第3746話 様々な力編 ――注意点――
前世の力の代替として契約者となるべく動き出したソラと、元々カイトより契約者となる事を指針として示されていたという瞬。二人はカイトの手配により、彼と共に皇都で皇帝レオンハルトと謁見する事になっていた。そうして飛空艇でマクダウェル領に戻ったカイトであったが彼はその翌日。ソラと瞬に頼まれて、マクダウェル公爵邸の訓練室に居た。
「……火・水・氷・土・風・雷・光・闇……全契約多重起動」
軽くカイトが呟くと、それだけで八個の尋常ならざる力が彼の身に宿る。それらは本来一つでも一国を単騎で制圧するに十分過ぎる力だ。そして本来、一つだけでも人の身に余る力でもあった。それら八個全てを同時起動だ。本来ならば消し飛びかねないほどの力はしかし、カイトは完璧と言える領域で使いこなしていた。それ故に漏れ出さない力の奔流に、ソラも瞬も思わず言葉を失った。
「「……」」
「ま、こんなもんさ。外に力が漏れ出るってのは二流。使いこなせていない証ってわけ。といってももちろん、オレもこんな状況で攻撃なんて放てば凄まじい事にはなるだろうけどな」
「「っ」」
ふわりとカイトが手を軽く動かすだけで、その指先に極光が宿り空間を斬り裂く。少し力を込めて、腕を動かしただけ。それで世界が耐えきれないほどの力が放たれていた。それを指先だけに留め置けるカイトの技量の凄まじさが如実に露わになっていた。そうして彼の絶技は更に続く。
「火は土を生じ、火を失いし水は氷へと転じ、氷は火を求め風を生ず。風は土を動かし雷を生じさせ、雷は火を生じる」
「「っ!?」」
凄まじい力だ。ソラも瞬も敢えてわかるように一つ一つカイトの手に収束する単属性の力の奔流に、思わず身震いする。光と闇を除く六属性全ての力が一つに収束するのだ。その力は本来契約者六人分の力を一つに集めたと言って過言ではなかった。
「契約者の力に<<廻天>>を組み合わせた力だな……力を流転させ、特定の力に収束させた。まぁ、オレの場合はこれを六個分全部でやるから威力も乗算になって馬鹿げた事になってるが」
「それでどれぐらいの破壊力なんだ?」
「さぁなぁ……やってみたことはない。直撃させられれば厄災種だろうと一撃で消し飛ぶだろうさ」
「やったことはないのか?」
「破壊力が高すぎるんだよ、オレは。オレが力を使うのに大規模な結界を考えにゃならん程度には、常軌を逸している」
瞬の問いかけに呆れるように苦笑いを浮かべながら、カイトは一つに収束させた力を再びそれぞれの力へと戻す。そうして彼は続けた。
「オレが武芸を学んでるのは端的に言えばこういうことだ。オレは強すぎるんだよ。周囲を鑑みず戦えるなら、誰だってオレが勝つと言う。契約者八人と同時に、という話でさえない。契約者八人分と戦うって話になるからな」
今しがたは演舞のように六属性を流転させたわけだが、本来はこれに光と闇も加えられるのだ。これ以上だという事は間違いなかった。そしてそんな彼に、ソラが呟いた。
「タイマンなら勇者カイトが勝つから話にならない、か」
「あはは……そういうこと。剣ならばクオンかルクスか。拳ならアイゼンかバルフレアか……侃々諤々の議論が尽きない最強という論争で、なんでもありなら最強は誰かという論争が起きない理由。八人分の契約者の力を持つ男に勝てる奴が居るのか、という話」
これはずっと言われている事であり、そしてカイトが特別視されている理由の一つでもあった。彼だけは土俵が違うのだ。だから何でもあり、という土俵だけは誰もが議論をしない。議論の余地がないからだ。とまぁ、それはさておき。何故こんな話をしているかというと当然、契約者というものを知るためにほかならなかった。
「さて、そんな与太話は良いだろう。それで契約者の力だが、注意しないといけない事がある。それはあくまでも単属性の力に過ぎない、という所だ」
「あくまでも風は風だし、雷は雷だし、ってわけか」
「そうだ……だから相性の悪い力を使えば契約者の力もまた減衰してしまう。決して万能ではない……オレはそこらを使いこなして相乗効果が得られるレベルにまでしたし、そのために相生と相剋を学んだ……完全に今更だし結果論だが、希桜様から気を学んだのはものすごい重要だった。いや、わかってると思うが完全に想定していないが」
当たり前の話だが、このカイトが過去のシンフォニア王国に召喚された時点ではソラ自身が自身の前世が長政だとは知らなかった。なのであの時点では彼に契約者になるように勧める事はカイトをしてほぼほぼ有り得てもずっと先だろうという程度しか考えておらず、気を学ぶように案内したのは単に気が役立つからというだけでしかなかった。というわけで本当に結果的に良く働いたらしい、という事が察せられる彼の顔に、ソラが興味本位で問いかける。
「もしなかったらどうしていたんだ?」
「まぁ、アイゼンあたりからみっちりしごいて貰ったと思う。まー、希桜様で良かったかもな。あの人、気というか色々と道理を観察したりという観察にも結構重きを置いてたろ? あれ、かなり重要なんだよ」
「ああ、希桜様の訓練か……そういえば意外だったな。もっと豪快に打って打たれてを繰り返せとでも言うのかと思ったが」
面倒見が良い姉御肌の女傑を思い出し、その訓練を瞬は思い出したらしい。カイトの言葉に彼は少しだけ尊敬を滲ませていた。
「だろう? だから流桜を預けられたわけでもある。あの方はあの見た目であの性格で、教育者としては非常に優れていらっしゃる。本人考えるより殴る方が早い、っていう脳筋思考だが、やろうとすりゃ姉貴やらティナやらとも道理を話し合える知性がある。今思えば惜しい事したもんだ。オレも希桜様から気をもう少し習えばよかった……向こう戻ったら一回爺さん達に頼んで気を教えて貰うように頼もうかな。あー……でも爺さん達がへそ曲げかねんよなぁ……どうすっかな」
どうやらカイトをして、希桜は気の師匠として優れているらしいと断ぜられるらしい。しかも今のカイトの場合、神陰流で自然の道理もしっかり理解出来るようになっていた。より深い理解が出来るのでは、と当人も思っているらしくかなり興味を見せている様子であった。
「……あ、っと悪い。兎にも角にも気を学んだのは非常に重要だ。今しがた二人も見たと思うが、契約者の力は本来人の身に余る力だ。だから時に契約者で力の行使をし過ぎて自壊した者も居たらしい。流石に死ぬ前に大精霊達が止めたから事なきを得ていたそうだが……基本は<<廻天>>を使って過剰にならないようにしなけりゃならん。攻撃に使うか、防御に使うかは別にしてだが」
「「……」」
カイトの言葉をソラも瞬も真剣に胸に刻み込む。言うまでもない事だが、二人も契約者の力が尋常ではない事は察していた。なので契約者となる前に、二人注意点を聞いておこうとなったのであった。
まぁ、カイトもそれはわかっていたので快諾したし、もし言ってこなければこちらから強引にでも教え込もう、と考えてもいたらしかった。
「で、更にだ……当然だが契約者にはその属性の攻撃は通用しない。デバフもな。ただし、バフは通用する」
「ほとほと卑怯だな、それは……」
「大精霊……世界との契約とはそういうものだ。もちろん、そのかわり何かがあった場合は世界のために戦わにゃならんけどな」
「世界から力を借りられる代わりに、世界にも力を貸さねばならなくなる。それが契約……だっけ?」
「そ……契約者とは大精霊達との契約だとは誰もが知っているが、それがそもそも何なのかを理解している者は少ない。大精霊達との契約とは即ち世界との契約だ。契約は双方に相応の義務を負う。システムである世界側が破る事はないが、破ったら怖いから気をつけろよー」
「死んでも破らんように気を付けよう」
「っすね」
冗談めかして言っているが、相手は世界だ。死んだ程度で罰則から逃れられるとは瞬もソラも思わなかった。というわけでこの注意点もしっかり胸に刻み込んだ二人に、カイトも一つ頷いた。
「良し……じゃ、更に続けようか」
「ま、まだまだありそう?」
「まだまだある……ま、お前らは良かったじゃないか。オレが居て。オレが居なけりゃ最悪自壊から対策を逐一考えていかないといけないんだからな」
「た、確かに」
先ほどカイトが最悪は力に耐えきれず自滅しかねないと言ってくれていたし、幸か不幸か気の使い方まで学ばせて貰っている。だがカイトという稀有な存在がなければ、それらを全部自分で考えて対応せねばならないのだ。しかも契約者の事は書物にもほとんど書かれていない。独学しかないのである。というわけで、二人はそれから暫くの間カイトからの講釈をひたすら胸に刻み込んでいく事になるのだった。
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