第3701話 殺し屋ギルド編 ――ドゥリム――
各国の暗部に蔓延り、各所で暗躍を重ねていた殺し屋ギルドという闇ギルド。それに対して昔から何度となく暗闘を繰り広げていたカイトであるが、そんな彼は自身を狙う暗殺者を捕縛した事。それに端を発する冒険者ユニオンの大改修を利用して、殺し屋ギルドへの一大攻撃を計画する。
というわけで冒険者ユニオンの改修作業の傍らティナ達によりデータ解析が進められていたわけであるが、その甲斐あってラグナ連邦の僻地。誰も立ち寄らないような所に殺し屋ギルドの拠点の一つがある可能性が高い事が判明。カイトは監視達をソレイユにより狙撃させて捕縛。自分の部下達へは領内にあるだろう拠点の尋問及びその壊滅を指示すると、自身はエドナを駆って単身ラグナ連邦のドゥリムという僻地へとやってきていた。
「よっと……さて」
キョロキョロ。カイトは周囲を見回して、現在位置を確認する。エドナによる転移で困る所の一つは、現在位置が正確には掴めない点だろう。とはいえ、今回はそれに対しての対応策も一つ練っていた。
「GPS起動。衛星軌道上の人工衛星との接続開始」
『やっぱり人工衛星は便利よね』
「だなぁ……昔もこれがあれば地理を考えなくて済むから楽だったんだが」
昔は転移しても地脈やら周囲の地形やらからおおよその現在位置を割り出して、後は感覚で移動しなければならなかったから大変だった。カイトはかつてシンフォニア王国に所属していた時の事を思い出して笑う。とはいえ、それも今は昔。地球の技術を応用したGPSがある。
「通信状況の確認……ティナ」
『うむ。調整完了しておる。人工衛星とのリンク確立は出来ておるな』
「よし……現在位置確認」
『現在位置確認……データリンク完了。現在位置確定。解析結果をそちらへ送信する』
「あいよ」
改修作業開始前に言われているが、付近の支部からの信号などを使って場所を割り出せるようにしている。というわけでカイトの保有するスマホ型通信機の画面上に地図が表示され、付近の支部が出現。それら幾つかが線で結ばれて、カイトが居る場所付近を囲っていく。だがそうして表示された図形に、カイトが思わず苦笑いする。
「……意外と広くね?」
『しゃーなかろう。僻地も僻地、ど僻地じゃぞ、そこ。最寄りのユニオン支部は100キロ先。隣国にも跨っておるぞ』
「まぁ……こんな場所だからなぁ……」
やれやれ。ティナの指摘にカイトは眼下に広がる光景を再確認し、ただただため息を吐く。幸いまだ降雪はない様子だが、眼窩に広がる光景は険しい山々。鬱蒼とした森林は当然の事ながら険しい岸壁やらもあり、戦闘はかなり困難だ。そういった環境だからか、魔物も大量に生息している。とてもではないが人の住めるような環境ではなかった。
「はぁ……一応珍しい山草やら薬草が取れはするが、だったか」
『そうじゃの……ただそこで採取するぐらいなら他の所で取る方が明らかに効率的じゃ。今であれば飛空艇まであるから更に、じゃな』
流石にこんな場所だ。飛空艇の発着場なぞ置ける平地があるわけもないし、陸路も困難だ。飛空艇がない頃はそれでも冒険者達が足を踏み入れたが、飛空艇の発達で他の所から希少な薬草が手に入れやすくなればそれも嫌煙された。
こんな僻地かつ危険地帯での採取を依頼するぐらいなら、比較的入手しやすい所から輸入した方が安いのであった。というわけでよほどの事情を抱える冒険者を除き――殺し屋ギルドやその関係者を除けば――殆ど人は訪れていないだろう険しい環境に、カイトは再度ため息を吐く。
「やれやれ……こんな場所じゃラグナ連邦も手を出したがらんよなぁ……冒険者達も言うまでもなく、か」
『だから隠れ家を置くにはうってつけじゃったんじゃろう。こういう僻地の調査がままならんのは皇国や魔族領も一緒じゃ』
「頻繁にやってるわけじゃない……ってだけだ。やってないわけじゃない」
『ウチやら二大公五公爵は、じゃろ。流石に末端の貴族にそれは求められまいて』
「まぁなぁ」
こればかりは仕方がないだろう。こんな所の調査をしようものならかなりの労力を要するだろうが、それに見合う成果が上がるかと言われれば正直に言えばカイトも首を傾げる。長年開発されないのには開発されないなりの理由があるのだ。
『で、お主空中で駄弁っておるが偽装とかは良いのか?』
「転移前にやってるよ。オレとこいつを舐めんなよ?」
『ふふ』
『そうか……ま、お主は色々と出来るやつじゃから、とやかくは言う必要はあるまいか』
楽しげに笑うカイトに、ティナはそれならそれで良いと判断したようだ。というわけで一頻り周囲の状況を確認した所で、エドナが降下。森の中に一旦は身を隠す。
「とりあえず中心から探ってみたい所ではあるが」
『ま、意味はなかろう……それよりどちらかと言えば魔力の流れやらお主の得意分野で探した方が良いじゃろ。大規模な設備はおいておらんでも、地脈は使うはずじゃ。魔導炉など周囲に痕跡が出やすい物は使うまい』
「かね……いっそ使ってくれりゃ楽なんだが」
流石に使わんか。カイトはそんな迂闊な事をするとは思えないと自分でも思いながら、そう口にする。というわけで彼はエドナから降りて地面に降り立つと、地面に手を当てて周囲の地脈の流れを確認する。
「……少し地脈のメインの流れからは遠そうだな。流石に地脈の集積地には拠点を置かんとは思うが……どうしたもんかな」
『まぁ、設置はしまい。いくら僻地で人は滅多に訪れんとはいえ、絶対に訪れんわけではない。そうなれば必然として集積地には人が来やすい。魔力の回復に適しておるからのう。それがわかっておりゃ、拠点は設置せんじゃろう』
「か……そして一番監視されているだろうポイントでもある……ならば」
『ま、どうにせよ目指さぬ道理はあるまいな』
そこが一番冒険者が訪れやすいのだ。下手に交戦するつもりは殺し屋ギルドにもないだろうが、だからこそ始末する必要があるかどうかは探る必要があった。ならば地脈の集積地に来る来訪者は常時確認出来るようにしておく必要がある。二人はそう判断する。
「地脈を追う。脈の感覚は掴んだから、さほど時間は掛からん」
『わかっておるじゃろうが、集積地には立つなよ。そこが見える場所に留めよ』
「わかってる」
先にもカイトが述べているが、一番監視されている可能性が高いポイントでもあるのだ。ならばそこに立ち入った時点で自分が来ましたと言っているようなものである。であれば、カイトもまたそこが確認出来るような場所までに留めるべきだった。
というわけでカイトは通信を一旦終わらせると、地脈に沿って移動を開始。ひとまず付近で最も地脈が集まる集積地を目指す事にするのだった。
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