というわけでそれから数秒後。先に着地していたソラ達に続く様に、彼もまた着地する。
「はぁ……ソラも先輩も勇み足で進むなよ」
「あ、悪い……」
「どした……あ?」
ここでカイトが気付かなかったのは、やはり先にユリィが指摘していた通り何より知り合いだったらどうしようという気恥ずかしさがあったからだろう。
そしてそれはある意味間違いではなかったのだが、だからこそこの展開は想定外だったようだ。ソラが固まっているのを見て彼の方を見て、その前に居た彼に良く似た少年や自分がクズハ達並に見慣れた美少女を見て固まる事になる。
「……お兄ちゃん?」
「……か、浬?」
自身を兄と呼ぶ者は何人も居るカイトであるが、流石にそれらの声を聞き間違える事はない。それが赤ちゃんの頃から十数年も聞き続けていた声であれば尚更だ。というわけで流石のカイトが完全に思考停止になったのに合わせるかの様に、桜らも着地する。
「姉上!?」
「桜様?」
「煌士? 詩乃も……」
響いた少年と少女の声に驚いたのは桜だ。その声の主は彼女の実弟である煌士というロングコートの少年と、その護衛兼側仕えの詩乃というメイド服の少女だ。そんな二人に桜は流石に困惑気味だった。と、そんなわけで困惑する一同の所に、灯里の声が響く。
「……あ、カイト! ちょっとどいてどいて!」
「へ? んゔゃあ!」
あ、猫が踏まれたみたいな声がした。響いた灯里の声から間髪入れずドシンという大きな音が響いて、カイトからそんな変な声が漏れる。そんな彼に、灯里が不満げに口を尖らせた。
「カイトー。そこは受け止めてよー」
「ぐぅ……いくらオレでも無理なもんは無理だわ……はぁ……良いからさっさとどいて……」
一応言えば、カイトも灯里をなんとか受け止めようと頑張りはしたようだ。だがいくら彼でも間に合わなかったようで、お腹の上に灯里が乗っていた。
「灯里さん!?」
「おろ? あ、浬ちゃん! あれ? 縮んだ?」
「おっきくなったじゃないですか、そこ……」
相変わらずの性格すぎる。浬は灯里の発言にがっくりと肩を落とす。と、そんな彼女がふわりと浮かび上がった。
「いいから人の上からどいてくれ」
「うわっと」
「はぁ……で、シルフィ。説明しろ」
『説明って必要かな?』
「必要に決まってんだろ!?」
一体何を考えれば浬らが来ているタイミングでオレ達を試練に挑ませるという素っ頓狂な発想に至るんだ。カイトはそんな様子で声を荒げる。というわけでそんな彼の怒声に、楽しげなシルフィードが姿を現した。
「あははは……だってこっちの方が面白いでしょ? ゲームでもスポットでお助けキャラが入ってると面白いじゃん」
「だからってやるか!?」
「やるに決まってんじゃん。こんな珍しいこと、僕らでさえ出来ないんだから」
「ほぉ……」
「ぐっ……」
カイトの額にぴくりと青筋が浮かび上がったのを見て、シルフィードが僅かに気圧される。そうして数秒後。彼女はここでの最善の一手を導き出したようだ。
「ご、ごめんなさい……」
「……はぁ……まぁ、良いわ。で? でもこいつら、時間軸オレ達とは違うだろ?」
「うん」
「時間軸が違う……ですか?」
カイトの発言に頷いたシルフィードを見て、桜の弟の煌士が小首を傾げる。
「ああ……おそらくオレ達はお前らの時間軸から見て数ヶ月先の時点から来てる。浬」
「なに?」
「……そっちは後で紹介するから。今は気にすんな。クズハもだ」
「はい」
何かしただろうか。ジロジロと自分を見る金髪碧眼の美少女――クズハ――の視線に何処かむず痒い様子を見せる浬に、カイトは一つ問いかける。
「そっち冬服って事は今冬だな?」
「え? そうだけど……どして?」
「オレが最後にお前と話したのはお前が高校入学した後だからだ。すでに契約者の試練が全部終わった後。なるほど、こりゃ面倒な……」
「「「え?」」」
カイトの発言に、浬らが思わず目を見開く。
「はぁ……とりあえず一旦全員で情報の共有と今後の話をするぞ。ソラと……後は煌士くんか。とりあえず話し合いだ」
「お、おう」
「あ、はい」
一通りを目視で確認して、話し合いをするならこの二人を同席させるのが一番良いとカイトは判断したようだ。というわけで試練開始前にも関わらずカイトをして未経験の事態となった事により、一旦は地球に居るはずの弟妹達との情報交換になることになるのだった。
変えた理由は色々とこちら側の現状に合わせて物語を修正する+完全に同じ展開は作れないためいっそそれなら、となります※大筋と結果は同じです
お読み頂きありがとうございました。




