第3749話 様々な力編 ――調整完了――
ソラや瞬が契約者となるべく方方の調整に乗り出していたカイト。そんな彼はエルフ達の国にてクズハの叔父スーリオンと謁見。自分達の聖域行きに対して許可を貰うと、その後はエドナに乗ってすぐに帰還。更に戻ったタイミングで色々と来ていた書類にサインをして、更に瞬が向かう危険地帯に対しての調整を行ってとしていると飛ぶように時間は消えていった。
というわけで時に各方面で聖域を密かに守っている異族達と連携し、時に危険地帯の管理を行う為政者達と連携し、更にまた別のある時はオーアらからソラ達の武器防具の調整について聞いてとしていたわけだが、一週間ほども経過すれば全体的に調整も終わっていたらしい。
「ん?」
「カイト。俺だ。少し大丈夫か?」
「ああ、先輩か。ああ、入ってくれ」
この日瞬が訪れたのは冒険部の執務室やギルドホームのカイトの私室ではなく、マクダウェル公爵邸のカイトの執務室だ。やはり契約者となるならば各方面のマクダウェル公としての繋がりを使わねばならなかったので、ここ暫くはこちらにて仕事をしている事の方が多かった。
「……なんだ。また書類か?」
「ああ……まぁ、色々とな。こっちに入るとせっかくだから確認してくれという書類は山のようにある。そのために分身も用意してはいるが……全ての仕事に使えるわけでもなし。オレが直接せにゃならん仕事も多くあるんだ」
「そうなのか……流石は公爵様というわけか」
「あはは……ま、平和にした者の末路と言いますか、平和にした者の責任と言いますか。どちらでも構わんがね。平和にした以上は誰もが望むのさ。彼に自分達を治めてほしいってな……出来る出来ないも関係なく。自分達の安心のためにな」
どこか苦笑いを浮かべながら、カイトは読んでいた書類にサインを入れる。そうして書類を処理済みの箱へと入れると、改めて瞬へと視線を向けた。
「悪いな、仕事中に」
「よいさ。それで言っちまったら、それこそ冒険部の仕事だって仕事だ。それもマクダウェル公としてのな」
「た、確かに……」
そもそも天桜学園さえなければ、手っ取り早くカイトは自分がマクダウェル公だと明かしてしまえていたのだ。それが出来ないのはあの力も基盤もない時点で天桜学園を『人質』とされないためであり、ある意味ではマクダウェル公としての仕事と言っても過言ではなかった。というわけでそんな指摘に瞬も思わず呆気にとられるが、すぐに気を取り直す。
「いや、すまん……それなら手早く済ませるか。とりあえずこっちの調整は終わった。武器と防具も、俺達もだ」
「そうか……こっちも丁度今しがたエルアラン……エルフ達の国から通行許可の承認で連絡があった。<<雷雨の森>>はまだだが……」
「<<雷雨の森>>……か。何度聞いても碌でもない名前に思うが。森ではないんだろう?」
「あははは……まぁ、お察しの通り碌でもない場所だ。禁足地の一つ。森とは名前が付いているが森じゃない。三百年前は魔族達さえろくすっぽ立ち入らんという魔境だ。下手に突き進めば地獄を見る。属性の無力化が出来てようやく立ち入れる資格がある、というわけのわからん領域だ」
苦い顔の瞬に対して、カイトはこちらもまた苦笑いで応ずる。そんな彼の言葉に、瞬が一つ問いかける。
「それなら何故お前は行ったんだ? 確かお前が契約者となったのは堕龍討伐の前だという事だったよな?」
「なんでと言われてもな。単に旅して迷い込んだってだけの話だが」
「それは……よく無事だったな」
「あの当時はなーんも情報がなかったからな。近くに町や管理所があったわけでもない。出た後、次の町にたどり着いた時に魔族達も近寄らん魔境と聞いて思わずなるほどとは思ったがな。実際、魔族から逃げた連中が藁にも縋る思いというか破れかぶれに逃げ込む事もあったらしい。魔族に殺されるか雷に打たれて死ぬか、の差だがな」
どうやら普通の人ならば立ち入った時点でほとんど死ぬ事が確定するような場所らしい。カイトはそんな所に迷い込んだかつての自分に笑っていた。
「まぁ、そんなだから立ち入りの申請にゃ時間が掛かっていてな。流石にあそこはいくら皇国でも時間が掛かる……といっても、本来ならエルフ達も時間は掛かるが……」
「そっちは今回大丈夫だった、と」
「まぁな……クズハを同席させて謁見させると言ったらスーリオン殿と元老院議長は即座に応諾した。神官長にゃ泣かれたよ」
「な、泣かれた?」
「そりゃエルフ達にとってシルフィへの謁見は最大の栄誉だ。女王陛下が謁見なんてエルフ達にとっては特例の祝日になっても不思議じゃない慶事だそうだ」
「そ、それほどか……」
流石は眷属である事を誇りとする種族の中でも最上位に位置すると言われるエルフ達か。瞬はどこか呆れるようなカイトに対して頬を引きつらせる。なお、ここで先にスーリオンから言われていた事に関しては何も言わない事にしていた。流石に変に怯えさせたり警戒させる必要はない、という判断であった。
「あはは……それはそれとして。とりあえずこっちも支度は整った所だ。後は移動手段の調整が終われば何時でも行ける」
「そうか……何時ぐらいには行けそうなんだ?」
「んー……そうだな。明後日の朝には出られそうか。と言ってもエルアランに着いてから少し徒歩で移動しないといけないから、そこからはまた別の話になるが」
「そうなのか?」
「ああ、そういえば風の聖域に関しては先輩に話していなかったな」
カイトは今までずっと雷の聖域に関する話を瞬にしていた事を思い出す。
「『神葬の森』とは別の方向にエルフの神官達が治めている別の町があるんだ。そこから更に先に進むと、風の聖域がある。神官長に話を通した、ってのはそういう事だな。といっても、風の聖域まで町から相当あるから道中魔物の警戒をしたりしながら、そこはそれという所なんだが」
「それで万全を期すように、というわけか。てっきりどっちが先になっても良いように、と思ったが」
「そ……まぁ、どっちが先になっても良いように、ってのは間違いじゃない。はぁ、何時ぶりかな。オレも真っ当に正面から聖域に行くのは」
「ん? 正面から以外に道があるのか?」
「そりゃ、オレはそもそも別枠扱いだろ? だから転移術は使えるんだ」
「行けるのか?」
それなら別にわざわざ移動しなくても良いのでは。瞬はカイトの言葉に僅かに顔を顰める。だがこれにカイトは首を振った。
「オレは、な。普通は転移術で入れないように経路を防がれている。地脈を伝っても無理だ」
「そうなのか……契約者となれば行けるのか?」
「契約者でも無理だ。オレは特例だ。そもそもオレの場合は大精霊達を呼べるのに、防ぐ意味があるか、って話だ」
「あ、なるほど……ん?」
「御主人様。次の書類をよろしいですか?」
「ああ、次の書類か」
「そうか……なら俺はここらで御暇することにするよ。ソラにも伝えないといけないしな」
「すまん。頼む」
どうやら話している間にそこそこ時間が経過したようだ。次の書類の束を抱えて、マクダウェル家のメイドが現れる。というわけで一番最初の試練は風の聖域にて行われる事になり、瞬はそれをソラに共有するべく踵を返して冒険部のギルドホームに戻る事にするのだった。
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