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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3720話 様々な力編 ――発生――

 冒険者ユニオンのシステム改修に合わせて行われた殺し屋ギルドへの攻撃。それは最高幹部の一人の捕縛という大金星を上げることに成功するものの、同じく最高幹部の中でも最高位に位置するザ・ワンの魔法により殺害。情報としてはザ・ワンが魔法使いであり、そしてサイファーと呼ばれる神をトップとしているという組織についての情報が掴めただけという所で終わっていた。

 そうして殺し屋ギルドとの一悶着から数日後。再び日常が戻り、ユニオンの業務も概ね落ち着きを取り戻していた。というわけでカイトは改めてバルフレアと会っていた。


「そうかぁ……とりあえずそういう話になるか」

「まぁなぁ……とりあえず、先遣隊というかの用意は整いつつある」

「先遣隊、ねぇ……」

「まぁ、先遣隊というより先遣隊を支援するための輸送隊だけど」


 カイトのどこか微妙な反応に、バルフレアも似たような顔で笑う。そうして彼らは改めて、今回の遠征の流れを思い出した。


「えっと……確か海運で支援物資を運んで、空運で人員を移動……だったよな? ウチの造船所にも船の発注あったし」

「そう……お前の所が飛空艇も船もどっちも造船所を持ってて助かった。まぁ、流石に飛空艇だけで全部の物資は持ってけないし、これを機に航路も開拓しないといけないしな」

「開拓した所でどうするんだ、って話ではあるんだが……まぁ、でもぶっちゃけ何もわからない所はあるしなぁ……」


 暗黒大陸は大陸というように、大陸規模としてはエネフィア最小ではあるが大陸ではある。故に希少な鉱石やらが埋蔵されている可能性はないとは言い切れず、今回の遠征によりそこらの調査が進み、航路・空路が開拓されれば各国共に採掘に採算性を見いだせる可能性はあった。というわけで、カイトは冒険者としてではなく冒険者ユニオンを支援する為政者の一人として口を開いた。


「確かに、あれだけの規模の土地を放置ってわけにもいかん。最終的には大陸間会議の管轄になるんだろうが……さて、どうしたもんかね」

「なにが?」

「数十年先、多分どこかで戦争は起きるだろうからなぁ……どうしたもんか、と」

「お前……何考えてるんだよ……」

「歴史だよ。今回の調査で有益な資源が見付かったとなりゃ移民が行われる。先住民がいないことだけが幸いだな。だが移民が行われた後に待ってるのは独立戦争だ。そこらの軟着陸をどうするか、まで考えとかなきゃならん。ユニオンが押さえるわけにもいかんだろ?」

「まぁ……そうなんだけどさ」


 カイトの問いかけに、バルフレアは少しだけ苦い顔で応ずる。そうして、彼は今回の話の裏側を口にした。


「確かに今回の調査結果は各国に提出するという前提で各国から出資して貰った。海路、空路、陸路……全部提出対象だ。更には何か希少な資源や新資源が見付かれば調査結果を各国に提出しないといけなくなった」

「そ……で、希少な資源が見つかりゃ、各国考えるのはその資源の採取だ。そうなると移民が行われ、最終的には更に数十年後に独立戦争、って流れだ。で、あんな僻地にまで軍の派兵なんぞオレは御免被る。ユニオンだってそうだろ?」

「まぁ……そうだな。多分その頃には俺はユニオンマスターは引退してるだろうけど、ユニオンが部隊を送るってしてたら流石に止める」


 バルフレアは今の邪神や<<死魔将>>達の一件が片付けばユニオンマスターを引退。カイトと共におそらく起きるだろう地球との交流とその裏で暗躍するだろう非合法の往来などの取締に尽力することにしていた。なので数十年先の引退は間違いないが、流石に独立戦争などという厄介なネタに突っ込むという暴挙には流石に先代の権限で止めるつもりだった。


「だろ? まぁ、そんな塩梅で今から色々と考えにゃならんことは多い。もちろん、下手に戦争を起こさんように国内の見張りも必要だし」

「はぁ……御貴族様は大変だなぁ」

「うっせぇよ……それで海路の構築は?」

「っと、それだったそれだった。悪い悪い。わざわざ時間割いて貰ってたのに」


 カイトの問いかけに、バルフレアは冒険者ユニオンが所蔵する世界地図を取り出して今回の遠征で計画されている支援部隊の航路を紐で指し示す。


「今回、輸送隊の始点はここ、エネシア大陸はエンテシア皇国とアニエス大陸はラエリア帝国、双子大陸はヴァルタード帝国の三つだ。まぁ、この三つである理由は単純で暗黒大陸への航路を作れる可能性があるから、そして今後資源採掘などを行う上で主導する立場にあるから、ってところだな」

「道理だな。出資としてもここが一番大きい……まぁ、その中でもウチが大きいんだけどさ」

「ありがとうございまーす」

「うっせぇよ……まぁ、そのかわり貰うモンは貰うからな」


 エネフィアで一番の金持ちであるマクダウェル家だ。そして成り立ちから冒険者ユニオンにも強い繋がりも有しているし、出資者として名を連ねていることは何も不思議はないだろう。

 そしてそういうわけなのでバルフレアが直接進捗やらをカイトに報告しに来た、というわけであった。というわけで調子良さげに頭を下げるバルフレアに苦笑気味に笑うカイトであったが、そんな彼にバルフレアが笑う。


「何より大抵はお前が発見するからな」

「あははは……はぁ。なんでお貴族様自らが率先して探検するんでしょ」

「あははは……ま、それはそれとして。ラエリアからの支援船団はすでに出発。南下を開始した。この航路だと、丁度暗黒大陸の北側でヴァルタードの支援船団と合流。そのままこの航路を使って……暗黒大陸に直接乗り込む航路だ」


 ため息混じりのカイトの言葉に笑ったバルフレアだが、すぐに気を取り直して改めて三つの航路を説明する。


「ヴァルタードは逆に少し北上して、ぐるりと迂回。北部で合流だな」

「今回ばかりは西側で合流せざるを得ないか」

「ああ。西部と東部に戦力を分けてなんとかなるような楽な所じゃない。更には大陸をぐるりと一周して、どこに接岸出来るか、ってのを調べるのも難しい。俺が前に横づけた海岸を目印にして、そこから上陸する」


 とんとん。バルフレアはカイトの言葉に暗黒大陸の西側にある、唯一白点が置かれた場所を指差す。そこはバルフレアが唯一上陸出来た場所で、比較的安全な場所とされている所であった。

 本来ならばラエリアやヴァルタードの船団は大陸東側に上陸可能な場所を見付けるべきなのだが、今回は流石に戦力を分散することによる各個撃破の可能性やそもそもどこに接岸出来るか、という問題がありこの唯一情報がある場所を拠点と定めていたのであった。


「確かお前が西側に接岸した理由はウルシア大陸から向かったから、って話だったな?」

「ああ。小規模な船で移動出来るのはここだけ……だからエンテシア皇国を発した支援船団はこのウルシア大陸で最後の補給を行い、西側の海岸に拠点を作る」

「全部西側から行けりゃよかったが」

「海をぐるりと一周、だからなぁ……無理なんよ」


 北回りに大洋をぐるりと一周するか、南回りにぐるりと半周するか。バルフレアはカイトの言葉に深くため息を吐く。というわけでため息を吐いた彼であったが、一転気を取り直した。


「あ、そうだ。エンテシア皇国の支援船団の支度はどうなんだ? そろそろ出れそうなのか?」

「微妙といえば微妙か。一応、輸送艇は準備ができ次第南に送ってるし、後は最後の船が完成次第発進可能だ。冒険者達も続々終結はしてる」

「そか……あともうちょい、ってとこか」

「ま、そんな所だな。言うて半月もすりゃ支援船団は全部出発。更に来月にゃマギーアに到着。オレ達も出発って塩梅か」


 遠征までかなり迫ってきたな。カイトは予定より少し遅れ気味ではあったものの、順調に進んでいる計画に一つ頷いた。そうしてその後も少しの話し合いの結果、両者はそれぞれなんとか来月か再来月には出発出来そうだと判断。真面目な話を終わらせることにした。というわけで、真面目な貴族とユニオンマスターとしての仕事はおしまい、と二人はおもむろに椅子に深く腰掛ける。


「はぁ……なーんで冒険者やってる方が楽な馬鹿二人が揃いも揃ってこんな変な仕事せにゃならん。お前はまだ良いけどさぁ。オレ、単に戦ってただけなのに……」

「俺だってやだよ……」

「お前はユニオンマスターになるってのが夢だったんだろ。諦めろよ。現実なんてそんなもんだ」

「そうなんだけどさぁ」


 夢と現実とは言ったものだが、ユニオンマスターは結局はリーダーだ。単に冒険者として、後ろに続く者たちに夢だけを見せていれば良いのではなかった。というわけで、嫌そうに現実から目を背けた二人だが、現実は目を背けても迫ってくる。


「失礼します。御主人様……大丈夫ですか?」

「おーう。問題ない。今しがた話が終わった所でだらけてただけだ……なんだ?」

「御主人様、ならびバルフレア様にそれぞれ連絡が入っております」

「オレ達に?」

「いえ、それぞれ別件です」

「「……」」


 どうやら仕事はオレ達を逃してくれないらしい。カイトもバルフレアも揃って顔を見合わせ、苦笑いで肩を竦める。というわけで椿から差し出された別々の書類を受け取って、二人は同時に開いて中を確認する。そうして先に顔を顰めたのは、カイトだった。


「……はぁ。そうか。そろそろ手を出さにゃならんか」

「どうした?」

「ほら、ソラって居ただろ? ウチの冒険者で」

「ああ、あの子か。どうしたんだ?」

「その親父さんが日本のお偉いさんでな。この間連絡を……定期連絡を取らせたんだが、妙に調子が悪そうだったから確認が入っちまったらしい。はぁ……流石にちょっと出る前に日本関連の話もある程度方を付けておかにゃならんかね」


 ソラの父である星矢は総理大臣だが一応は私的な話なので、内々に確認が入った程度ではあったようだ。だが同時に総理大臣の子息に何かがある、というのはどこの国にとってもありがたくない話だろう。

 カイトとしてもおそらく過去世が自分に関係があるのだろうと考えて今の今までは彼に任せていたが、そろそろ口を挟まねばならなそうか、と思ったようだ。

 それ以外にも遠征に行く間に対応は出来ないだろう日本関連の話もある程度はやらねばならないので、いっそ一緒に終わらせておくかと判断したのであった。というわけでカイトの話に納得したバルフレアだが、こちらもこちらで良くない話だったようだ。


「……んぁ」

「そっちはどした?」

「またか……聞いたことはあったけどさ」

「どうしたんだ?」


 聞いたことはあった、ということはつまり元々話は出ていたが、今回それが本格的に出てしまったということか。カイトはバルフレアの様子でそれを察する。そうしてそんな彼に、バルフレアが一つ問いかけた。


「なぁ、カイト。お前確か退魔の力持ってたよな?」

「ああ。先天的に日本人には多いらしいな」

「そういえば聞いたことあるな……」


 どうしたものか。カイトの返答にバルフレアは少しだけ深く考え込む。そうして、彼はおずおずと口を開いた。


「なぁ、カイト。幽霊船って覚えてるか?」

「幽霊船? まぁ、大戦期にはちらほら聞いたし、浄化したこともあるが……てか、オレ割とその依頼頻繁にお前から投げられてただろ? 出来る奴が少ないって」

「そうだなぁ……いや、実はさ。支援船団の前に、航路の確認やらで小型の船団を送ってるんだ。接岸は禁止。あくまで近隣まで、って限度にしてさ」

「そりゃ、そうせんと危ないからな。それも聞いた」


 今回の支援船団にはものすごい金額が掛かっているし、多くの冒険者達も乗っている。一応支援要員なので戦闘力としては特筆するべき戦力はないが、それが船の沈没で失われることだけは避けたい、というのは冒険者ユニオンのみならず各国の共通認識だ。

 なので今回の遠征に先立ち小規模な船団で航路の安全の確認を行うべく航海を行わせていたのであった。だがこれはカイトも言う通り前々から言われていたことだし、カイトも了解していた。というわけでそんな彼に、バルフレアはその船団から上がっていた報告を共有した。


「実はさ……マギーアから出てる確認の船幾つから、幽霊船の目撃情報が出てるんだよ」

「うわっ……最悪だな……いや、まぁ……今まで何度も調査隊は組まれてるし、そういうことは起きてても不思議はないけどさ。だけど支援船団が幽霊船に遭遇、なんて碌なことにならんぞ」

「わかってる……カイト。数隻でこの幽霊船の調査を行わせる。すまないんだけど調査結果が出次第、手伝って貰えるか? 俺でも流石に幽霊船の浄化は出来んからさ」


 先にカイトも述べているが、幽霊船なる存在の浄化が出来る者は非常に限られているというのだ。バルフレアがカイトに頼まざるを得なかったのは仕方がないことであった。そんな依頼に、カイトは一つ頷いた。


「あいよ。それに幽霊船だとすりゃ、流石に死神の神使としちゃ放置じゃいられん。ただ時期とかは見定めさせて貰うぞ? 流石にこっちもこっちで都合があるし、幽霊船確定だとなりゃ準備をガチでやらんとならん。ただ戦えば良いってわけじゃないからな」

「それで良い。助かる、恩に着るよ。こりゃ遠征の前段階の話だ。支援船団の露払いは必須だし、万が一全部合流した所で仕掛けられりゃ遠征そのものがおじゃんだ。支援船団を出せない、って話になりかねん……っと、そうと決まれば戻るわ。各方面に支援船団の一時停止を命じないと」


 下手に進めば支援船団が被害を受けるのだ。それを取り除くのも遠征の仕事の一つだと言えた。というわけで、カイトとバルフレアはそれぞれがそれぞれのするべき仕事をするべくそれぞれの居るべき場所に戻ることにするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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