第3703話 殺し屋ギルド編 ――襲撃――
各国の暗部に蔓延り、各所で暗躍を重ねていた殺し屋ギルドという闇ギルド。それに対して昔から何度となく暗闘を繰り広げていたカイトであるが、そんな彼は自身を狙う暗殺者を捕縛した事。それに端を発する冒険者ユニオンの大改修を利用して、殺し屋ギルドへの一大攻撃を計画する。
そうして手に入れた情報からラグナ連邦の僻地にて発見された殺し屋ギルドの拠点の一つを冒険者ユニオンの腕利き達を揃えてを襲撃するわけだが、この顛末なぞ語る必要もないだろう。
というわけで、流石にカイトを筆頭にバルフレア、アイナディスなどの300年前であれば大戦の最前線を駆け抜けた者たちを前に、殺し屋ギルドの拠点はあっけなく陥落しつつあった。
「お……あったあった。ユニオンのサーバーみっけた。少し古い型だが、現役のモデルだ。間違いないな」
『お、あったか』
「ああ。間違いなくこりゃユニオンで使ってるサーバーだ」
奇襲に加えて襲撃したのがカイトやバルフレアだ。無論そこにアイナディスなどもいるわけで、普通に殺し屋ギルドの最も腕の立つ腕利きでも耐えられるわけがなかった。
というわけで制圧をこういった場合は真面目さが苛烈さへと様変わりするアイナディスに指揮を委ね、カイトとバルフレアは別々の方角から制圧された場所を虱潰しに探索していた。
そうしてユニオンが使うサーバー型の魔道具を発見したカイトは部屋に入れないように結界を施すが、そのタイミングでアイナディスから連絡が入る。
『カイト。こちらの手伝いをお願い出来ますか?』
「おっしゃ。何があった?」
『少し抵抗が激しいので……』
「おいっす。裏からやりま」
一方的なワンサイドゲーム。概ねそう言って良いのだが、流石に殺し屋ギルド側も無抵抗ではない。なので湖から水が抜け全周囲を囲まれている事に気付くと、即座に反撃に移った。というわけで今も最深部に近いエリアでは殺し屋ギルドが抵抗を続けているらしかった。
「っ、ここにも居たのか!」
「ん? おっと!」
アイナディスの要請を受けて最深部へと向かう道中。ばったりと殺し屋ギルドの一団に遭遇する。先にカイトが言っている通り、カイトの居る位置はアイナディス達が攻め込んだ方角とは真逆だ。バルフレア、アイナディスの両名が率いる部隊が主力として、カイトはその逆側を抑え逃さない事が役目になっていた。なのでアイナディスから逃れようとして遭遇するのは不思議のない事だし、それが目的と言っても良かった。というわけで見敵必殺と振るわれる刃に、カイトは軽く刀で受け流す。
「っ」
「残念……おらよ!」
どんっ。振るわれた刃に対して返礼とばかりに、カイトは容赦なく蹴りを叩き込んで壁まで殺し屋ギルドの男を吹き飛ばす。
「ごふっ……ぼごっ!」
「はい、終わり終わり。命粗末にしちゃ駄目よ」
壁に叩き付けられた衝撃で口を開いた所に、カイトが棒を叩き込んで強引に口を閉じられないようにする。殺し屋ギルドに所属する者の中でも秘密基地に類する所に所属している者の中には組織に強い忠誠を誓っている事があり、服毒による自死も厭わない者がいた。
この棒はその服毒を防ぐ目的とともに、口腔から直接魔術を叩き込んでその他魔術による自死を防ぐためのものだった。そしてもちろんそれだけでなく口腔の内側から雷撃が迸り、一瞬で男から意識を失わせる。
「おーい、誰かB-3通路で一匹確保した。回収頼むわー。アイナの攻めから逃げたやつっぽいわ。なんか書類も持ってるっぽい。要らん事する前に気絶させたから、暴れられんとは思うわ」
『あいよー。回収班出しま』
「あいよー」
殺し屋ギルドの抵抗なぞまるで意に介さぬかのように、冒険者ユニオン側の様子は軽かった。まぁ、隠蔽をメインとする拠点を攻めるには明らかに過剰な戦力だ。
舐めていても不思議はないし、舐めているから油断しているかというとそういうわけではない。誰も彼もがこの程度と言えるぐらいには慣れすぎていて、平然と出来てしまえるのだ。
というわけで気絶させた男を捕まえた者たちを回収、尋問を行う者たちに任せると、カイトは再び拠点の奥を目指して進んでいく。
『そこ右じゃ』
「よっしゃ……お」
ティナの誘導に従って曲がり角を曲がった瞬間、強い風がカイトの少し長い髪を揺らす。間違いなく戦闘で生ずる爆風だった。そして爆風が轟くとともに無数の剣戟の音が響いてきて、交戦中らしい冒険者の一人が彼に気が付いた。
「おう、カイト! 楽しんでるか!?」
「お前らこそ楽しんでるみたいじゃねぇか! おらよ!」
「おぉう……聞いちゃいたがすごい事になったな」
自分達の間を通り抜け、一気に敵陣中央を突破して剣戟を放って隊列を乱したカイトに、馴染の冒険者が苦笑する。その一方、カイトは自分の進軍に気づいて食い止めんと前に出てきた殺し屋ギルドの戦士と片手で打ち合うとともに、アイナディスに連絡を入れた。
「アイナ。裏側到着した」
『了解。ありがとうございます』
「いえいえ……そもそもオレ持ち込みの案件だしな。こっちから崩して行けば良いな?」
『お願いします』
「おうよ」
「っぅ!?」
誰かとの通信に応ずるやいなや獰猛でいて楽しげな笑みを浮かべるカイトに、打ち込んだ殺し屋ギルドの戦士が思わず気圧される。まぁ、本質的には圧倒的な格上だ。しかも今この場に居るのが馴染みしかいない、と来ている。正体を隠す必要なぞ全くなく、その圧力は勇者カイトにふさわしいものだった。
「消し飛んで、くれるなよ? おらよ!」
「ぎゃあ!?」
「なんだ。堪え性のない。まだ一発だぞ」
たった一発。殺し屋ギルドの打ち込みを防いでいた左手とは逆の右手で放ったたった一発の強撃が殺し屋ギルドの防御を打ち崩し、その手にあった両手剣さえ叩き折る。
そうしてそのまま胴体を袈裟懸けに撫ぜて、周囲の殺し屋ギルドの戦士達ごと吹き飛ばした。なお、撫ぜるようにしているのは斬撃だとこの施設ごと吹き飛ばしかねなかったからだ。それこそこの男を緩衝材とした、と言っても過言ではなかった。というわけで楽しげに、獰猛にカイトは問いかける。
「さ……次に食らいたいのはどいつだ?」
「「「っ」」」
「おいおい……」
「お祭りなんだから俺達の取り分取るなー!」
「ぶーぶー!」
全く隠す必要のない状態のカイトに気圧され、思わず後ずさる殺し屋ギルドの戦士達に周囲の馴染の冒険者達が不満げに声を上げる。これに、カイトが獰猛さを消して声を上げた。
「ちょっとはしゃいだだけじゃん! オレだってこういう機会ないと抑えなしで戦えないんだぞ!」
「だってお前やったらこの基地消し飛ぶじゃん」
「そーなんよー……だから結局本気ではやれなくてさー……ま、それはそれとして。それでは皆さんご一緒に」
「「「……」」」
にたぁ。カイトの声掛けに合わせて、馴染みの冒険者達もまた彼同様に楽しげで、獰猛な笑みを浮かべる。それは殺し屋ギルドの誰しもに自分達の敗戦を悟らせるに十分で、矢も盾もたまらず敗走を開始。それにカイト達は容赦なく追い立て、アイナディス達と合流し挟撃。殺し屋ギルドの残存兵達をすべて殲滅するのだった。
お読み頂きありがとうございました。




