第3755話 様々な力編 ――再出発――
契約者となるべく訪れる事になっていた風の聖域。その聖域に最も近いエルフ達の街に到着したカイト達であったが、そんな一同を出迎えたのは聖域を覆い尽くす程に超巨大な竜巻であった。それはカイト曰くどこかの世界の誰かが世界に生じた異変を解決するべく活動している証のようなもの、という事であったがしかし、それでは聖域に行けないというわけで、聖域に向かうためにその異変を一時的ではあれ抑える必要が出てしまう。
というわけでなんとか異変を解決したその翌日。カイトは改めて聖域に向けて出発する。するのだが、そこでソラが疑問を呈した。
「なんで歩いて行くんだ? 飛空術使えば良いだろ?」
「風の聖域の近辺じゃ飛空術は使えないんだ。他は使えたり使えなかったり、だが」
「昨日使ってたじゃん」
「あれは特例中の特例。特例的に使える様にしてただけだし」
「そうなの?」
「そりゃ、空中に魔物が出る可能性が高いのに飛空術無しってオレでも避けるぞ」
驚いたような様子を見せるソラに、カイトは笑いながら道理を説く。とはいえ、これにソラは半信半疑であった。
「お前ならやれそうだけど」
「やれるはやれるよ。そういう縛りプレイでも問題なく戦えるためのオレだからな……ただ一昨日も言った通り、今回の主軸はお前ら。オレが勝てた所で無意味だ」
「そりゃそうだけど……なんってか、それならいっそそれでも勝てるなら資格が云々、とかに思えてさ」
「あー……」
言わんとする事はわからないでもない。ソラの指摘にカイトは少しだけ納得を示した。だがこれにカイトは首を振る。
「まぁ、わからんでもないが。それでも流石に無理は無理だ。それに飛空術を禁じられた状態で戦おうとなった場合、オレみたいに弓を使えればそれで良いんだけどな。そうじゃないなら……そうだな。お前ならどうする?」
「どうって……魔術か力技で斬撃飛ばしてだろ?」
「そうしたらどうなる?」
「どうなるったって……」
一応ここでの前提はそれならば勝てるという事で良いのかな。ソラはカイトの問いかけに少しだけ考える。そうして少し話の展開を予想して、彼がはっとなった。
「あ」
「どうした?」
「ああ、いや……すんません。そりゃ駄目か。どうなるかわかんないもんな」
カイトの問いかけの答えを理解して驚いたソラだが、そんな彼は唐突に何かに気付いた様子で声を上げた事で驚いた瞬に一つ謝罪。そのままカイトへと問いかける。これにカイトははっきりと頷いた。
「そ、駄目だ。そんな事をする場合の火力を考えりゃ、付近の村が吹き飛んでも不思議はない。しかも相手は原則世界の異変が実体化した魔物だ。いくら英雄達だって生半可な戦闘力じゃ戦えない。流石に大精霊達だって飛空術を禁じている力場みたいなのに干渉して一時的に利用可能にもする」
「そうだよなぁ……」
言うまでもないが契約者の試練に挑む場合、最低限でもソラ達の領域だ。最悪はその猛者が強大な攻撃を無遠慮に放つのである。当然として、周囲の被害は凄まじくなるだろう事が容易に想像出来た。
「まぁ、それに。世界の異変だ。そういう飛空術が使えない力場みたいなのも歪んでる。使いやすい土壌は出来てるんだ」
「でも異変が解決されれば、か」
「そういうことだな。あ、ちなみに使えない理由は端的に言えばその属性の力が強すぎて飛空術に異変が生ずる、という所だ。だから厳密に言えば飛べなくはない。とはいえ、飛空術は風属性や土属性がかなり近しい所にある。かなりの難易度にはなるが」
「ふーん……」
やろうとすれば出来なくはないが、魔術が得意でないならやらない方が良いだろう。そういう所か。ソラはカイトの言葉をそう認識する。
「まぁ、とりあえず。それなら徒歩で行くのは納得だ。どれぐらい掛かるんだ?」
「そうだな……エルフ達が設けている最寄りの休憩所までは竜車で二時間ぐらいで、そこからは徒歩だから……大体往復で今日一日は出たままになる、って所か。まぁ、帰りは暗くなるかもな」
「あれ? 案外近いのか?」
試練がどういうものかは教えられていないしそもそも教えられないというのがカイトの言葉だが、試練がすぐに終わるとはソラも瞬も思っていない。
なので最低半日、長ければ一日掛かる事は考えていたのだが、移動の時間を含んでも日帰りで戻ってこれるというのだ。意外と近いのか、それとも試練が短いのどちらかと考えるしかなかった。だがこれに、カイトは首を振る。
「いや、徒歩で更に追加片道3~4時間という所だから、全然遠いぞ」
「ん? じゃあ、試練ってすぐ終わるわけ? それとも行くまでが試練みたいな感じなのか?」
「いや、そういうわけじゃない……ああ、そうか。忘れてるのか」
「「?」」
一体全体どういうことなのだろうか。そんな様子で首を傾げる二人に、どうやらすっかり聖域の中の事を忘れてしまっているみたいだな、とカイトは少し苦笑気味だ。まぁ、もう少し昔の話だし、それを聞いたのも一度か二度だ。覚えていなくても無理はなかった、と思ったのだろう。
「聖域の中の時間は止まっている。だから試練がどれだけ長かろうと実質的には一瞬だ」
「あ、そっか。そう言えばそう言ってたっけ」
自分達の体感では時間は経過していたのでそんな感覚はなかったし、今まで聖域と言えばエルフ達の都からすぐに行ける所にあった。なので時間が経過しないという感覚がなかったのだが、改めて指摘されればそうだったと思い出したようだ。ソラも納得したような顔を浮かべていた。と、そんなわけで話をしていたわけだが、そこにクズハがやってくる。
「お兄様」
「おう。支度は出来た……みたいだな」
「はい……何か妙な感じもしますが」
「あはは……まぁなぁ。そもそもシルフィに謁見と言うは良いが」
『僕ら常日頃好き勝手に君の家に居るからねぇ……』
「そうなんよなー」
本来エルフ達の王様や女王様でさえ、シルフィードこと風の大精霊との謁見は叶わない。なので本来はこうして聖域まで出向かねばならないわけだが、カイトの自宅ことマクダウェル公爵邸には大精霊達が屯するための専用の部屋――もちろん秘密裏に用意しているものだが――まである。
しかもシルフィードの場合は平然と出歩いてさえいる。一応今でこそカイトが居るエリアに限定されているが、その昔は公爵邸全域を歩き回っていた。聖域に行く必要なぞ皆無だった。
「ま、それはそれとして……とりあえずそっちに向かう。まぁ、適当に待っておいてくれ」
『僕ここに居るけど?』
「それもそれなんよなぁ」
聖域で待っていてくれ、と言うものの、そもそも大精霊達とはどこにでも居る存在だ。なのでカイトの精神世界に常駐していようと聖域にも居る事が出来るわけで、試練を受けるためだけに聖域に行くのであった。というわけで二人して面倒という様子を見せるカイトに、ソラがふと問いかける。
「……なぁ、今更っちゃ今更なんだけどさ。お前の家……ってかマクダウェル公爵邸。そっちを聖域じみた扱いに出来たりしないのか?」
『やろうとすれば出来るけどねー。僕ら全員居るわけだから、下手な聖域より聖域に出来ちゃうから。僕らの部屋とかそう出来るよ』
「やらんでええ。管理が面倒くさいし、碌なことにならんぞ。主にティナやら研究者やらが入り浸ってな。あと人の家をこれ以上聖地にされたくねぇよ」
『そうだよねー』
原理的には出来なくはないらしいが、カイトの指摘にシルフィードも面倒になるからやらない事にしたようだ。まぁ、あくまでやろうとすればなので彼女らも元々やろうとは思っていない。やれるか否か、という問いかけに対して出来るという答えというだけだった。というわけで笑う彼女に、カイトも笑う。
「ま、そんな塩梅で……とりあえず行くから。それに時間を止めたりは……」
『まぁ、出来ちゃうからねぇ……本当に君の周囲って僕ら好き放題出来るんだよねー。世界側も君の近辺はかなり強度を高くしてるし』
「はぁ……まぁ、良いわ。とりあえず出来てもされたかぁない。行く」
『はーい』
シルフィードの返答にカイトは苦笑いを浮かべながらも、とりあえずはそういう事でと立ち上がる。そうして一同は竜車に乗って、ひとまず聖域に最も近い休憩所にまで足を伸ばす事にするのだった。
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