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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3756話 様々な力編 ――到着――

 契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。その聖域に最も近いエルフ達の街に到着したカイト達であったが、そんな一同を出迎えたのは聖域を覆い尽くす程に超巨大な竜巻であった。それはカイト曰くどこかの世界の誰かが世界に生じた異変を解決するべく活動している証のようなもの、という事であったがしかし、それでは聖域に行けないというわけで、聖域に向かうためにその異変を一時的ではあれ抑える必要が出てしまう。

 というわけで歪みを顕在化させた魔物の討伐から一夜明けて一同は再出発。数時間掛けてたどり着いたのは、聖域に向かうための最後の休憩地点となる小屋だった。そうしてたどり着いた休憩小屋にて、クズハは盛大に顔を顰めていた。


「ここが噂の、ですか」

「こりゃ確かに噂にもなるわなぁ……」

「よくもまぁ、元老院が認めたものです。こんな豪華な小屋……いえ、もうこれは館でしょうか」

「これはなぁ……」


 確かにこれは小屋じゃないよなぁ。クズハの苦言にカイトも半ば苦笑い気味に同意する。休憩地点は豪邸とまではいかないものの、少なくともログハウスのような質素な感じはなかった。


「少しの休息を取るにしちゃ豪華すぎる。エルフ達にしては非常に珍しいな」

「まぁ、もう建ててしまったものは仕方がありませんが……維持管理も安くはないでしょうに」


 それでも維持管理は行うだろうし、生真面目な自分達の種族だ。怠る事はないだろうが。クズハは眼の前の小屋を見てただため息を吐くばかりだ。と、そんな所に声が掛けられた。


「クズハ様」

「アイナ……貴方もこちらへ」

「はい……昨日までの竜巻で生じた被害を確認しておりました」

「ありがとうございます」


 元々アイナディスがこちらに来ていたのは、クズハ達の経路の安全確認のためだ。というわけで彼女がその情報を共有する。


「いえ……それで道中ですが昨夜までの竜巻で魔物達は軒並み、という所でしょうか」

「幸か不幸か、と」

「はい……森の声を聞く限りでも一体も居ないようです。おそらく今日一日は問題ないのではないかと。そこらはカイトの方が詳しいかと思いますが……」


 クズハの問いかけにアイナディスは視線をカイトへと向ける。これに森を観察していたカイトが頷いた。


「……だな。おそらく今日一日は魔物の心配はないだろう。歪みがあれに収束した所はあったし、ある程度の魔物なら風で消し飛ばされただろうしな。多分一週間ぐらいは反動で大丈夫だろう」

「一週間……馬鹿な者が動かねば良いのですが」

「流石に聖域は大丈夫だろうが……まぁ、そこらはオレが考える事でもないか」


 アイナディスの懸念に、カイトは肩を竦めるだけだ。というわけで肩を竦めた彼だが少しして気を取り直した。


「ああ、そうだ。それでアイナはこれからどうするんだ? 一緒に来るのか?」

「それは少し心惹かれますが……流石に今日明日はここを拠点として聖域の状態を調査するべきかと」

「……それもそうか」


 一応あの竜巻で聖域の近郊に被害が出る事はない可能性が非常に高いし、ここまでの道中でも木々の倒壊などはなかった。だがそれ以外の動物達に被害がなかったのかなどはまた別の話で、そこらの調査を行う必要はあったようだ。というわけでカイトも彼女の言葉に納得すると、そこでふと思い出した。


「そういえばアンナイル殿は? 一緒じゃなかったのか?」

「ああ、お祖父様でしたら今回の異変で別行動を取っています。もう一つの休憩小屋……管理人達が常用する逆側の小屋を拠点として私とは逆側の調査を」

「そうか……王都からなら一番近いのはここだが、逆側にも街があったな。それなら今回はお会い出来そうにないか」

「会いたいのですか?」

「珍しい反応だな」


 盛大に嫌そうな顔。アイナディスの顔に浮かぶのはそんなしかめっ面だ。これにカイトは思わず吹き出したが、一つ頷いた。


「まぁな。流石に建国期の英雄だ。知己を得ておいて損はないからな……それにオレの場合、というかティナの話は聞いてるだろう」

「……まぁ」


 流石に現状があり、ティナの身の上話はある程度カイト近辺の者たちには共有されている。まぁ、当人がもう知ってしまっているし、ハイゼンベルグ公ジェイクも当人が知ったならばと支援を明言している。

 というより当人はようやく世話が出来ると嬉しくて仕方がないらしく、カイトが公爵に就任した当時並におせっかいを焼いている。わかる者には隠す事が難しかった。


「ま、そういうわけでな。アンナイル殿に会っておいて損はない、というわけ」

「……わかりました。そういう事でしたらお祖父様にも伝えておきましょう」

「本当に嫌そうだな」

「いやですね。またなんの馬鹿げた後始末が出てくるか……」

「「あはははは」」


 おそらく自分の血縁だからだろう。風紀委員長と揶揄されるぐらいには生真面目なアイナディスをして遠慮がなかった。まぁ、それも全てアンナイル当人が孫娘に隠れて何かをしていた結果であるのだから、仕方がなくはあっただろう。というわけで彼女の反応に苦笑いを一つ、カイトは改めてソラ達に向き直った。


「ま、とりあえず……ソラ、先輩。三十分か一時間ほど小休止を挟んで再出発だ。二人共武器防具の最終確認を行っておけ」

「おう……戦いはなさそうなんだよな? 道中で、って意味だけど」

「道中ではな」


 あくまで危険がないだろう、というのは聖域までの道のりだけだ。聖域からは試練が待ち受けており、戦闘も前提として考えられていた。というわけで一同は小屋とは言えない休憩小屋にて小休止を挟んで、再出発する事になるのだった。




 さてそれから半時ほど。休んだ後に、一同は休憩小屋を出発。そこからは徒歩でひたすらに奥地へ向かって進んでいた。というわけで数時間歩いた所で、瞬がソラに声を掛ける。


「……どうした? 何か気になるのか?」

「ああ、いえ……そう言えば都でも聖域には行きましたけど……なんというかこんな風に徒歩で色々と見回りながら行ったわけじゃなかったんで。なんでしょうね。違いが感じられてるというか……」

「違い?」


 ソラの言葉に瞬もまた意識を集中して周囲の様子を探索する。だが彼にはいまいちどういう事かわからなかったようだ。


「……何か違うのか?」

「ええ……まぁ、多分これは俺が風属性に長けているから、という所だと思います。なんでしょう……なんってか、かなり清浄な? 神聖な? そんな感じがあるんですよ」

「それは……確かにそんな感じはするな」


 ソラの指摘に瞬もまたそんな感じならば感じられると同意する。その程度であれば確かに彼にも感じられたようだ。ただそれは謂わば神殿やらを訪れると荘厳な印象を受けるという所にも近く、イメージとしてそういう印象があるという所だった。


「あはは……まぁ、周囲の風の力が普通と違うんっすよ。聖域ともまた少し違う……なんでしょう」

「それはおそらく退魔の力に由来するものだな。原則的に聖域の近郊には一般的に言う所の邪悪な力を持つ者は近寄れない。まぁ、邪悪というとなんだ、と言われると説明に困る所があるから一般的な話としてと思って欲しいんだが」

「なるほど……」


 退魔の力。確かにそういう力と言われればわかるような気がする。カイトの言葉にソラはそれが一番的を射た言い方かもしれない、と納得する。


「まぁ、これは確かにお前が風属性に長けているから、という所はあるだろうが、どちらかといえば神域に近い所があるからだろう。お前には馴染みが深い所がある」

「あ、なるほど」


 どちらかといえば<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>由来というわけか。ソラは確かに言われてみればそちらの神聖さに近いかもしれない、と思い直したようだ。というわけで納得した所で、カイトが告げた。


「そういうこと……で、それがお前に感じられるということはそろそろだな」

「何が?」

「聖域の入口だ……そろそろだと思うが……」


 周囲を見回したカイトは一度クズハに視線を向け、彼女の頷きを見てこちらもまた頷く。そろそろだという意味だった。そうして彼は意識を少し集中して、状況を確認する。


「……あった。これだ……」

「なんだ?」

「こっちだ……風に乗る」

「「?」」


 少しだけいたずらっぽいカイトの言っている意味が理解出来ず、ソラも瞬も首を傾げる。だがその次の瞬間。カイトがクズハを抱きかかえたと同時に、二人の姿が風に包まれて一瞬の内に消え去るのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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