第3737話 様々な力編 ――結果――
殺し屋ギルドとの交戦から数日。再び平穏な日々へと戻るはずのカイトであったが、そんな彼の所に入ってきたのは暗黒大陸への遠征の経路にて幽霊船が見付かったという報告と、日本側からのソラの異変に関する問い合わせであった。
というわけでソラの中で眠っていた浅井長政を封じ込めると、その後カイトは一旦ソラに代替となり得る力の存在を示唆。その力が使えるかどうか確かめるべく、直々に模擬戦を行う事になっていた。
そうして模擬戦の開始から暫く。カイトの猛攻に耐えながらもなんとかカウンターを繰り出していたソラだが、流石に疲れが見え始めていた。
「っと……そうだな。高速で動く相手への追撃なら雷撃がベストだ。流石に雷の速度は中々超えられない。そして風と土を組み合わせる事で雷が生み出せる。お前にとっては相性の良い攻撃方法の一つだろう。土塊の攻撃方法としてはベストだ。まぁ、オレには無意味だが」
「だから使いたくねぇんだよ……無効化してくるやついるから……」
「あはは……ま、それでも有用な攻撃手段ではある。使えて損はない」
「さいですか……」
疲労困憊のソラは、カイトの言葉にただただ疲れたように応ずるだけだ。そうしてそれを最後に、ソラがぱったりと倒れ伏す。
「んー……ティナー」
『うむー……終わったようじゃな。大体……5時間程度か。頑張ったもんじゃのう』
カイトの声掛けを受けて、結界の外で色々と補佐を行っていたティナが時計を確認する。おおよその経過時間を告げる。これに、ソラががばっと顔を上げた。
「そ、そんな経ってたのか!?」
「そりゃのう。まぁ、結界内部の体感時間が狂うような結界はしておったから認識はなかったじゃろ。色々と気にせんようにしてやったからのう」
「い、いや! そういうことじゃないだろ!?」
「ああ、5時間は中での話じゃ。外じゃと1時間ぐらいしか経過しておらんから安心せい」
「そ、そうなのか……」
安心した。ティナの返答にソラが再び地面に突っ伏す。そうして突っ伏した彼に、カイトが回復薬を投げ渡した。
「ほらよ」
「っと……悪い……はぁ……なんか雅と戦った時よりずっと疲れた……」
「まぁ、あいつは遊ぶからな。途中回復出来るようにもしてくれてただろうし」
「そうなんだよなぁ……まぁ、そのかわりガチりにも来るから何回死ぬかと思ったか」
ぐびぐびぐび。回復薬を飲みながら、自分の体感としては一ヶ月ほど前の出来事を思い出す。雅が持久戦を仕掛けてくれたから良かったものの、その持久戦とて完全に雅の手のひらの上だった。戦い抜けたという感覚はほぼほぼ皆無だった。
「あはは……そうだな。そこが雅の良い点であり悪い点だ。あいつは戦闘に遊びを入れる。気まぐれで気分屋だ……まぁ、ガチりに来るとクオン並の戦闘力で殺しに来るからマジやめて欲しいんだけど。そこらあの二人似てるんだよなぁ」
二つの世界にいる剣姫達を思い出し、カイトの顔に苦笑いが浮かぶ。と、そんな事を思い出した彼に、ソラが問いかけた。
「お前の見立てだとどっちが強いんだ?」
「さぁなぁ……常在戦場という意味なら両方一緒だし。才能としても同レベルだろ。後は使う技の面で言えば両者共に極まっている。さほど差異はないだろうな。後は培った時間だが……この面で言えば雅に軍配が上がる。だが他方身体的なスペックであればクオンに軍配が上がるだろう。あいつは謂わば武芸者の血統種みたいなもんだからな」
「ふーん……って、ってことは俺、クオンさんに戦い挑んでたみたいなもんなのか」
「そう考えて良いだろうな……殺されなかったのは幸運だろう」
「うへぇ……」
本当にカイト達の戦いが終わるまでの暇つぶしとして戦ってくれて助かった。まぁ、それでも万が一カイトが圧勝していれば即座に殺されていたのだから、あの決着になった事で図らずも生き延びられたという所だろう。そうして暫く雑談していると、回復薬の効果がゆっくりと現れてきたらしい。ソラが上体を起こす。
「ふぅ……気やらなんやらで回復出来る土台が出来てて良かった」
「だな……おかげで少しは回復速度も上がっている。休み休み戦えれば、という所だろう。更にはウチじゃタイマンはあんまり考えなくても良いしな」
冒険部に所属している限りはあくまで集団戦になる事が多いのだ。これがまだ一対一で戦う事が最適ならそうするが、一対一で勝てないなら人数の有利を活かして戦うのが上策だ。雅相手のような圧倒的な格上を想定しない限り、回復出来る余裕は作れるだろう。カイトもソラもそう判断していた。
「だな……まぁ、それでもタイマンやらにゃならんときはあるわけだけど」
「あはは。そこらは言い始めるとどうにもならん。ま、タイマンで5時間なら良い塩梅だろう。オレやら雅やらは想定しちゃならん相手だしな」
「即撤退案件か」
「そ。オレやら雅やらが出てきたら普通は逃げろ。勝ち目なんてないし、戦ったらそっちの方が被害がデカくなる。当然、今のお前でも本気の雅を前にしたら一瞬と保たん。それなら遠距離で射掛けて足止めしつつ、速やかに撤退が最善だ」
「足止め出来るのか?」
「数は射て。質でどうにもならんでも数さえ放てばどうにかなる。それがコンマ数秒だろうとな」
「貴重なご意見どーも」
その領域の相手を想定してのコンマ数秒になんの意味もないだろう。ソラはコンマ数秒あれば自分なぞさいの目切りに出来てしまえるだろう雅の実力を思い出し、ただただため息を吐く。そうして彼は呆れた様子でそういえばと思い出した。
「でもお前にゃそんな足止めも通用しない、と」
「ま、まぁな……ほとほと自分でもイレギュラーだとは思うが」
「最悪だな」
「あはは……」
だからこその最強なのだろうが。ソラはそう思いながらも、カイトの攻撃が対軍相手でも通用してしまう正しくワンマンアーミーな男を改めて理解して、本当にこの男には常識が通じないと呆れ顔だ。
まぁ、かくいうカイト自身も改めて自分の特異性を思い出して苦笑いを浮かべていたのだから、彼自身常識が通用しないと思っている様子だった。というわけでそんな彼にため息を一つ、ソラは問いかける。
「はぁ……で? どうなんだ? 今の出力とかで5時間ぐらいなら」
「うん……まぁ、持久力は大幅に減るが、それは長政の力を借りても一緒だしな。そこは目を瞑るか」
「そか……なら資格はあり、と」
どうやら頑張った成果はあったらしい。カイトからの評価にソラは少しだけ嬉しそうな顔を浮かべる。だがそんな彼のつぶやきに、カイトは首を振った。
「いや、それはオレが判断出来る事じゃない。オレは……そうだな。資格試験を受ける資格がある、と判断しただけだ。要は受験要項に合致している、書類審査通過、という所かな」
「うげ……マジ?」
「まぁな……ただそれに見合う力ではある」
「なんなんだ、その力って」
あくまでカイトをして試験を受けるための門番のようなものに過ぎないらしい。どこか言い淀んだ様子のカイトに、ソラが小首を傾げる。
「それは」
『それは僕の力だよ。この世の多くが耳にする、しかしほとんどの人がたどり着けない僕達の力だ』
カイトの言葉に割り込むように、声が響く。そうして、ソラはさらなる力が明かされる事になるのだった。
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