第3758話 様々な力編 ――合流――
契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。その聖域に最も近いエルフ達の街に到着したカイト達であったが、そんな一同を出迎えたのは聖域を覆い尽くす程に超巨大な竜巻であった。それはカイト曰くどこかの世界の誰かが世界に生じた異変を解決するべく活動している証のようなもの、という事であったがしかし、それでは聖域に行けないというわけで、聖域に向かうためにその異変を一時的ではあれ抑える必要が出てしまう。
というわけで歪みを顕在化させた魔物の討伐から一夜明けて一同は再出発。半日掛けてたどり着いた聖域では、いつものようにというべきかカイトが大精霊達に振り回されていた。
「はぁ……で、ここはどこだ?」
「待合所、みたいな所かな。ちょっと今回試練を特製の物にしてみましたー」
「ワンオフ以外あんの?」
引っ張られていつもと違う方向にあった切り株の上に降り立って早々、カイトが半眼で睨みつける。特製の試練というが、基本的に大精霊達の試練は同じ物になることはない。
系統として同じではあっても、同じ物にはならないのだ。そしてそれを作る事が彼女らにとって苦になるかと言われれば、当然そんなわけがない。カイトに怒られながらでも試練の一つや二つ拵えてしまうだろう。
「あるよー。そもそも世界だってテンプレート使って世界を作ってるんだから、僕らの試練にだってオフセットみたいなものあるよ。だから設定組んで後は半自動とかも割とある」
「意外と便利だな、試練ってのも」
「ちなみにカイトには一回も使ってません」
「なんで」
「だって君の場合軽々クリアしちゃうんだもん……」
どこか遠い目で、シルフィードは苦笑いを浮かべる。その結果意地になって難易度が非常に高い試練を訓練場代わりに使う事になっているのである。使っているわけがなかった。まぁ、そういっても作る事を楽しんでもいるのでそこはそれという所だろう。
「まぁ、それはともかく。ワンオフの試練はワンオフの試練で特別ルートだから、君が行く方向と違うのは当然だよ」
「ってことはあいつらはテンプレート?」
「まさか。カイトが居るのに?」
「だわな」
そもそも最初の時点でカイトには使えないと判断されて使っていないのだ。それが冒険者として熟練の領域にたどり着いて、更に戦士としても猛者と言える領域にまでたどり着いている彼が協力者として居るのに使う事はカイトからしてもあり得なかったようだ。シルフィードの言葉に彼もまた笑って納得していた。
「じゃあ、こっちは?」
「ちょっとした特別ルート。今回ちょっと頑張ってみましたー」
「変な所で頑張るなよ……後一応言うが、クリア不可レベルにはしてないよな? 一応言うが、オレの身の安全って意味でお前が連れてこいって言ってんだぞ?」
「そこは大丈夫大丈夫。絶対にクリアはできるようにはしているよ。そもそも僕らの試練の中で難易度が一番低いのが風の試練だよ? 基本僕はクリアさせる様にしてます」
「まぁ、そうなんだけどさ」
やはり一言に試練と言っても色々とあるらしい。シルフィードの指摘にカイトもそれはそうだが、とどこか歯切れが悪い様子だった。これにシルフィードが口を尖らせる。
「なに」
「お前の場合、ハズレが入ってる可能性があるからなぁ……」
「何の話?」
「……お忘れですか?」
ぴらっ。カイトはなんのことか本当にわかっていない様子のシルフィードへと、異空間から一枚の写真を取り出して問いかける。そこではカイトから特大の説教を受けて半泣きになっている彼女の姿が撮影されていた。場所は当然切り株の上ことこの聖域だ。そんな光景に、彼女も目を見開いて当時の事を思い出す。
「あ……そ、それはおちゃめな失敗と言いますか……えーっと……っていうかなんでそんな写真あんの!?」
「撮ってたらしい。ディーネがまたやらかした時に使えって」
「ぐぅ……」
「わかってると思うが、やらかしてないよな? 数秒だけお時間あげるんでしっかり思い出せ」
「……だ、大丈夫です」
カイトの問いかけに対して数秒必死で考え込んだ後、シルフィードは問題ない事を明言する。
「そうか……まぁ、それなら良いんだけど」
「だ、大丈夫……? うん、大丈夫……まだ間に合う……」
「はぁ……」
正しく自問自答というような口ぶりのシルフィードに、カイトは盛大にため息を吐く。自問自答しているあたり少しやらかしかけた感はあった、という事なのだろう。事前に問い詰めておいて正解だった。
何より更に追加で何かやらかしている様子だ。この上で試練にまで失敗があれば、下手をすると写真以上にカイトから説教を受けるのである。彼女も必死であった。というわけで自問自答していると、声が響いてきた。
「うぉおおおお!」
「っと、ソラか。シルフィ」
「おっと」
流石にここで悩んでいる姿を見せるわけには。そんな様子のカイトの促しを受けて、シルフィードはその場から消える。というわけでそれとほぼ同時に、クズハを先頭にソラと瞬の二人が切り株に着地する。
「っと」
「ありがとうございます、お兄様」
「あいよ……っと、とりあえず全員集合したわけだが……さて」
そう言えば結局ここが何を待つためのエリアか聞き忘れていたな。カイトはそれ以上に試練そのものに何かやらかしが生じていないか気にしていたので結局聞けなかった事を思い出す。と、そんな所に。幾つかの小さな竜巻が巻き上がる。
「「「っ」」」
今までに感じた事のない不思議な風だ。クズハ以下ソラと瞬の三人が一斉に身構える。三人にとってここが試練なのかそうでないのかもわかっていないのだ。無理もなかっただろう。とはいえ、そう警戒が必要なわけではなかった。幾つもの竜巻が解けると共に、中から人影が現れる。
「……んえ?」
「あ?」
現れたのは今回風の聖域という事でお留守番になっていたユリィだ。そんな彼女も唐突な事態に何が起きているか理解できず、きょとんとした様子であった。
「ユリィ? なんでお前が」
「いや、それはこっちのセリフなんだけど……え? ここ聖域?」
流石カイトと共に全ての聖域を渡り歩いたユリィという所だろう。一瞬でここがどこか理解したらしい。そんな彼女の一方で、また別の竜巻から灯里が姿を現した。
「へー……これが聖域……」
「……いや、すげぇよあんた……」
いくらなんでも一瞬で全てを察し過ぎやしませんかね、あんた。一瞬は確かに呆けていたものの、ユリィが聖域だと発したと同時にほぼノータイムで聖域だと受け入れた彼女に、カイトが思わず肩を落とす。
「いや、元々聞いた事あるし。ならそういうこともあるんだー、ぐらい? そもそもカイトの話の時点で色々とぶっ飛んだ方法で移動してたって聞いたし。あ、でも帰りとかどうするかなー、ぐらいは気にしたいところ」
「はぁ……そういうわけだそーです。皆さん聖域へようこそ」
「「「は、はぁ……」」」
カイトの言葉に桜以下唐突な呼び出しを食らった冒険部の面々が生返事で頷く。灯里が相変わらず過ぎて、全員驚きや困惑を露わにする事もできなかったようだ。彼女が困惑が驚きに変わるより前にいろいろな疑問を解明してくれていたおかげで、そういうものかと思うしかなかったとも言える。と、そんな所に。唯一冒険部ではない少女がおずおずと手を挙げた。
「あ、あのー……カイト様。ひとまず大精霊様がお呼びになられた事はわかりましたが……私もですか?」
「……リーシャまでか。おい、シルフィ! 一体全体こりゃどういうつもりだ!?」
「人数調整とちょっと今回の試練で怪我した子が居た場合の治療だよ。流石に怪我もさせるな、はないでしょ?」
「まぁ、そうだけどな……ん? 人数調整?」
なんでそんな変な単語が出てくるんだ。カイトは今までの試練でさえ一度も聞いたことのない単語に小首を傾げる。だがそれ以上に困惑していたのはソラだった。
「もしかして俺一人だと駄目だとか……?」
「え? あぁ、ごめんごめん! そういうことじゃないんだけど、ちょっと今回の試練は特殊でさ。ちょっと色々とおもしろ……じゃなかった。ちょっと考えた事があってさ。特例中の特例をしようと思ってね」
「特例中の特例? そもそも俺自体特例みたいなもんじゃないのか?」
シルフィードの言葉にソラは小首を傾げて問いかける。本来自身が契約者となれる事はまずないと思っていたし、契約者となるつもりさえなかったのだ。
それがシルフィードの助言により契約者となろうとしているだけで、本来あり得ないといえばあり得ないと言って過言ではなかった。そんな問いかけにしかし、シルフィードは首を振る。
「いや、そういう意味で言えば特例は君じゃなくてカイトの方になるからね。君はカイトという特例の導きがあってここに導かれているだけ。君の立ち位置としてはウィルとかルクスとかそういう所と一緒。試練に挑む事も一緒だから、何も特例じゃないよ」
「……確かに」
「じゃあ何が特例中の特例なんだ」
「うぐっ……」
ガタガタガタ。自身の背後に回り込んでおそらく角を生やしているだろうカイトを理解して、シルフィードが盛大に顔を真っ青にして震え上がる。自分がしたいたずらを知られれば絶対に怒られるとはわかっていたのだ。その上で、こんな事をしているのである。というわけで彼女が取る手は一つだった。
『ま、まぁとりあえず! ソラも皆も! この先で待ってるからねー!』
「あ! ちっ……一瞬間に合わなかったか……はぁ。だとよ」
ヘッドロックを仕掛けて軽くはお説教しておくかと思っていたカイトであるが、その一歩手前でシルフィードに逃げられたらしい。呆れ混じりの苦笑いながらも、ソラへと問いかける。
「えっと……だから何?」
「増援を連れて行くか否かはお前に任せる。今回はお前の試練だ。お前がリーダーだ」
「え、あ……」
これも含めて試練という事なのだろう。カイトの顔はそんな様子があった。というわけでソラは困惑気味ながらもシルフィードの性格を知っていればこそおそらく自分達も時々あるいたずらに巻き込まれたという事なのだろうと苦笑いを浮かべる桜達を見る。
「あの、皆ごめん。なんか巻き込んで……」
「いいよー。別に。それにソラの手助けしたかったし」
「……ありがとう」
朗らかに笑う由利の言葉に、ソラが恥ずかしげに再度頭を下げる。それに全員が無言で同意して、とりあえずそれが決定となったようだ。というわけで今回は彼がリーダーという事もあり、一度ぱんっと頬を叩いて気合を入れる。
「良し! じゃあ、行くぞ!」
「「「おう!」」」
何がなんだか良くわかっていない所がないわけではないが、ここが試練でソラには自分達の力が必要という事だ。ならばそれに力を貸すだけ。一同はソラの掛け声に合わせて彼に続いて切り株の縁へと歩いていく。だがそれにカイトが声を上げた。
「って、ちょっと待て! 流石に説明……あ」
「「「え?」」」
どうなるかを知っているのはソラと瞬、そしてクズハだけだ。なので転移門に似た何かが現れるのだろうと思っていたら突然ソラと瞬が風に引き寄せられる様に消えたのを見て、続こうとしていた全員が困惑を露わにする。
「はぁ……まぁ、今みた通り。この縁に足を踏み出すと次の所に行ける。全員、オレと同じ様にやってくれ」
気合と格好を付けさせるべくソラにやらせたは良いが、少し気合が入りすぎたようだ。カイトは自身のフォローが足らなかったと更に苦笑いの色を強くしつつ、一同に向けて移動方法を実演する。そうして、更に桜らを加えて一同試練へと臨む事になるのだった。
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