第3714話 殺し屋ギルド編 ――潜入――
各国の暗部に蔓延り、各所で暗躍を重ねていた殺し屋ギルドという闇ギルド。それに対して昔から何度となく暗闘を繰り広げていたカイトであるが、そんな彼は自身を狙う暗殺者を捕縛した事。それに端を発する冒険者ユニオンの大改修を利用して、殺し屋ギルドへの一大攻撃を計画する。
というわけでラグナ連邦僻地のドゥリムという地にあった殺し屋ギルドの拠点を壊滅させると、冒険者達はそのまま増援部隊が来たルートを逆探知して他の殺し屋ギルドの拠点を襲撃。カイトはエネシア大陸から遠く離れ、ラエリアのあるアニエス大陸とエネシア大陸の間にある大洋のど真ん中にある隠された島の攻略に乗り出していた。
そうして島の町長宅の地下制圧へ乗り出したカイトであったが、地下通路で殺し屋ギルドの精兵達との戦いを行っていた最中。殺し屋ギルドの大幹部はカイトを精兵達諸共海水で押し流すという非情な策を打つものの、カイトは一切の無傷。更に一緒に巻き込まれた殺し屋ギルドの女を仲間に引き込むと、地下に設営されていた港の制圧に乗り出していた。
「はいよ!」
楽しげに、カイトは無数の武器の雨を降り注がせる。地下とはいえ港だ。何隻かの潜水艇が停泊出来るようになっていたらしく、広さとしてはかなりのものだった。というわけでそこに待ち構えていた殺し屋ギルドの精兵達を軽く一捻りすると、彼は逃げ惑う殺し屋ギルドの精兵達を尻目に一人最高幹部を捕まえるべく潜水艇へと向かうことにする。
「っ、潜水艇へ行かせるな! ぎゃあ!」
「一応、今回は地下だし生き埋めになりたくはないから爆発はさせないでやってる。感謝しろ」
遮二無二自身に向けて飛び出そうとした殺し屋ギルドの精兵の一人に、カイトは容赦なく無数の武器を降り注がせて完全に制圧する。
なお、ある理由から殺さないようにはしていた。数が多すぎて死屍累々になると魔物が出てきたりして後始末が面倒だからだ。というわけで激突すると紫電が迸ったりするのだが、それは横に置いておく。というわけで制圧しながら進んでいくわけだが、彼が潜水艇まであと少しという所までたどり着いたと同時。潜水艇が緩やかに動き出す。というわけで手を上げて無数の武器を編み出した瞬間、
「おっと」
『カイト。その潜水艇は欲しいから、なるべく破壊するでないぞ』
「えー……面倒くせぇなぁ……しゃーねぇ。やりますか」
カイトの目的としてはこの潜水艇に乗って逃げようとしているらしいセクスなる殺し屋ギルドの最高幹部の一角だ。なので潜水艇は破壊して逃げられなくしてしまおうと考えたらしいが、ティナの言葉に仕方がないとため息を吐く。
「外壁の一部は斬り裂くぞ。流石にそうせんと入れんしな。聞いた話じゃ、一週間は潜水するらしいし。まぁ、今回は食料とかの積み込みも完璧じゃないだろうが……どっちにしろ張り付いて浮上を待つのは現実的じゃない」
『ふむ。そういえばその話を聞いていて思ったんじゃが、あの潜水艇。ムーンプールでもあるんじゃないか? 人魚族やら水中で活動出来る種族が外を警護しておったんじゃろ。ならば出入り出来るムーンプールがあっても不思議はなかろう。サイズとしても……まぁ、あって不思議はないサイズでもあるしの』
「なるほど……」
ティナの指摘に港を駆けながら、カイトは潜水艇を再確認する。サイズとしてはおおよそ50メートルほど。外洋を航行する船としては比較的小型のサイズはあるが、潜水艇としてどうか、という点はエネフィアに比較対象がなくなんとも言い難い。
だが何人も収容することを考えれば妥当なサイズではあり、どこかにあるだろう次の拠点へ向かう程度なら十分ではあった。というわけでティナの意図を理解して、カイトは潜水を開始した潜水艇を追いかけるように水に飛び込んだ。
『これは……真水か。っと!』
ひときわ大きな揺れがカイトを襲う。そうして地下港の壁が崩落し、幾つもの巨大な破片が水面を揺らす。
『ティナ。自爆か?』
『んーん。バルっち。にぃの場所、魔眼で見付けられたから、そっち教えたら俺も向かうって』
『あいつかよ』
流石はユニオンマスター様。やることが派手でらっしゃる。カイトは会話に割り込んだソレイユの言葉に更に深く潜るよりも前に一度だけ水面を見上げそこに差し込む陽の光を理解する。というわけで上の制圧はバルフレアに任せ、自身は潜水した潜水艇を追いかけることにする。
『ここはやっぱり山の中だったのか?』
『うん。山の中くり抜いてたっぽい。といっても麓とかで、ちょうど町の逆側かな』
『そういえば結構泳いだもんなー……ソレイユ。万が一の場合は海中を狙撃出来るか?』
『もちろん』
カイトの問いかけに、ソレイユは笑って応ずる。まぁ、潜水艇だろうとなんだろうと観測手が居るのなら狙撃出来る。それだけの腕を持つのが彼女だ。
というわけで、カイトは障壁を展開して崩落から逃れながら全速力で地下港を脱した潜水艇を追い抜くかのように水を蹴って――比喩表現ではなく本当に蹴って――急加速。数歩で潜水艇の真下へと潜り込む。
『あった。ティナ、予想通りムーンプールがあった……多分この切れ込みはそういうことなんだろう。まぁ、今は封鎖してるっぽいけどな』
『なるほど。最高速を出す場合は封鎖し、抵抗を減らしておるのか。自然な考えじゃの……まぁ、多少であれば壊して構わん……やってしまえ』
『あいよ』
ティナのゴーサインに、カイトは獰猛に笑いながら更に一歩水中で跳躍。遂に潜水艇を追い越して、そこで腰だめに刀を構える。
『……はっ!』
数秒の沈黙と静寂。潜水艇が水を斬り裂く音だけが響く。そうしてカイトの真上を潜水艇が再び通りかかった瞬間、彼は一切迷いなく潜水艇の底部。おそらくムーンプールだろうあたりへと斬撃を放つ。そうして放たれた斬撃は潜水艇を僅かに浮上させつつも、底部を切り裂いた。
『……うむ。自分でやっといて言うのも何だが……見事』
『ほぉ……上手くやったもんじゃの。ムーンプールの締結部のみを切り裂いて強引に開かせたか』
『そういうこと……ほっと!』
水を蹴って、カイトはゆっくりと開かれていくムーンプールの中へと潜入する。
「……は?」
「な……」
どうやらムーンプールの隔壁が開いた警報は鳴ったらしい。様子を見に来た殺し屋ギルドの戦士達は水しぶきを上げて現れたカイトに思わず言葉を失い、困惑を露わにする。そんな彼らに、潜水艇の内部に着地したカイトが笑いながら挨拶する。
「おっはろー。随分とお急ぎでしたので乗り遅れてしまいましてー。ちょっと無作法でしたが乗り込ませて貰いましたー」
「……っ」
「遅い!」
これは敵だ。そう理解して戦闘の用意を整えようとした瞬間、カイトは一瞬で肉薄し腹へと拳をめり込ませて壁面へと叩きつける。そうして倒された仲間に、もう一人が大慌てで刃を抜く。
「くっ!」
「もう一体!」
「ごふっ」
まぁ、完全に奇襲だ。なので二人は戦闘の用意を整えることもなく、カイトが二人共一撃で昏倒させる。そうして倒れた所で、男の一人が装着していた通信機が鳴り響いた。これにカイトは男の頭に右手を乗せ、更に左手で通信機を男の口元へと持っていく。
『おい、どうだったんだ? おい』
「……ああ、悪い。今着いた。さっきの揺れで滑っちまって、少し到着が遅れちまった」
カイトの魔術が展開すると同時に、意識のない男の口から声が響く。魔術で操って、偽の報告をさせていたのである。
『なんだ……ん? えらく通信環境が悪いな』
「多分外の連中がどかんどかんやってるからだろ。こっちまで影響が出てても不思議ない」
『確かにな……で、どうだったんだ?』
「多分さっき瓦礫がぶつかっただろ? それで誤作動してたみたいだ。もしかしたら急いで閉じてたから、何か挟んでたのかもな」
『なるほど……確かに何度もぶつかったからな。だが気を付けろよ。いつ来るかもわからんからな』
「わかった……警戒しながら戻る」
『了解』
あんな準備も整っていない状況だ。誤作動を起こしても不思議はない。報告先の相手もそう考えたようだ。そうしてカイトは相手の了解を受けて、通信機と男の頭を投げ捨てる。そうして、カイトは潜水艇への潜入に成功するのだった。
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