第3705話 殺し屋ギルド編 ――進撃――
各国の暗部に蔓延り、各所で暗躍を重ねていた殺し屋ギルドという闇ギルド。それに対して昔から何度となく暗闘を繰り広げていたカイトであるが、そんな彼は自身を狙う暗殺者を捕縛した事。それに端を発する冒険者ユニオンの大改修を利用して、殺し屋ギルドへの一大攻撃を計画する。
そうして手に入れた情報からラグナ連邦の僻地にて発見された殺し屋ギルドの拠点の一つを冒険者ユニオンの腕利き達を揃えてを襲撃するわけだが、この顛末なぞ語る必要もないだろう。
というわけで、流石にカイトを筆頭にバルフレア、アイナディスなどの300年前であれば大戦の最前線を駆け抜けた者たちを前に、殺し屋ギルドの拠点はあっけなく陥落。外から来る幾重にも渡る増援部隊もただ遊ぶかのように壊滅させていく。
「さってさて。そろそろ増援も終わりかな」
『まぁ、奴らもこっちが暗号解読が出来る人員を出してるとは思ってないだろうし、ここ一個だけとは思ってないしな。やれるだけやって無理なら諦めるだろ』
「そこら、奴らは上手いのか?」
『上手いのなんの。何度も何度も尻尾を掴もうとして、小規模な拠点を幾つかが限度だ。今回レベルだと大金星だぜ』
どうやらすでに内部は完全制圧という所なのだろう。バルフレアの声には闘気が見えなかった。なにせこんな僻地かつ重要な情報が幾つも収蔵されている拠点だ。殺し屋ギルドとしてもここを制圧されるのは決して軽くないダメージのはずだった。そして今回はそこから更に、進撃するつもりだった。
「じゃ、もしこれで更に先に進めれれば」
『ユニオン史上初の大快挙。今度の会報にトップで掲載だ。ま、今の時点だってトップ掲載確実な領域だけどな』
殺し屋ギルドは基本的に所謂マフィアなどの非合法組織との繋がりが強く、冒険者ユニオンではかつてから対殺し屋ギルドにかなりの労力を割いていた。というわけで満面の笑みを感じさせるバルフレアの言葉に、カイトは僅かに苦笑する。その意図を理解していたからだ。
「見せしめ、か」
『おうよ。冒険者は一歩道を踏み外せばどこまででも落ちていく存在だ。冒険者ユニオンとして、殺し屋ギルドとの交戦が起き戦果が挙がればそれを大々的に告知。もし殺し屋ギルドに与するとどうなるか、というのを大々的に知らしめにゃならん』
「ま、当たり前の話か」
自分然りバルフレア然り、冒険者の最上位層はもはや一人で小国も攻め落とせる。それが悪道に落ちればどうなるか、というのは誰よりも彼らが理解しており、それ故にこそ上位層の中でもカイト達名の知れた者たちは力の使い道をしっかりと自らの胸に刻んでいた。というわけで、カイトは更に苦笑の色を深める。
「なんでだろな。オレ達誰に習ったわけでもねぇってのによ」
『何がだ?』
「力の使い道だ。オレなんてやろうとすりゃ、世界征服だってやっちまえる。だってのにやろうとも思わんし、誰もがそれをやらんって信じてる」
『お前はそうだろ。だって誰より上に立った後の面倒くささを知ってるし。俺もまぁ、理解はしてるけど。そんな事より何よりここは俺の夢だ。俺の夢を手にして、俺がその夢を汚しちゃなんねぇ』
「夢、ね」
冒険者ってのはどうしてどいつもこいつもどこか子供っぽいんだろうか。カイトはバルフレアの言葉に思わず吹き出す。
「ま、それで良いんだろう、オレ達はな」
『なんだよ、そりゃ』
「オレ達はいつだって夢と冒険を追い掛けてる。だから悪道に興味がねぇ、って話。だって別の道だもんよ」
『なるほど! 確かにな! 夢を追うのに夢中で、他の道に浮気なんてしてらんねぇよな……お前はしてるけど』
「うるせぇ。オレだってひた走れたならひた走っとるわ」
誰が好き好んで政治なんぞやるわけがない。カイトはなにかを考えるではなく、単に旅をしていた時代を思い出してため息を吐く。何度かカイト自身が言っていることだが、もし公爵になっていなければ今頃自由気ままに冒険者として旅をしていたというのが彼の言葉だ。
まぁ、タラレバが意味のない彼にとって実際そうなったかはわからないが、少なくとも冒険者としての性根はそのままだと言い切れただろう。というわけで楽しげに笑い合う二人であったが、そこにアイナディスが割り込んだ。
『お二人共、笑うのは良いですが仕事です。バルフレア、続々と報告が入っていますが』
『おうおう……カイト。お前はわかってると思うが、本命本丸。連中の大幹部が居るならそこを攻め落としてくれ。可能なら生かして捕縛を』
「あいよ」
とどのつまりいの一番に飛び出してくれるな、ってわけね。カイトはバルフレアの指示の意図を理解する。というわけでマクダウェル家を介してユニオン本部へと共有され並列して解析が行われ、その解析結果が矢継ぎ早に上がってくるわけだが、カイトは時に転移術で消え、時にソレイユの放つマーカーを頼りに飛んでいく冒険者を横目にエドナの上で一人待機だった。
「暇だねぇ……本命は見付かりますかねぇ……」
「見つかって欲しいものですね」
「ん? おぉ、珍しい。アイナがそいつを連れて来るのっていつぶりだ? 馬に乗るより速いお前が唯一背に乗る馬だ」
「馬……馬ですね」
カイトの言葉にアイナディスはくすくすと笑う。そんな彼女が乗るのは純白の一角獣。俗に言うユニコーンだ。しかしそれは単なるユニコーンではなかった。
『あら……これは珍しい。幻獣……いえ、もう神獣の領域ね』
『ええ。そちらもそのようで』
『あら……バレちゃった』
「え? お前神獣なの!?」
『「知らなかったのですか!?」』
なぜ主人とばかりに背に跨るカイトがびっくり仰天と驚いた様子に、こちらも主従が仰天した様子で思わずカイトを見る。それに、カイトは照れ臭そうに笑う。
「いやー、え? マジ?」
『どこかの神様を延々と追い掛けてたものだから。神様の痕跡を追っていたら自然、神気を身体に蓄積しちゃったのよ』
「あー……そういえば獣が神獣に至るには神気を身に宿す必要があるんだっけか。それかそもそも神様が生み出すかのどっちか。それは幻獣だろうと獣だろうと変わらんって話だったか」
『そ。どこかの神様、ずーっと追いつかせてくれないんだもの。で、果ては転生してる、だもの。蓄積するには十分過ぎたわ』
「あははは。失礼致しました」
楽しげなエドナの言葉にカイトは笑う。まぁ、そもそも神様の一角だったかつてのカイトだ。それをずっと追い掛け続けたのだから、カイトとしてもさもありなんというお話でしかなかった。
「で、アイナ。お前はどこへ?」
「私も貴方の所へ。おそらく小規模な拠点ではないでしょう。ならば私が攻めた方が向こうにも貴方の正体がバレにくい。ご安心を。空間と次元を切り裂く天馬には流石に追い付けませんが、この子も相当本気になれば十分な速度を有します。何より今ならば」
「なるほど……契約者の力も加算。<<雷鳴の姫騎士>>が雷鳴を超え、雷の速度に到達か」
懐かしい。アイナディスの二つ名を思い出し、カイトは笑う。雷の速度で移動出来るのだ。よほどの遠距離でなければ問題ないし、よほどの遠距離であれば今度はソレイユの出番だ。
カイトの居場所を頼りにマーカーをセットし、そこからは即座に移動が出来る。十分にカイトに追従出来るだろうし、そんな事が出来るのは彼女ぐらいなものであった。というわけでおおよそを理解した所で、どうやら本命の準備が出来上がったようだ。
『カイト。待たせたの……奴らの一番隠したかったじゃろう物が見繕えた』
「大幹部あたりいそうか?」
『わからん……が、これがそうであるのなら相当重要な拠点である事に間違いないという事じゃ。リトス、デュイア共にその可能性は非常に高い、と太鼓判を押しておる……さらに言えば、あの天然物のお嬢ちゃんもの』
「と、いうことはつまり」
『大当たりも大当たり。どうやらその拠点には殺し屋ギルドにスカウトされる連中の移動経路もあったようじゃ。大幹部が向かう暗号の中に座標データがあった。どの地図にもない島じゃ』
「よし!」
殺し屋ギルドの上位の幹部が使う暗号に隠された座標データだ。間違いなく殺し屋ギルドが密かに用意した島である可能性は高かった。と、そんなわけでいざ出陣となるカイトだが、ふとそこで止まった。
「島? 島って……アイランドの島?」
『その島じゃ。彼奴ら、大洋のど真ん中に島を保有しておった。そりゃ見付からんわ。移動経路は幾つかあるが、メインはラエリア経由かウルシア経由じゃな』
「そりゃ当然なことで」
ラエリアは今でこそ改善が見込まれているが、かつては腐敗の只中だ。密かに飛空艇を出したりする事は容易だっただろう。
「ま、とはいえ……座標は?」
『送った……そこからならユニオン本部を介した方が早いじゃろ。ソレイユはすでに本部に移動するように指示を出しておる。後はお主の仕事じゃ』
『はーい、到着ー。にぃー。こっからは』
『僕も参加するよ。こっちから支援するから、思う存分やってね』
「あいよ」
流石にアイナが横に居てサボるわけもないか。カイトはフロドとソレイユの兄妹の言葉に楽しげに笑う。そうしてカイトは横のアイナディスと一つ頷きを交わすと、再び白銀になって敵の一大拠点へと進撃を開始するのだった。
「」




