第3744話 様々な力編 ――謁見――
殺し屋ギルドとの交戦から数日。なんとか長政の力を抑制する事に成功したソラであるが、そんな彼に長政の力の代替案として提示されたのは契約者となるという本来ならば代替案として勘案されないようなアイデアであった。
というわけでソラは僅かな失策やらを含みながらも日本もとい父にして総理大臣の星矢の説得をなんとか成功させ契約者になるための準備を進めていたわけであったが、その一環として皇帝レオンハルトとの謁見を行う事になっていた。そうして皇都を訪れていたソラと瞬だが、そんな二人が案内されたのはマクダウェル家が使うという皇城の一室だった。そんな一室に圧倒されていた二人を横目に、カイトは皇城の一角で先代のリデル公であるイリアと会っていた。
「というわけで、大凡は風と雷、もしくは炎だな」
「無理だと思えば行けるし、行けると言われれば無理……無茶苦茶ね」
「そりゃ大精霊達だからな。行けるかどうかなんてオレにもなんとも言えんよ」
「で、実際の所はどうなの?」
「どうなのと言われてもなぁ……」
イリアの問いかけに、カイトは少しだけため息を吐いて紅茶のカップをソーサーに置く。
「なんとも言えん、が正確な所だ。正直に言えばルクスにせよおっさんにせよ、あの二人とは比べ物にならん実力者だし、なんだったら現実であればオレよりも見えていただろう。オレが現実を見始めたのだって言ってしまえばレインガルド……レガドで療養した後からの話だ」
「それでその前の時点で契約者になってたんだから仰天ものよ」
「あはは。マジでな。まぁ、だからこそという話もあったのだろうし、必然という所もあったんだろう」
「必然、ねぇ……」
確かにそうかもしれない。イリアは当時を知っているからこそ、誰が契約者になり得たかと言われればカイト以外になかっただろうとも理解していた。
「確かに……当時の誰が可能だったかと言われれば無理だったかもしれないわね」
「そ……絶望に瀕した奴に契約は与えられん。契約とは前に進むための力だ。前に進む事を示し、困難に立ち向かう意思を表明する者だけが契約者になり得る」
「それはそれであんたはやっぱり該当しない気もするけど」
「堕龍関連を除けばオレは普通に冒険者だったぞ」
「そ」
どうだか。出征後の事も知っていればこそ、イリアは楽しげに笑う。とはいえ、それも一年か半年――エネフィアでのだが――だ。なのでその後の二年は勇者に相応しいとは思っていたし、こんなものは他愛もない冗談の一環だ。なので話を本筋に戻す事にする。
「まぁ、良いわ。そういうことならそういう事にしておきましょう……それで、話を戻すけど。どうなの?」
「さてなぁ……やってみない事にはなんとも言えんよ。ソラは数年来の付き合いだが、まぁ、ガッツはあるだろう。それにあいつの場合はシルフィに気に入られている事もある。相性が良いんだろうな。それはオレも認める……前世じゃないだろうが、どこかの時点で契約者になった事があったのかもな」
「そんな事があるの?」
「わからんよ……オレに関して言えば契約者となった事があるのはこのオレだけだ。前世は一切契約者となっていない」
「普通はそうよ」
「だわな……まぁ、そういっても大精霊達にはわかるだろう。だから目を掛けられている可能性は無きにしも非ず、だろうさ。オレにも機会がなけりゃ教えてはくれないだろうけどな」
流石にカイトでも気に入っている理由を真面目に教えてくれる事はないか。イリアもカイトの言葉に道理を見て、そうなのだろうと納得するだけだ。
「てなわけで、とりあえずやってみん事にはなんともな」
「一条って子は?」
「さて……先輩の方が存外可能性はあるかもな。あっちはまぁ、根性と負けん気がある」
「あんたにないものね」
「そうそう。オレにはないんだよ……って、ちゃうわい」
まぁ、ないけど。カイトはイリアの冗談に笑いながらツッコミを入れる。というわけで彼は気を取り直すと、瞬について論じた。
「兎にも角にも元々がアスリートだからだろう。クリア出来るとわかっていればクリアするまでやるタイプだな、ありゃ。あっちは大丈夫だな」
「そ……それなら陛下も安心されるでしょう」
「それで良い。まぁ、オレもフォローはするし、ソラに限って言えばそれを望まれてもいるだろう」
「本当に幸か不幸かね」
これがカイトに害意をなすような前世でなければ、大精霊達も契約者になるなんて提案はしなかっただろう。イリアはカイトの言葉をそう認識する。これにカイトも苦笑いながらも同意した。
「そうだな……ま、そういう塩梅だから行けそうって判断で良いと思う」
「そ……じゃ、そう陛下には伝えておくわ。ああ、明日謁見の際、あんまり緊張しないようにと伝えておきなさいな。畏まった場じゃないんだし」
「あいよ」
イリアの言葉にカイトが頷く。そうして、それを最後に密会は終わりを迎える事になるのだった。
さて明けて翌日。本来なら謁見が開始されるよりも前に、密かにソラと瞬の謁見は行われていた。そうして久方ぶりに冒険者としての二人を見た皇帝レオンハルトだが、すぐに目を見開いて相好を崩した。
「おぉ、二人共随分と見違えたな」
「「ありがとうございます」」
これは明らかに一端の猛者に相応しいだけの力量が整っている。やはり自身も武芸者ならばこそ、皇帝レオンハルトは油断してしまえば自分でも危ういだけの力を手に入れた事を察したようだ。そうして彼は隠すことなく、納得を口にする。
「聞いた当初は少し顔を顰めたものだが……なるほど……しかしマクダウェル公。こうであるのならばそれも添えよ。この場も不要ではなかったか」
「申し訳ありません。ですが陛下には幾百幾千の言葉を重ねるより、直にご覧頂いた方が良いかと考えましたので……」
「それは確かにな」
相応の力がある、と言われた所でそれに納得したかと言われると正直に言うと微妙だし、それなら見せに来いと言うのは間違いない。実際、今回だって激励と二人には言っていたがその趣きが強かった。というわけで言葉だけ聞けば苦言の体を呈しているが、その実皇帝レオンハルトは非常に上機嫌であった。
「それにこの呼吸法は気か。みなぎる活力は気によるもの……そして魔力については……うむ。やはり例のネックレスか。今もしているのか?」
「「はい」」
「そうか……なるほど。うむ。今の君たちであれば、確かに大精霊様が道を指し示された事も道理だろう」
元々魔力量の増大に関して言えば軍でさえしていない訓練をエネフィアに来て以降ずっとしているのだ。魔力についてはすでに並の冒険者を大きく上回っており、契約者の力を行使する事は不可能ではないと察せられたらしい。というわけでどこか値踏みするような皇帝レオンハルトの視線に、カイトが気付いた。
「ふむ……」
「陛下……お戯れはご遠慮ください」
「ははは……いや、すまん。どうにも血が騒ぐ。一戦、と思ったが……たしかにこれより試練に挑もうという戦士に茶々を入れるのは無粋か」
カイトの窘めに皇帝レオンハルトが笑って一つ謝罪する。そうして彼は一つ頷くと、二人へと告げた。
「よし。ならば二人共、契約者となった際は我が前にまた来ると良い。褒美を一つ取らせよう……無論、しっかり見せても貰うがな」
「「は、はぁ……」」
「陛下」
「ははは。許せ……なにせ公は戦ってくれんではないか」
「陛下……」
どうやら皇帝レオンハルトは非常に上機嫌らしい。カイトの数度の窘めに冗談を言いながら笑うばかりだ。そうして謁見はほぼほぼカイトと皇帝レオンハルトのやり取りに終始しつつも、なんとか終わりを迎えるのだった。
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