第3702話 殺し屋ギルド編 ――発見――
各国の暗部に蔓延り、各所で暗躍を重ねていた殺し屋ギルドという闇ギルド。それに対して昔から何度となく暗闘を繰り広げていたカイトであるが、そんな彼は自身を狙う暗殺者を捕縛した事。それに端を発する冒険者ユニオンの大改修を利用して、殺し屋ギルドへの一大攻撃を計画する。
というわけで冒険者ユニオンの改修作業の傍らティナ達によりデータ解析が進められていたわけであるが、その甲斐あってラグナ連邦の僻地。誰も立ち寄らないような所に殺し屋ギルドの拠点の一つがある可能性が高い事が判明。カイトは監視達をソレイユにより狙撃させて捕縛。自分の部下達へは領内にあるだろう拠点の尋問及びその壊滅を指示すると、自身はエドナを駆って単身ラグナ連邦のドゥリムという僻地へとやってきていた。
「……」
地脈を追って進み続けること暫く。ドゥリムの山林の中を歩き続けるわけだが、カイトは少しだけため息を吐く。
「こりゃ本当に基地か施設があるな」
『木々の合間の魔道具のこと?』
「ああ……おそらく監視用だ。周囲の動きを検知するセンサー……という所か。巧妙に、かつバレないようにはしているが……あるとわかってなけりゃ、警戒してなけりゃ気付かない程度の隠密性に割り振った物だろう。こちらの動きを監視し、下手を打たないためのものだな。こりゃ本当に隠れ潜んでるパターンだ」
おそらく戦闘は目的としていないな。カイトは一応の戦力は用意しているのだろうが、あくまでも情報収集を目的として動きを見せないための施設だと推測する。というわけで殺し屋ギルドが仕掛けたと思われる魔道具を掻い潜り、更に先へと進んでいく。
「そろそろ……かな。エドナ」
「ええ」
カイトの言葉を受けて、エドナが天馬の姿から人の姿へと切り替える。そうして周囲を警戒しながら更に鬱蒼とした山林を少し進むと、唐突に少しだけ開けた場所が現れた。
「……湖か。少し大きいが」
「このちょうど真ん中あたりが集積地ね……これは使えないわね」
「船を出すなら話は別だが……なるほど。こりゃラグナ連邦も放置するわな」
なにせ湖のど真ん中に地脈の集積地があるのだ。軍事利用にも民間利用にも使い難い場所で、それが殊更開発を妨げていたのだろうと察せられた。
「だが……うーん……」
「どうしたの?」
「いや、確かになにかどこかで使っている感はあるんだ。間違いなく殺し屋ギルドの拠点だと思うんだが……」
どうなっているんだ。カイトは地面に手を当てて、周囲の状況を再確認する。地脈の集積地に近い場所に居るので、周囲で大きく魔力を使用している様子がある事ははっきりと理解出来ている。なので殺し屋ギルドの拠点がある事は間違いないだろう。だがそれがどこか、というのがまだわかっていなかった。そうして再度確認して、カイトは顔を顰める。
「……更にまだ先……か? いや、だが……湖……」
「いっそ湖底に置いた方が見つかり難いんじゃないかしら」
「……やっぱそうなる……よなぁ」
いくら山林とはいえ、小屋やらがあれば必然見付かる。更に言えば結界なども同様だ。優れた冒険者。特にここにまで足を運べるような冒険者にでもなれば、求められる結界の技術も非常に高くなる。
そう安安と用意出来るものではないだろうし、それを用意して十分な費用対効果が得られるかと言われれば正直首を傾げた。となると考えるべきは普通には見付けられないように物理的に隠してしまう方法だ。冒険者にせよ軍にせよ、周囲の調査は魔術が中心。魔術を使わない物に対しては反応しなかった。
「やれやれ……ソル、ディーネ……どっちでも良いんだけど水中の視界確保を頼めるか?」
『これでどうでしょうか』
「あいよ、すまん。助かった」
ウンディーネの声が響いて、カイトの目に特殊な力が宿る。それは水中でも空気中と同じように見えるようになる力で、当然こちらも魔術ではない。もし殺し屋ギルドの拠点が湖底にあるなら、水中や湖畔で何かしらの魔術を使用する事が起点となり向こう側に察知されかねないと判断したのだ。というわけでカイトはため息を吐きながら、湖へと足を踏み入れる。
「なんでこのクソ寒い中、水の中になんぞ入らにゃならん」
「夏は兎も角冬は大変だからじゃない?」
「いや、ごもっともで……エドナ。お前は入らなくて……」
「私も入りたくないわ」
「それで良いよ」
湖に足を踏み入れようともしていなかったエドナに、カイトは苦笑混じりに応ずる。間違いなく湖底に基地を設置した場合、夏場は良いだろうが冬場は寒くてとてもではないが入りたいとは誰も思わない。
更に言えば希少な薬草がある場所は岸壁やらで、こんな湖にはなんの薬草は生えていない。夏場にさえこんな僻地の湖に誰がなんの目的で潜るのか、と言われれば正直なんの理由もカイトには思い浮かばず、隠すにはうってつけの場所にもほどがあった。
「……」
『どう?』
『……結構深いみたいだな。ただ……』
『大当たり、と』
『ああ。配管がある。間違いないな。おそらくここの湖底の一番深い所に、殺し屋ギルドの拠点の一つがある』
にたり。カイトは水中でも空気中と同じように視界が確保出来ているため、潜ってすぐにここに何かしらの人工物があるとわかったようだ。というわけでこれ以上潜る必要はないと判断。たった数分で調査を終わらせる事になる。
「ふぅ……ティナ」
『うむ。見つけたか?』
「まだ殺し屋ギルドの拠点とははっきりとは言い難いが……これが古代文明の遺跡やらでも大儲け。殺し屋ギルドの拠点なら大当たりだな。サリアさんからの連絡は?」
『ドゥリムにラグナ連邦の秘密基地はありません、とのことじゃ。あそこは僻地じゃし国境沿いでもある。利便性が悪すぎる……まぁ、何度か計画はあがったそうじゃがその程度じゃそうじゃ』
「どこかで殺し屋ギルドの横槍もありそうだな」
『かもしれん』
周辺に基地が出来て困るのは、先に利用している殺し屋ギルドだ。そして殺し屋ギルドは各所に協力者を潜ませている。色々と言い訳をして、計画を中止させる程度は出来て不思議はなかった。
「よし……とりあえずここを敵拠点と判断し仕掛ける。流石に湖底になると潜入も厳しい」
『よかろ……ソレイユ』
『はーい! マーカー連射しまーす!』
ティナの指示を受けて、ウルカの冒険者ユニオン支部に転移していたソレイユが応ずる。ウルカに移動したのは、そこに<<暁>>があるからだ。<<暁>>も当然今回の案件は全面的な協力を表明している所の一つだ。
彼らもまた何度となく殺し屋ギルドとは交戦しており、勢力を減らしたいと考えていたのであった。そして規模から『転移門』も管理しているため、密かに使うにはうってつけだったのである。
「さて」
ぽすぽすぽす。湖を取り囲むように飛来する幾つもの矢を見ながら、カイトは獰猛に牙を剥く。そうして矢が着弾してから、数秒後。全ての矢が光り輝いて、バルフレアやアイナディスを筆頭にした冒険者ユニオンでも腕利きの冒険者達が出現する。そうしてカイトと湖を挟んで正反対の所に現れたバルフレアが、カイトへと手を振りながら念話を入れる。
『カイト。見つけたって?』
「おう……この湖底にな」
『湖底かぁ』
「大丈夫大丈夫……任せとけ」
少し面倒くさいな。そんな様子のバルフレアに、カイトは楽しげに笑う。そうしてその次の瞬間、カイトが湖の水面に手を当てて、更にその次の瞬間。湖の水がすべて、空中へと浮かび上がる。
『すっげ』
「じゃ、やりますか」
『『『おう!』』』
カイトの号令に、冒険者達が一斉に応ずる。そうしてあらわになった湖底へと、数十人の腕利きの冒険者達がなだれ込むのだった。




