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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3713話 殺し屋ギルド編 ――水没――

 各国の暗部に蔓延り、各所で暗躍を重ねていた殺し屋ギルドという闇ギルド。それに対して昔から何度となく暗闘を繰り広げていたカイトであるが、そんな彼は自身を狙う暗殺者を捕縛した事。それに端を発する冒険者ユニオンの大改修を利用して、殺し屋ギルドへの一大攻撃を計画する。

 というわけでラグナ連邦僻地のドゥリムという地にあった殺し屋ギルドの拠点を壊滅させると、冒険者達はそのまま増援部隊が来たルートを逆探知して他の殺し屋ギルドの拠点を襲撃。カイトはエネシア大陸から遠く離れ、ラエリアのあるアニエス大陸とエネシア大陸の間にある大洋のど真ん中にある隠された島の攻略に乗り出していた。

 そうして島の町長宅の地下制圧へ乗り出したカイトであったが、地下通路で殺し屋ギルドの精兵達との戦いを行っていた最中。殺し屋ギルドの大幹部はカイトを精兵達諸共海水で押し流すという非情な策を打ち、カイトは大量の海水に飲み込まれていた。といっても、もちろんその程度で彼がくたばるわけもなく、それどころか押し流されてさえいなかった。


『あぁあぁ……勿体ないなぁ。味方ごとオレを消す算段か』

『まぁ、海水で押し流せれば殺せぬまでも時間稼ぎにはなろう。上手くやれれば殺せるやもしれんしの』

『この通り、時間稼ぎにもならないんですが』


 大精霊達の祝福を受けるカイトにとって、水流の影響を無効化する事なぞ朝飯前だ。故に彼は殺し屋ギルドの作戦を理解すると即座に水流の影響を受けないように準備をしていたのであった。というわけで真っ暗になった水中で、カイトは魔術を行使して光源を生み出す。


『ふぅ。これで歩きやすくなった。しかも邪魔者まで消してくれるなんて、セクス様とやらはどうやらそうまでしてオレとお話がしたいらしい』

『そうじゃの……む? カイト』

『ん? あれは……あの槍使いの女か。なるほど、人魚族だったのか』

『……』


 ティナの指摘にカイトが周囲を見回してみると、盛大に怒りを湛えた表情を浮かべた槍使いの女が下半身を人魚のそれへと変貌させて水中の中を浮かんでいた。が、そんな彼女はカイトの生み出した光源に気が付くと、泡を食ったかのように仰天する。


『よ。捨てられた気分はどーお?』

『お前! はぁ……もう良い。なんかバカバカしくなった』


 まぁ、カイトの言う通りこれは明らかに捨てられたのだ。自分を捨てた殺し屋ギルドの指示に従ってカイトを殺すなぞ論外も良い所だろう。カイトの言葉に一瞬だけ怒りを滲ませたが、どこかやけっぱちに肩を竦めるだけだった。というわけでそんな殺し屋の女がカイトへと呆れるように問いかける。


『というか、なんであんたはそう平然と水中を立っているの』

『さぁ? なんででしょ……で、一つ。取引しない?』

『取引?』

『司法取引……これでもエンテシア皇国、ラグナ連邦、ラエリア帝国、ヴァルタード帝国には口利きが出来る。殺し屋ギルドの大幹部の捕縛に協力するなら、刑の減刑を頼んでやってもよい。幹部の近くで護衛をやっていたんだ。情報も握ってるだろうしな』

『……それを信じるに足る要素は?』


 捨てられた身とはいえ、殺し屋ギルドに戻る事は出来なくない。いくら捨てられたとは言ってもあくまでもカイトを殺す際に諸共になってしまった、というだけだ。

 だからここでカイトと出会わなかった事にして戻っても、それを知るのはこの女一人だ。問題にはならなかった。というわけで警戒した様子での問いかけに、カイトは笑う。


『ないね。いっそオレを後ろからぐさりとやれば大金星。お褒めに預かれるだろう』

『正直ね』

『正直者は好かれるからな』

『……良いわ。乗った。だーれが私を捨てた組織に忠誠を誓うもんですか……それにあんた、背中は見せても背中を預けてはくれないでしょう? そんな相手を殺せるわけないじゃない』


 先ほどのナイフ使いの忍び足はこの女から見れば見事だった。それに気付いて、挙げ句忍び寄った当人が気付かれていると気付いた時には終わっていたのだ。ならば自分がカイトを後ろから殺せる可能性はゼロに等しく、出来る選択肢は2つだけだった。


『私が取れる選択肢はここから逃げるか、あんたと組んで組織を裏切るか。前者は却下。逃げ切れるわけがない。屋敷の内部にはすでにアイナディスが入り込み、外には狙撃手まで待機している。なら後者よ』

『自死っていう選択肢もあるぞ?』

『はぁ? 今しがた自分を捨てた相手のために?』


 冗談じゃない。それこそカイトが言ってくれたから咄嗟に気が付いて変化が間に合ったから良かったが、間に合っていなかったらどうなっていたかわかったものではない。実際一緒に巻き込まれた男の方は大量の海水に流され、もはやどこに行ってしまったのかわからなくなっていた。


『死にはしないだろ、流されても』

『この先に何があるかも知らされていないのによくもまぁ、楽観的なものね。人魚族でも殺せる罠の一つや二つ用意はしているでしょうよ』

『あ、知らんの?』

『……そうよ。この罠の存在も知らなかったわよ。寸前で教えてくれたおかげで変化が間に合ったから良かったものの、死んでても不思議はなかったわよ』


 どこか不貞腐れるように、女はカイトの問いかけに答える。まぁ、知らなかったからこそ巻き込まれたし、リーダー格の男も一人で逃げ出したのだ。説明している暇はなかったからだ。そしてだからこそ、先程は二人共大いに慌て付ためていたわけだ。そんな様子に、カイトが笑う。


『そうか……じゃ、道案内は頼めるか?』

『ええ、良いでしょう。こっちよ』


 取引成立。カイトの要請に女は水中を泳ぎ、カイト自身はまるで平地のように床を蹴ってそれを追う。というわけで歩き出した所で、ティナが問いかけた。


『良いのか? えらくすんなり任せたが』

『まー……ぶっちゃけ、この状態でオレ一人殺した所でどうにかなる状況でもなし。彼女にとってどれが一番生還率が高くなるか、って言われりゃ答えは一つだろ』

『上にはアイナ。外には、か……まぁ、無理じゃろうのう。何よりお主を殺す、という事が現実味がない。先の一幕で理解もしおったじゃろうしのう』


 そうなると裏切った所で自分が死ぬだけで、殺し屋ギルドを裏切った方が確実といえば確実だろう。思い切りが良い判断だが、正解でもあった。


『そういえばアイナは?』

『む? ああ、アイナか。上でドッカンドッカンやっとるぞ。あっちもあっちでお偉いさんがおるようじゃ……おそらくあれが町長じゃろうな』

『やはりか』


 流石にいくらこの島が完全に殺し屋ギルドのコントロール下にあるとはいえ、数えられるほどしかいない殺し屋ギルドの最高幹部が直接統治しているとは思えない。

 なので先の大男が表情で答えたようにこの島にセクスなる最高幹部の一人が来ていたのは完全なる偶然で、この島を実質的に管理する統治者が居るのは不思議ではなかった。というわけでアイナディスの話をしたちょうどそのタイミングで、水面が大きく揺れ動く。


『……お仲間、随分と派手にやっているわね。もしかして本当にアイナディスだったりする?』

『ん? ああ、そうだが。あ、後それと外で狙撃してるのはフロドとソレイユの兄妹だな』

『……』


 本当に殺し屋ギルドから抜ける判断をして正解だった。カイトの返答に元殺し屋の女が固まる。言うまでもなく三人とも三百年前の大戦で名を馳せたエース達だ。まだカイト達ではないだけマシとはいえるが、それでもまともに勝てる相手ではなかった。というわけで暫く進むわけだが、数分歩いた所でカイトが立ち止まった。


『ん?』

『なに?』

『空間が少し……揺らいだ?』

『空間が?』


 元殺し屋の女も空間のゆらぎを察せられる程度の腕ではあったらしい。カイトの発言に停止し、槍を構えて警戒を露わにする。だがこれにカイトが一つ謝罪する。


『ああ、いや。すまん。この通路の話じゃな……うおっ……また派手に揺れたな』

『姫騎士の名が泣くわね』

『あははは。当人には言うなよ』


 いつにも増して派手にやっているな。カイトは元殺し屋ギルドの女の言葉に楽しげに笑う。だが、そういうわけではなかったらしい。ティナが教えてくれた。


『いや、これはアイナではない。バルフレアじゃ』

『あ? あいつ来たの?』

『うむ……他にも手が空いた奴が続々この島に乗り込んできておる。まぁ、バルフレアの一番の理由は制圧後の治安維持じゃな』

『なるほど……じゃ、オレも仕事を急ぐとしますかね』


 どうやら多少の足止めにはなったか。カイトは水没した通路を歩きながら、最深部を目指して進んでいく。この通路は幾つかの分かれ道があった様子だが、元殺し屋ギルドの女のおかげで迷う事もなく最深部へまで到達する。そうして固く閉ざされた扉の前まで到達した所で元殺し屋ギルドの女が停止する。


『ここよ。この先にセクスが居る……といっても当然のように障壁で防がれている上、脱出の準備を進めているのでしょうけど』

『脱出ねぇ……ここからどうやって脱出するんだ?』

『潜水艇よ。それで出入りしてた。私は違うけど』

『どうやってたんだ?』

『私は潜水艇の護衛。ああ、今思えば良いザマかもしれないわね。私抜きで深海を、になると楽な道のりじゃないでしょうから』


 水中で自由自在に戦える者は少ない。それがこの元殺し屋ギルドの女ほどにまでなるとなおさらだ。現にあれだけいた殺し屋ギルドの殺し屋達で生き残ったのは彼女一人。確かに彼女抜きで深海を進むのはかなりの危険がありそうだった。


『そりゃ良い。いっそ魔物に任せるか』

『と、言いつつ殴る準備……え? 殴る?』


 ボキボキと首を鳴らし拳を握りしめるカイトに、元殺し屋の女は一瞬ここが水中である事を忘れそうになったようだ。というわけで彼女が大慌てでカイトを制止する。


『待った待った待った! 正気!? 壊せないわよ!?』

『正気正気……正気だし真剣と書いてマジと読め! おらよ!』

『……』


 本当にこの男を裏切るのだけはやめておこう。楽しげに笑いながら海脈と地脈を利用した強固な障壁を助走を付けて殴りつけて破砕したカイトに、元殺し屋の女は心底そう思う。

 まぁ、カイトも圧倒的な格の違いを見せ付けるため、こうなる事を見越してやっている。自分に勝てないと思わせれば思わせるほど、現状でこの女が裏切る可能性は低くなるからだ。

 そうしてそんな彼が殴りつけた扉は海水と共に一気に奥へとなだれ込み、その光景に扉の先で準備していた殺し屋ギルドの一団が慌てふためいた。


「な、なんだ!? 水!?」

「じょ、冗談じゃねぇぞ!? なんで結界が破れたんだ!?」

「い、急いで海水の流入を止めろ! ここまで水没する!」

「おいおい……水没している方が良いって言うからお前らに有利にしてやったんだぞ? せっかくの水を無駄にするなよ」

「「「!?」」」


 まるで楽しげに、流れ込む海水の勢いなぞ意に介さぬカイトが部屋の中へと入ってくる。そうして中に入った彼が見た光景は、地下港とでも言うべき地下に作られた港であった。

 といっても山の斜面などに出来た洞窟を利用しているわけではなく、先に元殺し屋の女が言及したように潜水艇の利用を前提としているのか外は見えず、湖が広がるだけであった。そしてそんな港には、一隻の金属で出来た船が停泊していた。


「……あれが潜水艇か。初めて見るが」

「「「っ」」」


 潜水艇に気付かれた。殺し屋ギルドの戦士達が顔を顰める。それに、カイトが笑う。


「積荷の積み込みが終わってないんだろ? 聞いたぜ? 出港はすぐには出来ない。本来なら一週間の水と食料を積み込む必要がある、って」

「……総員、奴をここで食い止めろ! 絶対に潜水艇へ近付けさせるな! ぐっ!」


 おそらくこの地下港の警備隊の隊長という所に相当するのだろう。そんな彼の指示が飛ぶと同時に、段々と水圧が緩まっていく通路の中から水鉄砲が飛び出して隊長格の男の頭を射つ。そうして、カイトに続くかのように元殺し屋の女が出てきて、人の足が顕現する。


「お前は……」

「お前がここまで案内したのか!?」

「裏切ったのか!?」

「裏切ったぁ!? 誰がどの口でほざいてんだ!?」


 流石に裏切ったとの一言には元殺し屋ギルドの女も怒り心頭に発したらしい。烈火の如く怒り狂って、声がした方へと流れ込む海水を利用した水鉄砲をマシンガンのように乱射する。

 やはり人魚族。陸上より水気が周囲にあった方が戦闘力は高くなるらしい。先にカイトと戦った時より数段上の戦闘力を見せていた。

 まぁ、カイトを相手に全力を出せるかというと滅多にそういうことはないので、この流れは変わらなかっただろう。というわけで、そんな彼は仲間の裏切りに少しの同様を滲ませて足を止めた


「あぁあぁ……ま、裏切ったのはお前らが先だろう。仲間巻き添えにした時点で裏切られても文句は言えないだろ……っと。派手にやってるな……じゃ、オレも潜水艇の制圧を目指して頑張るとしますかね」


 今度はアイナディスか、それともバルフレアか。はたまたまた他の誰かか。カイトは楽しげに揺れる振動を楽しみながら、更に楽しげに一歩前へと踏み出す。そうして、カイトは先程よりも更に実力の高い殺し屋ギルドの戦士達をあっという間に殲滅。潜水艇の制圧へと向かうのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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