第3734話 様々な力編 ――試験――
殺し屋ギルドとの交戦から数日。再び平穏な日々へと戻るはずのカイトであったが、そんな彼の所に入ってきたのは暗黒大陸への遠征の経路にて幽霊船が見付かったという報告と、日本側からのソラの異変に関する問い合わせであった。
というわけでソラの中で眠っていた浅井長政を封じ込めると、その後カイトは一旦ソラに代替となり得る力の存在を示唆するも、その力を手にするに値するかどうかを見定めるべく翌日模擬戦を行う事になっていた。
「で、俺はどう戦えば良いんだ?」
「そうだな。全力で来い。まず全力がどこかを見極めて、そこから追加した場合にどこまで行けるかを測る必要がある。そもそもの地力が足りんのに力を追加した所でたかが知れている。いや、それ以前に地力が足りないと力を追加出来た所で使えん。選択肢に入れられん札を持ったら逆効果だ。どの程度までたどり着けていて、この札に意味があるのかを見極める必要がある」
「そりゃそうだな」
長政の力を借りるにせよ借りないにせよ、地力がなくて良いわけではない。お手軽簡単に強くなる手段なぞどの世界にも、どの時代にも存在していないのだ。そんな当たり前の指摘に、ソラも納得。数度屈伸をして、首を鳴らした。
「なんてか久しぶりだな、こうして模擬戦すんの」
「そうか? この間やった気がするが」
「そりゃお前はな。俺達は過去に行ったから」
「ああ、そういえばそうだったな」
すっかり忘れていた。カイトはソラの言葉に笑う。そこらもあり、この模擬戦の場を設けようと考えたわけだ。というわけでこちらも数度屈伸し戦闘に備えるカイトだが、そんな彼が告げる。
「まぁ、言うまでもないがオレの方は手加減する。今回の目的はお前がどの程度やれるようになったか、っていう話だからな。と言っても今回は力を説明する云々じゃない。だから色々と手を変え品を変え、とはするつもりだ」
「いつもの模擬戦とは違うってわけか。りょーかい」
いつもの模擬戦であれば、ある程度特定の方向性があってそれに対する対抗策や対応を練るというのが基本方針だ。だが今回はあくまでもソラの実力を測る事が目的だ。手段を限定する必要はなく、判断の誤りを生みかねないのでそういった攻撃の限定はしないつもりだった。まぁ、そういっても流石にいきなり奇策を弄するつもりはないようで、初手はいつも通りの刀だったが。
「さてと……それじゃあやるか」
「おう」
カイトの言葉にソラが屈伸を終えて応ずる。そうして彼の手に<<偉大なる太陽>>が顕現する。が、そうしてすわ戦闘開始という段階になり、ソラがはっとなって問いかける。
「……あ、そうだ」
「なんだ?」
「いや、初手から全力で行った方が良いのか? あ、いや。すまん。言い方間違えた。初手から全開……フルスロットルで行った方が良いのか?」
「ああ、それか」
全力はあくまで持っている全ての力を出し切る事であり、全開は全ての力を放出するという所という事かな。カイトはソラの言わんとする所を理解する。
当然だが最初からフルスロットルなんてしてしまえばいくら魔力量の多いソラだろうとすぐに枯渇する。どういう方針で行けば良いか、は確かに気にしてやるべきだろう。
「全力だ。どの程度出力の調整が出来るか、ってのも重要な項目だからな」
「りょーかい……ってことは最初から切り札切りまくりのガチらなくて良い、ってわけか」
そうなってくるとやりようは幾つかあるな。ソラは現在の武装を頭に思い浮かべて、自分の脳内に選択肢を幾つも浮かび上がらせる。そんな彼に、カイトが問いかけた。
「他に質問は?」
「……ダイジョブ。行ける」
「おし。じゃ、改めて……よろしくおねがいします」
「よろしくおねがいします」
両者同時に頭を下げる。そうして頭を上げて、模擬戦はスタートだ。だがまぁ、当然の道理だがそこで即座に戦闘開始にはならなかった。
そもそもソラは防御主体の戦い方。カウンターを主な攻撃方法にしている。そしてカイトは言うまでもなく神陰流。新陰流にも派生しているその戦い方は後の先を取る事にこそある。更にカイトはソラがどう出るか、を見定めるべく攻め込む事はない。開始と同時に戦闘が起きないのは当然の話だっただろう。というわけで全力をカウンター狙いと判断し、カイトは敢えてこちらから攻め込んでやる事にする。
「ふっ」
音もなく地面を蹴り、カイトがソラへと肉薄する。そうして一瞬の内に肉薄してきたカイトに、ソラはわずかに顔を顰めながらも放たれる袈裟懸けの一撃を軽く防ぐ。
「っ、はぁ!」
「っと……良し。お前が覚えているかはわからないが、この速度はお前がシンフォニア王国に飛ばされる前のお前に出していた速度の上限だ。この程度なら十分に防げるな」
「あははは……マジか。なんってか向こうでお前とか雅とか見てたから全然遅く感じちまった」
「雅か……懐かしい名だ。何度も殺されかけた。確かにあいつらの速度はこれじゃ比べ物にならん」
流石に自分でさえ苦戦させられた猛者達の速度と今の速度を比べれば比べ物にならないのは無理もないだろう。カイトは過去の世界で繰り広げられた激戦を思い出し、ソラの言葉に笑う。というわけで、彼は改めて気を引き締めて今回の試験のレベルへと戦闘力を上昇させる事にする。
「さて……流石に雅の全力になってくると今のお前じゃ死ぬからな。どの程度にしてやるか」
「……」
そんなもん当然だろ。ソラはゆっくりと上昇していくカイトの戦闘力を肌身に感じ生唾を飲みながら、そう思うばかりだ。最後の戦いとなった雅との戦いだが、これは言うまでもなくソラの惨敗にも近い。
というより生き延びられたのは単に雅が暇つぶしの相手が欲しかったからというだけであり、もしカイトとの交戦がなければ瞬殺されていただろう。そんなクラスにまで上昇されてはただただ逃げ回るしかなかった。
「銀剣卿も厳しかったか?」
「当たり前だろ……先輩ボロボロになってたぞ」
「だろうな」
今のソラと瞬の間に実力差はさほどない。なので瞬が勝てない相手にソラが勝てるかというとそれはありえず、あり得るとすると相性の問題になってくるだろう。ならば銀剣卿に勝てる可能性はないに等しく、そもそもそれはカイトもわかっていた。
「良し……じゃ、この程度にしておくか」
「ぐっ……」
強い。カイトから迸った圧力に、ソラが思わず気圧される。全力を出させてこちらを測るのだから、当然だがソラより数段上の戦闘力だ。無論それでも明らかに余裕があり、まだまだその背が遠い事が察せられた。
「だいたいこれでウチ……といっても<<青の騎士団>>だが。それの中堅クラスの戦闘力だ。新入りはお前らも見ただろうが、ペーペーの新人共のレベルだ」
「俺達だろ」
「あははは……そうだな。新人の面倒を見てる奴らが出してるのがこれ、って考えろ。四騎士達は更に上だし、武名を轟かせた騎士達はもっと上だけどな」
「だからどんだけ層が厚いんだよ……」
しかも上にばっかり。ソラはカイトの言葉に呆れながらも、改めて<<偉大なる太陽>>の柄を強く握りしめる。そうして次の瞬間、カイトが先程とは比べ物にならない速度で踏み込んできて、再び戦闘が再開される事になるのだった。
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