第3751話 様々な力編 ――対応――
ソラや瞬が契約者となるべく方方の調整に乗り出していたカイト。そんな彼はエルフ達の国にてクズハの叔父スーリオンと謁見。自分達の聖域行きに対して許可を貰うと、その後はエドナに乗ってすぐに帰還。更に戻ったタイミングで色々と来ていた書類にサインをして、更に瞬が向かう危険地帯に対しての調整を行ってとしていると飛ぶように時間は消えていった。
そうして最初の試練として選ばれたのはエルフ達が管理する風の聖域と呼ばれる場所での試練となり飛空艇を使ってエルアランへと向かうカイト達であったが、出発して早々にトラブルが発覚。だがそれはどこかの世界でどこかの誰かが異変を解決するべく活動している証だと知る事になったカイトはソラへとそれを共有。神妙な面持ちで聖域に最も近い街へ降り立つわけだが、やはりエルフ達の国。すぐに大神官直々に出迎えとなり、クズハが謁見する形となっていた。
というわけで謁見の後。改めて聖域に向かうために一度の休養を行う事になるのだが、そこで案内されたのは神殿の一角だった。だがそこでソラが見たものは今までとはまるっきり別だった。
「……なに、あれ」
「聖域」
「……あれ?」
「うん」
ソラの問いかけに、カイトははっきりと――しかし苦笑いも混じりながら――頷いた。一同が案内されたのは、聖域が一望できる客室という所だろう。
それはこの街の場所や立ち位置を考えれば間違いなく最上級の客室で、一応神殿なので内装は質素だったが使われている素材は明らかに上等だった。なお、流石に女王たるクズハは別室――実はカイトも別室だが案内のため一緒に居た――で、更に格上の部屋へと案内されていた。
「ま、見ての通りだ。どこかの某くんが頑張ってくれてはいるんだが……聖域を介して異変が起きる」
「……思ってたのと違う」
「もっと単に風が吹いてるだけと思ったか?」
「……まぁな」
これはちょっと想定外だ。ソラは一応吹き荒ぶ風で部屋の中が荒れないようにしっかりと閉じられている窓から、外を再度確認する。
「風が渦巻いてる……よな、これ」
「まぁ、竜巻だわな、これは」
「実物はマジで初めて見たかも……」
魔術でもここまでの竜巻は見た事がない。ソラは視界全体を覆い尽くすような超巨大な竜巻を見て、盛大に顔を顰める。この中に突入せねばならない、となると今の彼でも少し御免被りたい所であった。というわけで盛大に気後れしている様子の彼の一方で、瞬がカイトへと問いかける。
「カイト。これは魔術的な要素を含む風だな?」
「当然だ……まぁ、自然現象として竜巻ぐらいならテレビの放送で見た事はあるだろうが……いくらなんでもあの規模はなぁ。もう壁と変わらん」
「まぁ、な」
自身の問いかけに答えるカイトの苦笑いに、瞬もまた苦笑いを浮かべる。そうして三者揃って苦笑いを浮かべるのだが、すぐに瞬は気を取り直した。彼の場合、これの比ではない危険領域に行く可能性が高いのだ。この程度で気後れしてはいられなかった、という現実的な話があった。
「どうすれば良いんだ? こんなもの。到底俺達じゃ踏破できそうにないが」
「原理原則としちゃぁ、異変が収まった後に行くのが上策だが……」
「……まさか」
カイトのどこか歯切れの悪い様子に、ソラが思わず顔を青ざめる。そしてそのまさか、であった。
「そうだな。クズハは一旦ここに置いていくとしても、神官達の建前もある。ちょっと行ってみるのが上策だろうな、この状況下においては」
「でもこれ、どこかの誰かが頑張ってるって話なんだろ? 異変がこの世界にない以上、俺達じゃどうやっても解決なんて出来ないだろ」
「そりゃ、大元の解決はな。だが対症療法として、こちらの世界の異変を片付ける事は出来るんだなぁ、これが」
「えぇ……」
絶対に碌でもない。引き続き苦笑いのカイトの発言に、ソラはそれを察して盛大に嫌そうな顔を浮かべる。すでに彼にも想像が出来ているらしい。というわけで、彼が方法論と言うべきか原理を確認してみる。
「とどのつまり、あれか? あれを世界の歪みと捉えて、巨大な魔物だか大量の魔物に変換。全部潰せば解決って超弩級の力技」
「なるほど……そういう解釈が出来るのか」
「正解だ。良くわかったな。はなまるをくれてやろう」
「世界で一番いらねぇはなまるだ……」
やっぱり自分の思った通りの展開だった。ソラは盛大に顔を顰めながらも、改めて眼の前に広がる巨大な竜巻を観察する。
「……どう見てもヤヴァいよなぁ……」
「まぁ、ヤヴァいな」
「真似すんなよ……はぁ」
変な言い方をしたのは自分だけど。ソラはカイトの口ぶりに笑いながらも、一つため息を吐く。
「明らかおかしいだろ。なんであんな竜巻なのに樹木の一つも巻き込まれてないんだよ。あれ本当に風か?」
「全部風だな。何か舞ってる様子は……なくもないが、自然物が巻き込まれている様子は全くないが、風に間違いはない」
「そうなんだよなぁ……」
それが尚更、これが普通ではない事をソラにも理解させていた。というわけで再度風の壁とでも言うべき超巨大竜巻を見て、ソラは一つ問いかける。
「あんなのに巻き込まれたら完全に人体がバラバラになんないか?」
「まぁ、異変が最大に到達すればそうなるかもな。なにせ魔力をふんだんに含んだ風だから、障壁も大した役には立たない。いや、役に立たないは間違いか。風の防御として、役には立たない。破壊に対する防御の役割は果たせる」
「最悪だな……あの中を飛空術とかも考えないといけないのか?」
「まぁ、場合によっては」
「……」
これで俺達にどうしろってんだよ。ソラはカイトの言葉に頭を抱え込む。まぁ、ここでカイト任せにしないあたり、今回の件が自分主体となって解決せねばならないのだと考えている事に間違いはない。
そしてだからこそ頭を抱え込んでいるのであった。というわけでしばらく頭を抱え込んでいた彼であるが、しばらくしてカイトへと問いかける。
「……なぁ、流石に魔物化についてはお前の方でやってくれるよな? 流石に俺にそんな事は出来ねぇよ」
「流石にそれはな。先導役を請け負っている以上、そこらはしっかり手配してやる」
「そうか……はぁ。わかった、やるよ。どうせこの様子だと何時解決かもわからないんだろ?」
「そりゃ、どこかの世界の某くんが頑張って原因を解決するまではな」
「そんなの待ってられるわけねぇよ」
なにせ冒険部の統率に関しては桜らに任せっきりなのだ。それにクズハの件もある。本来なら数日行って帰るだけだったのに、そんな延々と待っていられるわけがなかった。というわけで覚悟を決めたソラに、カイトも一つ頷いた。
「良し。じゃあ、オレの方で魔物化の支度はしておいてやる。明日の朝一番で戦闘だ。今日はゆっくり安め」
「そのまま出発、になんてならないよな?」
「まさか。流石にオレもそこまで鬼じゃない」
ソラの問いかけに、カイトは笑いながら首を振る。そうして彼は立ち上がって神官達に今回の異変の解決を請け負うこと。その準備に単身聖域へ向かう事などを伝達し、早速準備に取り掛かる事になるのだった。
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