第3742話 様々な力編 ――報告――
殺し屋ギルドとの交戦から数日。なんとか長政の力を抑制する事に成功したソラであるが、そんな彼に長政の力の代替案として提示されたのは契約者となるという本来ならば代替案として勘案されないようなアイデアであった。
というわけでトリンとの相談。カイトから付随する様々なデメリットの念押しを経て、ソラは契約者となる道を選択。その調整に取り掛かったカイトからの指示を受けて、瞬とトリンの二人との間で相談を重ねる。そうして星矢の説得と日本政府としての今後の支援の約束を取り付けると、三人は改めてカイトの所へとやって来ていた。
「……あー……なるほどな。確かにそりゃオレが居た方が良かったか。どうにもオレも契約者やらを軽視しがちだなぁ」
結果報告を受けて、カイトがどこかバツが悪そうに笑う。確かに言われてみればこんな大事に自身が加わっていない事はおかしかっただろう。最悪は勇者カイトであるとバレかねなかったが、地球の特異性が相まって助けられた格好だった。
「はい……まぁ、幸い向こうも大精霊様の契約者となるという事がどれだけ大事か、珍しい事か正確に認識出来ていなかったご様子ですから、問題はなかったと断言して良いかと」
「そうか……トリンも悪かったな。二人のフォローをしてもらって」
「いえ……」
カイトの感謝に対して、トリンは少しだけ照れ臭そうに首を振る。というわけで少しだけ苦笑いでカイトは椅子に深く腰掛けて、次の話をする事にする。
「まぁ、とりあえず……説得は出来たならそれで良い。こっちも色々と手配を行っている所だ」
「手配と言うが何をしているんだ? 契約者となるのに手配も何もないと思うんだが」
「そりゃ、契約者となるだけなら手配はいらんよ。手配が出来るものでもないしな……どちらかというと現地までの渡航手段の確保とか、その後の政治関連のやり取りとかだな。とりあえず陛下が一回行く前に謁見させろ、と言ってるし、契約者となった後も謁見が必要にもなるから、その調整も必要だし……色々とはやってるよ。当然その謁見は密かに行わないといけないから、色々と状況は見極めんとならんし」
「そ、そうか」
流石は政治家。色々と根回しが大変らしい。瞬はカイトの語る内容に思わず頬を引きつらせる。
「それはまぁ、どうでも良い。こっちでやる事だしな……後は本当に色々とある。バルフレアにも調整依頼してたり、それはそれとして幽霊船の話とかあったり」
「幽霊船?」
「あはは……まぁ、実際としてあるからな。そして幽霊船だ。対応出来る奴が限られすぎてオレに頼む、って言われてるんだ。そりゃしゃーないけどさ」
しかめっ面の瞬に、カイトは冒険者ユニオン側がこちらに共有してきた第一次調査報告書に目を落とす。丁度読んでいたのがこの資料だった。といっても第一次調査は元々幽霊船の調査ではなく、周辺海域の調査がメインだった。
そこに幽霊船の目撃報告が記載されており、追加調査の前に出来る限りの情報を共有しておこうとなっていたのである。なお、この報告書と同時に本格的な調査の船団が出港した旨の報告も入っており、半月後には結果が上がってくるとの事であった。
「ま、これはオレの仕事だから、気にするな……ああ、ソーニャにゃ支援頼んでるから、あいつも討伐の折は抜ける事になる。その点、少し留意しておいてくれ」
「そうか。幽霊船だからか」
「そ……アリスと一緒にソーニャもだな。相手が特殊過ぎて武力があった所ででもどうにもならんよ。今回は冒険部への依頼じゃなくて、オレ個人への依頼と考えてくれた方が良い」
「なるほどな……そういえば俺やソラの武器ではなんとか出来ないのか?」
「うん?」
瞬の問いかけに、カイトは二人の武器を思い出す。期せずしてではあったが、二人共別方向の武器を有している。ソラの場合は太陽の力。即ち生命力。瞬の場合は冥界の力。即ち死の力と言っても良い。幽霊相手に通用しないのか、と瞬が気になったのは無理もなかっただろう。
「……まぁ、先輩は厳しいかもしれんな。現状では、って話だが」
「現状では、か」
「流石に死神と同格の力を使うには先輩はまだまだ腕が足りていない。しかも殺す方に特化している力だ。魔術にも薫陶を得て、その上で短刀と槍を媒体として冥界を顕現させるぐらいまで至れば出来るだろうな」
「それはまた……確かに今の俺では無理そうな話だな。ん? 俺は?」
これは確かに今の自分では無理そうだ。カイトの説明に納得した瞬であるが、その言葉に少し引っかかりを得たらしい。これにカイトは頷いた。
「ああ……<<偉大なる太陽>>は行ける……かもしれんな」
「行けるの?」
『まぁ、やれんことはないが……』
どこか感嘆が滲むソラの問いかけに、<<偉大なる太陽>>はカイトと同様に少しだけ歯切れが悪そうだ。それにカイトもやはりと苦笑いを浮かべた。
「やっぱりか」
『はい……流石に死神の領分を侵す事は出来かねる』
「だろうな。死者は死神……オレ達の仕事だ。そっちに力を借りる前にルテとか駆り出せ、って話だわな」
<<偉大なる太陽>>の言葉にカイトは道理が通っていると頷いて認める。とはいえ、そんな<<偉大なる太陽>>にソラが問いかけた。
「でも出来るのは出来るんだよな?」
『可能だ。太陽の力で御霊を送る事は不可能ではない。死とは正反対の力なので、反発はされるが……可否で言えば可能だ』
「よっしゃ」
『何故そこでよっしゃ、という声が出る』
「いや、手札があるかないかは重要だろ? カイトが常に居てくれるわけでもないし、今後は更にそうだろ? なら俺自身で出来る札が一枚あったら良いじゃん」
『それは確かにな』
ソラの言葉に道理を見て、<<偉大なる太陽>>も納得する。特に彼はカイトの代理や彼から離れて動く事も珍しくない。想定される場合は対応可能な手札をカイトが貸し出してくれるが、常に想定出来るわけでもないだろう。出来て損はなかった。そしてそんな彼の言葉にカイトも同意した。
「そうだな……とりあえずそれで良い。といっても、流石に死者相手になりそうな場合は先にオレを呼べ。対応はどうしても突発で、事後報告にならにゃいかん場合だけに留めてくれ。さっきも<<偉大なる太陽>>が言っているが、本来はオレ達死神やその神使、神官達の領分だ。お前はシャムロック殿の配下じゃないからそこまでとやかくは言われんが、やはり他の神使達が良い顔はしないからな」
「わかった」
そもそも万が一は対応出来るというだけでソラとしても出来るからやろう、というつもりはなかったようだ。カイトの指示に応諾を示す。というわけで諸々の雑談が終わった事もあり、カイトは脱線しかかった話を元に戻す。
「っと、すまん。とりあえずそれで話を戻すと、さっきも言った通り陛下が一回来いと言われている。聖域に行く前に一度謁見する」
「謁見って……なんで?」
「要は激励だ。元々かなり前から陛下も契約者は増やせないか、と仰ってた事は言っただろ? だから激励の一つでもしたいんだと」
それが立場的に必要だし、今後を考えるとやっておいた方が良い事も事実だが。カイトは少しだけため息混じりにそう口にする。
「まぁ、そういうわけだから明後日皇都に向かう。一泊二日の弾丸だが、そこは我慢してくれ」
「あれ? ってことは礼服とか」
「ああ、流石に今回は冒険者への激励だから、どちらかというとフル装備の方が良い。まぁ、礼服も持っていって損はないがな」
「ってことはすぐ用意しないと、か」
「こっちで色々と手配は掛けている。必要だったらすぐに言え」
「わかった」
カイトの言葉にソラが応ずる。そうしてそれを最後に報告は終わりとなり、二人は大慌てで謁見に向けての準備を開始する事になるのだった。
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