第3740話 様々な力編 ――返答――
殺し屋ギルドとの交戦から数日。ソラはカイトの力を借りて、自身の前世である浅井長政の抑制になんとか成功。しかしやはりその性根から相容れないとして、冒険者の中でも切り札と言える力を使う事に難色を示す。
というわけでそれを受けてカイトが代替案として提示したのは、契約者となるというある意味では更に難しい難行だった。そうしてソラはトリンとの相談を経て、カイトへと答えを返していた。
といっても流石に冒険部のギルドホームで出来る話ではないので、カイトが公務をしている所。即ちマクダウェル公爵邸の執務室にて、であった。
「そうか……だが一応聞いておく。本当に、良いんだな? わかっていると思うが、契約者となるってのは碌でもない事になりかねん……最初は隠せるだろうが、おそらく邪神との戦いが本格化したらそうも言っていられん。こっちに巻き込まれるという事だ」
こっち。それがどういう事を意味するかというのはソラも考えた上だ。故に、彼はしっかりとそこについて確認する。
「こっち……政治的、国家的な話って事だよな」
「ああ……エンテシア皇国は当然だが、風の契約者になればエルフ達の国も黙ってはいない。契約者ってのは単独の国という物ではない。当然、日本に帰ってからは地球という側面でも考えないといけない」
「……」
契約者となるという事は、二つの世界において国家的に関わらないといけなくなるという事だ。カイトの指摘に、ソラは僅かに沈黙する。そうして再確認し、一つ頷いた。
「ああ……全部考えて、それが一番良いと判断した。今後……地球に戻る事を考えた上で、だ。多分、そういうのも必要になってくるんだろう?」
「そうだな……オレ達が進もうとする道は特にそうだろう」
オレ達が進もうとする道。カイトは丁度机の上に乗っていた書類に視線を向ける。意図したものではなかったが、現在机にあった書類の一つはそれに関するものだった。
「それは……」
「今オレが進めている幾つかの計画の一つ。多世界間の規則や規約を取りまとめ、違反者の取締を行う組織の設立。まぁ、こう言うとかたっ苦しいが、商取引に関するものやらも含まれるから端的に言えば、か」
「前に言ってた奴か」
こうして書面化されて計画として語られると一気に国家プロジェクトじみているな。ソラは前々らからカイトが語っていた計画を思い出し、今しがた自分が話していた内容でもあると思う。というわけで覚悟が出来たのなら、と彼は魔糸で書類を浮かべてそれをソラへと差し出した。
「読んでみろ。契約者となる、という事はそれに関わるという事だ」
「……」
カイトから差し出された極秘と記載された書類を受け取って、ソラは数ページだけ目を透してみる。
「……すげぇな。どことどこが商取引を行ってとか目一杯だ」
「そうだ……それで違反者にどう対応していくか、というのを考えている。イリアやらハイゼンベルグの爺やらと一緒にな」
「……ありがとう」
「ああ、そこに置いておいてくれ……まぁ、おそらく実働部隊の統括はお前に預ける事になるだろう。先輩には実働部隊全体の総トップか」
「先輩に、か」
「先輩はもう承諾しているし、やる気満々だ。それにあの人の場合、最終的にはそうなるに値する立場でもある」
「どういうことだ?」
どうやら自分が預かり知らない間に色々と話は進んでいるらしい。ソラはカイトの語る話に聞いた事がなくて小首を傾げる。
「先輩の場合、立ち位置としてはケルトになると聞いたな?」
「聞いた。師匠がクー・フーリンだし、正式に赤枝? ってのに入団もしてるって」
「赤枝の戦士団は神話に属する戦士団だ。しかも先輩の場合、血筋は源氏、魂は酒呑童子の転生。日本の裏世界を統率出来る……それらもあって、少し前から先輩には契約者となる話もしていた。これはオレからだがな。だからシルフィもお前なら良い、という判断をしたんだろう」
「えぇ!?」
そんな話は聞いた事がなかった。ソラはカイトから明かされた話に思わず目を見開く。これにカイトは笑った。
「あはは……まぁ、先輩の場合は話す事もないだろうし、まだ実力は足りていないと思っているからかゆくゆくは、という返答になっていた。お前の事もあるし、そろそろもう一回話すか」
「そ、そうだったのか……」
「ああ……流石に契約者二人相手にはどの国も下手な手は打たん。流石に即座に公表はいくらなんでもキツすぎるから、更に下準備をしてその段階でオレの手が離れても良いだろう」
「つまりそのタイミングこそが、か」
勇者カイトが帰還を果たす時。カイトの言わんとする所を理解して、ソラは僅かにだが真剣な顔を浮かべる。その一方のカイトはどこか穏やかだった。
「ああ……どうせ復帰した所でやる事は多すぎるし、地球への帰還に目処が立った時点でオレは公表するつもりでもあった。その次を見据えてな」
「その次、か」
その次がどういう意味かは、今語られている所だ。ソラは再度先ほど見せてもらった書類に視線を向ける。
「ああ……暫くは二つの世界の交流に関して探りながら、今度はセレスティア達の世界の戦争も終わらせんとならんし……そこから更に三つの世界の交流も考えにゃならんし。厄介だな、本当に」
「セレスちゃんそう言ってたけど、マジでやんの?」
「やるよ……やり残した仕事はやらんとな。色々と目処も立ってるし……何よりあのバカまで人にくっついて来てんだ。やれってことなんだろ」
「バカ?」
親愛と同時に呆れが大いに滲んだ声に、ソラは小首を傾げる。何を言っているか意味がわからなかったのだ。これにカイトはしまったと苦笑いを浮かべた。
「ん? ああ、そっか。お前にはなんにも言ってなかったな……ウチの海瑠はサルファの転生者だ」
「……えぇええええ!? マジで!?」
「これ、黙っておいてくれよ。だからノワも一緒でな。最近見付かったんだ。ああ、レックス達は流石にいないぞ? あいつらまでいてたらオレは公爵やってないからな。居ないから公爵やってんだ」
「お、おぉ……」
あの素直かつ少し気弱な男の子が、あの少し偉そうなハイ・エルフの王子様だったとは。ソラは金髪碧眼の美男子を思い出して、思わず頬を引き攣らせる。
「あ、そういえばそれならヒメアさんも一緒なのか?」
「……あいつはどこに居るんだろうな。本当に……まぁ、大凡が理解出来ているから一緒に居ない事は確実にわかっているんだが」
「? そうなのか?」
「ああ。天桜にはいないし、エネフィアにもいないから地球に居る事は確実だな」
「ほーん……」
相変わらず色々と厄介な話に巻き込まれているものだ。ソラはカイトの柔らかながらもどこか呆れと諦めの滲んだ不思議な笑みに対してそう思う。
「ま、それはそれとして。とりあえず契約者の件、わかった。色々と手配をするから、暫く待っていてくれ」
「手配って何をするんだ?」
「爺やら皇帝陛下に話やらしに行く。ずっと陛下からも話は受けていたからな」
「そ、そうなの?」
「ああ……オレがずっと食い止めてたんだよ」
「え……なんか、すまん」
「あはは。それがお仕事だからな」
どうやら公爵として色々と立場もあるらしい。カイトはソラの謝罪に笑うだけだ。とはいえ、今後はソラ自身がこういう話を聞かなければならないという事でもあった。
「俺も行った方が良いか?」
「……行くか?」
「……おう」
いつもなら構わんというはずだが、今回は今後を考えてそうしても良いとカイトも判断したようだ。そしてソラもまた、それならと政治の話に参加する事を決めたらしい。
「良し……ああ、その前に。お前は星矢さんに話してこい」
「何を」
「いや、お前そもそも長政の件で心配掛けまくってるだろ。それぐらいは話してこい。契約者云々は……話しておいた方が良いだろうな。そこらを含めて、だ」
「あ、そうか……あ、お前の事はどうすりゃ良いんだ?」
「オレの事は隠しとけ。流石に向こう側の政治の話が絡みまくって更に厄介になる。この話は独立させておきたい……それにお前、シルフィと会った事云々は話してるんだろ?」
「おう……あ、そっか。そこから流れを構築出来るのか」
流石は自分より数段上だ。どう話を転がせば良いか、とカイトはすでに考え付いていたらしい。ソラは驚きながらもなるほどと理解する。
「そうだ……まぁ、絶対に止められもする。そこらの説得やらも頑張れ」
「だよな……トリンの増援ってありかな?」
「大いにありだ。みっちり話し合って戦略を練って説得しろ。それがお前の初仕事だ」
「頑張る」
カイトの言葉に、ソラは少しだけ緊張を滲ませながらも腹に力を入れる。というわけでカイトはソラが契約者となる手配やらその他いろいろな手配を行うと共に、ソラは父を説得するべくトリンと再び打ち合わせを行う事にするのだった。
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