第3736話 様々な力編 ――試験――
殺し屋ギルドとの交戦から数日。再び平穏な日々へと戻るはずのカイトであったが、そんな彼の所に入ってきたのは暗黒大陸への遠征の経路にて幽霊船が見付かったという報告と、日本側からのソラの異変に関する問い合わせであった。
というわけでソラの中で眠っていた浅井長政を封じ込めると、その後カイトは一旦ソラに代替となり得る力の存在を示唆するも、その力を手にするに値するかどうかを見定めるべく翌日模擬戦を行う事になっていた。
「さて……」
太陽の輝きを纏って肉薄してくるソラに、カイトは一瞬だけトントンとこめかみの辺りを叩く。そうして数瞬だけどうするか考えて、答えが出ると同時にソラが彼へと斬りかかる。
「っ!?」
斬り掛かった瞬間、カイトの姿が霧のように消えた。ソラは眼の前で唐突に消えたカイトに思わず目を見開く。そうして一瞬の困惑の直後、ソラは背後に殺気を感じて<<偉大なる太陽>>を振り抜いた。
「はっ! っ」
『女神の矢だ! ソラ! 先ほどの比ではないぞ!』
「わーってる!」
降り注ぐ無数の白銀の矢に、ソラはぐっと<<偉大なる太陽>>を握りしめる。
「<<太陽光>>!」
ソラが口決を唱えるや否や、<<偉大なる太陽>>から黄金色の輝きが放たれて降り注ぐ全ての白銀の矢を消し去った。そうして無数の白銀の光条が消えた先に、カイトは居た。
「っ、遠い」
攻め込むか否か。ソラは一瞬だけ考え込む。自身の速度でも数瞬を要する。カイトの武器を考えると、間違いなく次の速射が間に合う距離だ。だがそうして考え込む隙を、カイトが見逃してくれるわけもなかった。
「っ」
やっぱり速い。ソラは一瞬の内に自らの眼前に迫りくるカイトに思わず顔を顰める。だがおそらくこうなるだろうという漠然たる予想はあったようだ。カイトの斬撃を防ぐと共に、その背後に土塊の武者を顕現させて攻撃させる。
「読めてる」
「わーってるよ!」
楽しげなカイトに、ソラはしかめっ面で応ずる。そんなカイトの手には双剣があり、片方でソラを攻撃。もう片方で背後から迫りくる土塊の武者に応じていた。が、ソラの言う通りこの展開は彼をして理解していたのだ。なのでもう一つ、彼は手札を切っていた。
「む」
右手でソラの盾。左手で土塊の刀。両手が塞がっていたカイトであるが、その更に別方向から今度は疾風の如き速度で風の踊り子が迫りくる。これに彼は一瞬だけ目を丸くするも、すぐに笑みを浮かべる。
「よろしい。上出来だ」
「は!? なんだよ、それ!?」
自身の見ている前でぶわりと広がったカイトの髪に、ソラは思わず目を見開く。そうして彼の見ている前で広がった蒼い髪はまるで自ら意思を持つかのように拳の形を形作ると、一つが風の踊り子を切り裂いてまた別の一つが土塊の武者を打ち壊す。
「こーいうのも出来るんだぞ、と」
「そんなのあり!?」
長い髪を操って無数の拳を生み出して楽しげに笑うカイトに、ソラは大慌てで距離を取る。だがその瞬間、彼は自身の身体が思い切りカイトへと引き寄せられる事に気が付いた。
「なっ」
『ソラ! 手足をしっかり見ろ!』
「っ」
そういうことか。<<偉大なる太陽>>の指摘でソラは自身の両手足に細い糸のような何かが絡みついている事に気が付いた。
髪に白い糸を紛れさせ、彼が困惑している間に両手足に絡みつかせていたのだ。とはいえ気付いた所で一瞬で距離は縮まり、再び両者の距離が先程と同程度まで縮まる。
「殴られるの、いつぶり?」
「知るか! はぁ!」
楽しげに無数の髪の拳を構えて待ち構えるカイトの問いかけに、ソラは総身から黄金の魔力を解き放って自身の両手足を縛り付ける純白の糸を焼き切る。そうして太陽の如き猛火がソラの周囲を包み込み、彼の髪色さえ黄金色に変色させる。
「良し良し。段階的な強化も可能か……そして」
「なんでこんな状況でお前余裕なんだよ……」
「そーりゃこの程度で死ぬような戦場は駆け回ってないんでな」
より柔軟に。より確かに存在を主張する土塊の武者達に取り囲まれながらも、カイトは余裕の笑みだ。もちろんそれは演技でもなんでもなく、ただ事実が事実としてこの程度が余裕である事を知らしめていた。そうして、彼が真紅の大鎌を振り抜いて周囲を一撃で一掃する。
「な?」
「まだまだ!」
「いーや、まだまだだ」
まだまだもっと行ける。そう言わんばかりに先ほどより遥かに強固になった土塊の武者達を顕現させるソラに、カイトは再び軽く大鎌を一薙ぎ。一撃でそれを両断する。だが、その瞬間だ。両断された断面がまるでなかったかのように伸びて接着する。
「お? おっと」
「どうだ!?」
「面白いな……意識を乗せない事で土塊としての性質を強めているのか。その割に人間さながらの動きが出来るから、戦闘力も十分……苦し紛れや急場しのぎって感もなくはないが、並の魔物なら十分か」
「うるせぇよ! そもそもお前なんて想定してねぇんだよ!」
その通りだよ。カイトの推測にソラは真っ赤になりながらそれを認める。本来の想定ではこれにかつて自身に仕えた浅井家の武士達を憑依させ、カイトのように自動で戦闘する戦力として運用するつもりだった。だがそんな事はカイトの助力でもなければ出来るわけがない。なのでソラは苦肉の策として、敢えて意識を乗せない事で即席のゴーレムとして運用する事を考えたのであった。というわけで土塊の武者と共に、ソラは即席の連携でカイトへと攻め込む。
「はぁ!」
「おっと」
ごぅ、と全てを焼き尽くすような黄金の斬撃が迸り、それを避けた所に土塊の刀が襲い掛かる。これにカイトは大鎌を器用に操って刀を絡め取り、更に土塊の武者を両断。上下に両断された上半身を蹴っ飛ばして、しかし目論見どおりにならず僅かに苦笑する。
「おっと……流石に蹴れるようにはしてないか」
「ったりめーだ!」
土と風をうまく操っているな。カイトはまるで流体のように衝撃を吸収してみせた土塊の武者に満足げだ。そうして彼の蹴りをうまく防いだ土塊の武者が再び刀を振りかぶり、更に背後からはソラが一歩踏み出してカイトへと肉薄する。
「<<地母儀典>>も十分使えている。太陽の加護を受けながらも戦闘も可能」
当然だがソラに土塊の武者を操るなんて芸当が出来るわけがない。<<地母儀典>>の補佐があってこそだ。だがそれは即ち高度な魔導書に常に魔力を使い続けられているという事に他ならなかった。そうして、前後から攻め立てられるカイトは再度双剣を顕現させると90度だけ回転して両者を左右に捉えて両側からの攻撃を受け止める。
「はっ」
「っ」
これは先程と同じ事だ。だからソラもまた同じように、しかし今度はもう一体の土塊の武者を顕現させる。だがこれに、カイトは笑った。
「わかってるんだよ」
「って、そんなのもできんのかよ!?」
「手だからな」
現れたもう一体の土塊の武者に、カイトは巨大なハンマーを持たせて迎撃。顕現すると同時に上から叩き潰す。いくら打撃の効果が薄くとも、上から思い切り叩き潰されるのではどうしようもない。そう考えたのだが、案の定だったようだ。
「ま、わかってたけど……楽じゃないか」
「なにがだ!?」
「向こうの世界も楽な世界じゃないって話だ」
「……当たり前だろ」
カイトの指摘に、ソラは思わず盛大に顔を顰めて手を止める。過去の世界で戦った相手はこの世界の平均を大きく上回っており、今の彼らをして死にかけたのだ。
それを見ては流石に彼らも怠けてはいられず、魔力を増大させる訓練は常に続けていた。数ヶ月にも及ぶ訓練を行ったも同然であり、魔力量が飛躍的に増大しているのは当たり前の話だった。というわけでそんなソラに、カイトは笑う。
「あはは……良し。じゃあ、こっからはその状態でどれぐらい保つか、だな」
「え゛」
「頑張ってくれ」
「うそん……」
「マジでーす!」
「げふっ!」
楽しげなカイトに、ソラはどうやらここからは自分の全力がどれだけ続くかを見定められる事になったらしいと理解する。そうして次の瞬間、彼へとカイトの蹴りが突き刺さり、それからソラが限界に到達するまで彼はひたすらカイトから攻め立てられる事になるのだった。
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