第3709話 殺し屋ギルド編 ――攻略開始――
各国の暗部に蔓延り、各所で暗躍を重ねていた殺し屋ギルドという闇ギルド。それに対して昔から何度となく暗闘を繰り広げていたカイトであるが、そんな彼は自身を狙う暗殺者を捕縛した事。それに端を発する冒険者ユニオンの大改修を利用して、殺し屋ギルドへの一大攻撃を計画する。
というわけでラグナ連邦僻地のドゥリムという地にあった殺し屋ギルドの拠点を壊滅させると、冒険者達はそのまま増援部隊が来たルートを逆探知して他の殺し屋ギルドの拠点を襲撃。カイトはエネシア大陸から遠く離れ、ラエリアのあるアニエス大陸とエネシア大陸の間にある大洋のど真ん中にある隠された島の攻略に乗り出していた。そうして町の守備兵達を退け更に町長の家に務める黒服を倒したカイトは、目標を町長の邸宅に定めて行動を開始する。
「ソレイユ。さっきの黒服、どこから来たかは見てたか?」
『ごめん。見てなかった』
「そか……さて、どうするかな」
『多分あの山の麓の一番大きな家じゃない? 魔力の渦巻き方が桁違いだし』
「だろうね」
ソレイユの指摘に、カイトは笑いながら付近に落ちていたレンガの破片を手にする。これは別に戦闘の衝撃で崩れたとかではなく、単に経年劣化で割れた破片だ。というわけでそれを手にした彼は、まるで野球ボールを投げるように思い切り麓の大きな建物に向けてレンガの破片を超音速で投げつける。
「……弾けたな」
『にぃー、確定でーす。黒服がわらわら出てきたよ』
「おっしゃ……じゃ、とりあえずそっち目指すか」
『にぃー。狙撃しとく?』
「出てきてる?」
『庭にはかなりわらわら。でも家からは出てない』
「うーん……流石にオレやアイナ相手に波状攻撃は仕掛けんか」
黒服を一人二人差し向けた所で各個撃破されるだけだ。流石にカイトの事はまだわからずとも、アイナディスの襲来はわかっていると思われる。彼女に勝てる者が居ないぐらいはわかっているだろうから、いたずらに戦力を減らすような事はしないと思われた。
「ま、やらんで良いよ。それよりどっちかってーと、飛空艇が外から近付いてこないか、って所を気にしたい」
『それもそっか』
「ああ……この状況、オレかアイナに戦力を差し向ければもう片方に攻め込まれて終わる。なら引きこもって外からの増援を待つ、ってのが上策だ」
『意味あるかなー』
「普通は、って話」
普通は、が指し示すのはあくまで普通の相手ならばという意味だ。カイトやアイナディスと言った普通ではない相手にそんな作戦は意味がなかった。というわけで笑いながら歩く彼だが、数度地面を蹴って跳躍するように移動。固く閉ざされた門扉の前にたどり着く。
「……こんこん。すんませーん。町長さんいらっしゃいますー?」
『ここには誰もいませんよー』
「いや、居るだろ……何よりノックと同時に紫電が放たれてるし」
攻性防壁。カイトは自身の軽いノックに対して放たれた紫電に笑う。なお、変な合いの手を入れたのは言うまでもなくソレイユだ。向こうは暇らしい。まぁ、支援している相手がカイトとアイナディスの時点で宜なるかな、当然である。というわけで、暇そうな彼女にカイトは問いかける。
「んー……暇だったら壊す?」
『やるー……ほい!』
気の抜けるような掛け声と共に、はるか遠くのリーナイトから矢が放たれる。そうして放たれた矢は彼女の込めた力により急加速し、音を置き去りにしてなおも加速。流星の如き輝きを伴って、数秒後には島から目視出来る所にまで到達。更に一秒も掛からず、カイトの眼の前にある門扉を崩落させる。
「やっぱすげぇな。流星の如く……てかわかってないと絶対運悪く星が堕ちたと思うぞ」
『どや』
「じゃ、行きますかー」
鼻高々なソレイユの言葉を聞きながら、カイトは崩れた門扉の残骸を踏んで中へと入る。すると途端、魔術や矢が雨あられと彼へと降り注ぐ。
「おぉ、来た来た。おらよ!」
降り注ぐ魔術と矢の嵐に対して、カイトは双銃を取り出してそれらすべてを単騎で迎撃する。そうして迎撃を開始した彼へと、黒服が一人肉薄する。
「ふっ!」
「おっと」
放たれたナイフの一閃に、カイトは黒服の上を抜けるように跳躍して回避。右手の魔銃を空中で手放して異空間へと収納すると、入れ替わりに刀を取り出す。
「あぁあぁ、勿体ない。見事な庭園がめちゃくちゃだ」
投げかけられる魔術や矢は周囲の庭園の草花を吹き飛ばし、レンガを崩していた。元々は見事な庭園だったのだろうが、それはもはや見る影もなかった。というわけで残念がるカイトであるが、そんな彼に今度は全周囲から無数の魔術と矢が射掛けられる。
「おっと」
「っ!?」
「はいよ!」
「ぐぎゃ!」
魔術の嵐を掻い潜り、カイトが魔術を投射していた黒服の一人へと肉薄。袈裟懸けに一閃する。そうして一人が倒れ伏した所で、先程彼に肉薄したとはまた別の黒服がカイトへと肉薄していた。
「はっ」
「甘い!」
放たれた両手剣による一閃に対して、カイトは真正面から刀で迎撃。刀を砕いて、そのまま一気に黒服の一人を切り捨てる。そうして血しぶきが僅かに吹き出るが、それにカイトが笑う。
「安心しろ、みねうちだ……なんてな。おらよ!」
楽しげに笑いながら、カイトは自身が斬り捨てた黒服を蹴っ飛ばしてまた別の黒服に向けて吹き飛ばす。みねうちではないが、両断出来るのにしなかったのはそういうわけであった。
そうして飛んでくる仲間に、別の黒服も流石に困惑。しかも生きていた事からどうするべきか一瞬で判断が出来ず、そのまま巻き込まれて吹き飛ばされる。
「よっしゃ……じゃ、次」
所詮は雑兵だ。カイトに対して勝ち目があるわけがない。というわけで軽く片付けていく彼であったが、そんな彼に声が響いた。
『にぃー。暇ー。射って良いー?』
「え? ああ、なんだ。まだ来ないの?」
『うんー……おそいー』
「そっかぁ……」
どうやら各所で冒険者達による襲撃が相次いでいる事から、殺し屋ギルド側も動きが鈍くなってしまっているようだ。本来ならそろそろ本格的な迎撃に動き出していても不思議はなかったが、流石に間に合わない状況になってしまっていたようだ。
「じゃ、ありがたく制圧させてもらいますか」
『はーい』
カイトの許可が出るや否や、ソレイユが再び矢を放つ。ただし、今回は一つではない。本当に流星群もかくやという無数の矢が、数秒後に四方八方から飛来する。
「なんだ!?」
「どこから!?」
「がんばってねー。頑張れば一分ぐらいは避けさせてくれるんじゃねぇかな」
流石にどこから来るかもわからない無数の矢の嵐だ。黒服達もカイトへの攻撃もなにもあったものではなかった。というわけで、カイトは慌てふためき瞬く間に数を減らしていく黒服達を横目に、邸宅内への侵入に成功するのだった。
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