第3727話 様々な力編 ――合戦――
殺し屋ギルドとの交戦から数日。再び平穏な日々へと戻るはずのカイトであったが、そんな彼の所に入ってきたのは暗黒大陸への遠征の経路にて幽霊船が見付かったという報告と、日本側からのソラの異変に関する問い合わせであった。
というわけでバルフレアの要請を受けて幽霊船への対処。ソラの父である星矢の要請を受けてソラの過去世の因縁に決着をつけるべく町の外へとソラと共にやってきていた。そうして身体のコントロールを浅井長政に奪われたソラであるが、彼が乗っ取られると同時に場は書き換わった。
そうして現れた小谷城と無数の影法師を前に、カイトもまたかつて浅井家を滅ぼした織田信長の力を顕現。織田勢を出現させると城攻めに取り掛かる。
「……」
たんたんっ。扇子で手拍子を鳴らすように叩きながら、カイトはこちらの優勢を理解。次の一手を考える。先にも言われているが、今回の城攻めにおいて籠城戦は意味がない。
そもそも実質的に戦っているのは織田信長を憑依させたカイトと、浅井長政に乗っ取られたソラの二人だ。たった二人の戦いだというのに籠城戦に意味はない。
もちろん、外部からの援軍なぞあり得るわけもない。というわけで少し考え込む彼の下に、音もなく小柄な人影が舞い降りる。ただし、これまでの影法師と異なりまるで生者の如く肉を持っていた。
「殿」
「……お主か。姿を見せんからおらぬのかと思うたぞ」
「まさか……私は殿の目。殿の耳。殿の手。殿の足……名もなき影。殿が如何なお姿。何時の世であれ、何処までもお供致します」
「で、あるか」
まるでそれこそが正しい姿だと言わんばかりに自らの背に向けて発せられる言葉に、カイトは目を細める。無論だからといって彼もまた影の言葉に振り向くことなく、影の言葉をただ聞くだけだ。というわけで彼は自らの影へと問いかける。
「して来たのであればおおよそは掴んだということであろうな?」
「はっ……すでに又左殿に伝えております」
「さすがよ。それで奴の姿がふと消えたわけか」
こちらはすでに影法師を脱して、非常に精巧な自意識を確立させた。故に機を見るに敏。カイトの指示なぞなくともその当時、そのように動いただろう通りに勝手に動いた。
「で、どうじゃ」
「惜しむらくは松永殿がいらっしゃらないという所。松永殿がいらっしゃればより鮮やかに攻めて見せましょう」
「あれはのう。冥府より連れ去られてしもうた。呼べんのよ……いや、呼べば当人が笑って来るじゃろうが」
「存じております」
「で、あるか」
たんたんっ。カイトは楽しげに影の言葉に応ずる。そうしてそんな言葉が交わされたとほぼ同時に、城の裏手で鬨の声が上がった。
「犬千代の奴め。相当にはしゃいでおるな」
「又左殿はどうやら殿の言葉が相当に響いたご様子。更に自分がここまで動けていたかと年甲斐もなくはしゃいでらっしゃいます」
「年甲斐もなくと言うてやるな」
「ふふ……ですがこれでこそ我ら織田勢かと」
「……」
影の言葉にカイトはただ笑うだけだ。後年にどうなろうと、自分が生きていた時代は誰しもが夢を追っていたのだ。だからこそ夢を追っていた頃の姿を取り戻し、夢を見させてくれた主人が呼べば誰も彼もが戦場で暴れまわるのは当然の道理でしかなかった。
というわけでかつての姿で呼び出された前田利家の奮戦を受け、各所で名のある猛将達が更に奮起。戦は更に苛烈なものへとなっていく。そうしてまた暫くは一進一退の攻防戦が続くわけだが、カイトの顔には笑みが浮かんでいた。
「攻めの三左と鬼武蔵相手によぉやりおる……浅井家も伊達ではないのう」
「殿」
「どうじゃ」
「はっ……城内に動きあり。来ます」
「そうか……儂もそろそろ出る……一応聞くが。猿、間違ってもこっち狙っとりゃせんよな?」
「その言葉、猿殿が聞かれれば相当嘆かれますよ」
「いつものことじゃろ」
「ははは」
それもそうなのですが。カイトの冗談に影が楽しげに笑う。そうしてそんな笑い声が終わるか終わらないかの頃に、小谷城の城門が開かれる。
「……来たか」
「はっ……あ」
「む」
開かれた城門から現れたのは、長政を筆頭にした何人もの実体を有する武者達だ。といっても流石に格が違う。カイトは織田勢の大半を実体化させているのに対して、長政はそもそもソラの身体を強引に乗っ取った上にそもそも本人でさえ使いこなせていない力を使っている。側近十数名が限度であったようだ。そうしてそんな長政に対してカイトが打って出ようとしたその瞬間、大声が響き渡る。
「殿ぉおおおお!」
「犬千代か。なんじゃ、うるさいぞ」
「っと……殿。赤母衣衆に声を掛けて参りました。新九郎殿の周りはお任せを」
カイトの苦言に、利家が頭を下げて報告する。
「で、あるか……では」
「おうっ!」
「よし! 駆けるぞ、犬千代! 供をせい!」
「おうっ!」
カイトが念ずるだけで、虚空より一匹の馬が現れる。そして二人が一斉に駆け出すと共に、赤母衣衆という謂わば近衛兵とも言える供回り達が戦場を突っ切って合流する。そうして、戦国時代であればあり得なかっただろうカイトと長政の直接対決が開始されることになるのだった。
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