第3750話 様々な力編 ――眷属達――
ソラや瞬が契約者となるべく方方の調整に乗り出していたカイト。そんな彼はエルフ達の国にてクズハの叔父スーリオンと謁見。自分達の聖域行きに対して許可を貰うと、その後はエドナに乗ってすぐに帰還。更に戻ったタイミングで色々と来ていた書類にサインをして、更に瞬が向かう危険地帯に対しての調整を行ってとしていると飛ぶように時間は消えていった。
というわけで各所との連携も終わり、最初の試練として選ばれたのはエルフ達が管理する風の聖域と呼ばれる場所での試練だった。そうして飛空艇を使ってエルアランへと向かうカイト達であったが、出発して早々にトラブルに見舞われる事になっていた。
だがそれはどこかの世界でどこかの誰かが異変を解決するべく活動している証だと知る事になったカイトは、それを現地入りしていたアイナディスへ共有すると、そのままソラにもその話を教えていた。
「……」
どこかの世界のどこかの誰かが、ここから繋がる先で頑張っているらしい。ソラは到着した聖域に最も近いエルフ達の街に降り立つと、吹き荒ぶ業風に身を固くする。
「異変ってどんな異変なんだ?」
「さぁなぁ……オレが知っているのもただ大変な出来事が起きていて、その解決に向けてどこかの誰かさん達が頑張っているらしい、って話だ」
轟々と音を上げて吹き荒ぶ業風は凄まじく、道行く人々はまるで何かに恐れを成すかのように足早に立ち去っていく。この街は聖域に最も近い街で、住民達はほぼ全てがエルフ、ハーフリング達風の大精霊の眷属を名乗る者たちだ。
特に大精霊信仰の篤い者たちと言っても過言ではなく、カイトの言及した通り荒れる自然を大精霊達が何かに怒っていると思っている者もいるようだった。まぁ、そんな彼らの態度が全くの誤解であると知るカイトはそんな彼らに少し苦笑いを浮かべていたのだが。と、そんな彼へと近づく影があった。
「カイト様。お待ちしておりました」
「これは……お久しぶりです」
現れたのは、手にカイトの背丈ほどもある木の杖を携えたかなり薄手の衣服に身を包んだ何人かの女性達の供回りを連れた一人の非常に美しいエルフの女性だ。そんな彼女を見るなり、カイトは傅いてその手の甲に口づけをする。
どうやらかなり高貴な身分らしい。カイトの所作にも女性の品格も非常に優雅で、風が荒れ狂っていなければ上流階級のやり取りと言っても過言ではなかった。そうしてカイトの挨拶に、女性が優雅に笑って頷いた。
「お久しゅうございます。一年も経過しておりませんので些かふさわしくない言葉かもしれませんが」
「あはは。そちらではそうなりましょう。ですが私の場合は些か事情が異なる」
「なるほど。御身は相変わらずのご様子で?」
「あははは。有り難いお話です。忙しいということは必要とされているという事ですから」
「ふふ……そうですね」
カイトの冗談めかした言葉に女性が笑う。そうして社交辞令を交わした後、女性が問いかける。
「女王陛下は?」
「流石にまだ中で控えております。いたずらに姿を見せるわけにも参りませんし……どうぞこちらへ」
どうやら降り立ったは良いものの、当初の流れと異なり一旦は飛空艇へ戻らねばならないらしい。ソラはそれを理解して、自分達が先に行くのを待っていた瞬に一つ頷いて一旦戻らせる。そうしてソラもまた自身を無視して進む話にとりあえず流れで従う事にする。と、そんな彼に先ほどの女性が視線を向けた。
「彼が此度の?」
「ええ。彼女の導きを受け、連れてまいりました」
「左様ですか……まだ純朴な青年に見えますが」
「ええ……ですが同時に太陽神の庇護も受けている。素養としては十分な物があると言って過言ではありません」
「なるほど……人は見かけに拠らぬもの、と」
「ご理解痛み入ります」
おそらく相当高貴な身分だろうとはわかるが、彼女は一体誰なんだろう。ソラは供回りを連れている女性に若干困惑気味にそう思う。というわけで困惑気味かつどこかむず痒い感覚を得ながらも話せる状況にない事はわかっているので黙っていたソラだが、クズハが居る部屋にまで彼女を案内した所でようやくカイトが小声で教えてくれた。
「悪いな、放置して」
「いや、良いんだけど……ハイ・エルフの人だろ?」
「ああ……まぁ、もう分かるだろうが、この街の実質的な統率者。この街にある大神殿の神官長だ」
「あー……なるほど」
それでカイトも安易に名前を呼ばなかったわけか。過去の世界でのスイレリアもそうだったが、基本的にハイ・エルフ達が自らの名を明かしてくれる事はない。
名前を呼ばせるに値する相手と認められない限り名前を呼ぶ事が失礼に当たるという風習があるからだ。まぁ、今ではそれも個人の自由という所にまでなっているが、流石に神官長にまでなればそういうわけにもいかないのだろう。というわけで大凡説明されなかった理由に納得した彼だったが、そんな所に瞬が口を挟んだ。
「だがすごい衣装だったな。大丈夫なのか? 外、相当な風だったし、今は冬だろう? 常春というわけでもないんだから、寒そうだが」
「あー……まぁ、うん」
確かにあれはそう思っても不思議はないよなぁ。カイトは先程の神官長の服を思い出して、僅かに苦笑する。瞬が開口一番に言ったのも無理はないほどの服だった。というわけで瞬が先ほどの服を思い出す。
「ノースリーブの一枚布? で良いのか? しかも足も完全に出ているし……その非常に下世話だが、パンツとかは大丈夫なのか? 視線をどうすれば良いかとヒヤヒヤしてたんだが」
「あははは……まぁ、そこは問題ない……履いてないし着けてないからな」
「「え゛」」
少し言い難そうにするカイトの言葉に、瞬もソラも思わず彼の顔を見る。だがそんな彼の表情がそれが真実だと何より物語っていた。というわけで思わずソラが問いかける。
「なんで知ってんの?」
「それは聞いてくれるな……ただあれは宗教的な意味合いがある。風を最も感じられる、というな。クズハへの謁見を前提としているから、あれが最正装だ。一番薄手にはなっているのはそれ故だな……恥ずかしいとか当人も一切なかっただろ?」
「確かに……それに道行く人の中にも似たような薄手の衣服の人は多かったな」
「薄手の衣服はこの街の基本だ……そういう民族衣装にも近い衣服に身を包んでいる異族達は聖域に近い街では珍しくない。いや、それどころかオレ達のような冒険者が珍しいぐらいだ。冒険者でもこういう聖域に近い街ではそちらの衣服に着替えるという者は少なくない」
「そうなのか」
今になり異族について知る事があるものだ。瞬はカイトの言葉に少しだけ驚きを露わにする。そうしてその後はクズハの謁見が終わるまでのしばらく、ソラと瞬は眷属達の自分達が知らない文化風習についてを教えて貰う事になるのだった。
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