第3724話 様々な力編 ――対応――
殺し屋ギルドとの交戦から数日。再び平穏に戻ったカイトであったが、そんな彼の元へと今回の一件の情報共有と共に、最大の出資者への今度行われる暗黒大陸への遠征の進捗報告を行うべくバルフレアが訪れる。そんな彼から報告された現状を聞き終え、一段落していた両者に入ってきたのは暗黒大陸へ向かう航路の近辺での幽霊船発生の報告と、日本側からのソラの異変に関する状況確認の連絡であった。
というわけでソラの異変に対して彼の父にして総理大臣である星矢へと状況を共有していたカイトであるが、そんな彼へ状況を聞いた星矢から協力を要請されることになる。
そうして数日後。色々と準備に奔走していたカイトと星矢であったが、星矢はソラの過去世が浅井長政であることを知ることになる。というわけで今度はそれをカイトが聞くことになる。
「……」
『……』
ソラの過去世が浅井長政である。そう述べられた後、長い沈黙が場を支配する。なにせ浅井長政だ。当時の妹の結婚相手。正しく身内だ。織田信長からすると裏切るとは到底思っていなかった人物で、命からがら逃げ出したと言って過言ではない。そんな相手の生まれ変わりだというのだ。星矢をして何かを言えるわけがなかった。
「……新九郎殿か……因果なものよ」
『……』
これはおそらくカイトではなく織田信長当人だ。どこか泣きそうな笑みを浮かべ相当の時間を掛けて出てきた言葉に、星矢は無言でそう思う。と、そんな一方でカイトが数度こめかみの辺りをトントンと指で叩いて首を振る。
「……すいません。どうやら織田信長当人が出てきてしまったみたいです」
『いや……そうだろう。俺からしても浅井長政という人物に対する織田信長の心情は察するに余りある。抑えきれずとも仕方があるまい』
そして同時に、理解も出来た。ソラが危惧しているのはそういうことなのだろう、と。星矢は苦笑気味に笑うカイトにそう思う。今のは明らかに過去世の織田信長が目覚めていることにより、カイトの意思に反して出てきた言葉だ。
それと同じように、ソラもまた過去世の浅井長政が勝手に発言をして敵を怒らせたことがあるとは聞いている。勝手に口を動かせるのなら、手足を動かせない道理はない。
もし万が一、戦闘中にそんなことが起きてしまえば自分は当然、カイトやその周囲だって危険になる。それを危惧するのは当然の道理でしかなかった。
『……これは答えなくても良いが。織田信長はなんと言っている?』
「……正直に言えば沈んでいますね。相当。基本豪放磊落に思えて自分勝手なあいつですが、まぁ、その実。相当身内には甘いですからね」
『それは聞いたことがある……というよりそれは歴史を知っていれば常識だろう』
「あはは」
自身の冗談めかした言葉に星矢が笑って応ずるのを受けて、カイトもまたおどけてみせる。そうしておどけてみせた彼だが、暫くして気を取り直した。
「……まぁ、かなり沈んでいます。言うまでもなく当時の織田信長にとって浅井長政とは裏切るわけがないという人物だ。そんな相手に裏切られた。気落ちするのも無理はないでしょう。それこそ裏切ったと言われて信じなかった、と言える領域としては十兵衛を上回る。十兵衛……光秀に関してはやるだろうなぁ、ぐらいは思っていましたし、光秀に裏切られたならもうどうしようもないと思っていたぐらいまであったので……」
『だろうな』
明智光秀が裏切ったと聞いた時、織田信長から出た言葉はであるか、というどこか諦めの滲んだ言葉だ。それは理由もおおよそ理解できており、裏切るのも仕方がないと諦めていればこそと言えただろう。
だが浅井長政だけは裏切ったことを信じられず、しかも裏切る理由までわからなかったというのが通説だ。それが再び現れた挙げ句再び裏切るかもしれないとなれば、怒りよりも何よりも気落ちするのは無理もなかった。
『……ん? 光秀に裏切られたのはわかっていた?』
「あはは……秀吉が暗躍してたので」
『そ、そうか……それはそれで詳しく聞きたくはあるが』
「まぁ、それはまたの機会にでも……ですが、そうですか……浅井長政と」
改めてソラの過去世に言及して、カイトは深い溜息を吐いた。それは心底どうしたものかと考えている様子であった。
「厄介ですね。しかも裏切りたくて裏切った、となると……ソラの性根とも真っ向から対立している」
『ああ……父である俺が言うのもなんだが、あいつはああ見えて真面目だ。そして色々と物事を深く考えている……深く考えすぎの時も多いが』
「あはは……ええ。だからこそ許せないんでしょうね、浅井長政が。どう考えても自分のせいで全てが滅んだんだ。それも裏切った時からわかっていたのに。お市の方も、浅井家も……それこそ浅井三姉妹が生き残れたのは織田信長が甘かったからだ。すべて滅ぶ可能性はわかっていたのに、他も巻き込んで自爆めいたことをしたのが許せない。そしてそれを誇ってさえいるというのだから、尚更あいつには許せないはずだ」
特にソラの場合は。カイトはソラが数年前にグレて周囲に迷惑を掛け続けていたということを思い出し、だからこそ彼はそれを悪びれもしない浅井長政が許せないのだろうと察していた。
『なのだろう……君にも覚えがある、か?』
「あはは……ええ。まぁ……周りに迷惑を掛けて痛い目に遭った。女の子に泣かれるのは堪えますね」
『そうか……まぁ、それはそれとしてだ。どうしたものだろうか』
「どうしましょうか」
星矢の問いかけに、カイトもまたどうしたものかと悩ましげだ。流石の彼もこの事態は想定しておらず、どうしたものかと悩ましげだった。
しかも厄介だったのは、ソラの過去世が浅井長政でありその裏切りの事情もあまりに独りよがりだ。これが何かしらの大義があったなら仕方がないとソラも諦められたのだろうが、こうも自分本位の考えでは説得も難しかった。
「オレも織田信長であった手前気にするな、とは言えますが……」
『そういう問題だけではない、か』
「ええ……あいつが求めているのは力です。こればかりはこちらの世界で生きていくには仕方がない。そしてあいつも責任から逃げられるような器用な性格はしていない。あいつの性格上、手を伸ばさざるを得ないでしょう」
『ふむ……』
今のソラが置かれた立場と、ソラの内面に潜む爆弾。封じれるなら封じたいが力そのものは欲しいが、同時にいつカイトに危害を加えるかわからないのだ。ソラが苦しむのも無理はなかった。というわけで二人してああでもないこうでもないと悩むわけだが、唐突にカイトが目を丸くする。
「……ん?」
『どうした?』
「……ああ、すみません。そこそこ時間が経過してたみたいです。ちょっと別の用事が入ってしまったみたいだ」
『……ああ、もうこんな時間か』
ああでもないこうでもないと話し合っていると意外と時間が経過していたみたいだ。星矢もカイトの指摘で今の時間を理解する。そうしてこの日の話し合いは終わりとなり、今度はどうにか良い手が考え付いた時に話そうとなって二人は通話を終わらせることにするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




