第3749話 様々な力編 ――波及――
ソラや瞬が契約者となるべく方方の調整に乗り出していたカイト。そんな彼はエルフ達の国にてクズハの叔父スーリオンと謁見。自分達の聖域行きに対して許可を貰うと、その後はエドナに乗ってすぐに帰還。更に戻ったタイミングで色々と来ていた書類にサインをして、更に瞬が向かう危険地帯に対しての調整を行ってとしていると飛ぶように時間は消えていった。
というわけで各所との連携も終わり、最初の試練として選ばれたのはエルフ達が管理する風の聖域と呼ばれる場所での試練だった。そうして飛空艇を使ってエルアランへと向かうカイト達であったが、出発して早々にトラブルに見舞われる事になっていた。
「……はい? 大業風?」
『ええ……唐突に業風が吹き荒れ、飛空艇の飛行が不可能に。なんとか街まで戻りはしましたが……飛空艇は置いてくる事に』
「……マジか」
入ってきた報告に、カイトは盛大に顔を顰める。相手はアイナディスで、先にスーリオンが言っていた通りクズハの道中を支援するべく先んじてくれていたのだが、エルアランの王都を出て少しして彼女から連絡が入ってきたのだ。
「確かに風が吹きすさび聖地が荒れる事はままあるが……それでも今か」
『ええ……どうにも作為的なものを感じずにはいられない』
「うーん……シルフィちゃーん」
『……』
「シルフィちゃん?」
『……』
あ、これ完全にわかってやってるパターンか。カイトはニヤニヤと笑う気配はあるものの自身の呼び出しには全く応ずる気配のないシルフィードにため息を吐く。
「はぁ……お前、わかってやってんな?」
『モチのロンだよ』
「ったく……てめぇは……どういう意図だ?」
『さて、どういう意図でしょーか』
「……」
『あ、ごめんなさいごめんなさい! 謝るから精神世界に乗り出そうとするのやめて!』
人をおちょくるのもいい加減にしろ。そう言わんばかりの様子で目を閉じたカイトに、シルフィードは大慌てで謝罪する。
「……怒られたくなかったら説明しろ」
『ごめんごめん……それで単純な話でさ。半分は自然現象。もう半分はちょっとした事情があって……』
「ちょっとした事情?」
『本当にちょっとした事だよ。どこかの、と明言は避けるんだけど、どこかの世界で今しがたちょっとした異変が起きててさ。カイトを呼ぶほどの事じゃないよ』
「あー……」
いつもいつも言われているが、大精霊達は世界の端末にも等しい。故にどこかの世界で異変が生じればその対応をしているのは当然の事だろう。というわけで状況を理解したカイトも盛大にため息を吐いたものの、大凡を理解して納得する。
「まぁ、そりゃしゃーないわな。聖域は全ての世界、全ての時間軸で繋がっている。必然としてどこかの世界で異変が生じればそれを起点として異変が波及するか」
『そういうこと。だからどこかの世界で大規模な異変が起きてしまうと、今度はそれが聖域を介して波及してしまう事もある……まぁ、そこの世界の人たちが頑張っているから、君は見ていてあげるだけで良いよ』
「毎度お馴染みの英雄様か?」
『違うよ。いつも何時でもレックスくん達が頑張っているわけでもないし、彼らがこういう大きな出来事を引き起こすわけじゃない。全く君の知らない、君に縁もゆかりも無い英雄……ううん。英雄になるかもしれない人達だ。彼らが自分達の世界を良くしようと頑張っている』
カイトの問いかけに、シルフィードは笑って告げる。これにカイトもまた楽しげに笑った。
「そりゃ良かった。そしてそれならオレが何かは言えねぇわな」
『うん。そうしてあげて。ごめんね』
「良いってこった……何処かの世界で英雄くんが頑張ってるんだろ? なら世界を救った勇者の先輩としてはそれを見守ってやるさ。どこの誰ともわからん奴に手を貸して、ってのもそいつらも嫌だろうしな」
自身はあくまでも最後の切り札だ。あくまでも世界の崩壊がどうしようもなくなった場合に呼び出されるのであって、その世界の住人が頑張って解決する限りお呼び出しが掛かる事はなかった。
「ま、それならオレ達は街でゆっくりさせて貰うわ……あ、一つ聞いておきたい。そいつらは契約者か?」
『一応はね。と言っても君みたいに永続的な契約じゃない。契約も一時的な契約だ。ゲームで良くある世界の崩壊を防ぐために僕達が一時的に力を貸す、というものかな』
「なるほど。本当に世界平和のため、か……して、その異変は人為的?」
『そうだね。まだその彼らは知らないけれど……彼らも大変になるよ』
「それはそれは」
所詮は他人事というべきなのか、それとも彼自身がとびきりの苦難を乗り越えてきたからか。シルフィードの言葉にカイトは楽しげだ。そうして、そんな彼が呟いた。
「何時か会えると良いなぁ……そいつらは勇者の系統か、英雄の系統か」
『さぁ……中心となっている男の子は勇者かもね。君みたいに世界よりも女の子を取るだろう子だ』
「それはそれは……なら余計に頑張って貰わないとな」
とどのつまり自分に良く似たわがままな少年ということか。カイトはどこかの世界で奮戦しているらしい者たちに対して掛け値なしの激励を送る。とはいえ、それらは全て彼に無関係。なので彼は楽しげに、そして上機嫌に笑いながらも、放置していたアイナディスに告げた。
「アイナ。聞いての通り……って、お前には聞こえてないか」
『いえ、森を介して話はある程度聞こえていました。なるほど……そういう事はあると契約者となる折に伺っておりましたが。聖域での異変とはそういう事だったのですね』
「そ……何処かの世界で今誰かも知れない連中が頑張ってる……オレ達はそれを見守ってやるだけさ」
『はい』
どこかの世界で誰とも知れぬ者たちが頑張っているというのだ。ならばアイナディスもそれを受け入れ、待つだけだと納得する。
『ああ、そうか。それならこちらでお祖父様に伝えて、元老院を抑えて頂くように致します。カイトからの言葉であれば元老院の煩型も黙るでしょう』
「頼む……え? 見付けたのか?」
『ええ。偶然ですが』
にっこりと笑うアイナディスの顔に、これは何度か特大の雷が落ちた後だとカイトは理解する。
「そうか……ま、それならそっちに頼む。聖域の異変ってのは時に大精霊の怒りだと言われる事もあるが、決してそうじゃない。どこかの世界でどこかの誰かが頑張っていて、大精霊達がそれに力を貸している証と言える。それこそ今回の一件でソラを邪魔したら逆にそれこそ怒りを買いかねんってな」
『そうしましょう』
カイトの言葉にアイナディスが同意を示す。そうして通信は終わり、カイトはソラに契約者とはいかなる物かを教えるべく彼の所へと向かう事にするのだった。
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